ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第21話 さよなら、リュウさん…… Cパート

「やったか?」

 

 爆発に包まれたドラケンE改に、マゼラトップの操縦手は撃破を期待するが、

 

「ば、馬鹿な、直撃したはずだぞ!?」

 

 爆炎を抜けて健在な姿を見せる紅蓮に染められた機体に己の目を疑う。

 あんな小型の機体がマゼラアタックのZIM/M.T-K175C、175ミリHEAT弾に耐えられるはずがないというのに。

 そしてドラケンE改についての情報を思い出す。

 

「バリアーかッ!?」

 

 

 

『輻射波動機構の全力開放が成功しました』

 

 サラによる状況報告をミヤビは機体を操りながら聞く。

 

 輻射波動機構とはミヤビの前世の記憶の中にあるアニメ『コードギアス』でナイトメアフレーム『紅蓮弐式』が右手に備えていた攻防一体の必殺兵器であり、ミヤビからその原理を聞いたテム・レイ博士が宇宙世紀の技術で実現化したものだ。

 甲壱型腕ビームサーベルの備えるIフィールド発生装置に組み込まれた電磁波発振器から高周波を短いサイクルで対象物に直接照射することで、膨大な熱量を発生させて爆発・膨張等を引き起こし破壊するというマイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステム。

 

『輻射障壁の展開によるアクティブ防護システム作動を確認。敵砲撃の空中撃墜に成功』

 

 そしてアクティブ防護システム(APS:Active Protection System、アクティブ・プロテクション・システム)とは、旧21世紀には開発されていたミサイルや銃砲弾による攻撃をその弾がまだ空中にある間に撃墜、無力化するものだ。

 先ほどドラケンE改は甲壱型腕ビームサーベルが発生させた輻射波動をIフィールド制御板を兼ねた三本のクローを利用して輻射障壁と呼ばれる直径5メートル弱のフィールド状に展開。

 これによりマゼラアタックの175ミリHEAT弾(成形炸薬弾)を機体に届く前に爆発させたのだ。

 つまりジオン軍が想定しているような物理的なバリアーを張ったわけではない。

 

 当然、爆発による影響は受けるが、メタルジェットは有効距離がわずか数十センチ程度であり、装甲に到達する前に作動させてしまえば空中に散ってしまう。

 もっとも成形炸薬弾は爆薬のエネルギーの70パーセント以上がメタルジェットにならずに周囲に飛び散ってしまうものでもあるので、

 

『各部被害甚大! か、辛うじて回避行動は取れるでしょうけど、もう戦えません!!』

 

 サラが悲鳴交じりに報告するとおり、175ミリなどという化け物砲の爆発はシャレになっていなかった。

 アニメ『ガールズ&パンツァー』にも登場していたソビエト連邦重戦車KV-2『ギガント』搭載の152ミリ榴弾砲は、至近距離で榴弾が炸裂しただけで爆風の衝撃により敵戦車を吹っ飛ばすものだった

 さながらゲーム『スーパーロボット大戦』シリーズのマップ兵器のごとき代物だが、それよりも大口径な化け物砲なのだ。

 

「と、とにかく出直しましょう!」

 

 帰って予備機で再出撃。

 それしか取れる手はない。

 

 幸いマゼラトップの飛行時間は五分程度で、攻撃してきた一機はここで脱落。

 エンジンも一つ潰せたのでカーゴのスピードも落ちるはず……

 

(いや、落ちてない! 特攻狙いだからって後先考えずに過負荷運転してるでしょう!!)

 

 かなり詰んできている状況だった。

 

 

 

「1、2、3番はまったく出力が上がりません」

 

 ホワイトベースの右舷エンジン、4発のうち動かせるのは一つだけだった。

 

「構わん。ミライ、離陸しろ」

 

 ブライトは一つでも動けばいいとばかりに割り切る。

 まぁ、アメリカ海軍機が双発エンジン仕様にこだわっていたのもこのようにエンジントラブルがあっても無事なエンジンが残っていれば何とか飛べるからであるし、非常時において片肺運転というのは軍用に限らずどこでもやられている手法だ。

 

 ミヤビの前世の勤め先である某重工だと自衛隊向けの艦艇やジェットエンジンなど以外でも、民需のエネルギー・プラント、要するに発電所の発電プラントでも機器の片肺運転を可能としていた。

 これにより、故障が起きても最大出力こそ抑えられるものの運転の継続が可能となっていた。

 もっともミヤビの時代の主流だったコンバインドサイクル発電、つまりガスタービンを回すだけでなく、その排熱で蒸気を作りタービンを回してエネルギーを回収する発電プラントでは、機器は1系統で主要なファンやポンプにも予備機は無し、つまり片肺運転などできず、どこかの機器に異常があれば即停止というのが主流だったが。

 これはガスタービンはあまり大きくできないこともあって複数の発電機をまとめて1ユニットとしたためで、ユニット単位で考えれば、故障したガスタービンを止めても最大出力がその分減るだけで運転が継続できる、つまり片肺運転と変わらず(むしろ片肺運転のように熱効率が落ちない、さっさと止めて修理できるので有利)、という設計思想からくるものだった。

 要するにアメリカ海軍機の双発エンジンと同様の扱いである。

 

 ただ……

 日本では上の人間がそれを理解できず、ガスタービン一台単位でトラブルをカウントしたために現場の技術者は地獄を見る羽目になったのだが。

 設計思想どおりに考えればガスタービンが一台停止しても最大出力が抑制されるだけなのだが、これが発電ユニットの非常停止や計画外停止とカウントされ再発防止策を立て報告書を提出しろと迫られる……

 担当者は通常の三倍どころでなく発生するトラブル対応に追われ、

 

「そこまで要求するなら構成機器に冗長性を持たせ、予備機を付けろよデコ助野郎!」

 

 と叫んだとか。

 

 そして低出力でも何とか動き出すホワイトベース。

 しかしそのスピードはあまりにも遅すぎた。

 それもあって、ミライはフラウに確認する。

 

「フラウ・ボゥ、ガンキャノンの発進は大丈夫ね?」

「は、はい、大丈夫のはずです」

 

 ホワイトベースに走る衝撃。

 それに耐えつつもフラウはモビルスーツデッキに問い合わせる。

 

「ガンキャノン発進どうですか?」

 

 推測で答えてはいけないし、聞かれてから確認するようでは遅すぎるのだが、それも素人ゆえ仕方がないところか。

 

『行けます』

 

 答えたのはドラケンE改で甲板員の代わりをしているサラ。

 そしてアムロも、

 

『ああ、メカマンがみんな怪我をしていて大変だったところを、ミヤビさん、そしてサラたちが手伝って修理を間に合わせてくれたみたいなんだ』

 

 ラルの意識が戻らない、メッセンジャーにしたコズンも当てにならないという状況でテンパったミヤビが、

 

(それでもアムロなら…… アムロならきっと何とかしてくれる……!!)

 

 と他力本願に走った結果、ドラケンE改の予備機、そしてモビルドールサラまで動員した体制で何とかしたのだ。

 実際、ミヤビの前世でも補修作業に活用するドローンというのは導入されていたし。

 なおモビルドールサラの存在がサラツーたちサラシリーズにばれた結果、その義体の壮絶な奪い合いが発生し、ミヤビは『一人に一体、専用義体を下さい』と迫られることになったのだった。

 

 

 

「ガンキャノン、行きます!」

 

 アムロの操るガンキャノンが出撃する。

 ミヤビの知る史実では人手不足からガンダムは修理作業中でAパーツ、Bパーツがコア・ファイターに接続されておらず、デッキ内で接続もできない有様。

 コア・ファイターで出撃してから空中換装でドッキングさせていたのだが、それに比べればかなり余裕がある。

 

 なお、その史実での空中ドッキングシーンは、コア・ファイターの機体角にあるRCS(Reaction Control System,姿勢制御システム)、つまり姿勢制御用の小スラスターの噴射が見て取れるという点で興味深いものとなっていた。

 大気圏内外両用戦闘機であるコア・ファイターでは、翼を使って方向転換するという手段の使えない宇宙空間での姿勢制御用にRCSは必須で、プラモデル『U.C.HARD GRAPH 1/35 地球連邦軍 多目的軽戦闘機 FF-X7 コア・ファイター』でも設定画が書き起こされ再現されていた。

 それを空中合体時、コア・ブロック変形後の姿勢制御に応用しているわけである。

 

 

 

「これ以上ホワイトベースに触らせるものか」

 

 ビームライフルでサムソン・トップを撃墜するアムロ。

 しかしそれを見たザクは弾の切れたマゼラ・トップ砲を投げ捨て、ホワイトベースへと取り付いてしまう。

 腰のスカート部にマウントされていたヒートホークを抜き、ホワイトベースのエンジン装甲をかち割り始めるザク!

 アムロはとっさにビームライフルをザクに向けるが、

 

「し、しまった、狙い撃ちはできても、ここからじゃホワイトベースまで傷つけてしまう。格闘戦に持ちこむしかないのか」

 

 アムロはガンキャノンを走らせ、ザクを追う。

 しかし、そこに砲撃が加えられる。

 

「うわあーっ!?」

 

 接近してきたカーゴ、それに取り付けられたマゼラアタックからの攻撃だ。

 アムロはビームライフルを構え、

 

「ん? 待てよ、これは特攻するつもりじゃないのか?」

 

 と、トリガーを絞る前に気付く。

 

「とすれば、あの中は爆薬で一杯のはずだ」

 

 

 

「アムロ、片方のエンジンを潰して! そうすれば……」

『ダメですミヤビさん、さっきので通信装置も壊れちゃってます。通じません』

「ああ、もう!」

 

 史実どおりの展開に焦るミヤビ。

 

 

 

 アムロはガンキャノンでカーゴの突進を止める。

 

「だ、駄目だーっ」

 

 

 

「……特攻させぬつもりか? 小癪な」

 

 ハモンは間近に迫ったガンキャノンをにらみつけ、言い捨てる。

 

 

 

 アムロは頭部バルカンでマゼラトップを狙うが、

 

「あっ」

 

 一瞬早く、ハモンたちのマゼラトップは分離上昇して逃れてしまう。

 

 

 

「フフ、ガンキャノン一機でそれが止められるものか。木馬にぶつかればその中の爆薬で……」

 

 ハモンは命じる。

 

「タチ、ガンキャノンを後ろから倒しておしまい」

『はっ、ハモン様』




 考えてみると175ミリ砲って怖いですよね。
 ミヤビは生き残っているだけでも幸運と言えるでしょう。
 そして次回はサブタイトル回収、
『さよなら、リュウさん……』
 ですね。
 ご期待ください。


> なお、その史実での空中合体シーンは、コア・ファイターの機体角にあるRCS(Reaction Control System,姿勢制御システム)、つまり姿勢制御用の小スラスターの噴射が見て取れるという点で興味深いものとなっていた。

 前の話のマゼラトップの同軸機銃もそうですが、改めて本編を見直すと新たな発見がありますね。
 そして、

> 大気圏内外両用戦闘機であるコア・ファイターでは、翼を使って方向転換するという手段の使えない宇宙空間での姿勢制御用にRCSは必須で、プラモデル『U.C.HARD GRAPH 1/35 地球連邦軍 多目的軽戦闘機 FF-X7 コア・ファイター』でも設定画が書き起こされ再現されていた。

 という具合に、それを拾って生かしているクリエイターの方々がいらっしゃることに感心してしまいます。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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