あれは夏凜が讃州中学に来る前あたりのこと……
依頼の関係なのかその日は僕と樹しかいなかった。だからなのか……
「………」
「………」
会話がない。樹も自分から話すような子じゃないし……僕から話せばいいんだけど……何を話せばいいのか分からないでいた。
「あの……」
「ん?何だ」
珍しい……樹から話しかけてくるなんて……
「夜空さんって、勇者じゃなくって魔導師なんですよね」
「あぁ、そうだよ。一応勇者の素質はあるけど、それでも魔導師の素質のほうが高くって……」
「あのやっぱり戦うのって怖いんですか?」
「……そうだな」
樹の質問……未だにバーテックスとの戦いは怖いよな。だけどそれが正しいことだ
「怖いって言うよりかは一緒に戦う仲間を守ってあげないとっていう気持ちが強かったな」
「守る……ですか?」
「前にも話したけど、僕は勇者部のみんなよりも前にバーテックスとの戦いを経験したことがあるんだ。最初は怖いって思ったけど……人々のために戦う子たちのことを見ていて思ったんだ。彼女たちが人々を守るなら僕は彼女たちを守らないとって……」
だからこそ銀を別世界に送ったりしたし、満開の後遺症をなくそうとカートリッジシステムを組み込んだりしたけど……結果的には……
「あのだからでしょうか?たまに辛そうにしているのって……」
「辛そうか……そうかもしれないな」
僕は今度こそみんなを守りたいって思ってる。そのたびにベッドで動けないでいる園子のことを思い出してしまう。もうこんな風につらい思いはさせたくなって……
「あのもし私で良ければなんですけど……力になります」
「樹……ありがとうな」
僕は樹の頭を撫でた。樹は少し恥ずかしそうにしていた
「あっ、ごめん。つい妹にやる感じで……」
「妹さんですか?」
「あぁ今は12歳で、大赦の方で同じ歳の子と一緒に巫女の役目をやってる」
今はゴールドタワーでお役目をしてるって言ってたな。
「なんて名前なんですか?」
「ん?夕空って書いて、『ゆら』だよ」
それから樹とは他愛のない話で盛り上がった。
その後、大規模侵攻の後、夏凜以外のみんなが満開を行い散華をしてしまったある日
「樹?どうしたんだ?急に呼び出して」
急に樹から呼び出され、校舎裏にやってきた僕。すると樹はスケッチブックを取り出し、何かを書き始めた。
「樹……」
樹が僕にある文字を見せた。それは……
『好きです』
「好きって……急にだな」
『ずっと言いたかったんです。でも勇気が出なくって……』
勇気が出ないか……いつから僕のことを好きだったのか気になるけど……
『でもちょっと残念です』
「残念?」
『文字じゃなくって、ちゃんと私の声で好きって言いたかったです』
樹は申し訳なさそうにしていた。僕はそんな樹をギュッと抱きしめた。
「大丈夫。ちゃんと伝わってるから……付き合おう」
僕がそう告げた瞬間、端末にメッセージが入った。それは風先輩が大赦に向かっているというものだった。何が起きたのかわからないけど……
「止めに行こう」
「まぁそれから大きな戦いの後、樹の声が戻ってちゃんと付き合うことになったんだよ」
「へぇ~でも話を聞いてると、本当に大変な戦いだったんだね……」
「あぁ300年前から続いてる戦いだったからな……」
「そういえば樹ちゃんのお姉さんには何かしら言われたりしなかったの?」
「ん?まぁ言われたけど……」
樹をいじめたり、浮気したりしたらぶっ飛ばすからと脅されたな……
「そういえば樹ちゃんが声が出るようになってから改めて告白されたりしたの?」
「……それは秘密だよ。特に扉の後ろで隠れて盗み聞きしてる二人には訊かれたくないからな」
僕は扉の方を見るとそこにははやてと園子の二人がいた。こいつら……
「あはは、バレてもうたな。園子ちゃん」
「私達としてはちゃんと聞きたいところだったんだけどね~」
「お前らな……」
お説教を始めようとするが、すぐに二人は逃げ出すのであった。
「とりあえず機会があったらな」
「その時は楽しみにしておくね」
なのはと別れた後、廊下で樹が待っていた。
「夜空さん、どこに行ってたんですか?」
「ん?まぁ色々と話しをしに……」
「そうですか……」
何だか樹の様子がおかしい。まぁ理由は分かってる。僕はそっと樹の頬に触れ
「大丈夫だよ。僕は樹のことが大好きだから……」
「夜空さん……はい、私は夜空さんが私のことが好きになる前から好きです」
樹が笑顔でそう告げた。声が戻った後に言ったあの言葉を……
次回は次の任務の話になります