ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

41 / 190
第11話 イセリナ、恋のあとは愛でもちろん結婚式 Bパート

「アッー!」

 

 航行中のホワイトベースが突如として大きく揺れ、よろめいたブライトは計器盤で尻を打つ。

 彼は涙目になりながらミライを見るが、彼女は冷静に舵を切る。

 

「強力な乱気流です」

 

 高高度で発生する晴天乱気流だ。

 

 

 

「な、なんです?」

 

 ホワイトベースを見舞った揺れは右舷モビルスーツデッキで作業中だったアムロとミヤビにも当然伝わる。

 

「エアポケットじゃない?」

 

 ミヤビがそう答えると同時に、ブリッジのミライから、

 

『乱気流に入りました。少しの間揺れますが大丈夫です』

 

 と全艦放送が流れる。

 

「座ってシートベルトを付けるべきかしら?」

 

 危ぶむミヤビ。

 

「慎重なんですね」

 

 意外そうに言うアムロにミヤビは、

 

「航空便が急な乱気流に巻き込まれて乗員がケガをするという事故は少なくないのよ」

 

 と答える。

 この辺、ミヤビの前世、旧21世紀から変わっていない。

 自然を相手にすることだからなのだろう。

 それどころかミノフスキー粒子のせいでレーダーセンサーが使えなくなった結果、乱気流の事前察知もまた難しくなっているのが現状だったりする。

 

「だからシートベルト着用サインが消えても座っている間は付けたままにするべきだし、航空会社もそのように案内しているわ」

「窮屈そうですね」

「逆よ。長時間着席する場合、シートベルトが正しい姿勢を保持してくれるから、付けておいた方が身体は楽なの」

「へぇ……」

 

 実際、そうなのでシートベルトのある乗り物に乗る場合は絞めておいた方が良い。

 長距離バスとか…… は、法律上も着用義務があるか。

 

 なお市街地を走る普通のバスの方が歩行者の飛び出しなどがあるため急停車に備えシートベルトが欲しいだろ、という話もあるが、様々な理由から付けられていない。

 そのこともあってかバスの運転手たちの間では「歩行者の飛び出しがあった場合、そのまま轢いてしまう方がいい」というのが暗黙の了解となっているらしい。

 急停車で乗客にけが人を出すよりはそっちの方がマシ、処理が簡単ということのようだ。

 

 まぁ、そんなミヤビの前世での話はともかく、

 

「私はミライみたいにパイスラ…… 食い込むほどのものも持ってないし」

「パイスラ?」

 

 ああ、純情なアムロには分からないか、とミヤビは周囲を見回すとちょいちょい、とアムロに耳を貸すように伝える。

 そうして、少し身体をかがめたアムロの耳に向かってこうささやく。

 

「パイスラ、パイスラッシュっていうのは、斜めがけバックや三点式シートベルトの肩ひもが女性の胸の谷間に通って、そのふくらみが強調されている状態のことよ」

 

 すぐ近くに寄ったため香るミヤビの匂い。

 耳元にささやかれる落ち着いた、しかし透き通るような美声。

 そして話された内容が内容だけにその場でガン見してしまうミヤビの間近に迫った、ささやかだが女性らしい曲線を描く胸元のふくらみ。

 

 硬直の後、耳まで真っ赤になるアムロ。

 ミヤビはアムロの顔を見て純粋だなぁ、と脳天気に感心する。

 無論、自分の性的魅力でそうなっているとは考えず、単に話した内容によるものと思い込んでいるからこその感想である。

 

「そ、そんなことより分かりましたよミヤビさんっ!」

 

 アムロは誤魔化すように慌ててそれまで向き合っていたもの、ドラケンE改の右腕肘ハードポイントに接続された甲壱型腕ビームサーベルの点検ハッチをのぞき込む。

 

「分かったの?」

「はい。安全弁が内蔵されていて伸縮機構が動作しなかったんです」

 

 ルナツーにて使用されたビームジャベリンの伸縮機能はテム・レイ博士がこっそりリミッター解除をしてくれたからこそのものだったが。

 当たり前だが甲壱型腕ビームサーベルを新品に交換すると動作しなくなる。

 そのためミヤビは工作室に籠っていたテム・レイ博士に解除手順を聞きに行ったのだが、運悪く徹夜続きで研究に没頭していた博士はそのまま倒れて爆睡状態。

 困ったな、と悩んでいたミヤビに、いいところを見せたかったアムロが、

 

「僕にやらせてみてください」

 

 と立候補したわけだ。

 そして史実どおりに機能を理解し制限を解除してくれたのだ。

 

 技術者としてはちょっと悔しいミヤビ。

 まぁ、これまでガンキャノンというRXシリーズのモビルスーツを整備維持してきたアムロに対し、ミヤビはAAAの軍事機密に触れるのが怖くて逃げ回っていた。

 そのせいもあるのだが……

 しかしアムロには礼を言うべきだろう。

 

「ありがとうアムロ。あなた、どちらかというと技術者向きなのねぇ」

 

 人間の成長は、小さな成功体験を積み重ねることにある。

 だからほめるときにはきちんとほめてやることが大事だ。

 

 例えばスポーツ指導者でも、時代遅れの昭和な根性主義者はほめることせず、選手が自己ベストを出したとしても、

「そんなタイムで満足するな、もっと上を目指せ」

 などと言うが、これをやると選手のモチベーションは確実に下がる。

 極端な場合は『学習性無気力』つまり何をやっても成果が出ないと心と身体が学習して努力ができなくなってしまうことすらある。

 

 だからこそ、ミヤビは心を込めてアムロをほめてあげるのだ。

 しかし、

 

「そ、そうですか?」

 

 照れくさそうに頬を染めるアムロ。

 ミヤビのような美女にほめられて嬉しくない男など居ないだろう。

 ましてやアムロは15歳、年上の女性にあこがれる時期、思春期の少年だ。

 

 ……こうしてミヤビは日々、純情な青少年の好感度をせっせと、しかし無自覚に上げ続けるのだった。

 

 

 

「十一時の方向に敵機発見。三機編隊」

「レーザー計測。ガウです、ガウの三機が来ました」

 

 ホワイトベースブリッジにマーカーとオスカの報告が響く。

 ブライトはキャプテンシートの送受話器を上げて即座に問う。

 

「アムロ、ガンキャノンの整備は終わっているか?」

『はい、問題ありません』

 

 戦闘に備えるブライトたちだったが、ミライは、

 

「エンジンの調子よくないのよ。ブライト、不時着でもしたら?」

 

 と、慎重論を唱える。

 しかしブライトは首を振った。

 

「連邦軍の制空権内まであと一息なんだ。救援隊が来てくれるかもしれない」

 

 シアトル市街でガルマを退けた後、北米大陸西海岸を北上し続けているホワイトベース。

 北米におけるジオンの勢力圏は旧アメリカ合衆国の領土にほぼ限定されており、旧カナダ領土は連邦軍アラスカ基地が健在であるように連邦の勢力圏である。

 ホワイトベースはそこまであと少しというところまで来ていたのだ。

 

 そんなブリッジでのやりとりを聞いていたアムロは、

 

『ブライトさん、ホワイトベースだけでも連邦軍の制空権内へ脱出してください』

 

 と提案する。

 ブライトは、

 

「乱気流に巻き込まれるぞ」

 

 そう危惧するが、アムロは意に介さない。

 

『かえって直撃よけになります』

 

 それは本心か、ブライトたちを納得させるための言葉なのか。

 あるいは両方なのかもしれない。

 

 

 

「よし、木馬は撃てないでいるぞ。作戦どおりだ!」

 

 ガウ攻撃空母三機にてガルマの敵討ち(注:ガルマは死んでいません)に臨んだダロタ中尉は喝采を上げた。

 空中戦において高さは優位につながる。

 それゆえ高い位置を取るホワイトベースに対し、ガウは軍事的セオリーをあえて無視して低い高度から接近していた。

 

 ホワイトベースはミノフスキークラフトを用いてのこととはいえ大気圏突入を可能とする艦。

 その艦底はある程度の耐熱性が必要であるため、大型の火砲、ミサイルは装備されていない。

 せいぜい収納式の対空銃座があるだけであった。

 つまり低い位置から接近してくるガウに対し攻撃する手段が無いのだ。

 

「これなら一方的に攻撃ができる!」

 

 ホワイトベースは宇宙艦艇としての機能が一番重要視されており、そして宇宙なら上下など考えずに敵に対し艦首を向ければ良かった。

 しかし重力下ではそのような機動など取りようがないのだ。

 マ・クベが指摘したホワイトベースの死角だった。

 また、ガウ相手ではホワイトベースの数少ない航空戦力、コア・ファイターも火力不足。

 しかし……

 

 

 

 ハッチを開け放ったモビルスーツデッキから、眼下に迫るガウの編隊を見下ろすアムロ。

 

「サラツー、一気にあそこまでジャンプしたいんだ。できるかい?」

『やってみるよ』

 

 ガンキャノンの教育型コンピュータにインストールされたサポートAI、サラツーによる軌道計算が行われ、

 

「行きます! 僕が無事着地できたら続いて下さい、ミヤビさん!」

 

 そしてガンキャノンは空中へと躍り出る!

 

 

 

「来たぞ。目標をモビルスーツに絞れ!」

「なんとしてもガルマ大佐の恨みを晴らして見せるのだ!」

 

 決死の覚悟で、猛然と攻撃を仕掛けるガウの兵士たち。

 ミヤビが聞いたら「ガルマは死んでないでしょ」とツッコむかも知れないが、問題はそこではない。

 マ・クベにほのめかされたようにザビ家、それも国家の頂点である公王ににらまれては後がないのだ。

 

「うおおっ」

「おおっ」

「撃てっ、撃てーっ、撃ち落せーっ!」

 

 

 

『パラシュートパック確認良好。軌道計算完了。いつでも行けます』

 

 サラからの報告を受けドラケンE改のコクピットの中、いつもの変わらぬ表情の下でパニくるミヤビ。

 

(行けるわけないでしょ! 空中でホワイトベースからガウに飛び移るって、正気!?)

 

 ということだ。

 普通そんなの考え付いてもやらないだろう。

 失敗した時のためのパラシュートパックは装着されているが、

 

(ムリムリムリムリかたつむり)

 

 である。

 しかしアムロたちホワイトベースのクルーはそれを当然のように断行してしまう。

 素人の発想って恐ろしい……

 

『あ、アムロさんがランディングに成功しました。行きますね』

(ちょ、待って……)

 

 と、ミヤビが止める暇も無くサラの制御でジャンプが強行されてしまう。

 凡人たるミヤビの操縦では到底無理なのでやるならそれは正しいことなのだが、

 

(あああああああ! やるなんて一言も言ってないでしょう!?)

 

 ミヤビにしてみれば冗談では無かった。

 アムロが飛び乗ったガウ、その反対側の翼端に何とか飛び移ることができたが、

 

(滑る滑る滑る!)

 

 当たり前だが飛行中の翼の上だ、風圧が凄い。

 ガンキャノンは重さがあるから足元の翼が凹むので滑り落ちることが無いみたいだが。

 ……逆にスレート屋根の踏み抜き転落事故みたいになりそうで怖いのだが、今のミヤビにガンキャノンのことを気にかけているような余裕はない。

 

「接地圧可変タイヤ、コントロール!」

『はい、タイヤ内空気圧を調整、接地面積増やします』

 

 ミヤビの音声コマンドを受けサラが脚部ローラーダッシュ機構に組み込まれたタイヤの空気圧を減らす。

 

 ドラケンE改のかかとに仕込まれたローラーダッシュ機構にはランフラット・タイヤが標準で付いて来るが、高グレードの軍用モデルでは接地圧可変タイヤと言われるタイヤ内の空気圧を調整できる機構が備えられていた。

 これは旧21世紀の装輪装甲車にも採用されていたもので、空気圧を下げ接地面積を広げることで泥濘地などグリップが悪い荒地でも走行が可能となっていた。

 アニメ『コードギアス』の紅蓮弐式の脚部に組み込まれた高機走駆動輪(ランドスピナー)にも同様な機構が備え付けられ、それがあの機体のハチャメチャな走破性を保証していたが、そんな感じだ。

 

 しかしそこにガウの胴体上面に砲塔が現れ、ミヤビのドラケンE改を狙う!

 

「ジェットローラーダッシュ!」

 

 ミヤビはスロットルを踏み込み、ドラケンE改の背面に備えられたロケットエンジンに点火、危ういところで砲撃を回避。

 そのままスペースポッドSP-W03の技術から発展させた可動ノズルによる推力偏向制御ロケットエンジンをガウの後方に吹かして流されないようにしつつも胴体部目指して走り出す。

 

(ああああああああ!)

 

 直線的に走るのではなく広い翼の上、前方風上側に向け角度を付けて走るのだが……

 途中で風圧に負けて徐々に後方に流されていくし、砲撃はかすめるしという恐怖。

 

(いや、私もドラケンもコナンのような超人じゃないし!)

 

 そうミヤビが脳裏に描くように、まるでアニメ『未来少年コナン』において生身で飛行中の巨大機ギガントの翼上を駆け抜けた主人公コナンのアクションそのものだった。

 そして、

 

「コールドクロー!」

 

 危ういところでガウの胴体部へ到達。

 右腕、甲一型ビームサーベル先端に備えられた三本のコールドクローを突き立てることで何とか機体を固定する。

 砲塔からも死角に入るため、ほっと一息。

 

 ガウの砲塔はドラケンへの攻撃をあきらめ、ガンキャノンを狙う。

 かすめる砲撃に、

 

『ミヤビさん、近いから凄い威力がありそうですよ!』

 

 そう漏らしつつも反撃するアムロ。

 ガンキャノンは両肩の240ミリ低反動キャノン砲でガウの砲塔を吹き飛ばす。

 今回アムロはガンキャノンの両手をフリーにするためビームライフル等、銃器は携帯させていなかった。

 腰部背面ラッチにはいつもの折り畳み式ヒートナイフが装備されてはいるが。

 

「砲塔さえ壊してしまえば……」

 

 と、息をつくミヤビだったが、

 

 

 

「二号機、三号機を援護しろ」

 

 ダロタ中尉の指示で、ガウ二号機の砲塔が三号機に取り付いているミヤビのドラケンE改を狙う。

 

 

 

「狙われている!?」

 

 他のガウから砲口を向けられていることに気付いたミヤビはとっさに回避行動を取る。

 そこに砲撃が走り、味方からの攻撃がガウを貫く!

 

 

 

「ば、馬鹿めが!」

 

 愕然とするダロダ中尉。

 

 

 

 そして、ミヤビはというと、

 

(落ちる落ちる落ちるーっ!)

 

 突き立てていたクローを外して回避したところに砲撃の余波を受け、ガウの機体後方に流されていくドラケンE改。

 

『ミヤビさん!』

 

 そのまま落ちそうになったところで、

 

「必殺! 無限拳(パーンチ)ッ!!」

 

 ミヤビは音声コマンドを入力。

 HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)に『無限拳』の文字が表示される。

 コクピット右側面に走るレールに沿って引かれ、そして押し出される操縦桿の動きと連動して振り上げられ、繰り出されたドラケンE改の右腕がものすごい勢いで伸びる!

 それこそロボットアニメ『創聖のアクエリオン』で登場した必殺技『無限拳』のように!

 

 ビームサーベルのリミッターを解除すると使うことのできるビームジャベリンの伸縮機能だけを利用して伸びるパンチを繰り出したのだ。

 リーチを伸ばしてガウの機体にクローを突き立てることで何とか落下を防ぐと、元の長さに戻すことで機体を引き上げる。

 しかしせっかく落下を防いだのに今度は、

 

「なんだかガウが傾いてるんだけど!?」

『確かに高度を下げ始めてますね』

 

 どうやら先ほどの味方からの砲撃が効いている模様。

 

『ミヤビさん、他に行きましょう』

 

 というアムロの提案に沿って、ミヤビはやけくそで次のガウに向かってジャンプする。

 ガンキャノンは砲撃してきたガウに向かうようだったが、ミヤビにはそんな度胸は無いため、まだ攻撃を始めていない方のガウに向かうのだった。




 前回出番の無かったミヤビたちホワイトベースサイドのお話。
 そして戦闘の開始です。
 巨大機上で戦闘となると、やっぱりアニメ『未来少年コナン』の対ギガント戦ですけど。
 やっぱりあのハチャメチャさ、胸躍る展開にはかないませんね。
 少しでもあの感動を再現できていれば良いのですが。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。