ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

28 / 93
第8話 戦場は荒野 Aパート

「転属? 私を君の配下にか?」

 

 シャアは戸惑った声を上げる。

 それに対し、ガルマは笑顔で答えた。

 

「一時的なものだがな。兄上に願い出ていたものが、今朝、正式にご了承していただけたのだ」

 

 兄上、とはシャアの上司であるドズル中将だ。

 彼はガルマに対して将来を期待しており、つまり甘い面がある。

 とはいえガルマの上司、キシリアとは反目しているところもあり、エースであるシャアを一時的にしろあっさりと貸し出すはずがないのだが……

 

「私も君の好意に甘えていてばかりではならないと思ってな」

 

 ガルマは照れたように前髪をいじるいつもの癖を見せながら言う。

 

「今のままでは君の立場はあいまいで実力を十全には発揮できないだろう? それに戦功を挙げたとしても正しく評価されない。だから君に私の参謀長の席を用意したんだ」

「ガルマ……」

 

 シャアは余計なことを、という感情を仮面の下に押し隠す。

 ガルマの背後に控えるイセリナ・エッシェンバッハの底知れぬ笑顔に恐怖したという面もあるが。

 

「しかしそれでは、木馬を落としたとしても君の武勲は」

 

 遠慮、という形でシャアは用意された立場を回避しようと試みる。

 彼はあいまいで責任の無い立場を利用してガルマ個人に恩を売ったり、また機会を見てガルマを陥れることを考えていた。

 しかし正式にガルマの参謀長にとなると責任が生じるようになる。

 それではまずいのだ。

 

 だがガルマは笑顔で首を振った。

 

「私とてザビ家の男。この先、将の将としての道を進んでいかねばならないだろう。そして将の将とは部下と武勲を競うものではなく、部下に武勲を立てさせる者を言う」

 

 そして部下が武勲を立てたなら、それはその部下を信頼して用いた上官の功績にもなる。

 将の将とはそういうことだ。

 

 ということをガルマがドズルに主張したらマジ泣きして喜ばれ、上機嫌でシャアを貸し出してくれたのだ。

 さらには青い巨星、ランバ・ラル大尉も追加で送り出す用意をしてくれるというから大盤振る舞いである。

 お兄ちゃん、自重しろ。

 

 一方、シャアはというと、

 

(なぜだ。なぜガルマがこのように……)

 

 と混乱していた。

 シャアの見たところ、ガルマの人の好いお坊ちゃんぶりはまったく変わっていない。

 なら自分をこのような状況に陥れたのは、

 

(イセリナッ! 謀ったな、イセリナ・エッシェンバッハ!!)

 

 ということになる。

 まったくの誤解である。

 ガルマは『ヤシマの人形姫』の影響で、生来の人の良い部分を残しながらもいい意味で覚醒しているだけである。

 

「友とは良いものだ。喜びは倍となり、苦しさは半分となる」

 

 と無邪気に「ダメだったら一緒に姉上に怒られようぜ!」とでもいうように笑うガルマに、シャアは、

 

(冗談ではない!)

 

 と仮面の下、内心絶叫しているのだが、ガルマはそれに気づかない。

 イセリナは気づいているかもしれないが……

 

 

 

「ぶ、ぶつかるぞ」

 

 迫る岩肌に顔面を引きつらせるリード中尉。

 北米大陸、グレートキャニオン。

 コロラド高原が長年のコロラド川による浸食作用で削り出された大渓谷を縫うようにホワイトベースは飛んでいた。

 

「っ!」

 

 せわしなく修正舵を切るミライ。

 ホワイトベースの主翼が岩肌をかすめ、衝撃が船体に走る。

 

「無茶だ、ブライト君。もっと高度を取りたまえ」

 

 リード中尉は命令…… と言うより悲鳴を上げる。

 セガの大型体感筐体アーケードゲーム『アフターバーナーII』のボーナス面あたりが元祖か、その後ナムコのフライトシューティングゲーム『エースコンバット』シリーズまで続く、いわゆる渓谷面をホワイトベースでやっているようなものだから、その気持ちは分からないでもない。

 だが、ブライトは振り仰ぐようにして反駁する。

 

「あなたにはあれが目に入らないんですか?」

 

 モニターに映し出されるホワイトベースの上空にはジオン軍のドップ戦闘機の編隊が飛んでいた。

 

「できれば地面を走りたいぐらいです」

 

 というブライトの言葉は誇張でも何でもない。

 

「しかしだな、満足に操艦できないパイロットで……」

「いいえ、できます」

 

 よほど余裕がないのかリード中尉の言葉に被せるようにして反駁するミライ。

 実際、ミライの操艦の腕が優れているからこそこんなアクロバティックな真似ができるのだが、リード中尉にはその辺がよく分かっていなかった。

 

 

 

「うわっ!」

 

 ホワイトベースに走る衝撃に、アムロは転倒する。

 

 ふにっ

 

 その手が何か柔らかいものに触れ……

 

「う、うわわわわっ!」

 

 慌てて立ち上がるアムロ。

 彼は一緒に居たミヤビの上に転んで、その胸に手のひらを当てていたのだった。

 

「アムロ?」

 

 相変わらず身体の線の出るパイロット用ノーマルスーツを着込んでいるミヤビは幼い少女のようにぺたんと座り込んだまま、小さく首をかしげてアムロを見上げる。

 アムロの主人公らしいラッキースケベだったが、己の美貌や性的魅力に無自覚なミヤビにはそういう認識が無かった。

 うろたえるアムロを不思議そうに見るだけだ。

 年上の女性のくせに無防備で無垢なその視線に、アムロは無意識にごくりとつばを飲み込み……

 

「痛っ!」

 

 一緒に居たフラウに脇腹をつねられ、正気に戻る。

 

「何だよフラウ・ボゥ!」

「鼻の下、伸ばしてるからよ!」

「そ、そんなはず……」

 

 と言いつつも顔に手を当ててしまうあたり、自覚があるらしい。

 

 マヌケは見つかったようだな。

 

 そんなラブコメを繰り広げていたせいで、彼らは近くのサブブリッジに誰か居ることに気づかなかった。

 

 

 

「コウ君、あなた男の子でしょ。このくらいのことで泣かないの。ごらん、これが地球よ」

 

 息子、コーリーを胸に抱き、サブブリッジの窓から大地を見下ろすペルシア。

 

「ここがあなたのお父様の育った所なのよ。お父様はあなたがいくらでも威張れるような立派な方だったの」

 

 彼女たち母子の存在を、ミヤビたちは見落としていたのだった。

 

 

 

『こちらはバイソン。木馬は山脈越えにかかる様子です』

 

 ガルマたちの元にドップの編隊から報告が入る。

 ガルマは即座に命じる。

 

「山脈を越えさせるな。地上軍のマゼラアタックと接触でき次第攻撃を」

 

 しかし、

 

「ガルマ」

「なんだ? シャア」

「木馬がなぜあんな飛び方をしていると思う?」

 

 シャアがホワイトベースの動向について問う。

 

「我々のレーダーから逃れる為だろう?」

 

 ガルマは単純にそう思ったが、シャアは首を振った。

 

「違うな。ミノフスキースクリーンの上に地形を利用した強力な妨害網を引くつもりだ」

 

 手元のコンソールを操作して簡単な概念図をモニターに映し出す。

 

「こうだな。となれば、ミノフスキー粒子の効果は絶大だ」

 

 両翼は崖に守られ、上空側はミノフスキースクリーンによる妨害を行う。

 ガルマはその意味を理解する。

 

「どんなに強力な誘導兵器も使わせんということか」

 

 そういうことだった。

 

「待ち伏せるんだ、我々の有利な地点で」

「そして一挙に叩くか」

 

 ガルマは拳を手のひらに打ち付けた。

 

 

 

「どういうこと? ドップの編隊が引き上げていく」

 

 とセイラが言うとおり、ジオンの動きはホワイトベースのブリッジでも感知していた。

 

「何かある」

 

 ブライトはうなずきつつも今後の行動について打ち合わせを始める。

 床面のモニターに周囲の地形図を映し出し、

 

「これが我々のいるグレートキャニオンだ。ホワイトベースの現在位置はここだ。そして、敵はおそらくこのミッド湖あたりに戦力を結集してくるだろう」

 

 と予想。

 

「うん、同感だな」

 

 とリード中尉も同意する。

 なぜなら、

 

「ここが我々の最も不利な地点だからだ」

 

 ということ。

 

「ガンキャノンの働き如何で我々の運命が決まる」

「アムロ、頼むわよ」

 

 ミライにそう声をかけられ、アムロは、

 

「はい」

 

 とうなずくが、それに対しカイが、

 

「俺たちはどうでもいいんだとよ」

 

 と肩をすくめるのに戸惑う。

 まぁ、カイのこれはいつものポーズなのだが、アムロのような生真面目な人間にはさらっと流すことができないのだ。

 だからセイラも、

 

「カイ」

 

 と、たしなめるように名を呼ぶ。

 カイはバツが悪そうに、

 

「いや……」

 

 と言いかけ、気づく。

 

「ん? フラウ・ボゥ、なんだいその人たちは?」

 

 フラウは数人の避難民たちを連れていた。

 その中にはペルシア母子の姿もある。

 

「艦長、この方たちがどうしてもお話をしたいことがあるそうです」

 

 フラウの紹介を受け、ペルシアが発言する。

 

「実は、私たちをここで降ろしてもらいたいんです」

「ええっ?」

「ええっ、降ろす?」

 

 ブライト、セイラが驚きの声を上げる。

 一方、

 

「戦闘中だっていうのに」

 

 と、リュウが言うのは非難ではなく彼女たちを心配してのこと。

 やはり彼は気は優しくて力持ちを地で行く気配りのできる男である。

 そんな彼らにペルシアは訴える。

 

「この先にあるSt.アンジェは私の夫の故郷なんです」

 

 その言葉にリード中尉は感慨深げにつぶやく。

 

「故郷? こんな所でこんな言葉を聞くとは」

「ご無理は承知の上です。でも私はこの子を父親の故郷で育てたいんです」

「あなたたちは…… よくもそんな自分勝手なことが言えたもんだ!」

 

 リード中尉は声を荒立て、

 

「ブライト君!」

 

 とブライトに彼らの退出を命じようとするが、思案顔だったブライトはリード中尉にこう答える。

 

「中尉、私にいいアイデアがあります」

「ア、アイデア?」

「はい、ジオンに一時休戦を申し入れてこの人達を降ろすんです」

 

 ブライトの発言に、難民たちが顔をほころばさせた。

 

 

 

 一方、ミヤビはというといつもの変わらない表情のまま……

 

(わ、忘れてた)

 

 盛大にテンパっていた。

 そう、彼女はSt.アンジェに関わるイベントを、この時になってようやく思い出したのだ。

 アムロのラッキースケベイベントに巻き込まれていなければサブブリッジのペルシア母子に気づき、もう少し余裕をもって対処できたはずだったが、それもいまさらな話だ。

 

(どうしよう。そもそもSt.アンジェって史実どおりに無くなっているかどうかも分からないし)

 

 ミヤビの存在が生むバタフライ効果で実は消えていなかった、ということも考えられるのだ。

 またそれよりまず史実どおりに戦闘が進んだら、ジオン軍の総攻撃にドラケンE改では到底耐えられないのでは、という問題がある。

 

(まずいでしょこれ! どう考えても死んじゃうから!)

 

 ミヤビはこの危機を脱しようと、頭をフル回転させるのだった。

 まぁ、素人の凡人が泥縄式に考えた浅知恵が、本気のシャアに通じるとも思えないのだが……

 

 

 

 ホワイトベースからの休戦の申し込みに、ガルマは思案する。

 

「どう思う、シャア。避難民を降ろしたいからという休戦理由は?」

「気に入りませんな。しかし……」

「ん?」

「敵がどういうつもりか知らんが、こちらも時間が稼げる」

「それで?」

「足の遅い陸上兵器を今の内に補強すれば」

「我々の勝利の確率は高くなる訳か。よし!」

 

 意気込むガルマに、シャアは、

 

(どうもお坊ちゃん育ちが身に染み込みすぎる。甘いな)

 

 と冷笑を浮かべようとするが、その背筋がぞわりと粟立つ。

 シャアの背後からの視線。

 その主は振り返らずとも分かる!

 というか怖くて振り向くことができないシャア。

 

(イセリナ・エッシェンバッハ! きさま! 見ているなッ!)

 

 心の内で声にならない絶叫を上げるシャアだった。

 

 

 

「なんで壊しちゃうのー?」

「もったいないじゃん」

「にゃんにゃん」

 

 ホワイトベースの船体中央にある第三デッキで輸送機、ガンペリーの機体に爆薬を仕掛けるカイは、子供たち、カツ、レツ、キッカにまとわりつかれていた。

 なんだかんだ言って、子供たちには嫌われていない。

 その辺がカイの隠された人の好さを如実に示しているのだが。

 

「うるせえな! 穴開けとかなきゃごまかせねえんだとよ!」

 

 カイはそう叫んで起爆スイッチを押す。

 ミヤビの知る史実と違うのは、コンテナ中央両面に細工をしているということだった。

 その他にも、ミヤビの提案で作戦には色々と変更が加えられているのだが。

 

「うわーっ!」

 

 爆発に悲鳴を上げる子供たち。

 

 

 

 着々と進むジオン軍の陸上兵器配置。

 

「シャア、君の言うとおり陸上部隊には対空車両を加えたぞ」

 

 この戦いのため呼び寄せられた対空戦車マゼラフラックはマゼラ・ベースに四連装75ミリ機関砲を搭載したもので、弾薬は後のグフの左手に装備されるフィンガー・マシンガンと共通。

 砲塔後部に捜索レーダーを、マゼラ・ベースの三連装35ミリ機関砲を外して追跡レーダーを積んでいるものだ。

 ミヤビの前世の記憶では『TACTICS別冊GUNDAM GAMES』つまりボードゲームが出典元だったが、実在しているのだった。

 

「これがあればドラケンのジャンプ攻撃を防げるのだな」

 

 と、ガルマはほくそ笑むが、

 

「いいや、無理だ」

 

 というシャアの言葉に驚く。

 シャアはガルマに説明する。

 

「対空戦車はあらかじめ飛行してくる航空機をレーダーに捉え、射撃準備を整えたところに敵機が飛び込んでくれるから有効なのだ」

「それでは?」

「ドラケンE改のように遮蔽物の陰に隠れて接近し、不意を打ってジャンプされると対応しきれない。砲を向けようと旋回させている間に敵は通り過ぎ、ジャンプを終えてしまうだろう。同様に、ザクのマシンガンで追うのも難しかろうな」

 

 大体ザクのマシンガンは初速が遅く大気圏内、重力環境下では弾道低進性、直進性が悪い。

 汚い言い方をすればションベン弾というやつで対空戦闘には向かないのだ。

 だからこそ地球方面軍では長砲身、高初速の対空砲を搭載した対空砲装備型ザクの開発が進められていたのだし。

 

 またそもそもの話として空を飛ぶ相手には、対空弾を使わなければ当てることは難しい。

 その対空弾もミノフスキー粒子のせいで近接信管が作動しないため、あらかじめ定められた距離、高度で爆発し、敵機に破片の散弾を浴びせかける時限信管頼りになる。

 つまり有効距離が固定で近すぎても遠すぎても効果は発揮できないため、ドラケンE改のようにゲリラ的に襲い掛かられると対応できないのだ。

 

 なお『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』ではF2ザクがザクマシンガンに箱型マガジンにより対空弾をセットして使っていたが、これは連邦軍のモビルスーツに対抗して貫通力を上げた新型、MMP-78であり現在使われているM-120A1とは口径こそ同じだが別物である。

 当然、現時点では存在しない。

 

「それではなぜ君は対空戦車の配備を要請したのだ?」

 

 ガルマの疑問はもっともだ。

 シャアは端的に答える。

 

「牽制のためだ」

「牽制?」

「ああ、ドラケンE改のジャンプによる機銃掃射は、地上部隊において航空支援を必要とする場面で即座に自らが飛んで対応できるというものなのだろう」

 

 シャアは正確にそのドクトリンを見抜いていた。

 

「しかしな、ガルマ。例えば対空陣地を攻略するのに航空支援を求める者が居ると思うか?」

「それは……」

「居ないだろう? 戦車を使うか砲兵を使うかモビルスーツか。いずれにせよ地上戦力で戦うはずだ。そしてドラケンE改はジャンプ抜きでも陸戦兵器として通用する性能を持っている」

「……つまり対空戦車を配置しておけばドラケンはジャンプによる機銃掃射を避けるようになる。それにより一方的に撃破される危険は減るわけか」

 

 ガルマもようやくシャアの目論見を理解する。

 

「さすがシャアだな。フフ、これなら必ず勝てる」

 

 笑顔で断言するガルマだったが、しかしその姿を見るシャアは仮面の下で眉をひそめていた。

 

(分かっているのか? これで勝てねば貴様も私も無能と思われるのだぞ)

 

 背後からプレッシャーをかけてくるイセリナの笑顔が恐ろしいということもあったが、失敗したらこれにガルマの上司であるキシリアの射殺すような視線が加わるのだ。

 シャアでなくとも全力で回避したい事態だった。




 ガルマの善意の配慮で逃げられない立場にハメられ、真面目に戦わざるをえないシャア。
 そしてそのシャアのドラケンE改への対策でした。
 マジのシャアにミヤビやホワイトベースの面々の策がどこまで通用するかですね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。