ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第7話 コア・ファイター脱出せよじゃない Bパート

「ホワイトベースのエネルギーを利用してコア・ファイターを発進させる?」

 

 ブライトはアムロからの提案を受け、確かめるようにその内容を口にする。

 アムロはうなずいて、

 

「はい。弾道軌道に乗れば目的地には確実に着けます」

 

 と、モニターに軌道を示して見せる。

 それを見たミライも航法に関する知識があるだけに、その内容を理解する。

 

「確かに可能性は十分ね。さっき計算してみたんでしょ?」

「はい、中央カタパルトにメインエンジンのスチームバルブを繋げさえすれば、やれます」

 

 不調で大気圏離脱は不可能だとはいえ高い推力を持つホワイトベースを多段式ロケットの第一段に見立て、さらにガンペリー用スチームカタパルトで加速。

 そして航空機等によって高空まで輸送され発射される『空中発射ロケット』と同様の形式でコア・ファイターを飛ばそうというものだ。

 高空に運ばれたところから発射されるこの方式は、地上よりも低重力であり大気密度や大気圧も低いという環境から、重力損失、空気抵抗損失、推力損失が低減されるという利点がある。

 そのため比較的容易に目的の高度や軌道に到達させることが可能となるのだ。

 ミヤビの前世で言うとNB-52B ストラトフォートレスやロッキード L-1011 トライスター改 スターゲイザーを母機とした人工衛星打ち上げロケット『ペガサス』があった。

 

「しかし……」

 

 ブライトが思案するが、

 

『ハヤト、フラウ・ボゥ、E通路の避難民達が騒いでいる。すぐ来てくれ』

 

 というリュウからの艦内通信で、一時中断。

 彼らがブリッジから離れると、口を開いたのはカイだった。

 

「いつまでも敵と根比べをつづけてても始まらねえでしょう。アムロの提案をやってみたら?」

「カタパルトを手直しできるかどうかの問題がある。それに、やれたとしても発射する時のショックに誰が耐えられるか」

 

 パイロット用ノーマルスーツには対Gスーツ機能もある。

 それにより最大9Gまでの加速に耐えられる、とされるが、それはあくまでも鍛え上げられたパイロットだからこそのもの。

 その熟練のパイロットもその日の体調によって耐えられる限界は上下するものだ。

 

 なお誤解されていることが多いが、史実でアムロが気絶しているのはカタパルトで撃ち出された後、最高速度マッハ4.8(大気圏内ではマッハ3という説もあり)というコア・ファイターの高い推力を使っての加速中での出来事だ。

 つまりカタパルト射出から継続して高いGをかけ続けたため脳に血液が回らなくなってブラックアウトしているものだった。

 

 しかし、

 

「言い出したのは僕です。失敗しても犠牲者は一人ですむはずです」

「アムロ……」

 

 そんなアムロにカイは、

 

「おうおう、言ってくれるねえ」

 

 と、呆れと感心が入り混じったような声を漏らす。

 アムロはそれに対し、

 

「失敗すると決まった訳じゃないでしょう」

 

 と言い返す。

 だがカイの態度は変わらない。

 

「ホワイトベースから出たら奴らの攻撃を覚悟しといた方がいいぜ」

「あなたは、あなたはいったいなんなんです?」

「むきになることはないだろう。忠告しただけなんだぜ」

「カイ!」

 

 セイラがたしなめようとするが、カイは肩をすくめて、

 

「そう、オレは軟弱者だ。腹を立てるほどの人間じゃないのさ」

 

 と開き直る。

 

「そうですか、カイさんは大人なんですね。だったら人を不愉快にさせないでください」

 

 というアムロの言葉にも笑うだけだった。

 アムロはこれ以上話しても無駄だとブライトに向き直る。

 

「ブライトさん、カタパルトの手直しをお願いします」

「よし」

 

 ブライトは決断する。

 

「よろしいですね? リード中尉」

「認める。なによりもまず参謀本部に連絡を取ることだからな」

 

 しかし、

 

「異議あり」

 

 そこに待ったをかけたのは、いつの間にか現れたミヤビだった。

 相変わらず音を立てず気配が無いため周囲の人間の心臓に悪い。

 妹のミライには慣れっこだったが。

 

「ホワイトベースの守りはアムロのガンキャノンにかかっているのを忘れていない?」

 

 ミヤビの言葉に、いまさらながらその事実を思い出す一同。

 

「それにコア・ファイターは小さすぎるからコクピットに緩衝装置が組み込めず、割とパイロットの身体には優しくない乗り物なのよ。それで射出時のショックに耐えるのは大変よ」

 

 これも事実。

 『機動戦士Vガンダム』の劇中でもウッソ君がコア・ファイターを組み込んだVガンダムのコクピットは敵のモビルスーツ、シャッコーと乗り比べてパイロットに優しくないという感想をもらしていた。

 

「で、でもそれじゃあ、どうしろって言うんです、ミヤビさん」

 

 戸惑うアムロにミヤビは言う。

 

「サラミスのカプセルを使えばいいでしょ」

 

 サラミスの大気圏突入カプセルはミヤビの前世の記憶で知る史実と違って無傷でホワイトベースに収容されている。

 このカプセル、大気圏離脱用増設ブースターを付けたりマスドライバーなどで打ち上げてもらえば大気圏の離脱も可能なものだ。

 そして大気圏脱出速度まで加速するためパイロットをGから保護する機構が備えられている。

 弾道軌道で打ち出すにしろ、コア・ファイターよりは安全に行えるはずなのだ。

 

 その上でミヤビはこう考えている。

 彼女の知る史実と違ってリード中尉は負傷していない。

 このままでは補給のためマチルダ隊がやって来ても退場することなく居座る可能性がある。

 そして言っては悪いが指揮官としての資質に欠ける彼の指揮下ではホワイトベースは生き残れない可能性が高い。

 だから、

 

「アムロ君はメカニックや技術的な知識は大人顔負けですが、軍事的知識に秀でているわけではない。彼を連絡員として使うと本当に『お使い』にしかなりません。行った先で「ならこうしてくれ」と指示を受けてもそれが可能かどうかの判断が彼にはつかないし「あれはどうだ?」と聞かれても答えられない。かといって何度も伝書鳩を往復させられるほどジオンも甘くは無いでしょう?」

 

 リード中尉、本当はここから逃げ出したいんでしょう?

 味方と連絡をつけなければならない。

 そして、

 

「連絡員は士官クラスの知識と判断力を持った人間でないと」

「しかしそれは……」

「非常のときには非常の選択が必要です」

 

 この船に居る士官はあなただけ。

 厳密に言うと他にテム・レイ博士とかタムラコック長が居るが、これは専門技術者を士官待遇しているだけだから対象にはならない。

 

「お願いできますね、リード中尉」

 

 敵の前線を自ら突破し、ホワイトベースを救うという英雄的行為。

 大義名分を用意してあげたんだから、素直に乗りなさいな。

 

 ここでリード中尉には退場してもらう、そういう誘いだ。

 史実ではシャアに邪魔されたが、今回もそうなるとは限らない。

 また往復とは言ったが、この状況下では行ったら最後、戻ってくることは難しいだろうし。

 ミヤビはダメ押しに、

 

「カプセルに合わせたカタパルトの手直しはできますから」

 

 という言葉と共に、

 

(イエスと言え!!)

 

 とばかりに視線に力を込める。

 そしてリード中尉は「絶対にノゥ!!!」とは言わなかった。

 一瞬、言葉に詰まったが、それでもうなずく。

 

「わ、分かった。よろしく頼む。ミヤビ君」

 

(勝ったな)

 

 ミヤビは内心ニヤリと笑う。

 無論、人形じみたその表情に変化は無かったが。

 

 そして……

 

(ミヤビさん、どうしてあなたはそうやって自分を犠牲にするんですか)

 

 と、ブライトはこぶしを握り締める。

 このようにリード中尉も含め周囲は当然、ミヤビの思うようには捉えていなかった。

 彼らの中では、ミヤビはアムロを庇って代わりに自分がサラミスの大気圏突入カプセルによる危険な突破作戦に志願した、という具合に受け取られているのだ。

 これまでの行いのせいでミヤビは「士官クラスの知識と判断力を持った人間」と思われている。

 また「お願いできますね、リード中尉」という言葉も、自分が行くことを許可してください、という意思表示だと思われている。

 毅然とした態度(感情が表に出ないだけ)と強い意志が込められた視線(リード中尉にイエスと言わせるためのもの)、そしてミヤビのこれまで積み重ねてきた数々の実績(状況に流されただけ)が、そうとしか思わせないのだ。

 自業自得としか言いようのない状態だったが、ミヤビはそれには気づかない。

 そういうバカバカしいほどの誤解とすれ違いが生じているのだった。

 

 

 

 ジオン軍基地。

 そこでガルマは秘書を務めるイセリナと共にモニターを睨んでいた。

 

「ドラケンとガンキャノンのデータは皆、入ったのか?」

「はい、推測できるデータはすべて」

 

 ホワイトベースの通信の一部はジオン側に傍受、暗号強度の低いものは解読されており、そこから名称が判別されていた。

 画面に表示されるデータにガルマは目を見開く。

 

「驚いたな。外から見たデータで割り出した性能でも我がモビルスーツ、ザクなど問題外か。内部のデータがわかればさらに……」

 

 そこにシャアが現れる。

 シャアはイセリナの存在に退きそうになる足を叱咤して、表面上は何事も無いかのように歩み寄る。

 その仮面の下の表情は盛大に引きつっていたが……

 それに能天気にも気づかぬガルマはシャアに向かって感心した様子で語りかける。

 

「シャア、あのモビルスーツを敵によくも二日間も追撃できたものだな」

 

 シャアは苦笑気味に、

 

「ガルマ、君の予想以上に苦労はしたがね」

 

 と答える。

 ガルマも、

 

「わかっている」

 

 とうなずく。

 そしてモニターに目を向けなおし、

 

「しかしこのドラケンE改、ミヤビ君のところのヤシマ重工製か……」

 

 と感慨深げにつぶやく。

 その物言いに、シャアは仮面の下の瞳を見開いた。

 

「知っているのかガルマ?」

「ああ、そもそもこの機体、ジオンでも月企業がライセンス生産したものを今現在でも買えるし、一部では荷役、作業用として導入すらされているものだ。これには開戦前にヤシマ重工から購入したものも含まれる」

「なん…… だと……?」

 

 虚を突かれたようにシャアは絶句する。

 

「右腕のハードポイントに装備された武装はカタログに無いことから地球連邦軍の開発によるものか未発表の最新装備だろうが、基本、作業機械のあの機体にザクやマゼラアタックに有効な武器を与えるだけでここまで化けるとは、まずいな」

「どういうことだガルマ。ジオンでも買えるというのなら、導入したら良いだろう。武装は手に入らないなら独自に開発してしまえばいい」

「それをするとジオンは負ける」

「なに!?」

「ドラケンは基本、作業機械で安く量産が効く上、パイロットを選ばないのだ。少し練習すれば学生のアルバイトでも扱える」

 

 それでシャアは気づく。

 

「人海戦術か……」

 

 ガルマは憂鬱そうにうなずく。

 

「ああ、一説によると連邦とジオンの国力差は30対1、それは人的資源にも言えることだ」

 

 人海戦術による潰し合いにジオンが付き合うことは不可能なのだ。

 

「しかしこのままでも不味いことには変わりあるまい。このドラケンE改30機をザク1機にぶつけて墜とすことができれば、連邦はこの戦争に勝ててしまうのだから」

「ああ、だからジオンが選べる道は一つだけだ」

 

 ガルマの言いたいところはシャアにも分かる。

 

「モビルスーツの更なる高性能化でドラケンを無力化するか……」

 

 実際、それしかなかった。

 

「そう、小型機の弱点は拡張性だからな。兵器の進化についていけず陳腐化するのも早い」

 

 と、ガルマが言うとおり。

 ミヤビの知る旧20世紀から21世紀にかけてのジェット戦闘機を例に取ると分かりやすいだろう。

 アップデートしながら長く使えていたのはF-4ファントムIIやF-15イーグルなど大型で拡張の余地がある機体ばかり。

 軽戦闘機は開発時点ではその軽便さを生かした性能がもてはやされるが、時代が流れると機体にアップデートを施す余地が無くて詰む。

 そのためF/A-18ホーネットを拡大設計したF/A-18E/FスーパーホーネットやF-16ファイティング・ファルコンを拡大設計した日本のF-2のように元の機体から再設計、大型化して対応するというのが普通だ。

 ほぼ別物の機体になるので、開発費が多少圧縮できるという利点しかないが。

 そういった意味でミヤビの前世の記憶においてジェガンが長らく使われていたのは大型機で拡張の余地が大きかったため、とも言えるだろう。

 

「幸いザクに続く地上戦用のモビルスーツ、グフが、続いて重モビルスーツ、ドムが近々ロールアウトする」

「ほう?」

「ガンキャノンやドラケンの性能を解析し対応策を盛り込む。またその技術を次の機体に生かす……」

 

 すでに地球でのジオン軍の兵器生産拠点、キャリフォルニアベースではガンキャノンの出現に対抗し、ザクキャノンの開発が始められていた。

 これは重量バランスの悪さや不確定なニーズなどを原因として一時開発凍結されていた対空砲装備型ザクを基にした機体である。

 この辺はミヤビの前世の記憶どおりの展開だが、時期は若干早まっている。

 史実ではガンキャノンが戦闘に参加したのは割と遅く、第8話「戦場は荒野」からだったからだ。

 そして、

 

「そのために木馬を落とし、あれらの機体を手に入れるか」

「協力してくれるか、シャア」

「当然だろう?」

「フフ、私は良い友人を持った」

 

 なおミヤビがこの会話を聞いていたら、

 

 このガルマ覚醒していない?

 シミュレーションゲーム『ギレンの野望 ジオンの系譜』で戦死せず「新生ジオン」の総司令官として立つ「ガルマの栄光~新生ジオン編~」での彼みたいに。

 

 と思っただろう。

 もちろんこれもミヤビのせいである。

 例の『コロニーリフレッシュプロジェクト』を行うためにジオン上層部と接触したミヤビはガルマとも友誼を結んでいる。

 そして、そのころのガルマは優秀な兄や姉に対する焦りや士官学校の同級生であるシャアに対するライバル心から誤った方向に暴走しかけており……

 そこに現れたミヤビはそんな彼に新しいものの見方を与えてくれた。

 ミヤビにはそんなつもりはまったく無かったが、彼女は転生しても相変わらず男性脳、理系脳の持ち主。

 自分が知っているものについて間違ったことを言っている相手には訂正したり説明したりせずにはいられないし、相手に悩み事を打ち明けられたら、女性のように「それは大変だねー」と共感するだけではなく、打開策や対応方法について考え助言してしまうタイプだ。

 そしてミヤビの持つ視点とそれに基づく助言は彼女の前世の記憶、つまりこの世界の未来を俯瞰した知識によるもの。

 テム・レイ博士がそれに強いインスピレーションを受けたように、ガルマはミヤビの助言にいわば天啓を得たような衝撃を受け、新たな視野を得るに至ったのだった。

 

 まぁ、それが現状では敵の強化をしてしまうことになる。

 ミヤビは自分で自分の首を絞めていることにつながっているのだが……

 もちろんミヤビはそれに気づいていないのだった。




 ガルマ覚醒。
 そして『だいたいこいつのせい』を地で行くミヤビでした。
 自覚無しに全力で自殺点(オウンゴール)を決めまくるスタイル。
 どうしてこうなった。


> このガルマ覚醒していない?
> シミュレーションゲーム『ギレンの野望 ジオンの系譜』で戦死せず「新生ジオン」の総司令官として立つ「ガルマの栄光~新生ジオン編~」での彼みたいに。

 ガルマ生存ルートですね。
 そのまま同じようにはならないと思いますが、一方で私のこのお話ではガルマが死ぬ未来が想像できなかったり。
 イセリナが強すぎて……


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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