ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第16話 セイラやっぱり出撃 Dパート

「セイラさん、立って。後退してください。場合によっては僕が換装します」

 

 ガンタンクのコア・ブロック、腹部コクピットで操縦しているのはアムロだった。

 当初、本来のパイロットであるカイがそこで操縦し、アムロを頭部の砲手コクピットにつけ出撃することも考えられた。

 しかし、まったく初めてのアムロをつけるよりは、ガンタンクに慣れ、その特性を知るカイを砲手に回した方が良い、コア・ブロックのコクピット操作ならアムロも慣れているし、ということでこの配置になっていた。

 

「無駄だぜアムロ、どうせ無線切っちまってるんだろ」

 

 カイの言うとおりで、セイラからの返事が無いことにアムロはいら立つ。

 

 

 

「長距離支援用のモビルスーツか。この動き、手ごわそうだが」

 

 ラルはガンタンクの砲撃をかわしつつ距離を詰めようとするが、牽制に撃ち出される砲撃に阻まれ攻めあぐねる。

 視界が開けた砂漠上ではガンタンクの高い火力を生かしやすいこともあったが、やはりアムロの操縦には歴戦の勇士たるラルを唸らせる、光るものがあるのだ。

 

 

 

「行けぇ!」

 

 カイの操る両肩の120ミリ低反動キャノン砲がついにグフを捉える。

 

「やったのか?」

 

 慎重に戦果を確認しようとするアムロだったが、そこにガンキャノンが無防備に近づいていくことに驚く。

 

「セイラさん!?」

 

 無駄と思いつつも叫ばずにはいられない。

 

「まだ敵を確認していないんだ、早く下がってください!」

 

 

 

「……パ、パイロットは?」

 

 セイラは敵パイロットを確保しようとガンキャノンを前進させるが、

 

「ああっ!?」

 

 不意に襲ってきたヒートロッドの一撃を、つま先に受け転倒する。

 ミヤビの知る史実のガンダムとは違い、装甲が厚いせいか斬り落とされることは無かったが。

 

 

 

「フフフ、砂がクッションになってくれなければ、このモビルスーツのグフとてやられていたわ」

 

 砂漠の砂にうもれ、身を隠していたグフが立ち上がる。

 そのシールドは上半分が砕けており、ガンタンクからの砲撃をそれで受けたことが分かる。

 着弾の衝撃で吹き飛ばされたものの、ラルが言うとおり、砂地が機体を受け止めてくれたため、機体本体は無傷で済んでいた。

 

 

 

 アムロはガンキャノンを助けようとガンタンクを前進させるが、グフの放つ牽制の5連装75ミリフィンガー・マシンガンと、ヒット・アンド・アウェイで近づいては繰り出されるヒート・ロッドの攻撃に細かな旋回と機動で回避せざるを得ない。

 

「ええい、こっちに狙いを付けさせないつもりかよ!」

 

 頭部の砲手席で苛立つカイ。

 それでも何とか至近弾を放ち、一時的にグフを後退させることに成功する。

 

「どこだ?」

 

 砂丘を遮蔽に使い射撃を行うグフの姿を求め、周囲をうかがうアムロ。

 

「あぶり出すか?」

 

 と、カイ。

 

『榴弾を装填しますね』

 

 その意図をくみ、敵の装甲を貫く徹甲弾ではなく、広い効力範囲を持つ爆発で敵を攻撃する榴弾を装填するサラスリー。

 火点に向け、適当に見当を付けつつ放つが、それは敵を牽制し、砲撃を抑制すると同時に、爆発でその姿を隠してしまうことにもなる。

 

 

 

「なんとか格闘戦に持ちこまねば」

 

 再度仕掛ける隙を狙うラルだったが、

 

「コ、コズン、う、迂闊だぞ、引くんだ」

 

 僚機のザクが砲撃の爆発に紛れ大胆に前進していくことに驚き、制止する。

 さすがにドラケンE改でザク二機を釘付けにし続けることは困難だったようだ。

 撃ち尽くしたバルカンポッドをパージして左腕二重下腕肢マニピュレーターを使い、左わきの下、アームシャフトアンダーガードに吊るしていた甲壱型腕ビームサーベルに付け替える、その隙をついて突破されてしまったのだ。

 追いすがろうにももう一機、アコースのザクが邪魔でミヤビにはどうにもできない。

 

『大丈夫であります、ラル大尉。このモビルスーツを手に入れますよ』

 

 片膝をつき立ち上がれないでいるガンキャノンに近づくコズンのザク。

 

 

 

 接近してくるザクに、セイラはガンキャノンを立ち上がらせようとするが、

 

「オートバランサーが効かない!」

『駄目だよ。さっきので右のつま先に入ってるバランス・センサーが全滅してる。マニュアル操作で何とかするしか』

 

 サラツーが言うとおり。

 グフのヒートロッドは装甲を貫くことこそできないでいたが、その大電流で内部センサーを損傷させていた。

 それゆえ、サラツーもサポートができない。

 突進してくるザクに、頭部60ミリバルカンで牽制するものの、無理な姿勢からの苦し紛れの射撃では当たらず。

 

「ああっ!」

 

 接近してきたザクのキックを受け吹っ飛ばされる。

 

 

 

「ラル大尉、見ていてください。このモビルスーツをぶん取ります」

 

 ガンキャノンの背後を取り、組み付くザク。

 

「大尉、ヒートロッドでやつの動力部のパイプの一本も焼き切ってください。こいつを基地へ持って帰ります」

 

 

 

「新型モビルスーツをガンキャノンに近づけさせたら、助けられるものも助けられないぞ」

 

 そう言いつつガンタンクを動かし続けるアムロ。

 

「あ、ああ。けどよう、相手の動きを追いかけるのが」

『精一杯なんですよ』

 

 と、カイとサラスリー。

 なんだかんだで息が合っている。

 それもあってだろう、

 

「あそこか?」

 

 何とかグフの動きに食らいつく。

 

 

 

 ガンタンクの牽制に、思うように攻めきれないラルは苛立つ。

 

「ええい、ザクを分散しておきすぎたわ」

 

 三対三と、一対一が散り散りに三つとでは意味が違う。

 前者なら戦術で一時的にも三対一の状況を作り出し各個撃破することが可能だが、後者ではそれができない。

 単なる潰し合いの消耗戦になりかねない。

 

「コズン、大丈夫か?」

『な、なんとか一人で動けないようにしてみます』

「アコース、ドラケンを突破してコズンに近づけんのか?」

 

 

 

 もう一機、アコースのザクはミヤビのドラケンE改と交戦中だ。

 何とか突破しようとクラッカー、モビルスーツ用全方位破砕榴弾を投げつける。

 空中で6個の弾体が分離、広範囲で炸裂する!

 

 

 

「っ、く!」

 

 ミヤビは必死にクラッカーの効力範囲から離脱。

 標準サイズのモビルスーツならセンサーや関節部に破片が飛び込まない限り装甲で耐えられるものだが、ドラケンE改ではそうもいかないのだ。

 だが、回避した先にザクの砲撃が……

 

「輻射波動っ!」

 

 大きく開いたクローの中心、甲壱型腕ビームサーベルの先端が赤く輝き、そこにザクマシンガンからの砲弾が飛来する!

 

 

 

「やったか?」

 

 爆発に包まれたドラケンE改に、アコースは撃破を期待するが、

 

「馬鹿な、直撃したはずだぞ!?」

 

 爆炎を抜けて健在な姿を見せる紅蓮に染められた機体に己の目を疑う。

 あんな小型の機体がザクマシンガンの120ミリ多目的対戦車榴弾に耐えられるはずがないというのに。

 そしてドラケンE改についての情報を思い出す。

 

「まさか、これが噂のバリアーかッ!?」

 

 

 

『輻射波動機構の全力開放が成功しました』

 

 サラによる状況報告をミヤビは機体を操りながら聞く。

 

 輻射波動機構とはミヤビの前世の記憶の中にあるアニメ『コードギアス』でナイトメアフレーム『紅蓮弐式』が右手に備えていた攻防一体の必殺兵器であり、ミヤビからその原理を聞いたテム・レイ博士が宇宙世紀の技術で実現化したものだ。

 甲壱型腕ビームサーベルの備えるIフィールド発生装置に組み込まれた電磁波発振器から高周波を短いサイクルで対象物に直接照射することで、膨大な熱量を発生させて爆発・膨張等を引き起こし破壊するというマイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステム。

 ナイトメアフレーム『紅蓮弐式』が備えていたそれを再現したものだった。

 

『輻射障壁の展開によるアクティブ防護システム作動を確認。敵砲撃の空中撃墜に成功』

 

 そしてアクティブ防護システム(APS:Active Protection System、アクティブ・プロテクション・システム)とは、旧21世紀には開発されていたミサイルや銃砲弾による攻撃をその弾がまだ空中にある間に撃墜、無力化するものだ。

 先ほどドラケンE改は甲壱型腕ビームサーベルが発生させた輻射波動をIフィールド制御板を兼ねた三本のクローを利用して輻射障壁と呼ばれる直径5メートル弱のフィールド状に展開。

 これによりザクマシンガンの120ミリ多目的対戦車榴弾を機体に届く前に爆発させたのだ。

 つまりジオン軍が想定しているような物理的なバリアーを張ったわけではない。

 

 当然、多目的対戦車榴弾の爆発による影響は受けるが、メタルジェットは有効距離がわずか数十センチ程度であり、装甲に到達する前に作動させてしまえば空中に散ってしまう。

 多目的対戦車榴弾はその名のとおり榴弾効果も持っているためそれによる被害は受けるが、

 

『損害は軽微。行動に支障なし』

 

 何とか装甲で耐えることができていた。

 しかし、

 

『甲壱型腕ビームサーベル内エネルギーコンデンサー、放電率80パーセント。再充電完了まで輻射波動機構ならびにビームサーベル機能使用できません。燃料電池全力稼働開始。再チャージ完了まであと4分53秒』

 

 瞬間的に電力を必要とするため、ビームサーベルのエネルギーコンデンサーを空にしてしまう。

 連続使用できないのだ。

 

『ミヤビさん!』

「このまま畳み込む! 行くわよ!」

 

 ミヤビはアクセルを踏み込み、全力のジェットローラーダッシュでザクに向かう。

 同時に機体上部にマウントされた短距離ミサイルを撃ちっぱなしの赤外線画像(IIR)自律誘導で放つ。

 ザクは素早い動きでかわすが、これは牽制でしかない。

 本命は、ミヤビとサラの二人がかりで制御される有線誘導の二発目!

 被弾し膝をつく、しかし倒れないザク!

 

「それならこれよ!」

 

 ミヤビは右手を目前にかざし、

 

「私のこの手が光って唸る、お前を倒せと輝き叫ぶ!!」

 

【挿絵表示】

 

 そのジェスチャーと音声入力を組み合わせたコマンドに機体が反応し、甲壱型腕ビームサーベルが備える三本のクローが赤熱、プラズマ化される!

 

 なぜミヤビはこのように決め台詞を吐くのか?

 

「必殺! シャァァァイニング・フィンガァァァァァッ!!」

 

 なぜ兵装の発動コマンドの多くに必殺技の名前を設定し、叫ぶのか?

 それはこれらを口にし、叫ぶことで実際に威力が上がるからだ。

 

 RXシリーズに搭載された教育型コンピュータはパイロットの言葉や所作から意思を推測して、その操作を補足する機能を持つ。

 要するにパイロットの考えや、やりたいことを察してフォローしてくれるのだ。

 この機能はパイロットの挙動をサンプリングすることでより精度を増し、技量の高くないパイロットにも熟練兵の操縦を可能とする。

 そうやってパイロットを教え、導きながら、同時に自らも成長していくという意味で教育型と名付けられているという。

 

 そしてまさに人格を持ち、人間を、人の心を理解し、パイロットのために尽くす存在がサポートAIサラシリーズなのであり、彼女たちの存在があるがゆえに、教育型コンピュータはミヤビの知る史実を超えてパイロットのやりたいことを先回りしたり補足したりして助け、機体を自由に制御できるのだ。

 そしてそれは教育型コンピュータの原型となった、俗に言う『テム・レイの回路』をデュアル構成で備え、オリジナル・サラをインストールされたドラケンE改でも同様のことだ。

 

 しかし、このようにパイロットのやりたいことを察してサポートするのが補助AIだが、パイロット側にも読み取りやすい人物とそうでない人物が居るわけで。

 ミヤビのような鉄面皮は後者の極みだったりする。

 つまりパイロットに対するサポートAIの理解の深度は、パイロット側の要因にも左右されるということ。

 

 それでもサラが支障なくサポートできるのはミヤビがサラの育ての親であり、長い付き合いであるが故だが、もちろんミヤビが感情をあらわに、情動を豊かにしてくれれば、その読み取りの精度は上がる。

 

 マンガ『影技 SHADOW SKILL』では、

 

「我は無敵なり……」

 

 で始める武技言語を唱えることで力を引き出し自分の能力を数倍に引き上げることができた。

 武技言語とは己の精神に働きかける高速催眠術。

 己が「無敵」であると鼓舞し己の力を引き上げるものだった。

 

 それと同じように鉄面皮のミヤビとはいえ、前世の記憶の中にあるロボットアニメの必殺技の名前を、決め台詞を実際に口にすることで、そして画面越しに熱狂したクライマックスシーンを想起することで、その声には力が乗り、魂の震えが瞳に、身体に現れるようになる。

 それがサラの読み取りを容易にし、機体制御の精度を上げ、結果としてその威力を増大させるのだ!

 

 そうして繰り出されたヒートクローがミサイルで破損していたザクの胸部を貫き、ジェネレーターを握りつぶす!!

 

『なるほど、シャイニングフィンガーとはこういうものですかぁ』

 

 納得した様子でサラは大げさにうなずく。

 

 シャイニングフィンガーとは甲壱型腕ビームサーベルが備えるIフィールド発生装置に組み込まれた電磁波発振器が三本のクローを加熱、プラズマ化させるもの。

 それによって金属装甲を溶断するヒートクローとして作動させる。

 ジオン軍のヒートホークをはじめとするヒート兵器と原理は同じ。

 ビームサーベルよりエネルギーを必要としないため使い勝手は良い。

 

 なお、クローのエッジは刃になっていないが、これは耐久性を上げるためあえてそうされている。

 ただしそれでも4、5回の使用で要交換となる消耗部品である。

 そのためこれまで使われず、加熱せずに攻撃していた。

 だからヒートクローに対し、コールドクローと呼ばれていたのだった。

 

 

 

「アコース、ア、アコース、うおっ」

 

 僚機の撃墜に動揺したところにホワイトベースからの艦砲射撃を受け、回避するラル。

 

「コズン、下がれ。アコースがやられた」

 

 

 

「アコースが?」

 

 驚くコズン。

 

「アコースがやられたのでありますか?」

『そこから離れろ』

「は、はい」

 

 もみ合っていたガンキャノンから機体を離す。

 

 

 

「……ど、どういうこと?」

 

 セイラは戸惑うが、

 

 

 

「……ラ、ラル大尉」

 

 コズンのザクの目の前にはガンタンク。

 そして彼のザクはガンキャノン鹵獲のためマシンガンを手放していた。

 慌てて拾おうとするが、

 

 

 

「こいつ!」

 

 フル加速でガンタンクをザクに突っ込ませるアムロ。

 そして機体の突進力を上乗せした左ストレートパンチがザクの胴体にぶち当たる!

 

 

 

「うわあっ!」

 

 コズンはノーマルスーツのバイザーが砕け散るほどの衝撃を受け、昏倒する。

 

 

 

「アウターシェル・バレル……」

 

 ミヤビは思わずつぶやく。

 ゲーム『機動戦士ガンダム バトルオペレーション2』にてガンタンク系のモビルスーツが放つ格闘攻撃で、腕部40ミリ4連装ボップ・ミサイル・ランチャーの強固な外殻をもつ砲身を用いた打撃技。

 ボップ・ミサイルの砲身である両腕で殴るというある意味、漢の技である。

 40ミリのミサイルを放つにしては、ガンタンクのボップ・ミサイルの砲身は太すぎるのでは、と言う話があったが、そのとおり。

 外から見えるのは砲身そのものではなく強固なルナチタニウム製の外殻、アウターシェルであり、つまりこの技はそれでぶん殴るというものだった。

 実際、『機動戦士ガンダム』本編でも第32話『強行突破作戦』にてガンタンクはこれでザクレロと殴り合っており、そこからきた技だと思われるが。

 

 

 

「コズン、コズン、応答しろ、コズン。や、やられたのか?」

 

 ラルは通信機に向かって呼びかけるが返答は無い。

 止むを得ず通信先を切り替え、

 

「ハモン、聞こえるか? ギャロップをよこせ。合流する」

 

 撤退することにする。

 

 

 

 戦場を迂回し、グフの回収にまわるギャロップ。

 

「クランプ、グフはキャッチできましたか?」

「は、50秒で接触できます」

 

 ハモンは、クランプの声色に納得できないという響きを感じ、

 

「アコースとコズンがやられたらしい。引き上げるのもやむを得ないでしょう」

 

 と、あえて誤解したように答えて見せるが、クランプはそれでは収まらなかった。

 

「しかし、不愉快であります、ハモン様」

 

 と、声を押し殺して訴える。

 

「なぜ?」

 

 クランプが言いたいことは分かっていたが、ハモンは黙らせるよりは吐き出させようと知らぬふりで問う。

 

「せっかくの新造戦艦のザンジバル、なぜあれを?」

 

 やはりそのことかとハモンは内心嘆息しながらも、建前を口にする。

 

「まだテスト中の物を実戦に投入できますか? それにランバ・ラルならこの戦力で木馬もモビルスーツも倒せると思っているのでしょう、ドズル中将は」

 

 ザンジバルには後に搭載される4門のメガ粒子砲も未搭載であったし、またドズルの方も対外的にはそういう態度を取っている。

 実際にはドズルとキシリアの間で熾烈な駆け引きがあって、その結果、ザンジバルの使用が認められなくなったのだが。

 

 クランプは納得できないのか、

 

「しかし、不愉快です」

 

 と重ねて不快感を口にする。

 ハモンもまたその気持ちが分かるだけにそれを咎めず、

 

「マ・クベ様の協力がなければ苦戦を強いられますね」

 

 と、嘆息する。

 その表情が晴れたのは、

 

「あの人です!」

 

 手を振り、こちらに合図するラルの乗機、グフの姿を捉えたため。

 どんな苦境でも笑って乗り越える部隊の指揮官であり、彼女の愛した男の無事があってのことだった。

 

 

 

 沈黙したコズンのザクは鹵獲品としてワイヤーをかけられ、ガンタンクに引きずられてホワイトベースへと運び込まれた。

 銃を構えたクルーたちが見守る中、そのコクピットからパイロットのコズンが手を上げ現れる。

 

「……ほ、捕虜の扱いは南極条約に則ってくれるだろうな?」

「勿論だ。しかし、食事は悪いぞ。我々だって碌なもんが食べられないんだ」

 

 ブライトはそう答える。

 コズンは、

 

「ご同様さ。お偉方は最前線の俺達のことなんかこれっぽっちも考えてくれんからね」

 

 と言うが、後で連邦軍のレーションを出され、辟易することになる。

 レーションの出来に関しては、ジオン軍の方が圧倒的に優っているからだ。

 

 一方、

 

「ようよう、女戦士のご帰還だぜ」

 

 と、カイが言うとおり、今度はガンタンクの後ろに乗せられたガンキャノンが運び込まれてくる。

 ガンタンクの下半身、車体後部に備えられた板状のアウトリガーを展開、運搬作業用のキャリアーとして使っているのだ。

 

 

 

 シートベルトを外し、そっと息をつくセイラ。

 そこにブライトからの通信が入る。

 

『セイラさん、セイラさん』

 

 答えないセイラに、ブライトは返答を要求せず、

 

「あとでブリッジに」

 

 それだけを伝える。

 そしてセイラは、

 

「はい」

 

 とだけ答えた。

 

 

 

「……女性だって男と同じように戦えると証明したかった。それだけの理由なのか?」

 

 ブライトは理解しがたいというようにセイラに確認する。

 

「はい」

「セイラさんのような聡明な人が」

 

 いわばアレだ。

 問題児ばかりの担当クラスで優等生と信じ、頼りにしていた生徒が問題行動を起こしたようなもの。

 ブライトにしてみれば「嘘だと言ってよセイラさん!」といったところか。

 ミライも慎重に、

 

「ともかく、ほかの人の示しもあります。三日間の独房入り、いいわね?」

 

 という落としどころを探り、セイラの、

 

「構いません」

 

 という答えにほっと息をつく。

 ブライトは、

 

「リュウ、頼む」

 

 頼りになる友人にして気遣いのできる男、リュウに対応を任せる。

 

「セイラさん」

 

 心配そうに自分に声をかけるリュウに、気にしないでとでもいうように、セイラは大人しく独房へと向かうのだった。

 

 

 

 リュウがセイラを連れ独房に着くと、そこには食事を載せたワゴンを押すフラウと、銃を持ったハヤトの姿があった。

 

「捕虜に食事か?」

「はい」

「二人だけじゃ駄目だ」

 

 そう注意をうながす

 そこにセイラは進み出て、

 

「私がやりましょう、フラウ・ボゥ」

 

 と食料のトレイを受取る。

 

「すみません」

 

 やはり怖かったのか役目を譲るフラウ。

 

「……セイラさん」

 

 リュウは危険な役目を買って出るセイラに、自虐的になってのヤケを起こした行動ではと危惧するが、自分がしっかり守れば良いかと腰の拳銃を抜いて構える。

 セイラは捕虜の入った独房に入ると、食事を差し出しながら、

 

「シャア、どうしたかご存知でしょうか?」

 

 と、声を殺してたずねる。

 コズンはいぶかしげに、しかし相手に合わせ声を落として聞く。

 

「シャア? シャアって?」

「赤い彗星の。教えてくださらない?」

 

 コズンはそれで理解して、

 

「ああ、シャア・アズナブルね。ガルマ大佐を守りきれなかったんでドズル中将から見放されたとか」

「それで今は?」

「インドの山奥で修行をして、とか聞いたけどな」

「は?」

 

 またしてもインドの山奥である。

 セイラは混乱しながらも、

 

「……そう、ありがとう」

 

 礼を言って立ち去る。

 

「何を話した?」

 

 確かめるリュウに、

 

「いくらで私を買収できるかって」

 

 とごまかし、自分の入る独房へと向かう。

 

(インドの山奥で修行って何?)

 

 そう頭を悩ませながらも……

 

 

 

「三日間ですから辛抱してください」

「心配しないで、リュウさん」

「用があったらいつでも呼んでください」

「ありがとう、フラウ・ボゥ」

 

 そう言葉を交わしながらも独房に入るセイラ。

 しかし、

 

「ミヤビさん? どうしたのですか?」

 

 セイラは独房に入ってきたミヤビに、眉をひそめた。

 

「………」

 

 セイラの問いに答えず、ミヤビはいつもの人形じみた表情のまま、後ろ手にドアを閉める。

 

 カチャッ

 

 小さな音。

 聞きとがめたセイラが、不審そうな顔をする。

 

「……どうして鍵をかけるんですか?」

 

 独房は一人で入るのだから独房なのだし、そもそも何もしていないミヤビが一緒に入る意味が分からない。

 ミヤビは答えず、ドアに付いた窓に向き直る。

 通常の独房には監視窓を塞ぐようなものは付いていないが、リュウは気を使ってプライバシーに配慮した特別房を使ったためカーテンが付いている。

 外からも開閉可能なものではあるが。

 そしてミヤビはそのカーテンを一気に引いた。

 

 シャッ

 

「どうしてカーテンを閉めるんですか?」

 

 セイラの声に、微かな不安の微粒子が混じる。

 そして……

 

 ジジジジジ……

 

 ジッパーを下ろす音。

 

「ど、どうして服を脱ぐの!」

 

 ついに叫ぶセイラ。

 ミヤビはセイラの見ている目の前でノーマルスーツのジッパーを下げ始めたのだ……!

 

「もちろん、いけないことを教えてあげるのよ」

 

 前を大きく開けられたノーマルスーツの下から現れたのはミヤビのスレンダーな、しかしネコ科の動物を思わせるようなしなやかで魅惑的な曲線を描くボディ。

 

「私の身体でね」

 

 肌にぴったりと張り付いた肩ひもの無いチューブトップにショート丈のスパッツのアンダースーツだけ、といった非常に扇情的な姿だった。

 

「み、ミヤビさん……」

 

 息を飲むセイラ。

 独房とは鍵のかかる個室であり、絶対に出ることのできない鉄の檻だ。

 しかも狭く、自分の吐いたため息からも逃れられない密室。

 

 いけないことを教えてあげるのよ。

 

 私の身体でね。

 

 ミヤビの言葉が何度も脳裏を過り、セイラの眼はその人形のように美しいミヤビの肢体から逸らせなくなる。

 背筋に走るのは、これからミヤビにされてしまうことへの恐怖のはずなのだが、そこに一抹の期待が混じってしまっていることにこそ、セイラは戦慄する。

 ミヤビの美貌は、ごく健全な精神を持つセイラにすらそういった想いを抱かせるような魔性のものだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらここ、あざになってるでしょ」

「は?」

 

 あらわになったミヤビのお腹には、薄いあざが付いていた。

 

「時代劇じゃないんだから当身で気を失うとか無いから」

「えっ?」

「そもそも当身というのは古武術や武道における打撃技の総称であって、当身で気絶させるっていうのは殴って気を失わせることよ。それが時代劇なんかの影響で、当身と言う名称の人を気絶させる技があると思い込まれてしまったわけ」

 

 そう説明し、女性のお腹を殴ってはいけません、とこんこんと説教するミヤビ。

 

「………」

 

 襲われる、と危険を感じ、貞操を奪われる覚悟までした自分の想いを返して欲しい。

 セイラは兄の行方がおかしくなっていることも忘れ、ただただ脱力するのだった。

 

 

 

 一方、そのインドのシャアはというと、

 

「ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれない女性だ……」

 

 無事、ララァと接触できた模様。

 そしてイセリナと同じく高いニュータイプ能力を持つララァに拒絶感を覚えず、逆に安らぎすら感じたことにこう納得する。

 

 ニュータイプに目覚めたからと言って、父ジオン・ズム・ダイクンが唱えたようにお互いに判りあい、理解しあい、戦争や争いから開放されるなど、幻想に過ぎない。

 結局、ニュータイプ能力の有無に関係せず、相手を認め、受け入れられるかは相手の人格によるのだと。

 

 まぁ実際、ミヤビの前世の記憶の中でもハマーン・カーンがカミーユ・ビダンと感応した際、心の奥底にあったシャアへの思慕を知られて激昂していたし、その一方で彼女はジュドー・アーシタに対しては感応しても拒絶反応は示さず、逆に好意を持つことになった。

 それと同じこと。

 当たり前と言えば当たり前のことだった。

 

 ニュータイプに幻想を抱く前、早い段階でそれを実体験により心の底から納得できたシャア。

 彼はこの後、史実とは違う道を歩むことになるのだが、ミヤビも含めこのことを知る者は存在しなかった……

 

 

 

 翌朝、

 

「あった、湖だ」

 

 ロブ湖を発見するホワイトベース。

 

「ああっ、きれい」

 

 子供たちも砂漠に開けた水の青に目を輝かせる。

 そしてタムラコック長も、

 

「ほう、こんなに移動しとったのか。これで食材が手に入るぞ」

 

 ……その目が捉えているのは水源地に設営されているジオン軍の物資集積地。

 ヒャッハーな略奪者と化したホワイトベースクルーたちの強奪のお時間である。

 

 

 

「ヒャッハッハッ、水だーっ!」

「食料もタップリ持ってやがったぜ」

 

 

 

 食べ物って人を変える……

 そう実感するミヤビだった。

 

 

 

次回予告

 ミヤビは頑張った。

 アムロの作成していた戦闘シミュレーションの問題もちゃんと体験として教えたし。

 ブライトとの行き違いで命令違反を犯さないよう、話し合いの場も設けた。

 しかし気付いたら何故か戦いの展開は変わっておらず、帳尻合わせで自分がグフと戦わなければならない始末。

 挙句……

 次回『サラツー脱走』

 君は、ミヤビの涙を見る。




 ついに出たシャイニングフィンガー。
「吠えりゃあ強くなんのかよ」
 なるんですねぇ、これが。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
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