ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第33話 コンスコン強襲 Cパート

「タムラさん、お金は両替してもらったの?」

「ああ、大丈夫」

 

 出かけられるメンバー全員で、買い物に繰り出す。

 エレベーターに乗り、

 

「動いた」

 

 とキッカが言うように降下して行く。

 

 人工の宇宙都市の中心は重さを感じることのない無重力地帯である。

 エレベーターは3000メートルあまりを降りて、重さを感じることのできる人工の地上へ着く。

 そこには山や森や川が造られていて、あたかも地球上と同じ景色を作り出している。

 もちろん、都市も造られている。

 

 一行が繰り出したのは、その都市の中のスーパーマーケット。

 

「これで少しは変わったものを食べさせられる」

 

 と、タムラコック長が言うとおり。

 補給は禁止だが、個人が食料を買う分には問題ない。

 そのために人を募って買い物に出たのだ。

 しかし、

 

「ミヤビさん?」

 

 さすがにいつものノーマルスーツ姿ではなく、しかしアムロたちと違って軍人ではないので軍服を着るわけにも行かず私服姿のミヤビだったが。

 

「さ、先に戻ってて。ちょっとむこうのお店に寄ってくるから」

 

 そう言って不意に駆け出すミヤビ。

 珍しく感情の出たその表情は苦悶?

 それを目にしたアムロは、

 

「アムロ?」

「先に戻ってて!」

 

 フラウの制止を振り切り、ミヤビを追って駆け出す。

 

 

 

「ここは……」

 

 ミヤビが入ったのはアクセサリーショップだった。

 そこでアムロが見たのは、

 

「ミヤビさん……」

 

 チョーカーを手に自分の首へと当てて鏡を覗き込んでいるミヤビ。

 

「アムロ?」

 

 振り向き、アムロがここに居ることに驚いたのかわずかに目を見開く。

 そして、

 

「これ、変じゃないかしら?」

 

 と聞く。

 

「え、ええ」

 

 とっさにうなずいてしまうアムロ。

 

「じゃあ、これにしようかしら」

 

 とレジに進むミヤビを追って、

 

「僕に払わせてください。いつもお世話になっているお礼です」

 

 そう言えたのは、彼としては上出来な部類だろう。

 

「え、でも……」

 

 年下の少年に払わせるのはいかがなものか、と迷うミヤビ。

 しかし、

 

「知ってるでしょ、今までの分の給料が軍から支払われたこと。どうせホワイトベースに乗っている間は使えないんだし」

 

 アムロはそう言って、ミヤビの手からチョーカーを奪うと会計を済ませてしまう。

 ニュータイプであり、ア・バオア・クーでは肉弾戦でシャアとも互角に戦って見せた彼である。

 ミヤビに抵抗できる暇も与えない。

 

「はい、ミヤビさん」

「あ、ありがとうアムロ」

 

 そうして店を出る。

 

「このお礼はきっとするから」

「そしたら僕はそのお礼をしますよ」

「アムロ……」

 

 そしてミヤビの足が止まる。

 

「着けて…… くれる?」

 

 差し出されるチョーカーは改めて見ると、ごついようにも感じられるしっかりとした革のベルトでできていて。

 真っすぐな黒髪をかき上げ、白い首筋を差し出すミヤビ。

 アムロの震える指が、その折れそうに細い首にチョーカーを巻くが、

 

「アムロ?」

「いえ、まるでミヤビさんに首輪をはめているようで…… あっ!」

 

 思わず思ったままのことを口にすると、ミヤビはまるで機嫌のいい猫のように瞳を細め、

 

「そっか、私、アムロに首輪を買ってもらってはめられちゃったんだ」

 

 とクスクスと笑う。

 

「ミヤビさん?」

 

 いつもと違う彼女にアムロは戸惑うが、ミヤビはその細い指先でチョーカーをなぞると、

 

「いえ、凄い安心感があってね」

 

 そう答える。

 そんな彼女の姿にアムロはゾクゾクするような色香を感じ取るのだったが、

 

(ああ、やっぱりこの感触があるとしっくりくるわね)

 

 もちろんミヤビにはまったくそんなつもりはない。

 

 ミヤビの前世、西暦の時代の日本人男性なら分かるだろうか?

 多くの中学校で当たり前のように着られていた、常に首元にしっかりとした詰襟のカラーの感触がある学生服。

 夏になってそれを脱ぐと、しばらくの間は喉元がスースーするというか、違和感が酷くて首を掻きむしりたくなる感覚を覚えている者も居るだろう。

 

 ミヤビもここしばらくはやはり詰襟、スタンダップカラーのパイロット用ノーマルスーツを着っぱなしだったせいで、私服に着替えたら同様に違和感が酷く。

 アクセサリーショップのショーウィンドウでチョーカーを目にして、ついこれだとばかりに衝動買いに走ってしまったのだ。

 もちろん詰襟の代わりに首筋に感じたいということで、しっかりとしたごつい品を選んだのだが、それがアムロの言うように首輪のように見えるというのは彼女の認識の範囲外。

 またアムロに着けてくれるよう頼んだのは、普段着け慣れないものであるのと、店を出たので鏡が無いこと(手鏡は持っているが片手ではチョーカーを付けられない)からであって、恋人に買ってもらったアクセサリーを付けてもらうとか、増してやご主人様に首輪をつけてもらうペット、みたいなプレイを意図するものでは無い。

 

 そしてようやく首筋に感じられるようになったしっかりとした感触、それを指して、

 

「いえ、凄い安心感があってね」

 

 と言っているだけなのだが。

 それを知らない青少年、アムロには恐ろしいほどに蠱惑的に感じられていることを、彼女は知らない。

 そして、

 

 

 

「………ッ!!」

 

 アムロを追いかけて来た某負けヒロインが物陰からその様子を見て、憎しみで人が殺せたら! とでも言わんばかりのもの凄い形相をしていたとか、

 

 

 

「みっ、ミヤビさん!?」

 

 仕事帰りに人ごみの中、婚約者の姿を見つけたカムランが思わず走って追うも相手はバスに乗ってしまい、

 

(ミヤビさん……!!)

 

 必死に走るが史実で父を追ったアムロと違って追いつけない。

 

(ミヤビさん!!)

 

 とうとうへたり込み、

 

「まさか、こんなところに居るはずも無いか」

 

 と彼は常識的に考えてしまう。

 

「彼女に、ミライに会ったせいで見間違えてしまったのかな」

 

 そう考え、あきらめてしまう。

 ミライが見ていたら、ため息をつくようなドラマが起こっていたのだが、

 

 

 

 もちろん、ポンコツなミヤビはまったく気づいていないのだ。

 

 

 

「アムロ、個人的に街をぶらぶらする時間を与えた覚えはないぞ。貴様のおかげで出港が遅れた」

 

 ブリッジに上がって来たアムロに、ブライトはそう告げるが、

 

「す、すいません。でも、急に出港だなんて……」

「ごめんなさい、アムロは私の用事につきあってくれたの」

 

 と首輪のようにも見えるチョーカーをはめた私服姿のミヤビが割って入るのだから、さあ大変。

 

「姉さん、それ……」

「えっ? ああ、これ? アムロに買ってもらったの」

 

 妹のミライに指摘され、珍しくわずかに、わずかにだが口元をほころばせて答えるミヤビ。

 

(年下の男の子に首輪を買ってもらったって!)

 

 驚愕するミライの視線に非難が含まれているのに気づいたミヤビは慌てて、

 

「もちろん、お礼はするわよ」

 

 ずれた発言をする。

 さらに続けて、

 

「私にできる範囲なら何でも」

 

 と言う相手を間違えたら、とんでもないことになりそうなことを平然と述べる。

 そのセリフを耳にした者たちは胸の内で、

 

(((今何でもするって言ったよね?)))

 

 と驚愕。

 刺すような視線がアムロに向けられる。

 

「アムロ……」

「み、ミライさん?」

「分かって、いるわよね?」

「なっ、何がですかっ!?」

 

 常に無い、異様な迫力で迫るミライに後ずさるアムロ。

 その彼を隅の方に引っ張って行き、他に聞こえないよう小声で叫ぶという器用な真似をしながらアムロに言い聞かせるミライ。

 

「姉さんはああいう人だから、また何かとんでもない行き違いがあるのだと思うけど!」

 

 さすが妹、よく分かっている。

 

「『何でも』って姉さんは言ってしまったけど、本当に『何でも』はダメだって分かっているわよね」

「はい?」

 

 男女の間の機微に疎いアムロにはぼやかした言い方では伝わらないかとミライは覚悟を決め、真っ赤な顔をして、

 

「良識の範囲内で、エッチなのはいけないわよ」

 

 とストレートに言う。

 

「あ、当たり前じゃないですかっ!」

 

 思わず叫んでしまうアムロ。

 しかし、

 

「ミライ? 何を話しているの?」

 

 と会話に割って入るミヤビを見て、いや意識してしまったらその顔を直視できなくて顔をそむけるアムロ。

 その頬は真っ赤に染まっている。

 

「アムロ?」

 

 それを不審に思ったのか、アムロの顔を、身長差から下から覗き込むようにして見上げるミヤビ。

 

「……どうして目を背けるの?」

 

 息がかかるのではないかと思われる至近距離から、不思議そうに問う。

 

「い、いえその……」

「ちゃんと私の顔を、目を見て話して」

 

 それ何て拷問?

 という青少年には酷過ぎる要求を天然でするミヤビ。

 そうして進退窮まったアムロを救ったのは、

 

「アムロ、ガンキャノンでホワイトベースの護衛に出るんだ」

 

 と額を押さえながら告げられるブライトの言葉だった。

 

「は、はい」

 

 その助け舟に慌てて乗るようにブリッジを出るアムロ。

 

「私も念のため、出るわ」

 

 とミヤビも後を追う。

 そうしてようやく騒動の元が立ち去ったブリッジでは、

 

「ペルガミノさん」

「はい」

 

 目を丸くしている太鼓腹の商人、ペルガミノに問うブライト。

 

「本当にカムラン・ブルーム検察官の依頼だったのですか?」

「あ、首相官邸からのテレビ電話です。間違いありませんです」

 

 それでようやく彼も頭を商売に切り替える。

 

「領空の外のドックならジオンの船だろうと連邦のだろうと直させてもらってますよ」

 

 

 

 ホワイトベースを先導、哨戒するのはアムロのガンキャノン、カイとセイラのガンキャノンL、ロングレンジタイプ、リュウのコア・ブースター。

 そしてスレッガーのドラケンE改可翔式に、ミヤビのドラケンE改。

 ハヤトのコア・ブースターは修理中のため、彼はコア・ファイターで出ている。

 

『ようアムロ、少しは元気になったか?』

 

 スレッガーからの通信に、アムロは、

 

「ずっと元気です」

 

 と答えるが。

 

『アムロ? 心拍数が上がってるよ?』

 

 と不思議そうに問うサラツー。

 ミヤビを意識してしまったがために、スレッガーの言う『元気』が男性のアレについて言っているようで何だったのだ。

 ディスプレイの片隅でアイコン状に表示されるサラツーの無垢な視線が痛い、痛すぎるアムロ。

 だから、

 

『そうかい、そんならいい。いい子だ』

「スレッガーさん」

『なんだい?』

「そのいい子だっていうの、やめてくれませんか?」

 

 とスレッガーに思わず当たってしまう。

 

『……はははははっ。すまん、悪かったな』

 

 大人な対応をするスレッガーに、やはり自分は子供なのかという苛立ちと、大人の男性に対する羨望、憧れのようなものを抱くアムロだった。

 ミヤビを意識してしまっている今だけに……

 

 

 

 一方、サイド6宙域外に浮かぶ岩塊の影に潜んでいたリック・ドムのパイロット、カヤハワは、

 

「つ、捉まえた。おおっ、こ、こりゃ木馬じゃないか。のこのことよくも出て来てくれたもんだ」

 

 とホワイトベースを発見。

 

 

 

 サイド6の宙域、ギリギリ外に浮かぶドックを確認するアムロ。

 

「あれが浮きドック?」

 

 そこに、岩陰から放たれる信号弾。

 

「ん? なんだ?」

 

 

 

「サラちゃん?」

『ダメです。発信元、特定できず』

「くっ」

 

 眉をひそめるミヤビ。

 ここで信号弾を発射したリック・ドムが確認できれば即座に撤退を進言できたのだが。

 そのためにこそドラケンE改なんかで前に出ていたのだが、仕方がない。

 

「ブリッジ、今のはジオンの発光信号では? 敵が出てきたらまずいわ」

 

 と警告を発することぐらいしかできない。

 

 

 

 ミヤビからの警告に、改めてブライトは問う。

 

「ペルガミノさん、我々は追われているんです。大丈夫ですか?」

 

 念を押す彼に、ペルガミノは、

 

「なあに、私には両方の偉いさんにコネがあります」

 

 と請け合い、

 

「お嬢さん、安心なさってください」

 

 そうミライにも告げる。

 

「ありがとう、ペルガミノさん」

 

 ミライはそう答えるが、姉ではなく自分にアピールしていることから、

 

(この人もカムランが私の婚約者だと誤解しているんでしょうね)

 

 とため息をつきそうになるのをこらえるのだった。




 ラブコメ回ですが、天然で自覚無く首輪プレイなんてマニアックな性癖を青少年に埋め込もうとするとは、罪作りな存在ですねミヤビは。
 その陰で史実のアムロに代わり走らされているカムランはご愁傷様としか……
 ミヤビは彼に対し、

「婚約者であるミライ(誤解)と二人っきりにさせてあげなきゃ(使命感)」

 と気を使って邪魔しないよう姿を見せていないんですけどね。

 次回は12機のリック・ドムが3分もたずに全滅させられる戦闘ですが。
 アムロたちが当たる前に、索敵のために前に出過ぎたミヤビが囲まれ死にそうになる模様。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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