ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第32話 強行突破作戦 Bパート

「別の敵、あれはドラケンか? それにしちゃ速すぎる、このスピードいったいなんだ?」

 

 急速に接近するドラケンに向け、こちらも突撃するデミトリー。

 

 

 

「この武装が通用しなかったらおしまいなんだけど」

 

 もはやあきらめモードのミヤビ。

 

『やるしかないなら、撃ってみましょうか』

 

 とサラ。

 

「それは、そうねっ!」

 

 もう開き直るしかない。

 ドラケンE改可翔式、その右腕装備の新型武装ユニットから閃光が迸る。

 

 

 

「え、遠距離で!?」

 

 ドラケンE改もオデッサ作戦に投入され、その右腕装備のビーム兵器、甲壱型腕ビームサーベルのおおよそのスペックも判明していた。

 それゆえに近接しなければビーム攻撃は無い。

 接続しているコア・ブースターのメガ粒子砲は固定機銃なので軸線上に乗らなければ大丈夫、と油断していたところを被弾。

 左肩を撃ち抜かれるザクレロ。

 

 

 

『やれます! このビームスプレーユニットなら!』

 

 喝采を上げるサラ。

 しかしミヤビにしてみると、

 

(ビームスプレーガンの機構を流用したドラケン用のビーム砲? 何でこんなものが用意されているの!?)

 

 という話である。

 今の状態で撃てるのは分かる。

 コア・ブースターはRXシリーズのメインジェネレーターを搭載したコア・ファイターを強化するもので、メガ粒子砲も撃てる。

 ドラケンE改可翔式のコア・フライトユニットもそれは変わらないため、ジェネレーター出力的にはビームスプレーガン程度は余裕で撃てるだろう。

 だが、だからといってわざわざドラケン用のビーム砲が用意されている、その意味が分からない。

 

(ドラケンE改可翔式単体で撃てるならともかく)

 

 と、そこまで考えてミヤビは以前から頭に引っかかっていた疑問に行きつく。

 ジムの主武装であるビームスプレーガンの使用に必要なジェネレーター出力とは、一体どれくらいのものなのだろうかと。

 

 ジムのジェネレーター出力は1,250kW。

 U.C.ARMSGALLERYに付属のデータシートにおいてもビームスプレーガンの推奨ジェネレータ出力は1,250kWとされていた。

 と言っても丸々必要なわけではなく、機体の駆動に必要な分を除いた余剰出力でドライブさせるわけだし、ビームスプレーガンとビームサーベルの同時使用にも対応しているだろうから純粋にビームスプレーガンだけを使用するために必要な水準は分かっていないが。

 

 しかし……

 ビームスプレーガンのみしか使用しないジムもあることはある。

 それがジムキャノン。

 一部のゲームではビームサーベルも使っていたが、一般にはビーム兵器はスプレーガンのみとされている。

 そしてジムキャノンのジェネレーター出力は驚きの976kW。

 

「ザクとおんなじじゃん」

「いくら何でもそれはない」

「ザクと同じってことはそこから手違いで生じた誤植だろ」

 

 という話もあったが、複数の書籍で確認されている数値であり(最初に誤植した書籍の数値に倣っているだけという見方もできるが)、加えてジムキャノンの右胸に空いている開口部は排気口(おそらくは肩のロケット砲の)とされていた。

 そう、つまり放熱ダクトは左胸のみ。

 ガンダム、ジムの半分しかないということでジェネレーター自体も低出力、低排熱なタイプが搭載されていた可能性が考えられるということ。

 

 これを踏まえるとRXシリーズのメインジェネレーターを内蔵したコア・フライトユニット搭載のドラケンE改可翔式、それ単体でもビームスプレーガンだったら撃てると考え、この武装をテム・レイ博士が用意したという可能性もあるのだ。

 

(……まぁ、考え過ぎでしょうけどね)

 

 そんな無理のある話より、テム・レイ博士を初めとする狂的技術者(マッド・エンジニア)たちが暴走してコア・ブースター接続時にしか使用できない武装を趣味で作ってしまいました、とした方がよほど説得力がある。

 そうに違いないと考える、そう思いたいミヤビだった。

 

 

 

 被弾したザクレロだったが、デミトリーは怯まず推力に任せスピードで翻弄しようとする。

 しかし、

 

「さらにワイドレンジでだとぉ!?」

 

 ドラケンから広範囲に放たれたビームに、カメラセンサーを焼きつかせてしまう。

 

 ジムのビームスプレーガン、BOWA BR-M79C-1は三つの射撃モードを持つとされていた。

 先ほど先制した通常の『シングルショット』

 そして今使って見せたのが、

 

「エネルギー総量は?」

 

 被害状況から敵兵器の威力を推測するデミトリー。

 ガラが悪い、命令違反を犯すようなアクの強いイメージのある彼だが、それとは裏腹に頭脳派とも言える程度の思考力は持ち合わせている。

 まぁ、そうでないと機動兵器の、しかも試作モビルアーマーのテストパイロットに選ばれるはずもないのだが。

 ミヤビの前世の記憶にあるマンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』においてもヒロインの技術者リミア・グリンウッドが、

 

「モビルスーツパイロットは一見短絡的に見えても基本インテリが多いわ。じゃないと複雑なシステムを理解して巧みに操るなんて不可能よ」

 

 と言っていたように。

 

「拡散させただけか」

 

 結論付けるデミトリー。

 そう、これがビームを拡散させ広範囲にダメージを与える『レンジショット』である。

 

「だがセンサーへのダメージから、しばらくは視界が効かないぜ」

 

 ザクレロは複眼型のカメラセンサーを用いていることもあり、すべてがやられてしまったわけではないが、ダメージコントロールにより外部監視を問題ないレベルまで回復させるにはちょっとした時間がかかる。

 そこに撃墜し損ねたコア・ブースターからの攻撃。

 

「ええい、うるさい奴だ」

 

 そうやって気が逸れたところにブースター付きのドラケンが迫る。

 

「ん? よし、まずはあのできそこないから」

 

 まぁ、ドラケンに見合わない大型のブースターを付けた姿は、そのように見られても仕方が無かったが、

 

「いただき!」

 

 拡散メガ粒子砲を発射。

 それをかわし、機体が交錯しようとしたところで、

 

「馬鹿め、同じことをやる!」

 

 コア・ブースターと同じく鎌状のヒート・ナタですれ違いざまに引っ掛け、切り裂こうとするが……

 

 

 

『バーストショット』

 

 ビームスプレーガン、3つの射撃モードのうちの最後の一つ。

 

 太いんですよ! 固いんですよ! 暴れっぱなしなんですよ!!

 

 とばかりに面制圧用の『バーストショット』による3連射を叩き込むドラケン。

 ビームライフルよりも集束率が低く、射程は短い兵装ではあるものの、連射性は上。

 そして近距離ではビームライフルと同等の威力を有するとされるその威力。

 

『間違いありません。中枢部を直撃できたはずです』

 

 戦果を確認するサラ。

 そしてザクレロはそのままの勢いで突き進んだ後、ふらっと首を傾げるようにすると、思い出したように火を噴いた。

 とはいえ史実におけるアムロのニュータイプゆえの狙いすました一撃とは違い、それでも爆散はせず逃走をしていたが。

 なお、

 

『こちらのシミュレートで簡単に動きが読めました。いったいどういうつもりで?』

 

 とサラが不思議がるように、ミヤビはサラの予測どおりにトリガーを絞ったに過ぎない。

 直線加速は凄くても運動性に難があるのだろう、史実でもそのようにアムロに言われて倒された機体だ。

 ミヤビはそれを思い出し、運命をサラに丸投げして、そして勝ったに過ぎない。

 

 ……当然、周囲にはそんなことは分からないものだから、

 

 敵の機体の動きからコンピュータで予測ができると見切り、そして自分の育てたサポートAIを信じて任せたミヤビさん。

 やっぱりすげぇ!!

 

 と評価されることになるのだが。

 そんな、もの凄い買いかぶりを受けていることをミヤビ本人は気づいていない。

 

『よくやったぞ、さすがミヤビ君!』

 

 通信機越しにテム・レイ博士の歓喜の声が伝えられるが、ミヤビは根本的な疑問を口にする。

 

「ところでこれ、どうやって着艦させるんですか?」

 

 通常のランディングギアはドラケンが邪魔になるので使えないはず。

 

『あ……』

「あ、って何ですか、考えていないんですか!?」

 

 結局、分離してリュウのコア・ファイターと再ドッキング、そうやってホワイトベースに帰投するミヤビたちだった。

 しかし、

 

(何で、あのザクレロはあんな……)

 

 戦闘中は気にしている余裕が無かったが、彼女だけが知る『とある史実との相違点』に首をひねるミヤビだった。

 

 

 

「た、大佐」

「ん?」

「デミトリーの件、申し訳ありませんでした」

 

 改めて頭を下げるマリガン。

 

「構わん、私の知らなかった戦力のことなどな」

「……はい」

 

 そう話すシャアとマリガンの背後で、

 

「しかしあのザクレロとかいうモビルアーマー、何で赤く塗って角まで付けてあったんだ? てっきり大佐の機体かと思ったんだが」

「赤って言うかピンクだけどね」

 

 と、ささやき合うダントンとアルレット。

 そして、その会話にひくりと頬を引きつらせるシャア。

 アルレットに向き直り、彼女の小さな両肩に手を置くと、

 

「た、大佐?」

「アルレット、私はそんなモビルアーマーなど知らなかった、いいね?」

「アッハイ」

 

 彼女たちは知らない。

 シャアが以前、インドで見出したララァをフラナガン機関へ送り出すため宇宙に上がった際、面会したキシリアの前で、

 

「デザインした奴の顔を拝みたいものですな」

 

 とザクレロをけなした結果、キシリアを怒らせてしまい、

 

「真っ赤に塗って角をつけておけ!」

 

 と、このザクレロがプラモデル塗料で言うところのガンダム専用カラー『シャアピンク』色に塗られてしまった顛末を……

 

 実際にはキシリアがザクレロを直接デザインした訳ではないが、いくつか示されたデザイン案から現在の形状を選定したり、注文を付けて修正させたのは彼女。

 このように、いやそうでなくとも決裁権限を持つ人間の前で成果物、ひいては関係者をけなすという行為はリスクを伴うので、いい社会人なら控えておくに越したことは無い。

 

 そんなわけで史実とは違い何とか帰ってきたザクレロだったが、その存在は無かったことにされ。

 補給に来たソドン巡航船に牽引されてザンジバルから追い出されてしまうのだった。

 マシーンに対してニュータイプ能力を発揮できるアルレットにはドナドナされて去って行くその姿が、

 

「いいんだよお嬢さん…… オレはこの世に居ないモビルアーマーなのさ。でも最後にあんたに会えて良かったぜ……」

 

 と言っているようで、何だか可哀想に思えるのだった。

 

 

 

「キャメル艦隊と交信できるのか?」

「はい。航路をコンピュータートレースしていますから、できます」

「レーザー交信回線開け」

「は」

 

 気を取り直したシャアは通信兵に命じ、通信回路を開かせる。

 

「キャメル艦隊のドレン大尉、出ました」

『お久しぶりです、シャア少佐。あ、いや、今は大佐でいらっしゃいましたな』

「相変わらずだな、ドレン」

 

 シャアの副官を務めていたドレンは宇宙に戻り、パトロール艦隊の指揮官となっていた。

 

「木馬を追っている。ちょうどお前の艦隊の位置なら木馬の頭を押さえられる」

『ご縁がありますな、木馬とは。わかりました。追いつけますか?』

「ドレン、私を誰だと思っているのだ?」

『申し訳ありません、大佐』

 

 

 

「軌道変更、マイナス110」

 

 こうしてパトロールコースを変える三隻のムサイ。

 

「木馬を追撃するぞ」

 

 

 

「ううっ……」

 

 うなされるセイラの脳裏、夢の中で仮面をかぶった兄の幻影が言う。

 

「アルテイシア、私はザビ家を許せないのだ。私の邪魔をしないでくれ」

 

 そして目を覚ますセイラ。

 

(私は認められない、兄さんのやり方)

 

 

 

 モビルスーツデッキ、ガンキャノンの整備に余念がないアムロの元を訪れるセイラ。

 

「ちょっといいかしら?」

「ええ、いいですよ」

「私ね、どうしたら早くいいパイロットになれるかしら?」

「セイラさんは今でもいいパイロットですよ」

「お世辞はやめてよ、アムロ。私はどうしても生き延びたいんだから」

 

 そこでアムロは怪訝そうにセイラを見返す。

 

「おかしいですよ、急に」

「……私だって、シャアぐらいと」

 

 という言葉に、危うさを感じてアムロは声を上げる。

 

「無理です! そりゃザクタイプの時には僕でも戦えました。でも今は……」

「たとえ話よ、アムロ」

 

 そう言って、立ち去るセイラ。

 

「私があなたみたいならね」

 

 そう言い残して。

 しかし、

 

「大丈夫だ!!」

 

 そこにテム・レイ博士が現れる。

 

「こんなこともあろうかと! そのアムロから話を聞いて用意した、理論的に言ってパイロットの能力を今以上に発揮できるようになる装備がある!!」

 

 などと言って。

 

「使ってみてくれるかね、セイラ君」

 

 ミヤビがその場に居たなら絶対に止めていただろう、怪しい申し出にも。

 兄を自分が止めなくてはと焦り、視野が狭まっているセイラには苦しい状況に差し伸べられた唯一の突破口に思えてしまう。

 それゆえに彼女は……

 

 

 

「一時の方向、30度上方に敵戦艦三隻、えーと、ムサイタイプです」

「ムサイタイプ三隻キャッチ、戦闘体制に入ってください」

 

 オスカの報告を、フラウはモビルスーツデッキに伝える。

 

「後ろにザンジバル、前にムサイか。強行突破しかないな」

 

 ブライトは即座に決断。

 

「全員、第一戦闘配置だ」

 

 それを受けてミライはホワイトベースを加速。

 

「第一戦闘速度に入ります。各機関、防御確認」

 

 マーカーも、

 

「ECM、レーザーサーチャー、最大発信。ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布」

 

 と電子戦向けの機器を戦闘態勢に持って行く。

 

「各機銃座、主砲、メガ粒子砲、開け」

 

 ブライトの指示により、各砲座が船体からせり出していく。

 

 

 

「いいか、シャア大佐と同じ戦法をとる。リック・ドム六機とキャメル、トクメルは木馬に攻撃を掛けるぞ」

 

 キャメル艦隊は一年戦争末期に生産された簡略型といわれるメガ粒子砲砲塔を三基から二基に省略したムサイ三隻。

 そしてそれぞれに二機ずつ搭載したリック・ドム6機からなるパトロール艦隊。

 その指揮を執るドレンは、

 

(因縁浅からぬ木馬とガンキャノンか……)

 

 と気を引き締め、

 

「各機、最大戦速」

 

 と、戦力の全力投入を命じる。

 

 

 

 左舷モビルスーツデッキ、ガンキャノンL、ロングレンジタイプの頭部、砲手コクピットで待機するセイラ。

 

『目標、Fライン通過。モビルスーツ、ドムタイプです。あのスカート付きの奴です』

 

 マーカーからの報告が通信機越しに聞こえ、

 

『アムロ』

『ウィズ、サラツー』

『ガンキャノン出ます!』

 

 目の前を、アムロの黒いガンキャノンがカタパルト射出されていき、

 

『こちらリュウ、コア・ブースター出る』

 

 続けて右舷デッキからリュウのコア・ブースターが発艦する。

 ハヤトの機体は修理中のため、リュウの機体のみの出撃である。

 コア・ファイターは使えるので戦況次第でホワイトベースの直衛機としての出番があるかも知れないが。

 

 そしてモニター上に映る少女のアバター。

 

『気分はいいんですか?』

 

 心配するサラスリーにセイラは、

 

「大丈夫よ。ザンジバルから発進したモビルスーツじゃないでしょ? 気分がクサクサしてるから暴れてさっぱりしてくる」

『セイラさん、おかしいですよ』

「そう? さっきまでより元気よ、大丈夫」

『いえ、バイタル的なことは置いておいて、その格好……』

「テム・レイ博士がアムロの意見を聞いて用意してくれたっていうテスト用のパイロットスーツよ。確かにこれ、具合がいいわ」

 

 上機嫌なセイラにサラスリーはあきらめたように息を吐いて。

 

『……じゃあ、慎重に』

「生意気ね」

 

 サラスリーの助言もどこ吹く風、そう言って笑うセイラ。

 そして、

 

「んじゃ行くぜ」

 

 と腹部操縦手席のカイの操作で前進、カタパルトに接続。

 

「ガンキャノンL、ロングレンジタイプ出るぜ!」

 

 と発進。




 ドラケンE改可翔式突撃形態の右腕ビームユニットはビームスプレーガンの流用でした。
 さすがにドラケンE改可翔式単体では撃てない、とは思うのですがその辺は謎のまま。
 そしてザクレロはこんなオチ…… ですが、再登場を考えていたりします。
 一方、セイラさんのためにテム・レイ博士が用意した新装備については次回明らかになる予定です。
 あとスレッガーさんの乗る機体も。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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