「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「ん?ひなた……」
目を覚ますとひなたの顔が一番に目に入った。
「珍しいですね。お兄ちゃんが寝坊するなんて」
「あぁ……昨日……」
僕は昨日何かをしていて寝坊したんだっけ?それに……何か大切なことを忘れているような……
「今日は私の買い物に付き合ってくれるんですよね」
「あ、あぁ……」
僕は何かを忘れている気がする……とても大切なことを……
ひなたの買い物が終わり、適当に街を歩いている中、ずっと違和感を感じていた。
「何だか平和だな……」
「ん?平和って?」
「いや、だって……」
何でこんなに平和なんだ?いや、良い事なんだろうけど……何かがおかしい気がする
「……ねぇお兄ちゃん。どうしたの?」
急に声の感じを変えてきたひなた。僕はひなたをじっと見つめながら話を聞き続けた。
「……違和感しかないんだ。平和なのはいいことなんだろうけど……何かが違う気がする」
「何って?だってみんなが平和に過ごしているのが何が違うの?」
あぁそっか……ようやく気がついた。全くこれって何かの試練か何かか?
「お兄ちゃん?」
「確かにこうして何事もなく平和な日々が続くのはいいことだけど……それじゃ駄目なんだ。僕たちはその平和を取り戻すために戦ってるんだからさ」
「……やっぱりお兄ちゃんはすごいね」
ひなたは笑顔でそう言うと、僕らの目の前に光の扉が現れた
「これは闇の書が見せている幸せな夢……人は幸せな夢を見続けることで現実へ戻ろうとしない。だけどお兄ちゃんはそれを乗り越えた。あの子と一緒だね」
「あの子……あぁ」
「お兄ちゃん、救ってあげて……悲しんでるあの子を」
「わかった」
僕は扉を開け、この幻想空間から抜け出すのであった。
幻想空間から抜け出すと友奈が待っていてくれた。
「待っててくれたのか」
「うん、空くんなら大丈夫だと思って……それに……」
友奈は何故か顔を赤らめていた。何だ?どうしたんだ?
「私が見たの……その……えっと……」
一体何を見たっていうんだよ……
「空くんとお付き合いしてる幻想で……すごく幸せだったんだけど……」
何ていう幻想を見せてるんだよ……闇の書のやつは……
「私って、ぐんちゃんみたいにきれいじゃないし、杏ちゃんみたいに可愛くないし、若葉ちゃんやタマちゃんみたいに格好良くないから……空君と付き合うのはおかしいかなって思って……」
「何言ってるんだよ。おかしくないからな」
「えっ?」
「だから付き合うのはおかしいことじゃないからな。だって僕はお前のことが好きだから……」
「えぇ!?」
あれ?なんかとんでもない事言ってないか僕……
「えっと、空君……」
友奈はさっきよりも顔が真っ赤だし……これは……
「その答えは後でいいから……今はほら、早く行こう」
「う、うん」
とりあえず今ははやての所に行かないと……
二人で先へと進んでいくとそこには闇の書とはやての二人がいた。
「空さんとえっと……」
「あ、はじめまして、高嶋友奈です」
「八神はやてです。その空さんたちはもしかしてこの子が迷惑をかけたから……」
「まぁそんな所だけど……」
「あのこの子は悪くないんです。ただ色々と不幸が重なって……」
はやてが闇の書から聞かされたことを僕らに話した。今までのこと、自分が闇の書と呼ばれた理由……
「そっか……」
「それではやてちゃんはどうするの?」
「私はこの子の主やからな。ちゃんと迷惑かけた人たちに謝らんといけないし、それに……この子は闇の書って名前のままじゃ可哀想やから……名前をつけたる」
「主……」
何というか本当に優しい子だな。はやての奴……
「とりあえず外の人にここを抜け出す方法と止める方法を教えないと……」
はやてがそう言った瞬間、闇の書が白い魔法陣を展開させた。
「外の方!管理局の方!そこにいる子の保護者、八神はやてです!」
『はやてちゃん!?』
『はやて!?』
なのはとフェイトの声が聞こえてきた。どうやら上手くいきそうだな
「えっ!?なのはちゃんとフェイトちゃん!?」
『うん!なのはだよ』
『いろいろあって、闇の書と戦ってるの』
二人ははやてに返事をした。すると今度は……
『もしかしてそっちに空さんたちもいるのか?』
「あっ、その声、須美ちゃんたちの友達の人やろ。おるで」
『良かった。こっちは勇者全員で戦ってるんだけど……どうすればいいんだ?』
「ごめん、何とかその子止めてあげてくれる?」
『え?』
「魔導書本体からはコントロールを切り離したんやけど、その子が走ってると管理者権限か使えへん。今そっちに出てるのは、自動行動の防御プログラムだけやから。管理者権限が使えれば、空さんたちも出てこれる」
『わかった。魔力ダメージを与えればいいんだね』
『やろう、フェイトちゃん!』
何だかノリノリだな。この二人……まぁあっちは任せるとして……
「はやて、この中にいるバーテックスのことなんだけど……」
「バーテックス?」
「主、感じませんか?異物みたいなものを」
「あぁ感じる……でも防御システムの方だから切り離すことは可能や」
「だったら安心だな」
「バーテックスが残された嫌だもんね」
あとは外へと出てその防御システムとバーテックスをどうにかするしかないな。はやては早速準備にかかった。
「夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る」
はやては両手を闇の書の顔に添える。
「強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール。リインフォース」
「新名称『リインフォース』認識。管理者権限の使用が可能になります」
「うん」
「ですが、防御プログラムは止まりません」
「まぁ何とかしよ。行こか。リインフォース」
はやてはリインフォースを抱いた。
「はい。我が主」
「それじゃ終わらせようか……全部」
「うん」
僕らはまばゆい光に包まれるのであった。