ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件 作:勇樹のぞみ
ホワイトベースがコロニーのドッキングベイから出港する。
「ゲートセンサー360度、オールラジャー」
固い声で呼称しながら舵を操るミライ。
その肩をブライトがポンと叩く。
「肩に力が入りすぎのようだな。大丈夫、コンピューターがやってくれますよ」
ミヤビの前世の記憶の中のアニメ『機動戦士ガンダム』と違うのは、ミライの持つ爆乳のおかげでブライトが一瞬「ボディタッチはセクハラになるのでは?」と悩んだことだが、彼は鉄の自制心でそれを表面に出すことはなかった。
「ガンキャノンのアムロ君へ」
『は、はい』
「ホワイトベースから遠すぎるようだ。本艦の右10キロに位置してくれたまえ」
『了解』
「そこのドラケンE改は……」
『左5キロに待機します。守りは重層的に構築するべきでしょう』
返ってきた通信にミライが反応した。
「姉さん?」
『無事だったようね、ミライ』
「第一種戦闘配備中です。通信を私用に使うのは控えてください」
「あ……」
『了解』
ブライトの注意にミライはバツが悪そうに口ごもり、ミヤビは端的に答えた。
計画通り。
ミヤビは珍しく口の端を上げて笑うが、
『ミヤビさん、その顔怖いです』
怯えたような声でサラが言うとおり、普段表情を出すことに慣れていないせいかその顔は若い女性にあるまじき超悪人面になっていた。
「そう?」
ミヤビにはまったく自覚が無かったが。
『美人なだけになおさら凍り付くような怖さがあって……』
サラは言葉にしようか迷った後、真顔で告げる。
『多分、子供が見たら泣くし、大人でも退きます』
「そん、なに」
彼女たちの漫才はともかく、そもそも射程から言って中距離砲撃に特化し狙撃タイプのビームライフルも備えたガンキャノンは後衛向き。
それに対してミヤビが乗るドラケンE改の射程は短いし、短時間しか使えないとはいえ接近戦用の武器、ビームサーベルも持っている。
ミヤビの方こそ本当は前に出る方が有効なのだ。
とはいえドムの360ミリ、ジャイアント・バズですら正面装甲で弾いてしまうガンキャノンと違って、こちらはザクマシンガンでも一撃で即死である。
そのためもっともらしいことを言って、後ろに引っ込んだのだ。
一応、ホワイトベースは左舷が弱いというイメージがあるからそこをカバーするという意味もある。
『高熱源体接近、大型ミサイル。回避運動は左12度、下へ8度』
ホワイトベースのオペレーターからの警告。
ホワイトベースは避けようとするが、
「遅い」
回避できそうにない。
『キャッチした』
通信機越しのアムロの声。
『えっ?』
『やってみます』
『頼む』
中距離砲撃用モビルスーツであるガンキャノンはガンダムを上回る6,000メートルのセンサー有効半径を持ち、その射程は長い。
『こいつなら』
ビームライフルでミサイルを狙撃。
『当たれっ』
狙撃用ビームライフルのおかげか二発目も危なげなく撃墜。
まぁ駄目でもミヤビが何とかしたし、そのためのドラケンE改の位置取りだったが。
しかし、
『続いて接近する物体二つあります』
『なんだ?』
『モビルスーツのようです』
それを聞いてミヤビは気を引き締める。
「サラちゃん」
『5連式多目的カメラモジュール、目標をキャッチしました』
ドラケンE改には独立した可動式の頭は無いが、その代わり機体前頂部に固定設置されている保護ボックスにカメラモジュール群を搭載することができる。
後にジオンの高性能強行偵察型モビルスーツMS-06E-3ザクフリッパーの頭部に装備される3連式多目的カメラモジュールと同様の仕組みで、ナイトスコープ、赤外線、超長距離望遠、大光量補正(フレア・コンペンセイション)カメラ、レーザーセンサー、超音波センサー、更にはショットガンマイクなど複数の異なるカメラセンサーを目的に合わせて選択装備し束ねたものだ。
これらから得られたデータをコンピュータで統合、幾通りのモードの中から最適な画像とデータを搭乗者に提供するようになっている。
ただし内蔵されるカメラセンサーはオプション扱い(高性能のものは当然高価)で、荷役作業に使われている最低グレードの機体では何も搭載されず空のモジュールボックスが付いているだけだったりする。
実際に初期に対MS特技兵部隊に配備されたものには指揮官機にすら望遠センサーが装備されておらず、戦場においてコクピットハッチを跳ね上げ、双眼鏡で遠方監視する分隊指揮官の姿が確認されている。
一方で実験部隊や特殊部隊、偵察部隊等の機体には任務や用途に応じて選択された最高グレードのセンサー類がキャパシティいっぱいの5基まで搭載されており、通常のモビルスーツ以上の索敵能力を発揮したという。
そうしてセンサーに捉えられたのは、
「赤いザク。やはり赤い彗星のシャア……」
『赤い彗星のシャア!?』
シャアは迫る。
「見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを」
ミヤビのドラケンE改に。
(なっ、何でガンキャノンを無視してこっちに!)
慌てるミヤビ。
理由は色々あった。
なんだかんだ言ってもコロニーに侵入したザク2機を撃墜したのはドラケンE改であり、シャアはその報告を疑いながらも受けている。
そしてアムロの操るガンキャノンは重装甲である分、運動性は劣る。
また機体を駆動させるフィールドモーターもトルク重視のセッティングが施され、力は強いが動きは素早いとは言えなかった。
そして何よりアムロの操縦はまだ「君は素人か」と思うほど拙かった。
ミヤビがそれよりマシかというと疑問だが、ミドルモビルスーツはシャアから見れば未知の兵器だ。
シャアがよく知る通常サイズのモビルスーツのパイロットの良し悪しは即座に見抜けても、その3分の1以下の大きさのミドルモビルスーツの動きからパイロットの腕前を把握することは困難だったのだ。
ゆえにシャアはアムロのガンキャノンの脅威は低く無視できるとして、未知の存在であるドラケンE改に戦いを挑んできたのだった。
「サラちゃん、全兵装ロック解除!」
『了解です。ドラケンE改、オールウェポンフリー』
「ドラケンE改、フォックス・ツー!」
狙いをろくにつけず、牽制の短距離ミサイルを撃ちっぱなしの赤外線画像(IIR)自律誘導で放つ。
このミサイルは他にもレーザー誘導、有線誘導等、複数の誘導方式を切り替え、併用することができ、ミノフスキー環境下でも機能するのだ。
同時に背面ロケットブースターを吹かして移動、そして慣性飛行で横滑りしながらシャアのザクがミサイルを回避した先を次のミサイルで狙う。
「ドラケンE改、フォックス・ツー!」
これにより確実に命中させようとするが……
「消えた!?」
2発目のミサイルを放った瞬間、シャアのザクの姿がモニター上から消え失せる。
ミヤビは間違いを犯したのだ。
並の腕のパイロットならミヤビの策も通じただろうが、相手はあのシャア。
生存を第一に考えるならアムロのガンキャノンが応援にたどり着くまであくまでもミサイルは牽制に使い動き続け、回避し続ける必要があったのだ。
「左!?」
シャアのザクを見つけたミヤビは、真正面にザクマシンガンの砲口が向けられていたことに目を剥いた。
砲口が真円に見えるということはつまり相手の砲身がまっすぐ自分の方向に向いている証拠なのだから。
ザクマシンガンが放つ120ミリ多目的対戦車榴弾(HEAT-MP:High-Explosive Anti-Tank Multi-Purpose)の直撃に、ドラケンE改は耐えられない。
火薬の力で先端から噴出する超高速噴流、メタルジェットが装甲をたやすく貫通し、内部を焼き尽くしてしまうだろう。
ミヤビの頭が確実な死への予感に真っ白になる。
たいせんしゃ…… りゅうだん、「榴」、「弾」、ドラケンE改を焼き尽くすほどの…… HEAT弾ですって!?
ミヤビはなぜ機体の前に甲壱型腕ビームサーベルをかざしたのか、彼女自身理解できなかった。
無意識だった。
甲壱型腕ビームサーベルが砲撃に吸いつくように勝手に動いたと感じた。
しかしミヤビの頭脳は知っていた。
生き抜こうとするミヤビの頭脳が肉体を動かしたのだ。
ミヤビの生への執着が、ミヤビの直感をプッシュしたのだ。
「輻射波動っ!」
大きく開いたクローの中心、甲壱型腕ビームサーベルの先端が赤く輝き、そこにザクマシンガンから砲弾が放たれた!
「どうだ!」
爆発に包まれたドラケンE改に、シャアは口元を笑みの形に吊り上げるが、
「ば、馬鹿な、直撃のはずだ」
爆炎を抜けて健在な姿を見せる紅蓮に染められた機体に己の目を疑う。
あんな小型の機体がザクマシンガンの120ミリ多目的対戦車榴弾に耐えられるはずがないというのに。
そして気づく。
トリガーを引き絞った瞬間にドラケンE改の機体が赤い輝きに包まれていたことを。
それはつまり、
「バリアーかッ!?」
『輻射波動機構の全力開放が成功しました』
サラによる状況報告をミヤビは機体を操りながら聞く。
輻射波動機構とはミヤビの前世の記憶の中にあるアニメ『コードギアス』でナイトメアフレーム『紅蓮弐式』が右手に備えていた攻防一体の必殺兵器であり、ミヤビからその原理を聞いたテム・レイ博士が宇宙世紀の技術で実現化したものだ。
RX-78ガンダムの内部構造図ではビームサーベルに『ビーム集光用マグネット』が内蔵されていることになっている。
ビームサーベルはエネルギーCAPによって縮退寸前の高エネルギー状態で保持されたメガ粒子をIフィールドによって収束しビーム状の刀身を形成させるもの。
そしてIフィールドとはミノフスキー粒子に電磁波を流し結晶格子状態にした力場であり、Iフィールド発生装置には電磁波発振器が内蔵されている。
つまり『ビーム集光用マグネット』とはIフィールド発生装置であり、電磁波発振器でもある。
そして甲壱型腕ビームサーベルの備える輻射波動機構とはIフィールド発生装置に組み込まれた電磁波発振器から高周波を短いサイクルで対象物に直接照射することで、膨大な熱量を発生させて爆発・膨張等を引き起こし破壊するというマイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステム。
ナイトメアフレーム『紅蓮弐式』が備えていたそれを再現したものだった。
『輻射障壁の展開によるアクティブ防護システム作動を確認。敵砲撃の空中撃墜に成功』
アクティブ防護システム(APS:Active Protection System、アクティブ・プロテクション・システム)とは、旧21世紀には開発されていたミサイルや銃砲弾による攻撃をその弾がまだ空中にある間に撃墜、無力化するものだ。
ミヤビが覚えているだけでもイスラエルのトロフィーやアイアンフィスト、アメリカのクイックキルなどといったものがあった。
先ほどドラケンE改は甲壱型腕ビームサーベルが発生させた輻射波動をIフィールド制御板を兼ねた三本のクローを利用して輻射障壁と呼ばれる直径5メートル弱のフィールド状に展開。
これによりザクマシンガンの120ミリ多目的対戦車榴弾を機体に届く前に爆発させたのだ。
つまりシャアが考えたような物理的なバリアーを張ったわけではない。
当然、多目的対戦車榴弾の爆発による影響は受けるが、メタルジェットは有効距離がわずか数十センチ程度であり、装甲に到達する前に作動させてしまえば空中に散ってしまう。
多目的対戦車榴弾はその名のとおり榴弾効果も持っているためそれによる被害は受けるが、
『損害は軽微。行動に支障なし』
何とか装甲で耐えることができていた。
ザクマシンガンが低反動の低速砲で徹甲弾が使えず、多目的対戦車榴弾を使っていてくれて本当に助かったとミヤビは思う。
動作の原理からいって分かるように輻射障壁の展開によるアクティブ防護システムではすごいスピードで物理で装甲をぶち抜く徹甲弾は防げないし、高速で飛来する砲撃に対しては撃墜成功率が下がるのだ。
そのうえ、
『甲壱型腕ビームサーベル内エネルギーコンデンサー、放電率80パーセント。再充電完了まで輻射波動機構ならびにビームサーベル機能使用できません。燃料電池全力稼働開始。再チャージ完了まであと4分53秒』
瞬間的に電力を必要とするため、ビームサーベルのエネルギーコンデンサーを空にしてしまう。
連続使用できないのだ。
そして全部の武装を使い切った今、このチャージタイムは致命的だった。
だからミヤビは決断する。
機体よもってちょうだい!!
「3倍過負荷運転よっ!!!!!」
さらなる出力増でチャージ時間の短縮を図る。
なお出力300パーセントなどという非現実的なものではなく、定格に対し5パーセント増しだった過負荷運転を3倍に、つまり15パーセント増しまで上げて運転するという意味だ。
場合が場合だけに強行するが、生還することができても即機体の分解点検が必要なほどの暴挙だった。
他者がやったらミヤビ自身、
「いいか! 許す! 生死がかかっているんだから仕方ない。でもうちの社員がやったら始末書ものだし顧客がやったら問答無用で保証対象外だけどね!」
と叫んでいただろう。
動力源である燃料電池の動作に伴い発生する熱は原型機であるドラケンEにおける背面放熱器の代わりに内蔵されている熱回収器を介して推進剤の加熱に使われている。
このため燃料電池全力運転による発熱は副次的効果として推進剤噴射速度上昇をもたらし、一時的に機動力が向上する。
そして利用しきれない余剰熱は両肩、尻に搭載された放熱器から放出されるが、無茶な過負荷運転に放熱器が赤熱する。
その姿は後のユニコーンガンダムがNT-Dを発動させ赤く発光するサイコフレームを露出させた真の姿を見せるかのよう。
そして向上した機動性を発揮し放熱器からの赤い光を引きながら宇宙を駆けるその姿はミヤビの前世の記憶、アニメ『頭文字D』の劇中でホイールの奥のブレーキディスクローターが摩擦で赤熱し、その光の残像を残しながら疾駆する姿のようだった。
実際には……
鳴り続けるアラート、真っ赤な注意喚起表示、画面隅を凄い勢いで流れる警報ログ。
『燃料電池ユニット入熱過大! 温度高!』
サラの悲鳴じみたアナウンス。
ドラケンE改のコクピットは修羅場だった。
はっきり言おう、ミヤビだけでは対処不能な状態だった。
しかし……
「警報停止! 致命的(クリティカル)なものだけ要約して!」
ミヤビには優秀な副制御員、サラが居てくれた。
『熱平衡線図(ヒートバランス)計算、収束しません!』
熱収支が合わない。
つまり、
『放熱が完全に足りません! このままでは1分後に温度極高で非常停止(トリップ)します!!』
温度上昇が止まらず安全装置が働き燃料電池ユニットが飛んでしまう!
ならば!
「ロケットエンジンリミッターカット! 熱を推進剤と一緒にパージして!」
『了解! でもこのペースで推進剤を消費すると帰還できなくなる可能性が』
「ガンキャノンかホワイトベースが拾ってくれるでしょ」
『わかりました!』
「そう! 生き延びることができればあとは何とかなる!」
と信じたいミヤビだった。
交錯する瞬間、さらに加速して見えたドラケンE改にシャアはうなる。
「速い! な、なんという運動性」
それは錯覚です。
ミヤビがシャアの言葉を聞いていたらそう答えていただろう。
シャアがドラケンE改に対して感じた速さは、機体の大きさの違いによる距離と速度の錯覚によるものだ。
車を運転していると対向車線のバイクなどは車体が小さいため実際の距離より遠く、そして速度も遅く感じてしまう。
それを錯覚したまま間に合うと思って右折したりすると、思いがけず近づいて…… 急加速したのかとも感じてしまうバイクと接触、『右直事故』を起こしてしまうのだ。
宇宙空間では視覚から距離感が喪失してしまうためこれが強く出てしまうし、シャア自身これまで小型のミドルモビルスーツと戦ったことが無かったせいもあり、誤解してしまっていた。
そして、そこにミヤビ待望の援護、アムロのガンキャノンとリュウ・ホセイのコア・ファイターが。
遅れてスレンダーのザクが乱入してくる。
「スレンダー、来たか。敵のモビルスーツのうしろへ」
スレンダーはアムロのガンキャノンが乱射するビームライフルを回避しながら叫ぶ。
「しょ、少佐、武器が違います。あの武器は自分は見ていません」
しかしシャアは軽視していたガンキャノンを脅威とはとらえなかった。
「当たらなければどうということはない。援護しろ」
そう言って、ミヤビのドラケンE改を追撃する。
(だから、なんでこっちに来るの!)
ガンキャノンを無視して襲い掛かるザクたちに内心悲鳴を上げるミヤビ。
(助けてアムロ君! というかそもそもガンダムはどうしたの?)
必死に回避を行うが、パイロットして並以下の腕前しか持たないミヤビでは当たり前だがシャアに対抗できない。
鳴り響くアラート、接近警報に顔を正面に戻した時には、
「誘導された!?」
目の前に緑の巨体、もう一機のザクが迫っていた。
シャアの赤いザクに気を取られすぎたのだ。
それと同時、
『甲壱型腕ビームサーベル内エネルギーコンデンサー、再チャージ完了。ビームサーベル機能使用できます』
サラの報告。
しかし、すでにビームサーベルを展開し振るえる間合いではなかった。
ミヤビはとっさにドラケンE改の甲壱型腕ビームサーベルをザクの胸に押し当て、
「パルマフィオキーナ!」
コマンドワードを叫んで甲壱型腕ビームサーベルの隠し機能を起動する。
パルマフィオキーナ(palma fiocina)とはイタリア語で「掌の銛」を意味する。
甲壱型腕ビームサーベルを密着状態で起動、敵を撃ち抜くようにして撃破するという使用法だ。
元々はテム・レイ博士たちとの雑談中にビームサーベルの水中使用における熱損失を防ぐのにいいアイディアが無いかと振られたミヤビが、前世の記憶の中から一年戦争時の地球連邦軍水中用モビルスーツ、アクア・ジムに採用されていたビームピックについて軽い気持ちで話したのがきっかけだった。
これは敵機の装甲と接触した段階でビーム刃を放出するもので、水中やビーム攪乱膜などビームを減衰させる環境下でも影響を受けないという利点がある。
一方で敵と接触しないと機能しないため実際に採用されたアクア・ジムではパイロットの不評を買い、続く水中型ガンダム「ガンダイバー」では単にビーム長を6~7割に短縮したビームサーベルに置き換えられ、これをビームピックと同じ名称で呼んでいた。
甲壱型腕ビームサーベルの制御プログラムに手を加えることで実現したパルマフィオキーナ掌部ビームピック機能でも同様の問題がある。
また一瞬でビームサーベル内のエネルギーCAPにチャージされたメガ粒子を使い果たしてしまうという欠点もあり、活用はなかなか難しい。
しかし、である。
突如としてザクの機体を貫き消えたビームの輝き。
背まで貫通され爆発四散するザクを目にしたシャアは、
「ス、スレンダー! い、一撃で、一撃で撃破か。なんということだ、あのモビルスーツは戦艦並のビーム砲を持っているのか」
と、まるで元ネタ『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』登場のディスティニーガンダムの手のひらに取り付けられた『MMI-X340パルマフィオキーナ掌部ビーム砲』、俗に言うディスティニーフィンガーでも装備されているかのように受け止めていた。
ミヤビが聞いたら「ドラケンE改にビーム砲なんて装備できるわけないでしょうが!」と絶叫を上げていただろう。
まぁ、7年後にはもっと小さなジュニアモビルスーツに一撃でハイザックの頭部を吹き飛ばす威力を持つビーム砲が搭載できるようになるのではあるが。
「か、火力が、ち、違いすぎる」
シャアはそうつぶやくと退却して行った。
まったくの誤解なのだが。
ホワイトベース、アムロのガンキャノンやリュウのコア・ファイターの着艦で混んでいる左舷MSデッキを避け、右舷MSデッキに何とか自力で戻ったミヤビは無茶な過負荷運転がドラケンE改に引き起こした惨状に目を覆っていた。
「アテにならない部品がざっと50ほどあるわね……」
その対応にかかりきりになっていた彼女は知らなかったのだ。
「ガンキャノンの性能をあてにしすぎる、戦いはもっと有効に行うべきだ」
「な、なに?」
「甘ったれるな。ガンキャノンを任されたからには貴様はパイロットなのだ。この船を守る義務がある」
「い、言ったな」
「こう言わざるをえないのが現在の我々の状態なのだ。やれなければ今からでもサイド7に帰るんだな」
「やれるとは言えない。け、けど、やるしかないんだ。僕にはあなたが……」
「憎んでくれていいよ。ガンキャノンの整備をしておけ、人を使ってもいい。アムロ、君が中心になってな」
ブリッジでブライトとアムロ少年の間にこのような会話が交わされていたことを。
その会話にはガンダムのダムの字も出ていないことに。
そして、テム・レイ博士の存在がまるっと居ないことにされていることに。
聞いていたら彼女は『人形姫の氷の微笑み』を浮かべながら元凶と思われる人物に詰め寄ろうとしていたはずだ。
「ねぇレイ博士、一つ聞いてもいいかな? ガンダム、ちゃんと作ったよね? 趣味のトンデモ発明にかまけて本分を疎かにしちゃったんじゃないよね?」
と……
次回予告
シャアのムサイが補給を受ける。
この隙を突こうとコア・ファイター、ガンキャノン、ドラケンE改が強襲をかけた。
しかしシャア以外にもジオンには兵士がいた。
戦士の叫びが轟き、『はわわ!』と怯えることしかできないサラ。
ミヤビは彼女と共に死地を脱することができるのか!?
次回『敵の補給艦を叩いて砕く』
ミヤビがやらねば誰がやる!
大変お待たせしました、モビルスーツ戦です。
輻射波動を使ったりパルマフィオキーナ(もどきですが)を使ったりとすごい話になっていますが。
これでようやく第2話が完結しましたが、TV版の1話分のお話に3万文字近くかかるなんて、おかしいですよカテジナさん!
四分割しましたが、それでも苦しい。
次回はもう少し短くなるといいなぁ……
なお、最後のテム・レイ博士を問い詰める主人公のセリフはkonkon2様からいただいたご感想を元にさせてもらっています。
このようにいただきましたご意見、ご感想等は作品作りに生かさせてもらっています。
お気軽にお寄せ下さい。