ソードアート・オンライン 閃光の弟は鬼の剣士 修正中 作:狂骨
「クソがぁぁぁッ!!!!」
木村の放ったその一言により昨斗の怒りは頂点へと達した。怒りと共に吐き出されたその怒声は周りの看護婦や患者が尻餅をつく程 恐ろしかった。もちろん一番至近距離にいた木村も尻餅をつくどころか身体中から汗を垂れ流した。
「な…なんだよいきなり!?」
「…!」
昨斗は血走った目を向けると倒れた木村の胸ぐらを掴んだ。
「調子にのりやがって…!俺があの時どんな心情だったのか知らねぇだろ!仲間だった奴らから罵倒され挙句は退部!そして謝りもなしに軽く済まされたこの気持ち…テメェに分からねぇだろッ!!」
「ひぃ……!?」
怒りを吐き出した作斗はまさに鬼の表情だった。木村は恐怖のあまり涙を流しアッサリと謝罪をした。
「わ…わかった!俺が悪かった!あ…あの時の事は謝る!だ…だから許してくれ!な!?」
「今更謝ったって……許す訳ねぇだろぉぉぉぉぉ!!!」
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
昨斗は怒りに任せ握りしめた拳を木村の顔に目掛けて放った。
その時であった。
「やめてください!」
「…!」
昨斗の放たれた拳を直葉が両手で抑えた。それと同時に周りの看護婦も集まり 昨斗から木村を引き剥がした。木村は失神しており下半身から液体を流していた。
「放せッ!小娘がぁぁっ!!!」
「落ち着いてください!今の作斗さんが殴ってしまうと間違いなく作斗さんが悪くなってしまいます!お願いですからやめてください!」
「うるさい どけッ!!」
作斗はまるでバーベルのように自分よりも大きい直葉を無理矢理 引き離すと木村の顔へ再び拳を打ち込もうとした。
「あの時はよくも好き勝手言いやがったなぁあ!!!!」
「作斗さん!!!」
その後はもうメチャクチャであった。
暴れ始めた昨斗は止まる事なく木村へと拳を放とうとし、直葉は腰にしがみつく形で止めようとしたものの、昨斗は止まらなかった。だが、途中で駆けつけた数名の介護職員達に取り押さえられた事で何とか落ち着きを取り戻し、木村から手を離した。
「……」
落ち着きを取り戻した昨斗は数分ほど、荒い息を吐くと、周囲の人々に対して頭を下げた。
「ご迷惑をおかけして…申し訳ありませんでした…」
そして、頭をあげるとすぐさま病室へと戻るべく、足を進めようとした。
すると
「!?」
「昨斗さん!!」
突然と踏み出そうとした昨斗の足がふらつき、その場へと倒れようとした。それをそばに立っていた直葉はすぐさま支える。
「あの…彼は私が連れていくので」
そう言い昨斗を支えた直葉は駆け寄ろうとした職員達に頭を下げると、彼に肩を貸しながらその場を後にするのであった。
ーーーーーー
病室へ着いた直葉は昨斗をベッドへゆっくりと座らせた。
「昨斗さん…大丈夫ですか?」
直葉は顔を見ようとしたが昨斗は下を向き何も表情を伺うことはできなかった。
姉と会えたというのに かつて自分を孤独へと追いやった元凶と会った事によって再び昨斗の目は光を失い心は闇の奥深くまで沈み込んでいった。
何がいけない?自分の何がおかしかった? 友達を助けた事?暴力を振るった事?
何がいけないんだ?
助けて何がおかしいんだ?
助けてダメだったのか?皆のために…皆のためにやったことなのに……
何故 責められなければならないんだ…
『お前なんか剣道やめちまえ!』
『この恥晒しが!』
『お前はもう退部だ。今すぐ帰れ』
次々と勝手に再生されてくる同期や顧問の罵声罵倒に昨斗の精神はだんだん 壊れ始めた。
「クヒ……クヒヒヒヒヒ……」
「!?」
その瞬間 昨斗は俯きながら頭を掻き毟り狂ったように笑いだした。
「昨斗さん!?どうしたんですか!」
すると
作斗の顔があげられ その表情が露わになった。
「ッ!」
その表情を見た瞬間 直葉は言葉を失ってしまった。
突如としてあげられたその顔は大量の涙でぐしゃぐしゃになっていたのだ。
だが、泣こうとする自分を必死で隠すかのように昨斗はまだ堪えていた。けれども、流れる涙がその辛さを物語っており、流れる涙は増え続け 床をビシャビシャに濡らしていった。
「…」
直葉は怒りや悲しみを堪え続ける昨斗を見ていると段々と心が締め付けられる感覚に見舞われていた。
そんな中 直葉は再び俯いた昨斗に近づき問い掛けた。
「辛かったですよね…」
「何がだよ……」
直葉はゆっくりと肩に手を添える。
「もう…隠さなくてもいいですよ…辛かったんですよね…助けただけなのに…あんなに酷い事を言われて…」
「なぜ…その事を…」
昨斗は目を見開いた。直葉は明日奈から聞いた事を話した。
「明日奈さんから聞きました。あの日、昨斗さんが失格した原因を」
「だからなんだ…?」
それを聞かされた昨斗の身体が震え始め奥底から詰まった恨みが吹き出してきた。
「お前に…何も知らないお前に…何が分かるんだ…。仲間の為にやった事を咎められ 罵倒され 挙げ句の果てに見捨てられ…そして唯一 信頼のできる姉 を二年間も失った…この気持ち…テメェになんか……テメェに…なんか……!」
「…」
怒りながら訴える昨斗の目から再び涙が溢れ始めた。
「…グゥ……何なんだよ…何で…こんなに…」
昨斗は溢れ出てくる感情に逆らおうとするが涙がそれを遮った。
すると
感情を抑え込もうとする昨斗を直葉は優しく背中に手を回し包み込んだ。
「…もういいですよ…我慢しなくて…泣きたいなら泣いてください。私が側にいますから」
直葉の言葉に作斗の感情を抑え込む鎖が切れた。
昨斗は直葉に抱きしめられながら今まで抑えていた感情を全て吐き出すように目から涙を流した。そしてそれを受け止めるように直葉は優しく何度も作斗の背中を撫でていき、見守るのであった。
ーーーーーーー
ーーーー
ー
それからしばらくして、涙が枯れてようやく落ち着きを取り戻した昨斗は直葉へと頭を下げた。
「すいません…お恥ずかしい姿を見せてしまって…」
「いいですよ。さ、横になってください」
傍にいる直葉は作斗の身体を横にさせると、布団を掛けてあげた。
「では、私はこれで」
「はい。ありがとうございます」
作斗のお礼に直葉は微笑むと病室を後にした。
ーーーーーー
廊下を歩いていると 和人がトイレの前で壁に身体を預ける形で立っていた。恐らく明日奈のトイレ待ちだろう。
「あれ?もう帰るのか?」
「うん。長居すると迷惑だしね。先に帰ってるから」
「あぁ」
そう言うと直葉は手を振りながら去っていった。
すると、丁度入れ替わるかのように明日奈がトイレから出てきた。
「あ、ごめん待たせちゃった?」
「いや、大丈夫だ」
和人は出てきた明日奈と病室へと向かった。見ると、昨斗が静かに目を閉じて眠っていた。
「…じゃ…俺もそろそろ帰るわ…」
「…うん…!」
昨斗を起こさないように、和人は小声で明日奈に手を振るとそそくさと帰っていった。
そして頷いた明日奈も彼が見えなくなるまで手を振り見送ると、病室に入りベッドへと横になった。
すると、
「…こんな感情は初めてだ…」
「起きてたんだ」
突然昨斗が目を覚まし、口を開いた。明日奈は最初から分かっていたらしく、驚きはしなかった。
「アイツに言葉をかけられ…諭されてから…ずっとアイツの事が頭に浮かんでくるようになった。その上 考える度に心拍数が上がる…」
昨斗の遠回しの様な言い方に明日奈はニヤリと笑みを浮かべた。
「それは“恋”だね」
その言葉に昨斗は少し頬を染めた。
「これが…恋なのか…」
昨斗は目を空へと向けた。夕焼けに染まる空。彼の心は一人の少女に少しずつ惹かれていった。早く明日になって…彼女に会いたい。自分の心を照らしてくれた太陽『桐ヶ谷 直葉』に。