ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第8話 戦場は荒野 Dパート

 一方、アムロのガンキャノンはザクとの戦闘を引き受けていた。

 ミヤビの知る史実ではシールドを投げることでザクのコクピットを貫いたりと殺陣ならぬ盾が光った演出があった。

 まぁ、盾のフチは凶器だし。

 創作だとゴブリンスレイヤーさんがゴブリンの頭をこれでかち割っていたが、現実でも機動隊ではジュラルミンの盾のフチで相手の足を潰したり角で殴りつけたりなどしていたという話だ。

 

 ガンキャノンにはシールドは無いが…… 代わりになるものならあった。

 エルボージョイントアーマー。

 肘関節を保護するための装甲で、丸みのある形状は砲弾を受け流すために考案されたもの。

 腹部に腕を回せばシールドの代わりにコクピット部を守ることもできる。

 ミヤビの記憶の中でも後にジム・コマンド系の機体にも採用されていたやつだ。

 

 しかしもちろん、投げつけることなどできはしない。

 そのためアムロが取った策とは、

 

「斬影拳!?」

 

 それを目にしたミヤビの唇から驚愕の声が上がる。

 地面を滑るような高速の踏み込みから相手の胸板に肘打ちを叩きこむ突進技!

 ミヤビの前世において格闘ゲーム『餓狼伝説』およびその後継ゲームで登場のアンディ・ボガードの代名詞とも言える必殺技である。

 

 モビルスーツの大質量を乗せた攻撃に、ザクの正面装甲はあっさりと破られた。

 突き出したエルボージョイントアーマーの先端が胴部のコクピットを貫き無力化する。

 そしてミヤビを驚かせたのは、

 

「スラスターだけでホバー移動の真似事をするなんて!」

 

 という事実。

 アムロは左右の足裏に2基ずつ装備されている足底スラスターと背面のランドセル装備のメインロケットエンジン2基を使って、ごく短時間ながら疑似的にホバー移動してみせることで高速の踏み込みを可能としたのだ。

『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』登場のザクII FZ型も同様なことを行っていたが、この機体は統合整備計画の適用により生産されたもの。

 ドムで蓄積されたデータを生かしているからこそできるのであり、まったくのゼロから実戦でやってのけるなど、並みのことではない。

 

「胸部左右にある姿勢制御用スラスターを補助に、ほぼ体重移動だけで制御してみせた? そんなとんでもないことができるの?」

 

 うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそ、うそだ。

 そんなことできるやつはユーマ・ライトニングとか一握りのエースパイロットだけだぞー。

 

 とミヤビは内心、虚ろにつぶやきながら自分の目を疑う。

 マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』にて主人公レッド・ウェイラインがユーマ・ライトニング操る青いゲルググの機動を見て、

 

「何てヤツだ! スラスターだけでホバー移動の真似事してやがる」

 

 と驚いているように本来は熟練のエースパイロットのみが可能とする技だった。

 しかし……

 どうして今のアムロにそれができるのかというと、もちろんミヤビのせいなのである。

 

 まず第一に、こうしてみようとする発想が無ければならない。

 そしてアムロが発想のもとにしたのが、ミヤビが開発したドラケンE改のジェットローラーダッシュなのだった。

 モビルスーツの二本の足で走るのではなく、滑走により実現される高速移動。

 もちろんガンキャノンの足にはローラーダッシュ機構など内蔵されていない。

 では代わりになるものは無いか。

 そう考えて、アムロは発見したのだ。

 左右の足裏に2基ずつ装備されている足底ロケットエンジンを。

 これにより機体を浮かせ、ドラケンE改のジェットローラーダッシュと同様に背面のロケットエンジンで加速する。

 そうやって産み出されたのが、先ほど見せた疑似的なホバー移動。

 ドムの登場以前に達成してしまった移動法なのだ。

 

 そして第二に、この移動法に必要な高度な機体制御を可能とする手段。

 それが……

 

 

 

 自分の城と化した工作室で、手を叩いて喜ぶテム・レイ博士。

 

「よくやったアムロ、サラツー、いやAIプログラム、サラを提供してくれたミヤビ君のおかげか!」

 

 と、モニター越しに見るガンキャノンの活躍に満面の笑みを浮かべる。

 

 そう、この技の成立に大きく寄与しているのがミヤビが育てたサポートAI『サラ』と共通のAIプログラムを持つ『サラシリーズ』なのだ。

 『機動戦士ガンダム』の謎として、どうして『学習型コンピュータ』ではなく『教育型コンピュータ』なの、というものがある。

 それに対する答えとしてとある書籍で唱えられていたのが、

 

 教育型コンピュータはパイロットの言葉や所作から意思を推測して、その操作を補足する機能を持つ。

 要するにパイロットの考えや、やりたいことを察してフォローしてくれるのだ。

 この機能はパイロットの挙動をサンプリングすることでより精度を増し、技量の高くないパイロットにも熟練兵の操縦を可能とする。

 

 こうしてパイロットを教え、導きながら、同時に自らも成長していくという意味で教育型と名付けられたというものだ。

 そしてまさに人格を持ち、人間を、人の心を理解し、パイロットのために尽くす存在がサポートAIサラシリーズなのであり、彼女たちの存在があるがゆえに、教育型コンピュータはミヤビの知る史実を超えてパイロットのやりたいことを先回りしたり補足したりして助け、機体を自由に制御できるのだ。

 

 つまり先ほどの技はアムロとサラツーの深い相互理解、二人の間の絆が生み出したものなのだった。

 

 

 

 地上部隊の劣勢に、ドップ隊もホワイトベースにミサイルで激しく攻撃を加える。

 ミノフスキー粒子によりミサイルの誘導が妨害されている状況ではミサイルはロケット弾のように直射するしかない。

 低空に浮遊するホワイトベースには上空から急降下爆撃機のように撃ち込むしかないが……

 

「なにっ!?」

 

 驚いたことにホワイトベースは横にスライドするという動きでそれをかわす。

 

「おおっ!! なんだありゃあ……」

「ふざけやがって、あんなカニ走りでミサイルを避けるだと!?」

 

 そして外れたミサイルは誘導が効かないため直進し、地上の味方へと降り注いだ。

 

「いかん、同士討ちになるぞ。攻撃中止」

 

 慌てて指示が下りる。

 ホワイトベースがミサイルをかわすことができたのも、外れたミサイルが地上のマゼラアタックに命中したのも偶然、たまたまかも知れない。

 だがフレンドリーファイア、味方殺しは軍において許されないこと。

 可能性があるだけで、攻撃をあきらめねばならないことだ。

 その辺気にせず、というか可能性に思い至らずバカスカ撃っているカイたちホワイトベースクルーと違って、彼らは正規の軍人ゆえに行動が制限されるのだった。

 

 

 

 ルッグンを撃墜されたパイロットたち、バムロとコムはペルシアに手当てを受けていた。

 まぁ、バムロの手に巻かれる包帯も、彼がペルシア母子のために投下したものだったが。

 情けは人の為ならず、つまり「情けは人の為だけではなく、いずれ巡り巡って自分に恩恵が返ってくるのだから誰にでも親切にせよ」とは言ったものである。

 

「戦いはどうなってんでしょう?」

「さあな、どちらが勝つか」

「どちらが勝っても負けても、私のように夫をなくす人がこれからも大勢出るんでしょうね」

 

 戦場に近くにはあったが、この場の誰もがその勝敗には意味を見いだせていなかった。

 ある種の諦念があるだけだ。

 

「コーリー、おねむになったのね」

 

 ペルシアの幼い息子も母親の膝の上で眠っている。

 

 

 

「……ここまでだな」

「ガルマ?」

「退却だ。地上部隊は秩序を保って後退。ドップ隊にはそれを援護させろ」

 

 ガルマは頭を抱えたくなるような状態でも何とか己を保ち、冷静に指示を出す。

 それを見てシャアは、

 

(やはりガルマは変わったな)

 

 と実感する。

 無論、育ちの良さゆえの甘いところ、能力が追い付かないところはある。

 しかし人として正しく歩んでいるようにも思える。

 イセリナ…… は、まぁ例外として置いておくにしろ人望もあった。

 シャアにしてもザビ家への恨みを別にすれば、付き合いやすい友人であるのを認めることもやぶさかではない。

 

(彼を友として連邦と戦うのも悪くは無いか……)

 

 ふと考えるシャア。

 彼もガルマに感化され成長したのかもしれないし、また復讐の人生に倦んで、疲れて、どこかで救いを求めていたのかもしれない。

 しかし、もしミヤビがこのことを知ったら彼女の脳裏にはこんな言葉が過っただろう。

 

 人の性格がそんなに簡単に変えられ成長できるなら誰も苦労はしません。

 

 と。

 実際この後、敗北の責任をキシリアに厳しく叱責された上、臨時の移籍であるという不正規な立場故に自分だけドズルにも叱られるという理不尽な扱いを受けたシャアはザビ家への恨みを蘇らせ、

 

(先刻の、あの天使の囁きは、あれは夢だ。忘れてしまえ)

 

 とまるで太宰治の『走れメロス』を反転させたパロディ漫画『走れセリヌンティウス』のように自分に言い聞かせることになるのだった。

 

 

 

 手当てを受け終えたバムロはペルシアに礼を言うと、

 

「我々は原隊へ戻らなければなりません、今夜は救助カプセルで休むといいでしょう」

 

 と、勧める。

 救助カプセルは簡易シェルターとしても使えるのだ。

 

「ありがとうございます」

 

 頭を下げるペルシア。

 バムロはコーリーの頭をなでてやると、

 

「ぼうず、強い男になって母さんを守ってやれよ」

 

 と、励ます。

 

「では」

 

 そう言って歩き出すバムロとコム。

 しかし彼は振り返って、

 

「奥さん」

「は、はい」

 

 戸惑うペルシアにバムロは今まで伏せていた真実を告げる。

 

「ここが一年前までSt.アンジェのあった所です。奥さんは湖の仲間の所にお帰りになった方がいいでしょう」

 

 その衝撃の事実に、ペルシアは何も無い荒野を見回し、

 

「え、ここが、ここが、St.アンジェ?」

 

 信じられないと泣き伏す。

 

「コーリー」

「ママ……」

 

 そのはるか上空をホワイトベースの光点が通過していった。

 

 

 

「いいんですかぁ、あの奥さん絶対誤解してますよぉ」

 

 そう気遣う部下の言葉に視線を向けることもなくバムロは歩き続ける。

 

「いいんだよ。彼女は地球連邦市民だ。自分の国を恨むのは彼女の、そして彼女の子供にとっても幸せなことじゃない」

 

 そう言って。

 

 

 

 ミヤビの前世の記憶では戦争によって失われる故郷、戦争の悲しさを描いたはずのこの話。

 後の調査で、ミヤビの存在がバタフライ効果を産み出したせいか、あるいは史実でもそうだったのか、St.アンジェはジオン軍の侵攻前に地球連邦軍の手によって更地に変えられた、という事実が判明している。

 実はSt.アンジェはもっと前に無くなっていなければならないはずの街だったのだ。

 グレートキャニオン、ミヤビの前世で言うグランド・キャニオン周辺地域は西暦1908年1月11日にアメリカ合衆国の国定公園となり、1919年2月26日に国立公園に指定された。

 この公園の誕生は環境保護運動の初期の成功例であると言われている。

 

 そして宇宙移民は人口飽和による地球環境の悪化も原因の一つ。

 過激な環境保護団体がここは自然保護の聖地だと位置づけ、その圧力でグレートキャニオン周辺地域は居住が全面的に禁止されることになったのだ。

 St.アンジェだけではない。

 観光客向けの施設やホテルが集まった公園内ビレッジエリアも廃棄。

 住民はコロニーへと強制移住させられ、グレートキャニオンには環境保護の監視員以外立ち入りが厳しく制限された。

 

 しかし、である。

 それらの情報はすべて伏せられたうえ、実際にはSt.アンジェの街は撤去されなかった。

 グレートキャニオンを管理する環境団体と地球に残ったエリート、連邦政府との癒着である。

「聖地に住み、それを見守るのは我々自然を愛する環境保護団体の崇高な使命」

 という主張により 元々の住民を追い出したSt.アンジェの街はそのまま環境保護団体の人間の居住地として利用されたのだ。

 そして一部を地球連邦高官のたちの別荘地としても提供することで(彼らはこれを査察と主張した)政府を黙らせる。

 禁止されているはずのグレートキャニオンへの観光も、彼らを満足させる特権として使われた。

 そしてジオン軍の地球侵攻を前にしてこの事実が明るみに出ることを恐れた地球連邦は、戦略的に何の価値も無いはずのSt.アンジェを慌てて爆撃し、そこを更地に変えた。

 リュウたちが見た湖畔に残ったわずかな家を残して……

 

 なお一年戦争中、連邦軍の地下組織に「St.アンジェの街はジオン軍の侵攻によって失われた」と吹き込まれた子連れの女性ゲリラが、ジオン軍の偵察機パイロットから治安部隊に左遷させられた兵士たちと激しい戦いを繰り広げ、最後はグレートキャニオン奥地で行方不明に。

 遭難中に助け合い、ぎこちなく心を通わせる彼女たちの前に連邦軍の地下組織の幹部が口封じに現れる。

 その正体はSt.アンジェの真実を葬り去ろうとする某環境団体の手の者。

 始末する前にと冥途の土産よろしく語られた真相に、彼女たちは共に反撃、そして無事生還。

 女性のお腹には彼女の息子の妹となる命が宿っていた……

 という一大スペクタクルがあったらしい。

 

 この事実をミヤビが知ったらこう言うだろう。

 戦争の悲しさを描いたいい話のはずが、どうしてこうなった。

 と……

 

 

 

次回予告

 ガルマ・ザビみずからがホワイトベースに攻撃を掛ける。

 ミヤビのせいでグダグダな状況に追い込まれたアムロは脱力する精神と身体に鞭打ってガンキャノンを操り、ついに空中戦を行わしめる。

 共にシャアの深い陰謀も知ら「――嘘を、ついておいでですね」

 次回『翔べるの? ガンキャノン』

 君は生き延びることができるか?




 ガンキャノンで斬影拳。
『走れセリヌンティウス』なシャア。
 そして自重しないペルシア母子のその後でした。
 あと次回予告に乱入してくるイセひー。
 いや、どうしてこうなった、と。

 ガンキャノンのエルボータックルはアーケードの格闘ゲーム『機動戦士ガンダムEX REVUE』でも必殺技になっていたり。
 あちらは斬影拳と言うより昇竜拳タイプの対空技ですが、斜め上30度に飛んで行くので突進技っぽくもあったり。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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