最下層に降り立った僕らはプレシアの前に来ていた。
「フェイト……どうして来たの?」
プレシアは驚いた顔で目の前にいるフェイトを見つめた。
「母さん…」
フェイトは、ゆっくりとプレシアに歩み寄る。
「貴女…何しにきたの…?」
プレシアはフェイトを睨む。フェイトは思わず足を止めてしまう。
「私は…母さんを助けにきました」
プレシアは驚きを隠せないでいた。そしてその体は震えていた。
「母さん。私は、母さんに笑ってほしかった…母さんは…さっき私に笑ってくれた……けど、私が見たかった母さんの笑顔は…あんな悲しそうな笑顔じゃない!」
声が大きくなり、最下層にフェイトの声が響く。
「母さんには……楽しそうに…嬉しそうに笑ってほしいの……心からの、本当の笑顔になってほしいの!」
母に伝える娘の想い。フェイトの言葉がプレシアの心を揺り動かす。プレシアはこれまでフェイトにやってきたことを後悔している。だけどフェイトはそれでもプレシアを救いたいって思ってる
「一緒に帰ろう」
フェイトの言葉に、笑顔に、プレシアは目を見開き涙が出そうになる。フェイトは手を伸ばしたまま、プレシアの答えを待つ。プレシアは顔を俯いていた。
「フェイト…ごめんなさい」
プレシアは杖を掲げ、紫の雷をフェイトに放った。その瞬間、僕、友奈、千景の三人で雷を防ぎ、千景はプレシアの前に出た。
「あなたはまだ逃げる気なの?」
「違うわ……千景、貴方は知っているはずよ。私の病のことを」
「病?」
「何だよそれ……」
フェイトもアルフもプレシアの病気について知らないみたいだった。プレシアはゆっくりと語り始めた。
「私は不治の病に侵されている。今、こうしてフェイトの手をとっても……幸せにしてあげる時間は……」
ないっていいたいのか……
「ふざけんな」
僕はそう叫んだ瞬間、その場にいた全員が驚いた顔をしていた。
「幸せにしてあげる時間がないって言わせない……少しの時間でも良いから沢山幸せの時間を与えてやれよ……それに不治の病なんていうのは本当に治せないものなのか?そういうのは色々と試してからにしろ」
「そうだよ。きっとひなちゃんや水都ちゃんたちの力なら……」
「まだ可能性があるってことね」
「あ、貴方達は……どうしてそこまで……」
「僕らは勇者だからだ。勇者っていうのは人々のために……誰かのために戦い、救うんだ。僕はそう思っている」
「勇者……」
「フェイト、貴方はどうしたい?」
千景の問いかけにフェイトはゆっくりと息を吐き、
「私は母さんと幸せに暮らしたい。どんなに短い時間でも……」
「フェイト……」
プレシアがフェイトを抱きしめようとした瞬間、二人がいた足場が急に崩れだした。プレシアは咄嗟にフェイトを突き飛ばした
「母さん!?」
「フェイト……幸せに……」
「させない!」
虚数空間に落ちていくプレシアを千景が腕を掴んだ。
「離しなさい!貴方も……」
「約束……守ってもらっていない……フェイトのことを幸せにするっていうことを……だからこんな所で死なせたくない!」
「千景……」
千景が必死に助けようとするが、千景のいる足場も崩れだし、二人共落ちそうになったが、友奈が千景の手を掴み、僕が友奈の手を掴んだ。
「絶対に離さないよ。ぐんちゃん」
「高嶋さん……」
「ゆっくり引き上げるからな……ほらクロノ、アルフ、フェイト、お前らも手伝え」
「上里くん……ありがとう……」
全員で引き上げ、プレシアを救出することが出来た。アリシアが入っていたケースは虚数空間に飲み込まれたけど……
「母さん、母さん……母さん……」
「フェイト……」
二人の親子の絆は守れたって言うことだな。
それから僕らは時の庭園から脱出し、アースラに戻ると僕だけクロノに呼び出された
「あのな……少しは休ませてほしんだけど……」
「すまない。君に相談したことがあるんだ」
「相談?」
「あぁ、実は言うと……」
クロノの話だとプレシアの犯した罪は重罪で、一生牢屋から出てこれないほどのものだった。
「管理局の立場としてはそうせざる負えない……だけど」
「お前とリンディさんは何とかしてあげたいっていうことか」
「あぁ特に母さんは……」
それで何かしらの意見をほしいっていうことか。まぁ確かに折角幸せな道を歩めるのにな……
だとしたら……
「いい方法がある」
「いい方法?」
僕はクロノに耳打ちをし、クロノは呆れた顔をした。
「そんなものが通じると……まぁ言ってみる」
「僕も行くよ」
僕らはリンディさんのところへ報告しに行くのであった。
報告を終え、僕らは医務室に来ていた。そこではプレシアの病をひなたと水都の二人が鍵の力で治そうとしていた
「ふぅ……」
「これ、疲れますね」
「あ、あの母さんは……」
「大丈夫ですよ。フェイトさん。プレシアさんの病は……」
「体が軽い……本当に治してしまったの?」
「巫女の力で何とかできましたね。ひなたさん」
「えぇ、これからはちゃんと母親として頑張ってください」
ひなたが笑顔でそう言うと、プレシアはうつむいていた。
「でも私は罪を犯したわ。一生フェイトのところにいることは……」
「母さん……私……」
暗い感じになったこの親子。するとクロノはある報告をした。
「プレシア・テスタロッサ。今回の件だが……貴方たち親子は管理局で保護することになった」
「「えっ?」」
二人が驚く中、僕はクロノの代わり報告をした。
「今回の件、ジュエルシードの回収はあくまで善意で集めようとしていたし、局員への攻撃ついても無断で侵入したためによる自己防衛で……災害の方も偶然起きたから……まぁ無罪というわけじゃないけど、罪は軽くなったみたいだな」
「そ、そんな事が……認められるものなの?」
「まぁそういう風に報告はしておいた」
話し終えるとプレシアとフェイトは涙をながすのであった。
「お兄ちゃん、頑張りましたね」
次の日、部屋に訪ねてきたひなたと友奈の二人がやってきた。
「頑張ったって……」
「フェイトちゃんたちのことだよ」
「あぁ、僕はちゃんと救いたかっただけだから……にしてもいつになったら僕らは帰れるんだろうな」
『マスター、そのことですが』
僕の呟きに答えるかのようにアネモネが喋りだした。
『三本目の鍵を扱えたことによって、マスターたちは帰れます』
「帰れるって……そういえば三本目は世界を絆ぐ力があるって言ってたな……もしかして」
『マスターの思っているとおりです。鍵を使えば元の世界に帰れます』
何というか帰還する方法も分かってよかったのかな?
「みんなに知らせるか」
「はい」
「お別れだね……」
友奈は寂しそうにしていた。確かに別れるのは嫌だけど……
『大丈夫ですよ。自由に行き来できるので機会があれば』
「何というか万能すぎだな」
『そうでしょうか?』
いつでも会えるって聞いて、友奈は嬉しそうするのであった。
僕ら三人は若葉たちに帰れることを伝えに行こうとすると廊下でなのはとフェイトの二人が何かを話していた。
「ねぇ、フェイトちゃん。友達になろ」
「でも、私、友達出来た事ないから…どうすれば、友達になれるか…」
「簡単だよ。名前を呼べばいいの」
「名前?」
「うん。君とか貴女とかじゃなくて、その人の名前を呼んであげて。全部そこから始まっていくから」
「……なの…は」
「うん」
「なのは…」
「うん、もう私とフェイトちゃんは友達だよ」
「ありがとう、なのは」
「うん!」
二人は互いのリボンを交換するのであった。友達同士の約束みたいなものだな
「良かったね」
「そうだな」
「所でお兄ちゃん」
「何だ?ひなた?」
「友奈さんには言わないんですか?」
「私に?空君、何かあるの?」
「そ、それは……」
このタイミングで告白しろってか?それは恥ずかしすぎるんだけど……
「空くん?」
「あ、あのさ友奈……お前に伝えたいことがあるんだけど……」
「うん」
「僕はお前のことが……」
告白しようとした時、あることを思った。何で妹の前で告白をしないといけないんだ?
「ってできるか!!」
「しないんですか?」
「お前のいる前でできるか!!ほら、早くみんなに伝えに行くぞ」
「は~い」
「えっと、空君、言いたいことは……」
「友奈、あとでちゃんと伝えるから……それまで待っていてくれ」
「う、うん」
そんなこんなでみんなに帰れることを話した次の日、僕らはなのはたちに見送られていた。
「今回の協力、管理局代表として感謝するわ」
「私達は勇者として当然のことをしたまでだ」
「また会えるんですよね」
「うん、今度遊びに行くね」
「千景……」
「お母さんと仲良くね……フェイト」
「はい……」
お互い挨拶を交わす中、クロノが握手を求めてきた。
「今回は本当に助かった」
「クロノ、お前は少し肩の力を抜け」
「悪かったな。固い男で……」
「まぁそこがお前の良いところなんだけどな……何かあったら連絡は……できるのか?」
『えぇ私や巫女二人が持っている鍵に連絡をしてくれれば……』
本当に便利だな。まぁ何事もなければ良いんだけどな
「とりあえず何かあったら……すぐに連絡しろ。駆けつけるから」
「あぁ」
クロノと握手を交わし、僕はユーノにあることを伝えた。
「ユーノもありがとうな」
「僕は何も……」
「色々と助けてもらったりしてから……」
「空さん……はい」
僕は鍵を掲げると目の前に白い穴が開いた。そして見送ってくれるみんなに向かって……
「またな」
そう言って僕らは元の世界に帰るのであった。
気がつくとそこは丸亀城の前だった。帰ってきたんだな
「そういえばお兄ちゃん、調査のほうどうしましょう?」
そういえば僕らは外の調査をしていたんだっけ?まぁでも
「歌野たちの件を伝えておけばいいし、それに平行世界のことも言っておけば大丈夫だろ」
「本当に大丈夫なのか?」
若葉は心配する中、珠子があることに気がついた。
「ん?寄宿舎の前に誰かいるぞ?」
「大社の人かな?」
「だけど……あの子……」
寄宿舎の前には一人の少女がいた。少女は僕らに気がつき、駆け寄ってきた。
「おかえり。待ちくたびれちゃったよ」
少女が笑顔でそういうが、僕らはその少女を見て驚きを隠せないでいた。さっきお別れをしたフェイトと瓜二つの少女……この子はまさか……
「お前、まさか……」
「はじめまして、アリシア・テスタロッサです」
というわけで無印編終了です。
次回幕間、次次回AS編になります