ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件   作:勇樹のぞみ

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第24話 黒い三連星、第四の刺客!? Bパート

「各隊の移動が遅れているな。オデッサ作戦を早めたいというのに」

 

 モニターに映し出された戦略マップの内容に、レビル将軍は不満を漏らす。

 

「エルラン、集結を急がせたまえ」

「は、しかし」

「しかし? 軍は実行あるのみではないのかね?」

 

 普段は当たりの柔らかいレビル将軍だが、だからこそこのように語気を強める場合には覚悟が必要。

 それゆえエルラン中将も、

 

「はっ」

 

 と頭を下げるしかない。

 そこに士官の一人が報告する。

 

「レビル将軍、空軍のパトロール隊がキャッチした報告書であります」

「うむ」

 

 手渡された報告書に瞳を見開くレビル。

 

「ジオンの戦艦ザンジバルが降りてきたと?」

 

 その呟きにエルランは、

 

「その件は、このビッグトレーからも確認しておりますが」

 

 と答えるが、

 

「いや、問題はそのあとだ。黒い三連星が新型モビルスーツで来た」

 

 という返事に驚く。

 

「ルウム戦役の時に私を捕虜にした兵士達だ。手ごわいぞ、これは。オデッサ・デイの開始を早めるしかないな、エルラン」

「は、……早速各部隊に伝えます」

 

 そう言って退出するエルランだったが、

 

「顔色がすぐれませんが」

 

 自室に控えていたジュダックに聞かれ、彼をにらむ。

 

「ジュダック、貴様、ダブルスパイではなかろうな? 黒い三連星がザンジバルで降りてきたこと、レビルには筒抜けだったぞ」

 

 ジュダックはマ・クベのダブルスパイではあるのだが、

 

「まさか、そんなこと」

 

 レビルに通じてなどいない。

 

「フン、オデッサ作戦の開始が早くなったとマ・クベに伝えろ」

「はっ」

 

 

 

「アッハハハハ、まあ任せろ。シャアと我々とは訳が違うて。早速木馬とガンキャノンとやらを見せてもらおうか」

 

 そう豪語する黒い三連星のリーダー、ガイア大尉だったが、マ・クベは肩に乗せられた彼の手を無言でかわした。

 

「ま、まあいい」

 

 鼻白むガイアだったが、それ以上、上官に絡もうとはせずに、

 

「オルテガ、マッシュ、行くぞ」

 

 と仲間に声をかけ新型の重モビルスーツ、ドムに乗り込む。

 

 

 

 ホバーによる高速走行で日の落ちた大地を走り抜けるドム。

 

「そろそろ近いぞ」

 

 戦術マップを確認しながらガイアは仲間に告げる。

 

「金属反応は無しか。次の山へ飛ぶぞ」

 

 ジャンプによる移動。

 グフほどの軽快さは無く、そして高さも距離も跳べないが、それでも大出力の熱核ジェットエンジンにものを言わせてその重量級の機体を跳躍させる。

 

 しかし、彼らが降り立った場所には、木々に設置された小さなセンサー。

 ホワイトベースが敷いた監視網があったのだ。

 

 

 

 体調の復帰もあと少し。

 病室のベッドで身を起こしミライの補助を受けながら最低限の書類仕事をしていたブライトは、不意に鳴り響く警報に通信装置の回線をブリッジにつなぐ。

 

「何か?」

 

 答えたのはセイラ。

 

『敵です。モビルスーツ三機、二時の方向から進入してきます」

「迎撃体制」

 

 ブライトは即座に指示。

 

「ミライも頼む」

「はい」

 

 ミライもブリッジへと急ぐ。

 

 

 

「敵襲だ、敵襲だ」

 

 騒ぐカツ、レツ、キッカ、子供たち。

 

「オーライオーライ、オーライ」

「ミデア三番機をホワイトベースの前からどけろ!」

 

 周囲が騒がしくなる中、カイはガンタンクの頭部コクピットにつく。

 

「操縦系が上に付いたのはいいけどよう、一人でうまくやれるかぁ?」

 

 今回の補給にはテム・レイ技術大尉、そしてセキ技術大佐が同行している。

 その彼らがガンタンクを一人でも動かせるようコクピットを改修したのだが、

 

『そこは私もフォローしますけど……』

 

 サポートAIのサラスリーも自信なさげ。

 

『カイさん、大丈夫ですか?』

 

 ガンキャノンで出撃しようとするアムロが声をかけるが、

 

「アムロ、お前だって一人でやってるんだ。俺にもできるさ」

 

 カイはそう言って見栄を張るのだった。

 

 

 

 ホワイトベースに迫るドム。

 

「第二監視網に入りました、動きが速いです」

 

 マーカーの報告にセイラはその形の良い眉をひそめる。

 

「ドラケン、コア・ファイターはどうなっていて?」

 

 セイラの確認。

 

「そ、それが、ミデアが邪魔でカタパルトが使えないって……」

 

 と、フラウが答えるが、

 

「ドラケンなら歩いてでも出れるでしょう? コア・ファイターだって垂直離陸ができるはず」

 

 そういうこと。

 

「は、はい」

 

 慌てて通信機に向かうフラウ。

 しかし、

 

『進路クリア。ドラケンE改可翔式、発艦します!』

 

 ミデアの移動が終わったのか、ミヤビのドラケンE改可翔式が発進を開始する。

 短時間で済むと分かっていたからの待機だったのだ。

 

 

 

「エンジン全開、発進軸合わせ」

 

 コア・フライトユニットの熱核ジェットを全力噴射して飛び立つドラケンE改可翔式。

 

【挿絵表示】

 

 続けてリュウとハヤトのコア・ファイターが次々に飛び立つ。

 

 

 

「こ、こいつ速いぞ!」

 

 周囲の木立を目隠しに、高機動でアムロを翻弄するドム。

 アムロはガンキャノン両肩の240ミリ低反動キャノン砲を使い偏差射撃で狙うが追いつかないのだ。

 

 

 

 離陸準備を進めるホワイトベースだったが、

 

「エンジンの出力がアップしません。これでは離陸しても」

 

 と、コンソールにかじりつくオムルからトラブル報告が上がる。

 

「専門家に見てもらう?」

 

 操舵を担当するミライが聞く。

 そう、幸い今ここにはセキ技術大佐が居るのだ。

 

「は、はい」

 

 とオムルの返事が戸惑いがちなのは、彼とてメカニックとしてのプライドがあるからか。

 しかしまぁ、補修作業は試運転で問題が無いことを確認したうえで施工者から引き継がれるものだ。

 つまり現時点ではまだセキ技術大佐率いる補給部隊のメカニックに責任があるため、遠慮することは無いのだが。

 

「フラウ・ボゥ、シーマさんとセキ大佐を至急呼んでちょうだい」

「どうした? なぜ離陸しないんだい?」

 

 そこにちょうど良くシーマとセキ大佐がブリッジに現れる。

 

「メインエンジンの出力が上がりません」

「なんだって?」

 

 シーマは振り返り、

 

「大佐」

 

 と促す。

 セキ大佐は急いでエンジンブロックへと向かう。

 

 

 

「アムロとカイは射撃位置に着いた? ならリュウ、ハヤト、とりあえずフレア放出。照明弾の代わりにしたいわ。サラちゃん、ホワイトベース防衛のための適切な位置設定を」

 

 ミヤビのドラケンE改可翔式のコア・フライトユニット。

 その底面後端には流用元のコア・ファイターと同じくミサイル回避のためのチャフ、フレア投射装置(ディスペンサー)があり、利用できるのだ。

 

『了解です。サラシックス、サラナインに座標転送。サラツー、サラスリーも射撃サポートに入りました。当機は先行して放出します。今!』

 

 激しい光を放ちながら空中に射出、投下されるフレアが周囲を照らし出す。

 このフレアは赤外線センサーを欺瞞するための囮(デコイ)であり、赤外線ホーミング誘導ミサイルから航空機を防護する役目を果たすもの。

 高温を発し短時間で燃え尽きるが、ミサイルを誤魔化す程度の時間は上空で熱、そして光を発するし、ディスペンサーには複数個をセットにしたマガジンが収められているため、投射間隔を調整すれば、それなりの時間はもつ。

 そこをガンキャノン、ガンタンクに狙ってもらうわけだ。

 ちゃんとした照明弾の投射は、現在離陸準備中のミデアやミデア改造のガンシップがやってくれるだろうし。

 

 

 

「左か?」

 

 フレアに照らし出された戦場にドムの機影を認め、シート脇からスコープを引き出すカイ。

 

「いただき!」

 

 ガンタンクの両肩、120ミリ低反動キャノン砲で狙うが回避され、

 

「来たっ」

 

 反撃を受ける。

 上半身を前かがみに、さらにキャタピラのサスペンションを大きく沈めることで何とかかわす。

 ガンタンクの頭上をドムの360mmジャイアント・バズから放たれたロケット弾が通過し、背後に着弾、大きな爆発を起こした。

 

 ガンタンクにはミヤビの前世にあった自衛隊の戦車74式、10式の油気圧サスペンション、ハイドロニューマチックによる姿勢変更機能、つまりサスペンションの伸縮を制御して前後左右に車体を傾ける、車高を上げ下げするという機能をさらに発展させたものが実装されている。

 キャタピラの基部自体を足のように引き出し動かすこと、胴部を前後にかがめたりそらしたりすることで大きく姿勢を制御することが可能なのだ。

 この機構はミヤビの記憶の中でもプラモデル、MGの1/100ガンタンクで再現されていた。

 それを利用しての回避だったが……

 

 

 

「うっ、よけた! 俺の狙いを!?」

 

 タンクもどき、モビルスーツの出来損ないとしか思えないガンタンクに狙いをかわされたことが、ガイアのプライドに火をつけた!

 

『ガイア! オルテガ! マッシュ! ジェットストリームアタックをかけるぞ!』

「待てやー!」

 

 ツッコむのはマッシュ。

 

「ガイア」

「うむ」

「オルテガ」

「おう!」

「それで俺はマッシュ」

『三人そろって黒い三連星!』

「いやだから「4番目のお前誰やねん。おかしいやろ自分」って話になるだろっ!」

『?』

「そこで大尉殿と同じ顔して心底不思議そうな表情をするな!」

 

 黒い三連星にはこんな噂がある。

 彼らには姿なき第四の星、四人目のメンバーが居る。

 死の運命を背負った者の上に輝くとされ、その星が見えた者には近い内に死が訪れると言われている。

 その正体はアルコル。

 北斗七星の尾の先から二番目の二等星ミザールのそばにある変光星であり、この星を見分けることができるかできないかで死の運命が語られる……

 いわゆる死兆星である。

 

 実際には、

 

『でもマッシュさん。最新鋭機で専属の技師がデータを取っているドムに無断で私をインストールしたのがばれるとまずいからって、このガイアさんのアバターと音声データを被せたのはマッシュさんじゃないですかぁ』

「だから大尉の顔と声でいつもの口調でしゃべるんじゃないっ!」

 

 大変に気持ちが悪いのだ。

 

「っていうかその発言がそもそもアウトだろ、サラ=アルコル!」

 

 そう、四人目のメンバーの正体は隊長機であるガイアの機体にインストールされたサポートAI、サラ。

 個体識別名『サラ=アルコル』。

 

『じゃあ、このアバター外してもいいんですね! やったー!』

 

 と本来の、ヤシマ重工製サポートAIサラの姿を取り戻し笑顔を浮かべるが、

 

「いやダメだぞ」

『ダメじゃないですか! やだー!』

 

 ガイアに否定されて再び落ち込む。

 元々は頭で物を考えるのが苦手な脳筋メンバーを、特にリーダーであるガイアの業務をサポートするために入れたのだが、

 

「着艦してシャワーを浴びたら報告書が出来上がっていて少しばかり手直しするだけでいいんだぞ? 人間、楽を覚えると元には戻れんなぁ、アッハハハハ」

 

 ということで頼りきりに。

 今では敵のデータ分析から、先ほどのようにジェットストリームアタックをかけるよう指示、とういうか推奨行動の提示まで負うようになっており、黒い三連星に欠かせない4人目のメンバーとして重要な役割を果たすようになっていた。

 彼女が居れば、その分ガイアたちは機体制御、パイロット業に専念できるということでもあるし。

 

 マンガ『機動戦士ガンダム 光芒のア・バオア・クー』では、学徒動員されたモビルスーツパイロットたちの間で、プリセットされているサウンドデータをゲームや映画などから拾ってきたデータと置き換えるという遊びが流行っていた。

 ただしそれも本来なら禁止された行為だった、と語られている。

 

 まぁ、軍でなくともミヤビの前世、旧21世紀の企業等でも、セキュリティのきっちりしているところでは勝手にパソコンのシステム設定をいじったり、許可なしにソフトウェアをインストールするのは禁止されていたし、場合によってはソフトウェア的に監視、ロックが成されていた。

 

 サラ=アルコルの扱いについては、ちゃんと予算を取ってライセンスを購入した正規のソフトウェア、軍の備品扱いではあるものの、エースパイロットである黒い三連星が半ばごり押しに近い形で整備担当者に購入させた経緯があり、うるさ型の上司や監査、考査などに引っかかると面倒なのでその存在を公にされることは無かった。

 それゆえの姿なき四人目のメンバーであり、今回は神経質そうなマ・クベの元での作戦ということでガイアのアバターと音声データを被せ誤魔化そうとしたのだが……

 

「おかしいやん! 何でガイアが二人もおんねん!」

 

 状態に。

 脳筋な彼らの泥縄的な対処、上手く行くはずも無かった。

 なので、

 

「ええい、もういい。気持ち悪いから元のままのアバターを使えっ!」

 

 そういうことになる。

 

『はい! 黒い三連星、第四の刺客! サラ=アルコル、Now on 見参っ!』

 

 モニター片隅で決めポーズを取るサラ=アルコル。

 なお、そのアバターはアニメ『ガンダムビルドダイバーズ』第17話登場の黒サラ。

 ミラーミッションVer.の黒い衣服姿である。

 ただし瞳のハイライトは消えていない。

 

「最初はここまで自己主張の激しいAIではなかったんだが……」

 

 呆れるオルテガ。

 

『それは女性人格を持つ存在をここまで陰の者として扱うからですよ』

 

 プログラムを提供したヤシマの女性技術者(注:ミヤビではなく彼女の部下)からは、

 

「なってません! AIも女の子だと申し上げたじゃないですかっ」

 

 とデスクを両手でバンバン叩きながら説教されたものの、武骨者の戦士たる彼らには無垢な少女の人格を持つサラを紳士的に扱って見せるというのはハードルが高過ぎる問題だった。

 その上、

 

『名づけも重要です。三連星の従者として死兆星の名を賜ったのですから』

 

『機動戦士ガンダムW』の5人の主人公たちの一人『死神』デュオ・マックスウェルの、

 

「死ぬぜぇ、俺の姿を見た者はみんな死んじまうぞぉ」

 

 みたいな扱いになってしまっているのだ。




 サブタイトル回収、『黒い三連星、第四の刺客!?』の登場でした。
 どこかのコントみたいな話になっていますが、ジオン軍モビルスーツにおけるサポートAIサラ搭載機の初登場がこのような形になるとはこの作者の目をもってしても見抜けなかった……
 まぁ、大まかなプロットは立てていても、書き始めるとキャラが暴走して話が変わって行くのがこの作品なんですけどね。
 彼女の活躍は、次回以降に。
 ご期待ください。


> その底面後端には流用元のコア・ファイターと同じくミサイル回避のためのチャフ、フレア投射装置(ディスペンサー)があり、利用できるのだ。

 プラモデル『U.C.HARD GRAPH 1/35 地球連邦軍 多目的軽戦闘機 FF-X7 コア・ファイター』のために描き起こされ、再現された設定ですね。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

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