ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第10話 ガルマ入籍す Aパート

「く…… 来る! イセリナが走ってくる! イセリナが音もなく走ってくる―― く…… 来るなあ!」

 

 ベッドから跳ね起きるシャア。

 

「夢、か……」

 

 全身に脂汗をじっとりとかき、動悸が止まない。

 

「こ、このままではダメだ……」

 

 ヤンデレへの恐怖とストレスで命が危ないと悩むシャア。

 どうしてこうなった……

 

 

 

「ヒートホークとマルチパイロンね」

 

 シーマたちが運んできてくれた補給物資は色々あったが、中にはドラケンE改向けの装備も含まれていた。

 それが今、ミヤビがサラに命じてドラケンE改に装備させ、動作を確認しているものだ。

 その右腕肘のハードポイントにはジオンのザクが使うヒートホークが装着されていた。

 

(肘から先が斧? どこかで見たような……)

 

 とミヤビは考え、そして思い出す。

 『機動戦士ガンダムUC』に登場したクシャトリヤ・リペアードが失われた左腕の代わりに肘から先にハイパービームジャベリン(実際にはそう名付けられた大型ビームアックス)を直付けしていたことを。

 今のドラケンE改も、ちょうどそんな感じであった。

 

『これ、柄が伸び縮みするんですね』

 

 と、サラ。

 装着されているのはHEAT HAWK Type5と呼ばれる一般的な型のものだが、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』登場のザクIIJC型等が使っていたものと同様、柄に伸縮する機構が内蔵されている。

 

「携帯時に邪魔にならないように採用されたギミックね」

『縮めた状態ならドラケンでも何とか扱えそうです』

「そうね、遠心力を利用して破壊力を上げるようなことをするなら伸ばして使うのもありかもしれないけど……」

『機体のバランス取りなんかに気を使わなければならないし、難しいと思いますよ』

「隙も大きくなるでしょうしね」

 

 素人にはお勧めできない、というやつだ。

 逆に玄人なら突然リーチを伸ばして不意を突く、なんて使い方も可能だろうが。

 そして、

 

「ほう、これはこれは」

 

 と相好を崩し、興味深げに観察しているのはもちろん我らがテム・レイ博士。

 

「なるほど、ドラケンE改の右肘ハードポイントを連邦、ジオン両対応にするものか」

 

 一目で機能を見抜くのはさすがと言える。

 しかし、

 

「とはいえ現状で利用できるのはヒートホークぐらいですけどね」

 

 とミヤビは肩をすくめる。

 他の装備は大きさ的に考えてドラケンE改には扱えないのだ。

 

 なおヒートホークはジオンからの鹵獲品ではなく、連邦軍の依頼でヤシマ重工が製造したコピー品だ。

 刃をプラズマ化して敵装甲を溶断するヒートホークは使い捨てと言わないまでも消耗品。

 地球連邦軍では『機動戦士ガンダム MS IGLOO』登場のセモベンテ隊のように鹵獲ザクを使った部隊があったため、それに対する供給用として特別発注を受けたわけだ。

 ヒートホークは元々、コロニー建設に用いられる作業用宇宙艇搭載の高周波誘導切断器にルーツを持つ器材であり、コロニー建設も請け負うヤシマ重工にとってみれば鹵獲品をリバースエンジニアリング…… 分解解析してコピーするなど容易いことだった。

 

 というか、

 

「ここをいじれば出力5パーセントアップ!」

 

 とか、

 

「省電力機能を付け加えて稼働時間を2割増!」

 

 とか、いろいろとやらかしそうになった技術陣を上の人間が必死に止めて生産性やジオンのものとの互換性、低コストを優先させて完成させた経緯にある。

 ヤシマ重工は日本企業の流れをくむメーカーだけあって、製品をガラパゴス化させてしまいやすい傾向にあるのだ。

 少数生産の、しかも使い捨てに近い消耗品にそんなコストをかけてどーすんだ、という話であるが、技術陣はまだあきらめていないらしい。

 だからこそドラケンE改用にマルチパイロンを用意し使えるようにしてミヤビのところまで送りつけてきたのだ。

 ドラケンE改の正式オプションとして採用されれば生産数がアップし利益も出る。

 そうすればコストをかけてもいいと経営陣からGoサインが出るかも知れん、という彼らの考えが透けて見え、ミヤビは変わらない仮面の表情の下、内心呆れていた。

 

 そして、ふむ、とテム・レイ博士は考え込む。

 

「ヒートホークはビームサーベルより省電力だから継戦能力は高くなるか」

 

 どちらもモビルスーツ本体からのエネルギー供給が必要であり、だからこそマルチパイロンはジオン規格の給電システムも備えたものになっている。

 しかし、テム・レイ博士が言うとおりヒートホークに必要な供給電力量はビームサーベルに比べ圧倒的に少なかった。

 

「でもリーチと切断能力では劣るわけですし、標準サイズのモビルスーツと打ち合ったら力負けして吹き飛ばされてしまいます。むしろパワーのあるガンキャノン向きでは?」

「うん?」

「ガンキャノンには斬撃武器はヒートナイフしか用意されていないわけですけど、これってビームサーベルを使おうとすると両肩のキャノン砲が邪魔になるからですよね」

 

 ミヤビの指摘に、テム・レイ博士はうなずいて、

 

「ああ、まずいことにビームサーベルは峰が無いどころかどこに触れても切断されてしまうという特殊な剣だ。実体剣で言う『刃筋を立てる』ということを考えずに済む反面、何も考えずに振るえば自分でキャノン砲を斬り飛ばしてしまうだろう」

 

 コンピュータ制御で当たらないように制限するという手もあったが、そうすると今度はパイロットの操作と実際の機体の挙動に差が生じる。

 つまり思いどおりに動かないということで、白兵戦時に致命的な隙ができてしまうことになる。

 そういった制限から、ガンキャノン向けにはヒートナイフが用意されることになったのだ。

 

 そしてミヤビは、

 

「そんなガンキャノンにこそ、手ごろな大きさのヒートホークが合うのでは?」

 

 と思っている。

 

「短く扱いやすい上、威力は高めでも切断するためのエッジは限られ、そこに触れない限りは安全なので自分でキャノン砲を斬り飛ばしてしまう恐れも少ない」

 

 そしてまた手斧はイギリスのSASなどの特殊部隊でエントリーツール兼武器として使用されていたし、アメリカ軍ではベトナム戦争で使われたベトナムトマホークを発展させたものを、2000年代に入ってからタクティカル・トマホーク、タクティカル・アックスとして使用するようになっていた。

 そういう意味では歩兵の武器としてうってつけのものと考えてよいだろう。

 ミヤビの前世の記憶でもゲーム『機動戦士ガンダム戦記』ではガンダムがヒートホーク2刀流などということをやっていたし。

 

 そしてテム・レイ博士はというと、ミヤビの説明を聞いて、

 

「ううむ、確かに……」

 

 とうなる。

 

「企画の段階ではザクを解析すると同時にヒートホークの研究も行われていたのだよ」

「まぁ、そうなりますよね」

「ガンキャノンは火力重視の設計となったため、結果として格闘戦用には扱いやすいヒートナイフを補助的に持たせることに決まったわけだが……」

 

 もう少し詳しく説明すると、

 

「設計思想的にはビームライフルに両肩のキャノン砲、近接防御用にバルカンまである。それゆえ、格闘戦用の武器はそれらで対処できない間合い、すなわち組み付かれ、もみ合いになるような距離で使用するものと考えられたのだ」

「密着した状態では振りかぶらなければ攻撃できない斧より突くことで攻撃できるナイフの方が有利と?」

「そういうことだな」

 

 鎧が発達した中世では槍などメインウェポンの他に相手を地面に引きずり倒し鎧をめくって止めを刺す組み打ち用の武器も携帯されていた。

 その際に使われたのが、ダガーナイフや腰刀、脇差などといった短い刃物なのだった。

 

「でも実戦では組み打ちになる以前に、ヒートホークの間合いで射撃武器での迎撃が間に合っていませんでしたね?」

「そのとおりだ」

 

 ミヤビの指摘を、テム・レイ博士はあっさりと認めた。

 

「射撃武器は『狙い』『引き金を引く』という二動作が必要なのに対して斬撃武器はただ振るうだけの一動作で済むというのは分かっていたが…… 斧が銃を上回るほどの違いがあるとは私も含め誰も考えなかったわけだ」

 

「銃は剣よりも強し」ンッン~、名言だなこれは。

 と開発スタッフは考えていたのだが、現実はまた違っていたということだった。

 

 あとはまぁ、素人のアムロがシャアを相手にしなければならなかったという点を大いに加味しなければならないかとは思うが。

 

「検討を行った段階と違って現在では補助AIサラシリーズの採用で機体の制御はやりやすくなっている。ナイフの扱いやすさにこだわらなくとも良い、ということもあるか……」

 

 テム・レイ博士はそうつぶやくと、さっそく自分の城と化しているホワイトベースの工作室にヒートホークとマルチパイロンを運ぶようにサラに命じる。

 そうして何やら怪しげなことをぶつぶつと呟きながら自分の世界に入って行った。

 

 こうなってしまったテム・レイ博士には何を言っても無駄、と経験上分かっているミヤビは肩をすくめると他の品の確認に回り、

 

「え、ナニコレ……」

 

 と、絶句することになるのだった。

 

 

 

 ガルマは一時的に前線の基地からニューヤークの官邸に戻っていた。

 占領政策の一環である社交界のパーティー、夜会に出席するためである。

 

「時に、お父上のデギン公王には地球においでになるご予定は?」

 

 あからさまにすり寄ってくる権力者たちに、ガルマは涼しい顔で、

 

「聞いてはおりません」

 

 と、答える。

 つっけんどんなように取られかねない言葉も、貴公子然としたガルマが柔らかに口にすればまた違ったように受け止められることになる。

 だから相手も気を悪くすることなく、

 

「おいでの節は是非なにとぞよしなに、ヒヒヒヒ」

「フフフ」

 

 とさらにおもねることとなる。

 そしてそれには言質を与えることなく静かにほほ笑み沈黙を守るガルマ。

 彼は会場の一角に仮面の男を認め、

 

「失礼、また後程」

 

 と、優雅に一礼してその場を立ち去る。

 その姿を見て、周囲の令嬢たちからは、

 

「まあガルマ様、いつも凛々しいお姿」

「素敵」

「しびれちゃう……」

 

 などといった呟きがささやかれる。

 それを慣れた様子で聞き流しながらシャアの元へと歩み寄るガルマ。

 そして周囲に人目が無いことを確認してようやくその顔に嫌悪を出す。

 

「連中は虫が好かん」

 

 ジオン有利と見てすり寄ってきた連中だ。

 潔癖なところのあるガルマが嫌うのも無理はない。

 それでもそれを外に見せない分別と演技力が彼にはあった。

 ジオンの統治を円滑なものにするため必要なこと、と割り切っているのだ。

 しかし、それでも友人であるシャアにはこうやって愚痴を漏らすあたり鬱憤が溜まっているのだろう。

 シャアは苦笑して、

 

「しかしやつらがあの木馬とモビルスーツの存在を知ったら慌てるだろうな」

 

 と皮肉めいた言葉を漏らす。

 ジオン有利と見て投資したところに、それをひっくり返しかねない要素が出てきたと知ったら?

 また連邦側に寝返るか?

 コウモリは嫌われるものだ。

 寝返りも一度ならともかく二度目となると……

 しかし、あんな連中はどうでもいいとばかりにガルマは、

 

「それだ。木馬討伐隊を組むには戦線が拡大しきっている」

 

 と、率直な言葉を返す。

 要するに戦線を広げ過ぎて手が足りていないところに、さらに引き抜きをかけるようなまねはできないということだ。

 

 例えばキャリフォルニア・ベースには後にザク・キャノンで活躍することになるイアン・グレーデンのように有力なパイロットたちが居たが、最重要地であるそこの防衛戦力を軽々しく動かすわけにもいかない。

 そもそも彼は守備隊の戦力であると同時に自軍のモビルスーツパイロットに地上戦を教える訓練教官でもある。

 戦争は組織で行うものである以上、彼のような人材は前線に出すより教官として軍全体の実力を底上げをさせるために使う方がはるかに有意義であるのだった。

 

「エース級のパイロットを教導隊のような後方で遊ばせておくなんて」

「彼らを前線に出せば戦況も改善されるはずなのに」

 

 ということを主張する人間も居るが、実際には教育を行う人材を確保できなくなったら後はじり貧となってお終い。

 その戦争は負け戦になってしまうと見て間違いない。

 

 そしてパーティの場でまでそんな風に生真面目に思い悩むガルマに、何か気晴らしのネタは無いかと会場を見回したシャアは一人の男性に目を付ける。

 

「ガルマ、あの紳士は誰だ?」

「ん?」

 

 シャアの目線の先に居る人物は、周囲の人々に対して何事か語り掛けている。

 

「いやいや、やりようはいくらでもあるんだよ」

 

 注目を浴びている以上、それなりの人物らしいが……

 

「頑固そうなおやじだな」

 

 そう言ってグラスを傾けながら観察するシャアに、ガルマが答える。

 

「前の市長のエッシェンバッハだ」

「ぶっ!?」

 

 ガルマから発せられたその姓に、思わずむせるシャア。

 アルコールが気管に入り酷く咳き込む。

 

「おいおい大丈夫かシャア? 君らしくもない」

 

 ガルマは心配そうにシャアの背をさする。

 本当に、このお坊ちゃんは人が良い、とシャアは仮面の下で涙目になりながら思うが、実際は少し違う。

 ガルマは相手が大切な友人であるシャアだからこそ心配もするし、こうやって手を差し伸べるのだ。

 

「まあガルマ様があんな表情を殿方にお見せになるなんて」

「素敵」

「しびれちゃう……」

 

 と、遠くから彼らを見守る貴腐人(誤字にあらず)たちが熱い吐息を漏らしているが、まぁ、それはどうでもよい。

 シャアが彼女たちが何を考えているのか知ったら「冗談ではない!」と叫んでいただろうが。

 

「が、ガルマ、エッシェンバッハとはあの……」

 

 シャアが確認しようとしたその時に、

 

「イセリナ・エッシェンバッハ様のお見えでございます!」

 

 と、会場に案内が響き、そして人々のざわめきと共に現れたのは、

 

(やはりイセリナ! イセリナ・エッシェンバッハかっ!!)

 

 夜会服に身を包んだイセリナだった。

 

 正直、近づきたくないシャアだったが、彼女はこちらをまっすぐに見ている。

 シャアの背を親し気にさすっているガルマを!

 

(ま、まずい!)

 

 彼女の嫉妬の炎が恐ろしいのは十分すぎるほど理解しているシャア。

 

「が、ガルマ、彼女のエスコートに回った方が良いのでは?」

 

 平静を装いながらも、

 

(さっさと行け! 自分を巻き込むな!)

 

 とガルマを追い払おうとしようとするシャアだったが、ガルマは迷った様子でシャアを心配そうに見て、

 

「しかし、君は大丈夫……」

「いや、大丈夫だ!」

 

 シャアはガルマのセリフを食い気味に言い切ると胸を張る。

 まだ完全には回復していなかったが、無理やりにでも咳を抑え込む。

 これはやってみると分かるが滅茶苦茶苦しいのだが、命には代えられないとばかりに涙目で耐える。

 仮面があって本当に良かったとこの時ほど思ったことはないシャアだった。

 正史ではア・バオア・クーのアムロとの白兵戦でヘルメットと仮面のおかげで即死を免れたのだが、それと並ぶような扱いである。

 

 しかし……

 

「ガルマ様」

 

 来た!

 

 ガルマの到着を待たずに来る!

 イセリナが来る!!

 さっきまであちらに居ただろう、と思うが視線を外した瞬間に移動したかのようにすぐ間近に声と、振り向けばその姿が!

 

「――っ!」

 

 シャアはとっさに、

 

「前線でラブロマンスか。ガルマらしいよ」

 

 とお坊ちゃん、ガルマをいけにえに捧げてヤンデレからの回避を試みる!

 彼も必死だ。

 

「ふふ、からかうなよシャア」

 

 と、ガルマは半分照れながらもまんざらでもなさそうな様子だったが。

 いいからさっさと行け! と叫びたいシャアだった。




 シーマ隊の補給物資に紛れて届いたヒートホーク。
 それを見て何やらろくでもないことを考えるテム・レイ博士。
 そしてピンチなシャアでした。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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