ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第7話 コア・ファイター脱出せよじゃない Cパート

『苦しいのは初めの30秒だ』

「はい……」

 

 大気圏突入カプセルのコクピットに詰め込まれてしまったミヤビは、いつもの人形のような無表情の仮面の下、盛大に混乱していた。

 

 あ…… ありのまま今起こったことを話すわ!

「私はリード中尉をカプセルに乗せるよう誘導できたと思ったら、いつの間にか自分が乗せられていた」

 な…… 何を言っているのかわからないと思うけど、私も何をされたのかわからなかった……

 頭がどうにかなりそうだった……

 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない(当たり前)

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……

 

 といったところ。

 ネタを仕込めるとは余裕なような気もするが、ともあれ。

 

 どうしてこうなった。

 

 である。

 

 

 

 一方、ホワイトベースのブリッジでは、

 

「大変です、避難民達が暴動を起こしました」

 

 ハヤトたちが駆け込んで報告していた。

 

「暴動?」

 

 ブライトが驚き、

 

「な、なんでだ?」

 

 と、リード中尉もうろたえる。

 リュウの答えは、

 

「老人達がカツ、レツ、キッカ、子供たちを人質にとってホワイトベースを着陸させろって」

 

 というもの。

 さらにセイラが、

 

「それに、カツとレツとキッカがかわいそうだってフラウ・ボゥまで人質に残ってしまっているんです」

 

 と告げる。

 しかし、

 

「ハヤト、リュウさん、早くノーマルスーツに着替えてコア・ファイターで待機するんだ」

 

 と、すでにノーマルスーツ姿のアムロがうながす。

 彼はカイの言うとおり、ミヤビが発進した後にジオン軍の妨害があった場合に助けに行けるよう準備しているのだ。

 それに対し、ハヤトは信じられないというように声を上げる。

 

「心配じゃないのか?」

「何が?」

「君の一番仲良しのフラウ・ボゥが人質にとられているんだぞ、少しは気になって……」

「ハヤト、ブライトさんもミライさんもセイラさんもいるんだ。ホワイトベースのことは任せられると思ってるよ。僕は自分のできることをやるだけだ」

 

 アムロの言葉に、セイラもうなずく。

 

「アムロの言う通りよ」

 

 そう言ってハヤトの肩をなだめるように押さえる。

 そして彼女はフラウ・ボゥの代わりにオペレーターを務めるべく通信機に向かう。

 アムロはそれを見て、

 

「格納庫へ行きます」

 

 と自分も行動を開始する。

 ブライトもうなずいた。

 

「頼む」

 

 

 

 ティータイムを楽しんでいたガルマたちにも、ホワイトベースの動きに対する報告が通信で届いていた。

 

『ガルマ司令。パトロール艇、ルッグンから連絡が入りました。木馬が動き出したようです』

「なに? データは送れるか?」

『は、送ります。レーザー計測した推測データです』

 

 ディスプレイに映し出された情報に、ガルマは瞳を細める。

 

「シャア、どう思う? 衛星軌道にでも脱出するつもりかな?」

「そんな速度じゃないな。あ、あるいは!」

 

 シャアは立ち上がると通信兵に命じる。

 

「ドレンを呼び出してくれ、コムサイの発射準備をさせる!」

「シャア、どういうことだ?」

「木馬め、連邦軍から孤立している状態をなんとかしたがっているんだ」

 

 

 

 ブリッジのセイラから通信が入る。

 

『カウントダウンに入ります。いいですね? ミヤビさん』

 

 全然よくないんだけど、と死んだ目でそれを聞くミヤビ。

 しかしセイラのカウントダウンは容赦なく減っていき、

 

『10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0』

「っく!」

 

 

 

 ミヤビを乗せた大気圏突入カプセルは矢のように飛んでいく。

 

「カプセル、弾道軌道に乗ります」

 

 あらかじめ『苦しいのは初めの30秒だ』と言われていたとおり。

 カタパルト射出のショックだけでなく、その後もロケットエンジンにより加速し続けることで継続する高いGに耐えられず気絶したミヤビ。

 そして貨物スペースに降着状態で押し込まれたドラケンE改を載せて……

 

 

 

『木馬から何か発射されました』

「弾道軌道か?」

『は』

 

 シャアとガルマもミヤビを乗せたカプセルの動きをとらえていた。

 

「我が軍を飛び越えて連邦軍本部と連絡をつけるつもりだ」

「基地上空はミノフスキー粒子のおかげでレーダーは使えないぞ、どうする? シャア」

「追いかけるまで!」

 

 ガルマの問いにシャアは即答する。

 

「接触できるか?」

「1分後に発進、2分50秒でキャッチできます」

「よし」

 

 そして駆け出す。

 

「シャア!」

 

 残されたガルマはいつもの、前髪をいじる癖を見せながら笑う。

 

「フフフ、相変わらずだな。よし、ガウ攻撃空母に伝えろ、シャアを援護しろとな」

 

 

 

 そしてシャアを乗せたコムサイが大型レール式カタパルトを使って撃ち出される。

 長大なストロークを持つこれは本来、コムサイにブースターを付けた上で大気圏離脱させる際の初期加速に使われるもの。

 今回は大気圏離脱用ブースターを用いてはいないが、それでも弾道軌道を取るミヤビのカプセルにも十分追いつくことができるはずだった。

 

 

 

 ブライトたちは暴動を起こした避難民たちとの交渉にあたっていた。

 

「わしらはなにも乱暴しようというんじゃない。本当の事が聞きたいだけなんじゃ」

「それなら人質など要らないはずです」

 

 と諭すブライトに、代表者の老人は黙って瞳を伏せる。

 そしてブライトは気づいた。

 

「みんな、銃をしまうんだ」

「え?」

「しまうんだ!」

「ああ」

 

 ブライト、そしてリュウ、ハヤト、セイラは腰のホルスターに連邦軍制式拳銃M-71A1を戻す。

 それを見て、老人たちは口々に訴えだす。

 

「地球は、元気ならわしの孫がいるはずなんじゃ」

「わしは生まれ育った町や川をもう一度この目で見たいんじゃ」

「別れたじいさんにもう一度会ってみたいんだ」

 

 ブライトの脳裏にミヤビの言葉がよぎる。

 

「どうして自らが生活する大地であるコロニーを地球に落とすことができたのか、って地球のマスコミは騒ぎ立てたけど、それこそ宇宙市民、スペースノイドの感情を理解していない、しようともしない……」

 

 つまり彼ら古い世代の移民たちの認識ではいまだに故郷とする大地とは地球のことなのだ。

 コロニーなど、自分たちを閉じ込める監獄に過ぎない。

 

 挙句、コロニー建設費用の徴収などと言って税を吸い上げる……

 地球連邦政府、アースノイドにしてみれば高速道路の料金のように受益者負担で連邦がコロニーを建設するにあたって作った借金を住人が返済するのは当然だろうが。

 しかし棄民政策で無理やり地球を追い出されたスペースノイドにとっては、

 

「監獄造ったからそこに入れよ。当然、監獄の建設費用から維持までお前ら持ちな。シャバ(地球)には一生戻させねぇから」

 

 と言われているようなもの。

 そんな監獄を地球連邦に突き返してやって何が悪い、というのがコロニー落としに対する正直な心情なのだった。

 

「私は地球に着陸しないとは言っていない」

 

 苦い思いをかみしめながらブライトは言うが、老人たちは退かない。

 

「あとどれくらいで着陸できるのか、はっきりとこの耳で聞かせてもらいたい」

「あんたらに任せきりで悪いが、戦争の間あんた達と対等に話をする為にこの子たちをここに置く事に決めたんじゃ」

 

 それに対しブライトは、

 

「私たちも全力を尽くしているんです」

 

 としか言えなかった。

 

 ブライトはふとルナ2のワッケイン司令のことを思い出す。

 自分が避難民たちの処遇について迫った時も、理知的に対応していた彼のことを。

 逆に訴えを受ける立場になれば分かる。

 自分の主張がいかに一方的なものであったのか、それに対応するのがどれだけ大変なのか。

 今にしてワッケイン司令の有能さと、それ以上に優れた人格者であったことを痛感するブライトだった。

 しかも、

 

『ブライト、至急来て欲しいの、ブライト』

 

 と、ブリッジに残したミライから連絡が入る。

 

「どうした?」

『とにかく早く来て、早く』

 

 ブライトは仕方なく話を切り上げ、ブリッジに戻るしかなかった。

 

 

 

「姉さん、無線は回復したはずよ。姉さん、答えて姉さん!」

「やられたのか?」

「冗談は言わないでちょうだい!」

 

 さすがのミライもカイをにらむ。

 そんな中、更なる報告がもたらされる。

 

「敵機接近。カプセルを追いかける敵機です。1分後に接触します」

「シャ、シャアか?」

 

 リード中尉の言うとおり、コムサイで緊急発進したシャアだ。

 

「そ、そんな。姉さん、姉さん応答して! 姉さん?」

 

 そこにブライトたちが戻ってくる。

 

「敵にキャッチされたのか?」

「応答ないの」

 

 ブライトは即座に決断する。

 

「ミヤビさんを援護するぞ」

 

 すかさずカイが火器管制装置に駆け寄る。

 

「よーし、ミサイルチェック。いつでもいいぜ」

 

 なんだかんだ言っても、もしもの場合に備えているカイ。

 だからこそ彼はブリッジに残ったのだし、即座に対応ができるのだ。

 この辺、不器用だとも言える。

 

「ミライ、全速力で前進だ。カプセルは進路を下げるしかないだろうからな」

「了解。メインエンジン、現状での最大出力、願います」

 

 不調で大気圏離脱は不可能だとはいえ高い推力を持つホワイトベース。

 敵の攻撃を避けるため地表を這うようにノロノロと飛んでいるため誤解されることも多いが、現状でも全速を出せばそれなりな速度を出すことができる。

 カプセルが弾道飛行をあきらめ減速、さらに回頭してこちらに向かってくれるなら迎えることもできるだろう。

 

 リード中尉がキャプテンシートからオペレーターを振り仰ぐ。

 

「レーダーは使えんのか?」

「30パーセントの確率で使えます。地球上にしてはミノフスキー粒子の濃度が濃すぎます」

 

 との返答。

 カイは照準レーダーを確認。

 

「なんとか見える。やってみるかい? ブライト」

「ん?」

 

 どうするか考える間もなくリード中尉の指示が下りる。

 

「撃て、陽動作戦になる」

 

 なるほど、ブライトは命中させるのは困難と考えたから迷ったが、威嚇、そして敵の注意を惹きつけるには当たらずとも撃つ価値はあるか。

 ミヤビはブレインストーミングと考えてリード中尉の意見を聞けば良い、と言っていたが、どんな意見も頭から否定したりせず多様なアイディアを求めることは実際に役立つようだ。

 だから決断する。

 

「よーし、発射」

 

 

 

「ミサイルか」

 

 コムサイのシャアはホワイトベースからの攻撃に気づくが、

 

「どうせ木馬のあてずっぽうの攻撃だろう。敵のカプセルに近づいてしまえ、当たりはせん」

 

 と、コムサイを操縦するドレンに指示する。

 この辺の読みはさすがとも言える。

 

 

 

『ミヤビさん、起きてくださいミヤビさん』

 

 大気圏突入カプセルのコクピット。

 カーゴスペースに押し込められたドラケンE改のサポートAI『サラ』が機内通話によってミヤビを起こそうとするが、反応は無い。

 仕方なく、サラは最終手段を用いる。

 

『エレクトリッガーッ!!』

「っ!?」

 

 強力な電撃がミヤビを襲う!

 シートの上でビックンビックンと跳ねまわるミヤビの身体。

 

『エレクトリッガーッ!!』

 

 ビクンビクン!

 

『エレクトリッガーッ!!』

 

 ピクピク………

 

『ガーッ!!』

 

 まるでアニメ『レッドバロン』の最終決戦のようにエレクトリッガー、実際にはパイロット用ノーマルスーツに備えられた電気ショックによる覚醒パルスを遠隔で連発させるサラ。

 ドラケンE改の機体も赤いし、ま、多少はね。

 

『これでも起きないなんて…… こうなったら必殺のサラ・コレダーをぶっ放すしか』

「殺す気か!?」

『あ、おはようございますミヤビさん』

「おはようじゃないでしょ! 必殺って何!?」

 

 必ず殺すと書いて必殺だからね!

 

『なかなか起きないからどうしようかと……』

「起きてた! 一発目で起きてた!」

『えーっ?』

「電撃の痛みで悶絶して起き上がれなかっただけでしょうが!?」

 

 ここまで感情をあらわにするミヤビも珍しいが、まぁ、これだけの仕打ちをされたら仕方がない。

 誰だってそうなる。

 

 そもそもミヤビに限らず強電関係について学んだ技術者は大抵、こういうのは大っ嫌いになるものだ。

 何しろ電気は目に見えないにも拘わらず「そいつに触れることは死を意味する!」というもの。

 高圧大電流なら一瞬でグロ画像と化すし、電圧が低くても条件次第で死ぬときは死ぬ。

 勉強していればその危険性は嫌でも理解できるし、業界に居れば人身の事故事例情報も多く流れてくる。

 それなのにミヤビの前世、高専の実習室にあった電動機は古くなったのか絶縁が甘く、実験や実習で油断して触ると「ビリっときたあああああ!!」とヒドイ目に遭うというもの。

 おかげでミヤビは静電気が大っ嫌いだし、電気風呂は怖くて入れない。

 この先、ヒートロッドを持ったグフが現れても絶対に戦わないぞ、頑張ってアムロ君!

 と心に決めているミヤビである。

 

 それはともかく。

 

『でも何で寝てたんですか? ミヤビさん、ドラケンのジャンプのGだって耐えているのに』

 

 寝てたって……

 このAI、言語機能がバグってるのでは? と思いながらも答えるミヤビ。

 

「あれは瞬間的なものだから耐えられるのよ。それに事前に『Gウォーム』もしてたし」

 

 最大9Gで加速し3秒以下で最大戦速に突入するという無茶なドラケンE改のジャンプだが、

 

・素人は大体5~6G程度で頭に血が廻らなくなりブラックアウト、気絶するというが、瞬間的にはもっと高いGにも耐えられることが分かっている。

 

・耐Gスーツは下半身を締め付けることで脳の虚血状態を防止するものだったが、ミヤビの前世、旧21世紀でもさらにベストやヘルメットまで同様の機能を付けたコンバットエッジというものも登場していた。そしてパイロット用ノーマルスーツの耐G機能はそれを上回る全身に作用するものでより高いGにも耐えられる。

 

・ドラケンE改には後に第2世代モビルスーツに採用されるリニアシートに使われたパイロットへの衝撃を吸収する機構、マグネティック・アブソーバーの簡易版とも言えるメカニカル・シート・アブソーバーが内蔵されている。

 

・戦闘機パイロットは事前に5G程度を身体にかけグレイアウト状態を作ってからすぐに緩めることで、1時間ほどG耐性を向上させる『Gウォーム』という手法を利用している。ミヤビはモビルスーツデッキの標準サイズモビルスーツ用カタパルトの加速力と長大なストロークを使って限界まで加速することでこれを出撃のたびに行っている。

 

※グレイアウトとはブラックアウト手前、頭に血が廻らなくなり視界が暗くなった状態を指す。水平方向の加速でも発生するのでミヤビはカタパルトの加速でこの状態を意図的に作り出している。

 

・機動兵器のパイロットは小柄な人物の方が向いている。これは頭と心臓との距離が近く、なおかつ足の先と心臓との距離も比較的近いためで高G状態でも頭に血を送りやすくなり結果としてブラックアウトに陥りにくいということ。女性は男性よりも耐G能力が高いと言われるのはこのためで今は女性のミヤビもまた割と高めの能力を持っている。

 

 ということで耐えられていたのだ。

 今回は、そのうちのいくつかの条件が欠落したためブラックアウトし気を失っていたわけである。

 そして、不意に機体に走る衝撃!

 

「なっ、何事!?」

 

 

 

 もちろん銃撃を加えてきたのはシャアの操るコムサイである。

 

「ドレン、このバルカン砲は照準が甘いぞ」

 

 などと毒づきながらもミヤビの乗る大気圏突入カプセルに命中させることに成功。

 火を噴くカプセルだったが……

 不意にカプセルから走る反撃の火線が、油断していたシャアのコムサイを襲う。

 

「直撃です」

 

 ドレンの報告。

 そしてカプセルから小型の赤い機体が離脱する。

 ミヤビが貨物スペースに載せられていたドラケンE改の60ミリバルカンポッドで反撃、脱出したのだ。

 

「大丈夫だ。致命傷ではなかろう。私もザクで出る。コムサイを敵の上に上昇させろ」

「はい」

 

 

 

 一方、ミヤビの救助に向かうホワイトベースでは待機していたアムロのコア・ファイターが出撃していたのだが、

 

『ブライトさん、六機対一機じゃ勝負になりません』

 

 ジオンの戦闘機、ドップの編隊に襲い掛かられ、逃げ回るのがやっとという状況に追い込まれていた。

 シャアの援護に出撃してきたガウ攻撃空母から発進した編隊である。

 だからアムロはリュウとハヤトにもコア・ファイターで控えるように言ったのだが、フラウと子供たちを心配した彼らはそちらに回り、結果として出撃のタイミングを逃していた。

 ドップに接近された状況ではハッチを開けてコア・ファイターを発進させるのは危険なのだ。

 デッキ両舷に備えられたミサイル発射装置は前方攻撃用であるだけでなく機動兵器発進時に敵機を近づけないための支援用でもあるのだが、射出口が固定であるためここまで接近を許すとそれもあまり役に立たなかった。

 

「アムロをホワイトベースに戻させろ」

「アムロ、引き返せて? 冷静にね。地上すれすれに戻っていらっしゃい」

 

 ブライトの指示を臨時のオペレーターを務めるセイラが伝える。

 

『しかし』

「ブライトとリード艦長の命令です」

 

 その様子をカイは皮肉気に見て笑う。

 

「へへへへ、無理すっからさ」

「貴様!」

 

 ブライトの拳がカイを殴り飛ばす。

 

「な、なんだよ、俺が何したってんだよ?」

「貴様、今度同じような態度を取ったら宇宙だろうとなんだろうと放り出す」

 

 ミヤビが見ていたらこう言っていただろう。

 カイ君の気持ちもわかるけどね、と。

 

 カイは斜に構えるところがあるが、それは物事を俯瞰して見る目があるということ。

 だからアムロやブライトの立てる策に潜んでいる危険、リスクに気づくことができる。

 以前はカイもこんな態度を取らず、真摯に忠告していたのだろう。

 しかしギリシャ神話に登場するカサンドラのように予言者は、特に失敗や敗北の予言者は嫌われ疎まれるものだ。

 アムロやブライトにしてみれば「だったら代案はあるのか?」と言いたいところだろうし。

 しかし、この状況でそんな贅沢なものがあるのならカイだって最初から提案している。

 それでも皆が見ないふり気づかないふりをしているリスクが気になるからこそ軽薄さを演じながら口を挟むわけだ。

 

 まぁ、何事もバランスな訳だが。

『やらない理由を探してばかりの小利口は行動するバカに勝てない』

 という言葉がある。

 リスクを把握するのは大事だが、そればかり気にして行動しなければ何かを産み出すことも状況を変えることもまたできない。

 アムロやブライトの決断や行動にはカイが言ったとおりのリスクがあった。

 しかし彼らはあえてそれを棚上げして、バカになって行動することで状況を打開しようとしている、とも言える。

 

 ではカイは劣った、不要な人間なのかというとそうではない。

 彼は一年戦後、ジャーナリストとなって大成している。

 カイが持つ鋭い観察眼を活かすことができれば、それだけの実績を上げられるということ。

 カイはそれだけの人物であるということなのだ。

 

 現在はミノフスキー粒子とモビルスーツの登場で従来の戦闘ドクトリンが崩れ、戦場で何が起こるか分からない時代。

 これはミヤビの前世、VUCAな時代と言われた旧21世紀のビジネスの世界に似ている。

 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べたもので、まぁ、言葉が示すとおり変動が大きく不確実でしかも複雑さが増し、曖昧模糊としたカオスな、混沌とした状態。

 昭和やバブルの時代みたいに「同じような人材が集まって、一致団結して同じ目標を目指せばいい」という状況ではない。

 それでは宇宙艦隊を軸とした大艦巨砲主義一辺倒に走った地球連邦軍がミノフスキー環境下におけるモビルスーツには非常に脆弱だったように、状況の変化に対応できず壊滅的な損害を受ける可能性があるのだ。

 

 ではどうするかというと、何が起こるか分からないなら、何が起きても対応できるよう人材にも多様性を求めましょうということになる。

 良い悪いではなく多様な個人の資質を生かすことが重要になってくるわけだ。

 そのためにはカイの方にも歩み寄る必要があるのだが……

 

「わ、わかったよ、ブライトさん」

 

 口ではそう言いつつも、不敵に口元を歪めるカイ。

 なかなか素直にはなれないようだ。

 

「カイ……」

 

 そしてその様子を仕方が無い人ね、とでもいうように横目で見るセイラ。

 ガンタンクで共に戦って以来、カイとは二人で組んで行動することが多い彼女。

 軟弱者と詰った最初の印象と違って反骨精神にあふれる意外な面も持っている、とは気づいていたが。

 どうして彼がそんな行動をするのかについてはまだまだ理解できないでいるのだった。




 ミヤビ、いつにも増してヒドイ目に遭う、の巻。
 電気ショックでいたぶられるヒロイン、しかも主従逆転……
 というとなんだかえっちぃのですが、全然そんなことは無かったぜ!
 まぁ、そういうのは得意な人の三次創作に期待ということで(丸投げ&ちょっとだけ怖いもの見たさ)

 なお、腕時計、スマートウォッチ型の電撃ショック式目覚ましは実在するそうです。
 私はミヤビと同じで絶対に使いたくありませんけどね。

 しかし、ミヤビがドラケンのジャンプのGに耐えられるわけとか、避難民の心情とか、カイの内面についてとか、やっぱりワッケイン司令って上司に欲しいよね、とかまじめな話も書いたはずなのですが。
 毎度のようにヒロインたちが繰り広げる騒動の、強烈なインパクトの前に霞んじゃいますねぇ。
 どうしてこうなった……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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