ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第18話 黒いガンキャノン Bパート

「いったい、いつまでこんなことさせるんだよ?」

 

 銃、それも軍人にとってはバックアップに過ぎない拳銃を磨くことぐらいしかできないことに、苛立つカイ。

 まぁ、彼らはパイロットなので機動兵器搭乗時に身に着ける護身用拳銃の手入れは必須ではあるが。

 

「リボルバー?」

 

 現実逃避気味に自分のアーマーマグナムを磨いていた……

 とはいえ表情が変わることが無いので誰も異常に気付かないが、ともかくミヤビの目が、ふとカイが分解手入れしていた回転式拳銃に向く。

 S&Wとコルトが混じったようなかなり謎な代物であるが、各社のパテントはとっくに切れているし銃器メーカーも買収、合併、提携など離合集散を繰り返しているだろうからこういった銃も生まれるだろう。

 

「ああ、サバイバルキットに入ってたやつですよ」

 

 カイが答える。

 そんなものを持ち出さなければならないほど、ホワイトベースは貧窮しているとも言える。

 

「何で今どきリボルバーなんですかね」

 

 と、こちらは地球連邦軍制式拳銃、M71を磨いているハヤト。

 M71は一般的な9x19mm拳銃弾、俗に言うパラベラム弾を使うオートマチック拳銃だが、無重力環境下での使用と命中率向上のため低反動機構が組み込まれており、全体的にごつい。

 まぁ、M71は装弾数15+1発の複列式弾倉、つまりダブルカラム式拳銃である。

 ダブルカラム式拳銃はどうしても厚みが出るので、ごつくはなりがちなのだが。

 

 ミヤビの前世、旧21世紀の時代になっても旧式なコルトガバメント系の拳銃が護身用として一定の人気を持ち続けていたのはアメリカ人の45口径信仰のせいばかりではなく、弾倉がシングルカラム式なので銃本体も薄く、携帯に便利だったからだ。

 大抵の国や地域では制服警官等、法で許されている者以外は拳銃を見えるようにぶら下げて歩いていると公衆の面前で脅迫行為に使用したことになり捕まってしまう。

 そのためコンシールドキャリー、隠し持つことが必要になるのだが、その場合、銃の厚みというものが意外と問題になるのだった。

 

 そんなことをつらつらと思い起こしながらも、ミヤビはハヤトの疑問に答える。

 

「どうして今どきリボルバーなのか、というと色々な理由があるけど、長期間、銃弾を装填したまま手入れ無しでも問題なく作動するからというのが大きいんじゃない?」

 

 ということ。

 

「オートだと弾倉のスプリングがへたってしまうから、装弾不良を起こしてしまうのよ」

 

 その点、リボルバーは銃弾を装填したままでも各スプリングにテンションがかかることが無いため、長期間放っておかれるようなサバイバルキットに入れておくのに向いているのだ。

 弾を抜いておけば、という話もあるだろうが軍用のサバイバルキットには護身の役目もある。

 脱出した先で弾を込めて…… などと悠長なことはしていられない。

 明かりも無い真っ暗な環境下に放り出される、というのもあり得るのだし、そんな中で小さな拳銃弾を弾倉に一発一発手で込める?

 まず無理だ。

 

「それに使用目的によってはリボルバーは未だに現役よ」

「使用目的?」

「ハイイログマ、グリズリーが生息する北米大陸なんかのように、大型の猛獣が出る環境下での護身やバックアップ」

 

 グリズリー相手には9ミリ拳銃弾なんて豆鉄砲以下だ。

 最低でも44マグナムが要るが、44マグナムを撃てる自動拳銃は西暦の時代にあったデザートイーグルのように重くかさばる。

 そのため大型獣相手の自衛や狩猟時、メインの猟銃がトラブった場合のバックアップにはリボルバーが好まれるのだ。

 

 映画『ダーティーハリー』で有名になった44マグナムだが、本来は中型獣から大型獣までをカバーする狩猟用弾薬で人を撃つためのものでは無い。

 それゆえ公的機関の執行官が携帯する武器としては禁止されていることが多いものだった。

 

「まぁ地球連邦軍だと、そういう理由でM71に不安を覚えた北米アラスカ基地の気圏戦闘機のパイロットやヘリクルーたちからの要望もあって、このアーマーマグナムが準正式採用されているんだけどね」

 

 そういうことだった。

 

 

 

『アムロ、二時の方向に金属反応よ』

「ん?」

 

 サラツーの警告に、ガンキャノンを停止させるアムロ。

 

「きゃあっ!」

 

 そして不意に足を止めたガンキャノンにバギーをぶつけてしまうフラウ。

 

「もう、なによ、いきなり止まって。危ないじゃない」

 

 その物言いに呆れるアムロ。

 

「帰りゃいいのに」

 

 そうつぶやくが、

 

『そうよね、もう私たちにホワイトベースなんて関係ないんだから』

 

 と言うサラツーに、困った顔をする。

 ともあれ、

 

「あれは?」

 

 岩山に機体を張り付け、頭部センサーをわずかに稜線から出して観察するアムロ。

 

 

 

「トンあたり2グラム。予想通り良質のソリウム鉱床です。あと五つもこの程度の鉱床を掘り当てれば我が軍は……」

 

 視察に訪れたキシリアに、鉱山の説明をするマ・クベ大佐。

 しかし、

 

「ソリウムには限りません。連邦には貴重な資源を1グラムたりとも渡してはならないのです。それがこの戦いを勝利に導き、ひいてはその後の支配の確立にもつながるわけだ」

 

 と、話の途中でキシリアにそう告げられる。

 

「心得ております」

 

 キシリアに発言を遮られた形のマ・クベだったが、いつものことなので気にせず恭しく頭を下げる。

 キシリアは頭の回転が速い。

 つまり凡人が説明している途中で相手が何を言いたいか理解してしまい、もういいとばかりに言葉を遮って話を進めてしまうわけだ。

 

 ミヤビの前世でもこういう人物は居た。

 決裁を取るため書類を片手に説明を始めると最初の数行をこちらがしゃべった時点で、

 

「こういうことだね」

 

 と言う上役が……

 技術系の作る文書はまず結論を頭に持ってきて簡潔に、というのが主流なので普通ならそれでもいいのだが、その当時、ミヤビは期間限定で情報システム系部署に転属配置されていた。

 そして情報システム系部署にはストーリーを重視する、という社内でもかなり異なった文化があったため、作成される文書はまず最初にこれまでの経緯があって、説明があり、最後に結論というもの。

 一つの事柄を実現するにも多数の手段がある情報系独特のストーリーで相手を納得させる文化で、これを守らないと上役の所まで書類を回せないが、この上役は過程を吹っ飛ばして結論に至るので、この書式では非常に説明しづらいという。

 常に二倍速で動いているような人物で(食事も二倍のスピードで食べるので昼食を共にすると辛い)、出世も二倍速で最終的に取締役まで行っていたが。

 

 一方で、この頭の回転の速さが逆に仇になるケースもある。

 相手の話を途中で遮ってしまったり、まくしたてるような形になるので、会話が大事な職場や接客業では非常に印象が悪いのだ。

 特にクレーム処理で客の発言を遮るなど最悪である……

 当人はハキハキ、キビキビ働いている私有能、と思っているので自覚していない場合が多いのだが。

 

 そんなわけでキシリアの言動も結構印象が悪い。

 ザビ家の策謀家、というわけで誰も逆らう者が居ないだけで。

 もっともマ・クベは、

 

(さすがキシリア様、理解が早い)

 

(私とキシリア様とでは時間の価値が違う。より高いキシリア様のペースに合わせるのは当然)

 

 と思っているので問題にはならず……

 キシリアもそういうマ・クベだからこそ遠慮せずにズケズケものを言っているところがある。

 キシリアとて、必要があればネコを被るのだ。

 

「ここより北50キロ辺りにも同じような鉱床があります」

「人員と機材は望み通り与えましょう」

 

 という具合に、二人の間には感情の軋轢も理解の齟齬も無い。

 割といいコンビである。

 

 

 

「やっぱりジオンの採掘基地だ。とうとう見つけたぞ」

『やったね、アムロ』

 

 喜び合うアムロとサラツーだったが、

 

「ねえ、どうしたっていうのよ。教えてくれたっていいじゃない」

 

 空気を読まずに割り込んでくるフラウに顔をしかめる。

 

「大声出さないでくれ、あそこにジオンの採掘基地があるんだ」

「えっ? ほんとなの?」

 

 自分も顔を出そうとするフラウ。

 

「こら、見つかったらどうするんだ」

 

 アムロはガンキャノンの手で彼女を遮るが、

 

「失礼ね、そんな迂闊じゃないわよ」

 

 と、彼女は自分の手でガンキャノンの指を動かし、隙間を作って覗こうとする。

 呆れたアムロが、指関節の動力をカットしたこともあって持ち上げることができた。

 

 ……よく考えると動力をカットしたとしても、モビルスーツの指を人力で開かせるなどということが少女の身でできるわけが無いのだが。

 ストーカー等、イッちゃっている人間特有の、身体にかかっているリミッターが外れているが故の怪力であった。

 

 なお……

 ミヤビの知る史実でも彼女はガンダムの指を持ち上げ開いていたりする。

 

「……すごい。ねえ、ホワイトベースに連絡しなくっちゃ」

 

 興奮するフラウを、アムロは止める。

 

「待てよ、今、やつらに通信を聞かれたら不利になる」

「じゃ、どうするの?」

「フラウはホワイトベースに戻って連絡しろ」

「アムロは?」

「僕はここに残って偵察を続ける」

「わかったわ」

 

 そうしてフラウはホワイトベースに連絡を取るべくバギーを走らせる。

 

 

 

「これだな、レビル将軍がオデッサ・デイで叩こうというジオン軍の鉱山って」

 

 光学センサー等パッシブ式のセンサー類の観測で見る限り、規模は相当に大きく感じられた。

 

『ザクは一機も見えないわ。これならガンキャノンだけでも潰せるよ』

 

 と、サラツー。

 

「ガンキャノンでここを潰せば連邦軍の軍隊が動かなくってすむ、か……」

 

 アムロもサラツーを処分させないよう守るためにも、実績を上げるべきかと考える。

 

「そうすればブライトさんにもミライさんにも口を出させることもなくなる」

 

 そういうことだ。

 

 

 

「……早く知らせなくっちゃ。見つかったらその時のことよ」

 

 バギーをホバーモードにして疾走するフラウ。

 

「あたしが、そしてガンキャノンが見つかったとしても、ホワイトベースが助けに入ればいい。そうすればアムロも帰ってくる」

 

 つぶやくその唇が、いびつに歪む。

 

「いいえ、アムロがピンチになったところに援軍を呼んで駆け付ければ、きっとあたしはアムロに感謝される」

 

 

『きゃあああっ!』

「うわぁあ、ガンキャノンが、サラツーがやられたぞ!」

「助けに来たわ、アムロ」

「フラウ・ボゥ。君が危険を冒してホワイトベースを呼びに行ってくれたおかげで助かったよ。でも、サラツーが……」

「アムロにはあたしが居るじゃない」

「フラウ・ボゥ……」

 

 

「ふふっ……」

 

 酷すぎる妄想を浮かべながらも笑うフラウ。

 それをされたらアムロだって死にかねないのだが、嫉妬に狂う彼女には分かっていなかった。

 

「ジオーン! 早くあの性悪AIを殺しにいらっしゃーい!」

 

 フラウはわざと見つかるように砂煙を高く巻き上げ、ホバーバギーを狂気の表情で走らせ続けるのだった。

 

「ぶべら!?」

 

 途中でコズンをホバー噴射に巻き込み、吹っ飛ばしたことにも気づかずに。




 ますます嫉妬に狂っていくフラウ。

> ミヤビの知る史実でも彼女はガンダムの指を持ち上げ開いていたりする。

 ここはもちろん、

>「……早く知らせなくっちゃ。見つかったらその時のことよ」
> バギーをホバーモードにして疾走するフラウ。

 この辺も史実どおりなんですけどね。
 ミヤビは銃なんか磨いている場合じゃないのですが。
 まぁ、銃談義が楽しいのは分かりますけど。

 次回は戦闘の開始。
 そしてガルマとシャアの兵器談義『マゼラアタック編』の予定です。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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