ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第24話 黒い三連星、第四の刺客!? Aパート

 大破したホワイトベースを救助するために連邦軍より出発したミデア輸送隊は、グフとド・ダイYS要撃爆撃機に襲われた。

 急を知って駆けつけたミヤビたちは、テム・レイ博士が制作した新型機、ドラケンE改可翔式の力を使うことでこれを殲滅した。

 

「全高5メートルにも満たないミドルモビルスーツに核融合ジェネレーター搭載して空飛ばすってありえないんですけど……」

 

 ミヤビは到底納得してはいなかったが。

 

 

 

「おふざけでない!」

 

 ここにも納得していない女性が一人。

 キシリアは配下の将校を前に、ファイリングされた書類を投げ捨て言い放つ。

 

「まったく問題にならぬプランです。地球連邦軍の包囲の中からマ・クベはどれだけ貴重な資源を送り届けてくれたか、お忘れか? モビルアーマーの実用化もすべて……」

 

 そこで将校のうちの一人が進み出て、

 

「おそれながら、それでありましては軍の権威が」

 

 と言うものの、無言でつかつかと歩み寄るキシリアの鋭い眼光に気圧され、さらに頬を打たれ、黙らせられる。

 

「男子の面子、軍の権威、それが傷つけられてもジオンが勝利すればよろしい」

 

 と言うだけでは反発を産むだけ。

 だから、

 

「その上であなたの面子も立ててあげましょう」

 

 と続ける。

 まぁ、それぐらい両立する手立てはあるし、そもそも立案して持って来い、という話であるのだが。

 

「地球での白兵戦用のモビルスーツはシャア中佐に回す手立てをつけなさい」

 

 続けて出された指示には別の将校から、

 

「しかし、今すぐという訳には」

 

 という戸惑いの声が上がるが、キシリアは一顧だにしない。

 

「当たり前です。シャアがマッドアングラー隊に降りるまでに間に合えばよい」

 

 シャアは今、ララァをフラナガン機関に託すために宇宙に上がっていた。

 マッドアングラー隊への赴任はその後の話である。

 

「それにだ、各部隊に配属中の重モビルスーツで地球の戦闘に耐える物があるはずです、それを回すことも考えるべきでしょう」

「あ、はあ」

 

 冴えない様子の部下たちだが、まぁ、これはキシリアのせいでもある。

 上の人間にこのような態度を取られては、下は委縮するばかり。

 思考も守りに入ってしまうため、自由な発想も、冒険的な試みも生まれることなく、部下たちの成長もまた無い。

 それでもキシリアも、

 

「ドムを回しましたか? 三連星に」

 

 と、最初にビンタを食らわせた将校に声をかけ、

 

「は、既にマ・クベと合流すべく衛星軌道より発進した頃でありましょう」

「それでよい、それで」

 

 と、フォローはするのだが……

 

「すべて臨機応変にな」

 

 そう告げるキシリアは、自分の意思に従うだけのイエスマンを作っているに過ぎないということに気づいていなかった。

 要するに人材育成が下手どころか、害悪にしかなっていない。

 彼女にはシャアやマ・クベなどのように最初から優秀な人材しかついて行けず、ミヤビの前世の記憶の中にある『機動戦士ガンダム』ではその優秀な人材すら使い捨て、

 

「赤い彗星も地に落ちたものだな」

 

 などとうそぶく始末だった。

 

 これだから兄ギレンは彼女を歯牙にもかけないのだ。

 組織とは目的を達するための集合体。

 一人で突出するより全体の力を底上げした方が成果を上げられるのだから……

 

 

 

 そして、ザンジバルが地球に向け降下する。

 そう、月を占領するキシリアには地球上の戦いにみずから出撃する訳にはいかなかった。

 各地での戦いが不安定であったからだし、留守を任せられるような部下を育てていないからでもある。

 彼女にできることといえばジオンの黒い三連星と渾名される直属の勇士たちをマ・クベの元に送り届けることぐらいであった。

 

 

 

「それで、何ですこれ?」

 

【挿絵表示】

 

 ドラケンE改可翔式を前に、テム・レイ博士と話し合うミヤビ。

 とても嫌、というか聞きたくも無いのだが放置するわけにもいかない。

 内心ではげんなりしている彼女だったが、例によってその美貌は凍り付いたように感情を表には出さない。

 怜悧で理知的。

 そんな真顔で聞かれたテム・レイ博士は喜色満面の笑顔でこう語る。

 

「よく聞いてくれた。このドラケンE改可翔式は見てのとおり、君の設計したアップデート案を実現したものだ!」

「はい?」

 

 身に覚えがないミヤビの前に、ファイリングされた資料が出される。

 そこには確かにミヤビの手によるものと思われる図面があり……

 

「まさか……」

 

 そうよ、そのまさかよ!

 という話。

 例によって寝ぼけた彼女が書いたのだ。

 

 ミドルモビルスーツであるドラケンE改を大気圏内で飛行させるにはどのような手段があるか。

 夜に弱く寝ぼけていて、しかしその変わらぬ表情から周囲にはそれを悟らせないミヤビはテム・レイ博士から聞かれて考えた。

 彼女の前世の記憶の中にあったモビルスーツ運搬機(キャリアー)であるライトライナーやコルベットブースター、その宇宙空間戦闘用とも言えるジム・インターセプトカスタム装備のフェロウ・ブースターのような形式が現実的か。

 こういった飛行ユニットを実現するにあたり、従来あるものを流用するならコア・ファイターの胴体部ぐらい小さければ搭載が可能だろうか?

 ということで検討したが、ミヤビの持っていたイメージ以上にコア・ファイターは小さかった。

 それなら『銀河漂流バイファム』登場の飛行オプション『スリングパニアー』と同様の機構でいいんじゃないか、という発想で書き上げたのがこれ。

 

 記憶にはまったく残っていなかったが。

 

「RX計画における中核システムとして開発された『コア・ファイター』は本来パイロットの保護と生還率を向上させるために開発された。そしてモビルスーツからの脱出装置としては破格の機能と性能を付与されたのだが、その後、問題が発生した」

 

 重々しく語るテム・レイ博士。

 

「量産機への採用見送りだ。これによりそれまでに準備した生産ラインなどが一気に宙に浮くことになった」

 

 この辺はミヤビの前世の記憶における史実と一緒。

 ただしRX-78ガンダムがペーパープランで終わったこの世界。

 テム・レイ博士の言う量産機がどんなものなのかはミヤビには分からなかったが。

 

「しかし一方でこのホワイトベース隊を始めコア・ブロックシステムを有するモビルスーツを運用している部隊がいくつかあったことから交換用の部品などを生産し続けなけらばならず。その実情に我々も、そしてコア・ファイターの開発元であるハービック社も頭を悩ませることになったのだ……」

 

 そこで生まれることになったのが、

 

「そんな中、考案されたのがコア・ファイターに不足していた火力と機動力、および航続力を一種のブースターユニットとして装着することにより補うことでコア・ファイターを戦力化し量産。コストパフォーマンスを引き上げようというプラン、コア・ブースターだ」

 

 図面を前に説明するテム・レイ博士。

 だったらそっちを持ってきて欲しかったと思うミヤビ。

 残念ながら今回の補給にコア・ブースターは含まれていなかったのだ。

 

「だが、これもコア・ファイターを使い続ける限り高価にならざるを得ないと判断され計画は変更。コア・ファイターの一部のみを使用しなおかつ武装を実弾系に換装したジェット・コア・ブースターが採用されたことで問題は振り出しに戻る」

 

 指し示されるジェット・コア・ブースターの図面。

『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』に登場した、コア・ファイターの機首部分を流用し、コア・ブースターをもとに新規設計した胴体部を持つ戦闘爆撃機だ。

 別名コア・イージー。

 

 なお、これらのプランは同時並行で進められており、ジェット・コア・ブースターも『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』第7話で登場したように史実どおり現時点で既に完成、製造、実戦配備が開始されている。

 

「そこに救世主のごとく現れたのが君のもたらしたプラン『ドラケンE改可翔式』だ!」

「ええー……」

 

 こんなものが?

 作業機械が元のミドルモビルスーツ、ドラケンE改にこのコア・ファイター流用の飛行ユニットは過剰に過ぎる代物では、と思うのだが……

 

「このサイズで航空、航宙用の熱核ジェット、ロケットエンジンとしても働く核融合ジェネレーターを搭載し、モビルスーツ単独での飛行を可能とした機体であり、ビームサーベルも制限なしに使用が可能。画期的なことだよこれは!」

 

 しかも、

 

「ジェット・コア・ブースターはコア・ファイターの機首部分のみを流用し、ドラケンE改可翔式は余った胴体部分のみを利用する」

 

 まるで計ったかのように現状の問題にかっちりとはまり込んでしまったのだ。

 

「少なくともハービック社がコア・ブースターの制式採用を見込んで先行生産させてしまったコア・ファイターの余剰分は、このドラケンE改可翔式を生産することで解消するという話だ」

 

 つまりこの機体の少数量産についてはもう決まってしまったということ。

 そういえば『機動戦士ガンダム MS IGLOO 2 重力戦線』ではオデッサ作戦にコア・ファイターが参加していた。

 少しでも戦力をかき集めるためにどこかから持ってきたのかと思ったが、案外正史でもこの余剰分が充てられていたのかも知れない。

 だが……

 

「ハービックさん、何やってるんですか……」

 

 呆れるミヤビ。

 しかしハービック社はそういう会社だ。

 史実でもコア・ブースターやその系列機体、そしてGメカの製造のため設備投資を繰り返し、ジャブローに匹敵する設計製造システムを導入。

 挙句、ジェット・コア・ブースターの大量受注を見越して生産ラインを整えていたが、突然の終戦によって戦闘機の発注が激減して負債を抱え、経営難から宇宙世紀0082年6月にアナハイム・エレクトロニクス社に吸収合併されていた。

 

 ハービック社の破綻は『イノベーションのジレンマ』と言われるものだ。

 ハービック社は地球連邦軍のフラットマウス、セイバーフィッシュ、トリアーエズ、フライダーツ、TINコッド、そしてRXシリーズの中核ユニットを担うコア・ファイターを開発した航空機メーカー。

 彼らは自社の優位性のある領域である航空機に固執した。

 RXシリーズも、中心はコア・ユニットであるコア・ファイターであり、上半身、下半身を構成するAパーツ、Bパーツは各任務を遂行する上でのオプションパーツという認識だ。

 史実におけるGメカは、その延長線上の考え方でハービック社が開発したものだ。

 

 自社の強みを強化するのは企業戦略の基本。

 ハービック社の対応は間違っていないはずなのだが、実際には彼らは自らの得意技、航空機にこだわることでモビルスーツという破壊的イノベーションの波に乗り遅れてしまったのだ。

 これが『イノベーションのジレンマ』と言われる現象だ。

 真空管ラジオの音質にこだわったラジオメーカーは、ソニーのトランジスタラジオをオモチャと侮り消えた。

 カメラフィルムメーカーは自社の技術に自信があるからこそ、初期の低解像度のデジタルカメラを軽視しイノベーションに乗り遅れた。

 そういうことである。

 

 なお、史実と違いGメカの開発が無い分、

 

「ハービックでもとうとう自社の方針に疑問を覚え、このままでは過剰投資による経営悪化、倒産が避けられないと悟った様子でね」

 

 とテム・レイ博士が語るとおり、先行きが怪しいことに早めに気付いたらしい。

 要するに技術に自信があるが故に、開発しているものがあるうちは、それに注力することで活路ができると信じる。

 しかし開発しきって次の案件が無くなると、我に返ってこのままでいいのかと自問する余裕ができるということ。

 

「そこに降って現れたこのドラケンE改可翔式のコンセプト。君はまさに彼らの救世主だよ。さっそく君の父上に業務提携と財政支援の要請を行い、量産化に向けての折衝をしていたね。この分だとヤシマ重工に合併・買収(M&A)されていく流れかな?」

「はい?」

 

 ナンデ?

 

「設計者はテム・レイ博士になりますよね、これ」

「いや? 君が起こした基本設計をサラ君がブラッシュアップしたものだったが、基本的にそのままで組めたよ。何しろ機構が簡便なうえ、手を入れる箇所も少ない。特にコア・ファイター胴部はほぼ変える必要が無いものだしね」

「サラちゃん?」

 

 肩の上に居るモビルドールサラに聞くが、彼女はあきれ顔でミヤビの耳元に顔を寄せるとこうささやく。

 

『また寝ぼけて記憶に無いんですね? そうですよ。ミヤビさんの指示でドラケンE改の予備機を含めた機体制御コンピュータの並列動作で1晩かけて仕上げました。コア・ファイター側の詳細データはテム・レイ博士がくれましたし』

 

 そういうことらしい。

 そもそもドラケンE改側の修正だってそう難しいものでは無い。

 本体胴部と一体となっているように見える背面ロケットエンジンだが、実際には亀の甲羅(タートルシェル)と呼ばれる別ユニットになっていて、背面装甲と一緒に丸ごと簡単に外すことができる。

 これは整備性を上げると同時に、ロケットエンジンの不具合時に強制排除することで爆発に巻き込まれることを回避するためのものだ。

 そうしてロケットエンジンを排した背面に取り付けステーを追加しただけ。

 まぁ、強度を出すためにメインのステーは本体フレームと一体のものに交換されるため既存の機体からの改造は手間だが、新規生産なら特に問題となるようなことでもない。

 

 そもそもドラケンE改は機体制御OSなどの核心技術部分や軍事に関わる機密部分以外はミヤビの提案でオープンアーキテクチャにされており、機体の互換部品の製造は元より整備、メンテナンス業も連邦政府の認定を受けた業者なら誰でも参入が可能。

 そして「純正部品がなくともドラケンは組める」と言われるほど豊富なサードパーティ製改造パーツが販売されており、その分解、改造、組み立ては民間の町工場レベルの施設でも問題なく実施できる。

 つまり、このドラケンE改可翔式はコア・ファイターの胴体部さえあればその程度の施設で、ちょっと腕のある技術者なら誰でも組める代物なのだった。




 ドラケンE改可翔式がどうして作られてしまったかのお話でした。
 少数生産で終わるか、本格量産されるかは今後の展開次第ですね。

 次回はサブタイトルどおり『黒い三連星、第四の刺客!?』が登場の予定です。
 ご期待ください。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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