ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第7話 コア・ファイター脱出せよじゃない Dパート

『ザクが降下して来ます』

 

 自由落下中のドラケンE改。

 その頭上を取ったコムサイからシャアの赤いザクが投下されたのを、サラが報告してくれる。

 

「了解。例の装備を使用するわ」

 

 ドラケンE改の機体背面上部に設置された特殊装備。

 これが今回の勝利の鍵だ。

 

 

 

 一方、ホワイトベースでも、

 

「コア・ファイター収容、ガンキャノンに換装急げ」

「アムロ、聞こえて? あなた、ガンキャノンで空中戦をやる自信あって?」

 

 アムロにガンキャノンで空中戦をさせるべく準備が進められていた。

 

『空中で? ガンキャノンってだいたい陸戦兵器なんですよ』

「大丈夫、自由落下で1分以上空中にいられるのよ。あなたならできるわ」

 

 驚くアムロだったが、セイラは問題ないと答える。

 

『勝手すぎます! 僕にはそんな器用なことできません』

「生き抜きたくないの? アムロ、ホワイトベース着艦、急ぎなさい」

『……も、もう、いいですよ、うっ』

 

 ドップからの銃撃を受け、それ以上考えている余裕の無いアムロ。

 ブライトがモビルスーツデッキに指示を出す。

 

「コア・ファイター着艦フック、降ろせ」

『着艦軸OK。入ります』

 

 コア・ファイターの着艦はデッキ内で行うのではなく船外、デッキ下面に張られたアレスティング・ワイヤーにコア・ファイター上面にせり出したアレスティング・フックを引っ掛けて行う。

 滑走路にアレスティング・ワイヤーを張って着陸する通常の航空機とは上下が逆だ。

 そして翼や機首を折りたたみコア・ブロックに変形したところをメカニカル・アームで掴んで艦内へ収容。

 そのままガンキャノンの下半身、Bパーツに挿入。

 そして上半身、Aパーツを被せて換装は完了だ。

 

『操縦系切り替え終了。で、でもセイラさん、僕には』

「アムロ、誰だって自信があってやっているんじゃないわ。でもねアムロ、あなたには才能があるわ、自信を持って。ハッチ開くわよ」

 

 

 

 そしてガンキャノンは半開きにしたハッチの隙間からドップを攻撃。

 敵が怯んで攻撃が途切れた隙にホワイトベースから飛び立つ。

 

「地上に落ちるまでは1分20秒。それまでに仕留められるか?」

 

 ビームライフルと頭部60ミリバルカン砲を駆使してドップと戦うアムロ。

 

 

 

「ええい、ガンキャノンが邪魔で。う、な、なんですか? あなたたち」

 

 ミサイルで援護をしようにもできない状況に、ブリッジを飛び出し対空砲座に向かおうとするカイだったが、

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ここは」

「どうした? ……あ、あなた方は」

 

 カイの声に振り向いたブライトが目にしたのは避難民の老人たちだった。

 

「や、やっぱり降りられんのだな?」

「なんとか地球に、な、この通りじゃ」

 

 この非常時に、と内心イラつきつつもブライトは可能な限り平静な表情と声で、

 

「わかってます。さ、心配せずに部屋にお戻りください」

 

 となだめるが、

 

「わしら、もう動かん。地球に着陸してくれるまでな」

 

 と、老人たちは座り込みを始めてしまった。

 

 

 

「地球での自由落下というやつは、言葉で言うほど自由ではないのでな」

 

 そうつぶやき、ザクにマシンガンを撃たせるシャア。

 しかし、

 

「ば、バカな!?」

 

 ドラケンE改はシャアの射撃をひらりとかわし、その上、

 

「と、飛んでいるだと!?」

 

 落下するだけではない。

 ドラケンE改は重力環境下で飛行を続けていた。

 

「ガルマが収集したスペックによればリミッターカットによる一時的な弾道軌道の大ジャンプは可能でも、大気圏内で飛行を続けられるほどの能力は持っていなかったはず」

 

 どういうことなのだ?

 

 シャアは激しく混乱しながら重力に引かれ、落ちて行った。

 大空を舞うドラケンE改を上空に残して……

 

 

 

『パラシュートパック動作良好』

 

 ドラケンE改を飛ばし続けているのは機体背面上部に設置できるパラシュートパックだった。

 空挺車両の降下に使われるマッシュルームタイプとは別に用意された、特殊部隊のHALO(高高度降下低高度開傘)やHAHO(高高度降下高高度開傘)による敵地侵入任務向けの長方形の翼のようなスクエア型(ラム・エア・キャノピー)のパラシュートだ。

 これはパラシュートの両端につなげられたロープを引くことでパラグライダーのように飛行をコントロールできるもので、それによってミヤビはシャアのザクからの射撃を回避したのだ。

 またドラケンE改のロケットエンジンの推力を利用すれば動力付きのモーターパラグライダーとして継続的な飛行も可能である。

 コントロールには当初ドラケンE改のマニピュレータを使っていたが、

 

『コントロール用電動リールも問題なしです』

 

 とサラが報告するとおり、両手がふさがるという問題から両肩に電動リールを設置する方式に改められた。

 他にも自動作動装置と呼ばれる一定高度以下になった場合に傘を自動で開く安全装置と予備のパラシュートも装備には含まれる。

 そして、

 

「本当に目に見えない素材でできているのね」

 

 と、ミヤビは上方を振り仰いでHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)に映し出された画像を見てつぶやく。

 パラシュートの生地とロープは視認困難な透明特殊素材で作られている。

 この素材は厳しい生存競争の中で生物が進化させてきた機能を模倣する『バイオミメティクス(生物模倣技術)』を利用したもの。

 透明な物体が目に見えるのは屈折率の異なる物質が接する境界面では光の反射が起きるため。

 しかし水生生物の中にはナノ突起と呼ばれる微小な構造で覆われている者があり、表面が毛足の長いじゅうたんのようになっていて、光の反射を弱め、和らげられることによって透明な身体を目視できないほど水に紛らわせることができる。

 空気中においてもカタカケフウチョウという鳥の羽根の光吸収率は99.95%で、その羽根にあるマイクロメートル単位の微細な形状が光を反射しない構造になっている。

 これらを参考にナノテクで人工的に再現したのがこの透明特殊素材である。

 またレーダー波などの視認以外のサーチにもステルス性を持っている。

 そのためシャアにはドラケンE改が単独で飛んでいるように見えたのだ。

 

 なお、その飛行性能はそれほど高くないため、シャアが冷静だったら撃墜されていた可能性も高い。

 タネが割れていないからこそ通じた、おそらくシャア相手には二度と通用しないだろうという詐術である。

 

 

 

 ロケットエンジンを吹かし、シャアはザクを地上に着地させた。

 モニターに遠方のホワイトベースが映る。

 

「木馬め」

 

 健在なその姿にいまいましげにつぶやくシャア。

 そこに通信が入る。

 

『シャア、聞こえるか?』

「ああ、ガルマ」

『連邦軍のモビルスーツな、あれに対する作戦を改める必要がありそうだ』

「どういうことだ?」

 

 ドップ隊が引き受けたガンキャノンの方についての話かとシャアは聞き入る。

 シャアとてドラケンE改について驚くような報告があるのだが、それを上回るようなものがあるというのか。

 

『コンピュータのデータから推測するしかないが、敵のモビルスーツは戦闘機を中心に自由にタイプを変えられる多用途モビルスーツらしい』

「なに?」

 

 今回のコア・ファイターを収納してガンキャノンに換装、という運用をガルマ配下の兵が見抜いたのだ。

 コア・ブロックへの変形は艦外で行われていたとはいえ、なかなかに鋭い。

 

「で、では、今まで私の見ていたのは敵のモビルスーツの一部分の性能という訳なのか? あ、あれで」

 

 化け物のような硬さと攻撃力を誇るガンキャノンについてシャアは考える。

 パイロットが素人同然であるにも関わらず撃破不能だったあれが……

 

「では、こ、今後どう戦ったらいいのだ? ガルマ」

『戻れ、検討しよう』

「……りょ、了解」

 

 さすがのシャアもそう答えるしかなかった。

 

 

 

 帰還し、ブリッジに戻ってきたアムロとミヤビをカイが迎えた。

 アムロはその場に居る老人たちに、いぶかしげな視線を向けるが、

 

「気にすんなよ、アムロ」

 

 カイが肩をすくめ、

 

「ご苦労だったな、アムロ、そしてミヤビさん」

「お茶飲む?」

 

 ブライトとミライもそう言って迎えてくれる。

 

「はい」

 

 そううなずくアムロに老人たちの代表が話しかける。

 

「あんたさんが、いや、ここにいる皆さんも全力で戦っておる。そのつらさはわかっとるつもりじゃが、しかし、わしら年寄りの愚痴で言ってるんじゃないんだ。我ら、地球の大地を……」

 

 アムロは、

 

「わかってます」

 

 とうなずくが、

 

「わしらをここで降ろしてくれ」

 

 その言葉にブライトは言う。

 

「あと一息で連邦軍の勢力圏に入るんです。それまでの我慢がなぜできないんですか?」

「それまでの命の保証を誰がしてくれるんです?」

「この子の命だけでも助けてください」

「安全な所を見つけて我々を降ろせばすむんじゃないのかい」

 

 アムロはその勝手な物言いに、怒りを覚える。

 

「あなた方は自分のことしか考えられないんですか?」

「子供に年寄りの気持ちがわかるか」

「誰が、自分だけの為に戦うもんか。皆さんがいると思えばこそ戦ってるんじゃないか。僕はもうやめますよ?」

 

 そういきり立つアムロの肩を押さえたのはミヤビだった。

 そして彼女の妹であるミライがそこにすっと割って入った。

 アムロには、

 

「アムロ、お茶が入ったわよ」

 

 と。

 老人たちには、

 

「フラウ・ボゥとちびちゃんたちをブリッジによこしてください」

 

 と。

 避難民たちはミライの顔をしばし見つめた後に息を吐き、

 

「期待しとりますよ、お嬢さん」

 

 と言って去って行った。

 

「さすがヤシマ財閥の跡取り、ヤシマ姉妹の物腰柔らかな方」

 

 感心したような声を上げるのはミヤビだ。

 

「姉さん、その話は……」

「納得していない、と言うんでしょう。でもダメ。お父様はもう決めたし、私は失敗した」

 

 二人の父親であり辣腕の経営者、シュウ・ヤシマ。

 ミヤビの知る史実とは違い現在でも生きている彼には、ミヤビが計画した『コロニーリフレッシュプロジェクト』が失敗するのは最初から分かっていたことだった。

 それでも企画の立ち上げを許可したのはミヤビを失脚させ、ミライを次期当主に据えるため。

 

 前世の記憶とこの世界の未来の情報を持つミヤビは技術方面で様々な実績を上げていて、ヤシマグループでもその支持者は多かった。

 しかし彼女は経営者には絶望的に向いていないことを父親は知っていた。

 

 世の中、ロジックではないのだ。

 もちろん感情論が何かを解決することは無い。

 しかし感情に配慮ができていない施策が人々に受け入れられることもまた無い。

 

 そして経営の世界で理屈どおりに進むことは無い。

 例えばプロジェクトリーダーを務めていれば、どこかの工程が遅れることはままある。

 その遅れがプロジェクトの全体工程に影響してしまう、なんてことも。

 担当者の見積もりが甘かったから、だから担当者が責任を取って徹夜でも何でもして工程どおりに進めろよ、ということができるかというと、実際には物理的に不可能な場合がほとんど。

 そしてプロジェクトリーダーにはこの状況を何とかしなくてはいけない責任がある。

 だから他から応援を呼んだり工程を調整したり、という折衝が必要になるが、他だって余裕など無いし、そもそも自分のせいでも無いのに何でこっちが被害を受けなきゃならないんだ、と思う者が大半だ。

 そして彼らが言うこともまた正しい。

 ロジカルな方法論しか持たない人間は、ここで詰んでしまうのだ。

 ミヤビの前世、旧21世紀の日本でも世界有数の一流技術を誇る大企業で、

 

 それまで順調に実績を上げてきた技術職、研究職の優秀な人材を管理職にしたとたん、メンタルをやられて次々に倒れてしまう。

 

 という現象が起きていたのはそのためだ。

 一流企業の技術職、研究職につくには、一流の学校を良い成績で卒業しなくてはならない。

 つまり才能が必要なのだが、天才と言われる人間にもまんべんなく何でもできる者と、どこか欠けているが得意分野では負けないという者が居る。

 前者は万能の人、本当の天才なので数が限られる、となるといきおい後者の比率が高くなってしまうのだ。

 そして一芸特化型の才能の持ち主は概して対人スキルが低い。

 

 その点、対人能力が高い人物なら、

 

「まぁまぁまぁ、うん、気持ちは分かるけどここはひとつ……」

 

「あー、そうだよね。分かった。それじゃあ、こういうのはできる? その代わりに……」

 

 という具合に、ロジックでは対応できない状況も何とかしてしまえる。

 それも感情的なしこりを残さずに、いやかえってつながりを深化させる方向で処理してしまえる。

 モチベーションは仕事に馬鹿にならない影響を与えるため、これは本当に大事なのだ。

 そしてそれこそがマネジメントを行う管理職、そしてさらに上の経営者に求められる資質。

 ミヤビには無くてミライにはある才能なのだ。

 

 先ほどの避難民の老人とのやり取りも、そのミライの才能、人柄によるもの。

 ミヤビには真似できない……

 そもそもどうして彼らが納得して引き下がったのか、ミライの何がそうさせたのかすらミヤビには理解できない領域の話だった。

 

 それじゃあミヤビのような人材はどうすればいいの、という話だが、技術特化型なら技術の仕事さえさせておけば大きな成果が出せるのだ。

 専門職制度という専門的知識や技能を有する従業員を管理職と同等に処遇する人事管理制度を活用すればいい。

『担当課長』などといった部下を持たないが給料などは管理職待遇というやつである。

 苦手な対人折衝はしなくていいから持ってる技術で成果を上げてね、というもの。

 

 そしてミヤビは前世も今も自分というものを知っている。

 だから自分に経営者が務まらないのは承知の上だし、ミライが代わりにやってくれるなら大歓迎。

 自分は得意な技術分野で協力するよ、という話。

 婿を取る必要もなくなるし、ということで全面的に賛成しているのだが、ミライには尊敬する姉を追い落とすようなことはできない、と思われている。

 

「そんなの気にしなくてもいいのに、もっとドライに考えれば?」

 

 とミヤビが思うのは彼女がロジックで考える人間だから。

 

「私はドライではありません」

 

 とミライがかつて言ったように、普通そう簡単には割り切れないものなのだった。

 

 

 

次回予告

 避難民を地上に降ろすために戦いがやんだ。

 が、その隙に次の戦いの為の陣が敷かれる。

 そしてペルシア親子が帰るべき大地に見たものは?

 次回『戦場は荒野』

 君は、生き延びることができるか?




 ミヤビの『コロニーリフレッシュプロジェクト』には複数の意味や狙いがあったのですが、その一端を公開させていただきました。
 この先のお話でこれ以外の事柄についても順次明かされる予定です。

> 空挺車両の降下に使われるマッシュルームタイプとは別に用意された、特殊部隊のHALO(高高度降下低高度開傘)やHAHO(高高度降下高高度開傘)による敵地侵入任務向けの長方形の翼のようなスクエア型(ラム・エア・キャノピー)のパラシュートだ。

 これを使ったスカイダイビングの大会を間近で見たことがあります。
 アキュレシーランディング、地上に置かれたターゲットにいかに正確にランディングをできるかという競技ですが、自在に空を飛び、頭上を通過していく姿に感心したものでした。

 次回は戦争の悲哀を描いた名作『戦場は荒野』ですが……
 原作どおり綺麗に終わらせることができない予感がひしひしと。
「せっかくのお話を汚すな」とか怒られそうで怖いですね。

 それではみなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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