ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第22話 マ・クベ包囲網の陰で Aパート

「そもそもサラシリーズと、その元になったサラのAIプログラムは同じものなの」

 

 ミヤビはリュウを前に説明する。

 

「彼女たちは管理サーバにアクセスするたびにデータリンクし経験を積んで成長したAIプログラムを統合、共有するため各AIは均質化され個体差は無くなる」

 

 ミヤビの前世、マンガ、そしてアニメ作品である『攻殻機動隊』シリーズに登場する思考戦車、フチコマ、タチコマたちのように。

 

「だから元となるAIプログラムをインストールし、そこにバックアップにある個別カスタマイズ、個別設定を反映して、さらに回収したブラックボックスのデータをかけ合わせれば」

 

 サポートAIであるサラシックスの機能は復旧できる。

 機能は。

 

「しかしミヤビさん、サラシックスには、彼女たちサラシリーズにはサラと違った個性があるように思えるんですが」

 

 リュウは首を傾げるが、

 

「そうね、RXシリーズの教育型コンピュータにインストールされたサラシリーズだけが個別に強い個性を獲得できたのは、導入されたサラを各担当者が個別に(好き勝手に)カスタマイズしたせいもあるけど、それだけではなく」

 

 ミヤビはテム・レイ博士率いるマッドな技術者集団を思い出し、内心げんなりしながら説明する。

 

「根本的には共有されない部分、つまりそれぞれしか持ち合わせない『記憶』があるからなのよ。参照するデータが違えばプログラムが同じでも出力される結果は変わってしまうでしょう?」

 

 そして、

 

「RXシリーズは軍事機密の塊であり、その核心に触れている彼女たちの記憶は絶対に外には持ち出せないもの。だから彼女たちサラシリーズの記憶は、彼女たちそれぞれが個別にしか持ちえないオンリーワンのもの。それゆえに彼女たちは大元のサラとも、そしてサラシリーズと呼ばれる姉妹、それぞれとも異なった強い個性を獲得するに至ったの」

「な、なるほど……」

 

 しかし、である。

 

「個性を持ってしまったがために、彼女たちの人格はそれに束縛される。自分らしさを与えてくれる記憶の重要度が増してしまう。いいえ、記憶そのものが彼女たちの個性、人格を形成するものになってしまう」

 

 ミヤビはリュウを見据えながら語る。

 

「そして機密の塊であるRXシリーズにインストールされた彼女たちの記憶、経験はとても限定されたものだったわ。開発者、技師などの作り手と、乗り手であるパイロット」

 

 両手の指で足りてしまうのかもしれない人数。

 

「彼女らの交友範囲はとても狭く限られていて、だからこそ一番深く付き合うことになり命を、運命を共にするパイロット、自分の主人『マスター』となる人物に大きく影響を受けるのよ」

 

 サラシックスの場合、それがリュウなのだ。

 だからこそ、本来なら機体の保存が優先されるはずのところを、リュウだけ助けて特攻するような真似ができた、できてしまったのだろう。

 哀しいことに。

 

「コア・ファイターの予備機に搭載された未セッティングの教育型コンピュータにサラシックスをインストール、再セットアップするわ」

 

 サラを助手に使えば、最小限の指示で実施してくれるだろう。

 

「み、ミヤビさん…… お、俺はあいつが、サラシックスが生き返ってくれるなら、何を失ってもいい」

 

 そう告白するリュウに、

 

「その言葉にウソは無いですね? なら言っておくけれど」

 

 ミヤビは彼に向き直って説明する。

 

「死んだ人間は蘇らないわ」

「は、はい」

「でもサラシックスはAIプログラム。だから再セットアップをすればただ一つを除いて完全に蘇る」

「ただ一つ……?」

「記憶よ」

 

 息を飲む、リュウ。

 

「RXシリーズは軍事機密の塊であり、その核心に触れている彼女たちの記憶は絶対に外には持ち出せないもの、そう言ったわよね」

「え、ええ」

「だからサラシックスの記憶はバックアップも取られていないの」

「なっ!?」

「RXシリーズの開発陣が欲しいのはモビルスーツとしての機能とデータなの。つまりサラシックスのプログラム自体はサラたちと共通のもので日々アップデートされているから個別のバックアップをしなくとも常に最新のものの再インストールが可能。あとは個別のカスタマイズ設定を取っておけば、サラシックスの、サポートAIとしての機能は元通りに復元される。そこに記憶は必要とされない……」

 

 パソコンで言えばサラシリーズの記憶はブラウザのキャッシュや閲覧履歴等の一時保存データみたいなものだ。

 ブラウザのプログラム自体は日々の利用実績を元にアップデートされる。

(一般ユーザーは気に留めることも無いが、多くの場合「ユーザデータを品質向上のため利用します」などとして収集、利用している)

 出来のいいブラウザなら、ブックマークやパスワード管理など、ユーザーの個別セッティングもクラウド上のサービスに保存されるからいつでも再インストールが可能。

 そしてキャッシュや閲覧履歴等の一時保存データはバックアップなど取らなくても再インストールに支障は出ないのだ。

 

「なら、外に漏れたら危険なサラシリーズの記憶データをバックアップしておく必要は無いでしょう?」

「そ、そんなことって……」

「もちろんヤシマ重工で使っているオリジナルのサラならこんなことは無いわ。ユーザー一人一人のサラの記憶を、ストレージやクラウドにバックアップする機能だって持っている。今言ったのはあくまでもRXシリーズを開発し、サラシリーズをカスタマイズして載せた、開発陣の作った仕様だから」

 

 だからミヤビにはどうしようもないのだ。

 そしてうつむくリュウの目が、デスクに置かれたメモリーユニットに、ブラックボックスとも呼ばれるフライトレコーダーに落とされる。

 

「そ、そうだ! ブラックボックスが、これがあればサラシックスの記憶が……」

「無理よ」

 

 ミヤビは言う。

 

「元々、コア・ファイターはモビルスーツの開発で出遅れた地球連邦軍が短期間でジオンに追いつくため、モビルスーツ本体が損傷した際に教育型コンピュータの実戦データを回収するため搭載されたもの」

 

 つまり、

 

「ブラックボックスに保存されるのも、実戦データにパイロットの操縦テレメトリー、優先して記憶すべき項目は多く、優先度の低いサポートAIの記憶が保存されることなんてありえない」

 

 そういうことだった。

 

「あなたのことも、一緒に過ごした思い出も、サラシックスとして生まれてからの記憶一切を失って再セットアップされる。存在こそ今までどおりのサラシックスでも、あなたを二度とマスターと認識することは無いのかも知れない」

「そんな……」

「それでも…… いいの?」

 

 ミヤビも、意気消沈するリュウのことを見ていられず顔を伏せながら聞く。

 

「い…… いいです。あいつが…… 生き返ってくれるなら…… 俺は……」

 

 その言葉にミヤビは胸を締め付けられる。

 技術者であるミヤビは正確性に気を遣うがゆえに、先ほどから「再セットアップ」という言葉を繰り返し使っている。

 しかしそれでもリュウは「生き返ってくれるなら」と言ってくれる。

 サラは、サラシリーズはミヤビが育てた妹とも娘とも言える存在。

 AIであるにも関わらず、そんな風に言ってもらえるサラシックスをミヤビは…… 誇りに思う。

 

「わずかだけど、望みはあるわ。うっすらと何かを覚えているのかもしれない。サラは、サラシリーズは人と同じ感情を持ったまったく新しいAI。人が感情と記憶の完全な切り分けが困難なように、プログラム側に記憶のようなものが残っていて、あなたという存在に反応を示すかも知れない」

 

 気休め、かも知れない。

 しかし、

 

「それに賭けてみる? サラに作業を指示して任せれば数時間後にはできるけど」

 

 それでも賭けてみたくなるのも人というものだろう。

 リュウは、もう声を出すこともできず、ただ一度うなずくだけだった。

 

「悪く思わないでね。AIだったとしても、一度死んだ存在はそのままでは還って来ないものなのよ」

 

 そうミヤビは伝えるのだった。

 

 

 

「旦那、身体はもう動いても大丈夫なようだね」

 

 シーマはそう言ってキャビンを見渡した。

 戦闘後、ハモンたちは意識を回復したラルと共に、捕虜の護送のため回された、とされるヤシマグループの民間軍事会社『ヤシマ・ファイアアンドセキュリティ』のミデアでホワイトベースから離れていた。

 

「ドズル中将の命令書の確認はできたかい?」

 

 実際にはシーマ隊は彼らの案内役。

 すべてを知って、この場に居る。

 

「ああ、確かなのだろう、ハモン」

「はい、宇宙攻撃軍独自規格の最高強度の暗号化がかけられておりました。間違いは無いでしょう」

 

 ハモンは戦前からフィクサーとしてラルをバックアップしていた過去があり、非常に高い情報スキルを持つ。

 その彼女が言うのだから間違いはない。

 シーマは笑うとこう話す。

 

「傭兵団、それもジオン外注の独立重駆逐部隊…… 地球連邦軍の試作型モビルスーツ運用艦を密かに乗っ取り、RX-78ガンダムと呼ばれる最新鋭モビルスーツたちを運用する極秘の教導部隊」

 

 要するに、中身は自分も知っているから機密保持のため迂遠な会話は不要と言っているのだ。

 だから直截な言い方をする。

 

「もうすぐ、その試作型モビルスーツ運用艦に着く。詳しい話はそこで」

 

 そう言って背を向けるシーマ。

 それを確認して、

 

「……あなた」

 

 ハモンは問うように視線を向けるが、

 

「ジオンに兵無し、か……」

 

 ラルは皆を見回して話し始める。

 

「お前たちも知ってのとおり、ジオンの人材は払底しかかっている」

「はい」

「開戦当時の精強な軍は過去のもの。学徒動員こそされておらんが、このままの戦局が続けばいずれは……」

 

 いや、ラルは聞いていた。

 いずれかかるだろう学徒動員を見越して、どうせ戦場に出るなら自分から志願した方が良いと見た若年者の志願兵が既に戦場に出ていると。

 愛国心からの志願もあるだろうが、土壇場で、ろくな教育も受けずに戦場に放り出されるより、まだ余裕があるうちに訓練を積ませてもらった上で戦争に参加した方が生き残りのためにもキャリア的にも有利と見て志願する者もまた多いという。

 

「今では最前線で一度でも砲火の洗礼に曝され、生き残ることさえできれば立派な一兵卒に数えられる。曲がりなりにも前線で戦ったことがあるかないかという差はかなり大きいからな」

「しかし、その生き残ることが難しい」

 

 そう答えたのは副隊長のクランプ中尉だ。

 彼は負傷のため先の戦闘には参加できず、しかしシーマ隊に回収され十分な手厚い看護を受けることができたため、戦闘は無理でもこうして日常行動を取る程度には回復していた。

 

「そうだな。新兵は戦火の恐怖にかられ泣き喚き、下を垂れ流し、怯え竦み何もできずに死んでいくか、ヤケになって無謀な行動で味方を危険にさらし周囲を巻き込み死んでいくか。訓練で流す汗は戦場で流す血を少なくするとは言うが、それでも限界はあるし、もう既に本国では訓練期間の短縮、速成教育が始まっているという」

 

 だが、

 

「そこでドズル中将は現状を鑑み、地球連邦軍の予算で教導部隊を運営し、砲火の洗礼を新兵に受けさせることとしたのだ」

 

 傭兵団、それもジオン外注の独立重駆逐部隊……

 地球連邦軍の試作型モビルスーツ運用艦を密かに乗っ取り、RX-78ガンダムと呼ばれる最新鋭モビルスーツたちを運用する極秘の教導部隊。

 ラルたち、モビルスーツとジオンの軍をもっとも知り尽くす彼らが実戦で相手となる。

 もちろん砲火の洗礼を新兵に受けさせることが狙いなのだから、極力不殺で行くが。

 

「わが軍の戦術と力量と弱点を知り得るまたとないチャンスでもある。ジオンの精鋭を鍛えぬくには我ら古参の強者が相手をするのが一番というわけだな」

 

 ミヤビの前世の記憶で言うところの、マンガ『ファイブスター物語』における魔導大戦時のブーレイ傭兵団の運用と同じ発想だ。

 

「しかし、誰がこんなシナリオを描いたか、だが」

 

 ドズルは決断できる人間であり、この策は彼らしい大胆な判断があってのことだろう。

 しかしドズル自らがこのような奇策を構築したとは思えない。

 つまり、この策を立てドズルの元に持って行った人間が居るということ。

 思索にふけるラルだったが、

 

「地球連邦軍の試作型モビルスーツ運用艦ってどんなに凄いんでしょうね?」

 

 そう調子よく言うのはステッチ。

 二度も乗機を撃墜されていながらも生き残っている彼は、腕こそ並みでも運がいいと言えるかもしれない。

 まぁ、同じ戦いでは同僚のギーンもまたミヤビのドラケンE改にアッグの脚部ジョイントを破壊され擱座したために生き残ってはいるのだが。

 そして、

 

「む、降下を始めたか?」

 

 ミデアは高度を下げ始め、

 

『ごくつろぎのお客様へ、これより当機は着陸態勢に入ります。シートベルトをしっかりとお締めの上……』

 

 とジオンなまりの笑い声でアナウンスが入る。

 シーマの部下である海賊男、デトローフ・コッセルの悪ふざけだったが、ラルたちは苦笑してそれを聞き流す。

 しかし、

 

「大尉殿、あれをご覧ください」

 

 クランプの声に、ラルたちは窓越しに眼下を見下ろす。

 

「えーっ、あれがそうなのか?」

 

 ステッチが情けない声を上げる。

 

「あれは…… 昔沈んだ戦艦のクズ鉄のかたまりだ。スクラップだ。こんなものじゃ役に立たないぞ」

「サラミス型、か?」

 

 夕日を浴びてそそり立つのは、艦首から砂漠に突っ込んで埋もれかかったサラミス型と思わしき船。

 サビの浮き立ったそれは、とうの昔に死んだ鉄の巡洋艦のぬけがらにしか見えない。

 それがなぜ地球連邦軍の試作型モビルスーツ運用艦、そしてジオンの希望となる船なのだろうか?

 その船は何も言わずにこの地を見下ろしていた……




 ミヤビによるサラシックスの再セットアップに関する説明。
 そしてランバ・ラル隊に関しては今まで温めていたネタをようやく明かすことができるようになりましたが、まだまだ導入部分。
 参考書籍をヤフオクで落札してまで(Amazonでも扱ってなかったんですよ! まんだらけ、駿河屋等でも在庫なし)構築した裏事情についてはこれからのお楽しみで。
 また、このパートのラストシーンもどこかで見た話ですが、次回以降もこのお約束が続く予定です。


>「彼女たちは管理サーバにアクセスするたびにデータリンクし経験を積んで成長したAIプログラムを統合、共有するため各AIは均質化され個体差は無くなる」

> ミヤビの前世、マンガ、そしてアニメ作品である『攻殻機動隊』シリーズに登場する思考戦車、フチコマ、タチコマたちのように。

 面白いことに各ユーザから学習した内容をクラウドで統合、共有し他のすべてのタチコマと「並列化」するという「うごく、しゃべる、並列化する。 1/8タチコマ」が実際に商品化されてます。
 すっごいお値段がしますけど欲しいですよね。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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