面白いものが好きな彼の万事屋生活   作:エンカウント

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いつもありがとうございます。





悪い子には一撃

 

 

 

お天道様が人々の真上でスキンヘッドのように輝く時間帯。

万事屋一行はファミレスでとある人物から依頼について話を聞いていた。

 

「私的にはァ~何も覚えてないんだけどォ。前に何かシャブやってた時ィ、アンタに助けてもらったみたいな事をパパからきいて~。」

 

とある人物というのは、前までシャブ浸しになっていた娘だった。

 

「シャブ?覚えてねーな。あー、アレですか?しゃぶしゃぶにされそーになってるところを助けたとかなんかそんなんですか?」

 

「ちょっとォマジムカつくんだけど~。ありえないじゃんそんなん。」

 

「そーですね、しゃぶしゃぶは牛ですもんね。」

 

「いやー、あの時はチャーシューになるとこでしたねー。危なかった危なかった。」

 

「アンタ一体何の話をしてんだよ!」

 

「あははは、冗談冗談。ほら銀時、アレだよ。俺が春雨にGo to Hellされそうになった時のアレ、シャブ中だったっていう、えーと・・・あの、ほら。老胃四胃(オイシイ)破無子(ハムコ)さん。・・・でいいや。」

 

竹仁は視線を泳がせながら頑張って名前を作り出すが、当たる確率なんて0に近いもので。

 

「オイィ!聞こえてんぞ最後!!名前全然ちげぇし!!」

 

「んー?あぁハイハイあのハムの!」

 

ようやっと何の事かを思い出したようだが、肝心なところを思い出せていない。

思い出せないというより、知らないのかもしれないが。

 

「ふざけんなオイ!もうマジあり得ないんだけど!頼りになるって聞いたから仕事もってきたのにただのムカつく奴じゃん!」

 

「お前もな。」

 

神楽が速攻で繰り出したツッコミに竹仁は通路の方を向いて吹き出した。

幸い、飲み物は口に含んでいなかった。

 

「あははははっ。神楽は正直者だねぇ。うん、良い事だよ。」

 

「今のはどう見たって良い事じゃねーだろ!!」

 

「す、すんません。あのハム子さんの方はその後どーなんですか?」

 

「アンタフォローに回ってるみたいだけどハム子じゃないから公子(きみこ)だから!」

 

「えー、少し離したらハムに」

 

全て言い終わる前に、新八が竹仁の口元にバシッと手のひらをたたきつけ黙らせた。

竹仁が不満そうに眉根を寄せながらコップに手を伸ばすと、新八は手を下ろした。

 

「・・・麻薬ならもうスッカリやめたわよ。立ち直るのマジ大変でさァ、未だに通院してんの・・・もうガリガリ。」

 

「何がガリガリ?心が?」

 

「金だろ。心も体も元気いっぱいにしか見えないし。」

 

メロンソーダを飲みながら、竹仁は捜索時に見た写真とさして変わらない目の前の人間を見る。

 

「痛い目見たしもう懲りたの。でも今度はカレシの方がやばい事になってて~。」

 

「彼氏?ハム子さんアンタまだ幻覚見えてんじゃないですか!!」

 

「オメーら人を傷つけてそんなに楽しいか!!」

 

フォロー役だったはずの新八がいきなりボケをかましたせいで、竹仁はメロンソーダを吐き出しそうになった。

コップをテーブルに置いて顔を伏せ、声を殺して笑う。

 

「・・・コレ。カレシからのメールなんだけど。」

 

公子から渡された携帯の画面には、彼氏である太助という男からのメール内容が表示されていた。

 

 

太助より

件名:マジヤバイ

--------------

本文:マジヤバイんだけどこれマジヤバイよ

   どれぐらいヤバイかっていうとマジヤバイ

 

 

太助からのメールの内容を確認した銀時は、画面を見たまま口を開いた。

 

「あーホントやべーな。こりゃ俺達より病院に行った方が良いかもな。」

 

「学校の方が良いんじゃね?」

 

「頭じゃねーよ!!」

 

頭の問題じゃないと公子が否定するが、この文面からは太助が表現力を著しく欠如しているとか、語彙力を失っているとか。

本人の頭の具合ぐらいしか読み取れないのだから、誰だって心配したくもなるだろう。

 

「実は私のカレシ、ヤクの売人やってたんだけど~。私がクスリから足洗ったのを機に一緒にまっとうに生きようって事になったの~。」

 

「けど~、深いところまで関わりすぎてたらしくて~。辞めさせてもらうどころか~なんかァ、組織の連中に狙われだして~。とにかく超ヤバいの~。それでアンタたちの力が借りたくて~。」

 

(何も知らない末端の売人なら、すぐ辞めさせてもらえそうだけどなぁ。)

 

もしかしたら太助は、スパイだとかただの売人以上の地位を持つ人間だとか。

 

考えてみたって依頼をこなしに行く事には変わりない。

相手や内容がどんなものであろうと、一応依頼は依頼なのだから。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

彼らは港に置いてあるコンテナの上に居た。

公子からの依頼、太助という男を助け出すために。

 

その為に立てた作戦がこれだ。

縄を付けた銀時が下まで降りて太助を救出したら、上で待機している3人が縄を引っ張り2人を引き上げる。

 

作戦の為に調達した縄を銀時の腹の辺りにぐるぐると巻き付け、外れたりしないよう後ろで固く結ぶ。

そして、後ろにいる新八と神楽に縄を持たせる。

 

下からは、数人の会話が聞こえてくる。

詳しい内容はよく聞き取れないが男の焦ったような声は聞こえてくるので、恐らくその人物が太助だろう。

 

「よーし準備完了。じゃ、逝ってこい銀時!」

 

ゴンッ。

 

意気揚々と発された言葉に、銀時は言葉ではなく木刀で返事をした。

 

「・・・いてーんですけど。殴る相手間違ってんですけど。」

 

竹仁は痛む頭を押さえ、無言で殴ってきた銀時に抗議する。

 

「ごめんちょっと手が滑っちまったわー。」

 

「じゃあ足も滑らせて頭から落っちゃいなよ。」

 

笑顔を浮かべ、右手を思いっきりサムズダウン。

手がそんなに滑りやすいなら、足だって10歩に1回ぐらいの確率で滑るだろう。

 

2人が言い合っている間にも、下ではガチの鬼ごっこが進んでいる。

 

「何ふざけてんのよアンタら!さっさとしなさいよ!」

 

「あーはいはい。すんませんね、っと。」

 

怒った公子に対し銀時は雑に謝り、コンテナから飛び降りた。

銀時が降りてすぐに竹仁が下を覗くと、顔を金属マスクで覆ったような男が倒れており周囲には仲間らしき者、地面に座り込む太助と思われる者もいた。

 

「だいじょぶそーかな。よし2人とも、」

 

準備してね、と後ろを振り向き2人に言おうとした竹仁の目は、隣を通り過ぎる公子の姿を捉えた。

あれ?と思い目で追うが既に公子の姿はコンテナの上にはなく、手遅れとなってしまった。

 

「竹仁さん、え、あの人・・・。」

 

「その辺にでも置いてくれば良かったアル。」

 

「・・・仕方ないんで、勝手に作戦変えまーす。」

 

ベルトにさしていた木刀を抜き、竹仁はコンテナから飛びおりた。

そして1人の敵に狙いを定めて木刀で殴り飛ばし、近くにいたもう1人の敵もろともコンテナに叩きつける。

 

「バカな事しねーでくれないかな。穏便に済ませようとしたのに、さっ!」

 

敵の眼前へと素早く移動し、木刀で鳩尾に突きを繰り出す。

すぐに銀時は身体に付けた縄を外して立ち上がり、木刀を抜く。

 

「オイ、これじゃ強行突破するしかねーじゃねーか。」

 

「いんじゃない?敵さんは痛い目見て、俺は楽しめる。まさに一石二鳥ってやつ。」

 

上からの攻撃を竹仁は一歩横に動いて躱し、敵の顔面を蹴り飛ばす。

 

「それはオメーだけだ!ったく、行くぞテメーらぁ!」

 

「了解です課長!!」

 

銀時と竹仁がそれぞれ木刀などを使って敵を薙ぎ払い、2人の後ろを太助と公子がついていく。

 

「だーれが課長だ!課長の仕事危険と隣り合わせすぎだろ!!」

 

「じゃあ社長で!!」

 

「だーれが社長だ!・・・ごめん社長だったわ!!」

 

「そうだっけ!?」

 

「そうですけど!?文句でもあんのかオラァ!!」

 

「ありませぇん!!」

 

 

お互い大声で話しながら、敵を殴って蹴って叩きのめして吹き飛ばして。

結構な数を倒したはずなのだが、終わりが見えてこない。

 

「ねーのかよ!!つかこれどーいう事!?チンピラ1人の送別会にしちゃあえらく豪勢じゃねーか!!」

 

「きっと優しい組織なんだよ!そーだろ!?そーなんだろ天然クソモジャァア!!」

 

これはもしかしなくても、という思いが頭の中をよぎりまくってしまい、つい口調が荒くなる。

だって、たかが売人が辞めようというだけでこんな大量の構成員を送り、送別会を開くなんざ普通あるわけない。

 

「誰が天然クソモジャだ!!これはなぁオシャレカツラなんだよ!!」

 

カツラである事を分からせるために、何故かカツラを取った太助。

そして、その頭の上には、ヤバい粉であろう物が入ったプラスチック製の袋が、テープで張り付けられていた。

 

「・・・オーイ。モノ隠したのどこかぐらい自分で覚えておこーや。」

 

「認知症なんじゃないかな。お若いのに可哀想なこって。っと。」

 

太助の頭に隠されていたお薬に気付く者が何人も出てきたが、気にする事無くまた1人、また1人と敵を倒していく。

 

 

そうして敵を何人も倒したところで、チラリと太助と公子の方に目をやれば。

 

(・・・うわー。)

 

公子の首には鎌の刃部分があてがわれており、人質となっていた。

一般人である彼女が、ここで首を切られ死なれては流石に寝覚めが悪くなる気がするので。

 

木刀をすぐにしまい、倒した敵の脚を掴んで振り回し周りにいた敵を雑に一掃する。

 

そして公子達の方を振り向いて走り出そうとした時、公子の方を見ていた太助が全力で踵を返し走り出した。

お薬は頭に付けたままで。

 

そして、太助は逃げながら酷い言葉を吐く。

 

「その女なら好きなよーにしてくれていーぜ!あばよ公子!お前とはお別れだ!!」

「金持ってるみてーだから付き合ってやってたけど、そうじゃなけりゃお前みたいなブタ女ごめんだよ!」

「世の中結局金なん」

 

ドゴォ!!

 

人質となった公子の前から逃げ出した太助は、上からとんでもない威力の叩き潰し攻撃を食らって、地面に出来たヒビの中心で眠りについた。

 

眠りブタとなった太助の隣に立って数秒考えこんだ後、竹仁は万事屋の面々に聞こえるよう声を張った。

 

「・・・よっしみんな!食材ある事だし今日はポークソテーにしまァす!!」

 

「食材ってオメーまさかそいつの事じゃねーだろうな!?」

 

「は?こんなの使ったら新八と神楽がお腹壊しちゃうでしょ!!」

 

銀時の推測に対し、竹仁はあり得ないとばかりに木刀の先で太助の腹をバシバシ叩いて否定する。

 

「・・・確かに、んな薄汚ねーブタ食ったら腹ァ壊すわな。」

 

戦闘に一区切りついた銀時が太助に近づき、手を伸ばしてべリべリ、と薬の入った袋をテープごとはがす。

すると、まだある程度の数が残っている組織の者達が銀時達を問い詰める。

 

「てめーら、敵なのか味方なのかどっちだ!?」

 

「うん?少なくとも仲間ボコボコにした奴が味方なわけねーだろ。」

 

クスクスと笑い、竹仁は明らかに彼らをバカにしたような態度をとる。

 

「そーさな、どっちでもねーよ。それよりホラコレ、こいつとそのブサイク交換しよーぜ。」

 

公子を解放する為、銀時はお薬の入った袋との交換を要求する。

 

「・・・・・お前から渡せ。」

 

「なーにびびってんだか。」

 

たっぷり10秒ちょっと黙ってから出された声に、銀時は呆れつつも袋を彼らの頭上へと少し高めに投げた。

 

「アイツ投げやがった!」

「オイ、誰かとれ!」

 

投げられ、宙を舞う袋の下では群がっていち早く取り返そうとする奴らの姿が押し合いへし合い、おしくらまんじゅう状態。

けれど、袋の行先は彼らの手元なんぞではなく。

 

――ズパンッ。

コンテナの上で待ち構えていた新八によってキレイに一刀両断され、お薬の入った袋はただのごみへと変わった。

入れ物を無くした粉状のお薬は、狼狽える彼らの目の前でそこら中へ飛散していく。

 

「あぁー大切な転生郷が!!お前ら、拾え拾え!」

 

困難を極めるであろう回収作業を大人数で、しかも必死に行っているのだから竹仁の目には何とも滑稽に映る。

 

(砂糖に群がる蟻を観察してた方がマシだなぁ。)

 

あのちっちゃい生き物が、トコトコ歩いて、砂糖をちょっとずつ運んで。

 

公園の隅で何時間も、砂糖を置きながら蟻を観察して。

そうして遊んでいたら通報されたが。

 

もう1回観察しようかなぁなんて考えながら、竹仁は銀時達の後についてその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

奴らのいた港から逃げて、ここは橋の上。

 

「マジあり得ないんですけど。太助、助けてくれって言ったのに何でこんなことになるわけ~?」

 

「ありえねーのはお前だろ。どーすんだソレ。」

 

銀時にあり得ないと言われた通り、公子は自分を騙し続けていた太助を捨てる事無く背中に負ぶっていた。

 

「あははは、きっといつか愛に目覚めてくれる~、とか馬鹿げた事抜かすんなら橋ごと叩き潰すぞ。」

 

そんなロマンチック、この世で起こる確率はほぼ無いだろう。本でしか見た事ない。

それに、今公子が負ぶっている男は金にしか興味が無いと言ってもいいだろう。

 

実際、金がありそうだからという理由で好きでもない人間と恋人ごっこをしていたのだから。

 

「竹仁さん。とんかつを作る時は少し叩くといいって言いますけど、流石にそれはやり過ぎですよ。」

 

「お前ら最後までそれか。」

 

「あぁ、こいつ逃すと彼氏なんて一生できなさそーだからか?世の中には奇跡ってもんがあるんだぜ?」

 

「そんな哀れみに満ちた奇跡いらねー。」

 

「えー。貰えるもんは貰っといた方が良いと思うけどなぁ。」

 

貰えるものは貰え、とは言ったが竹仁にだって貰って嬉しくないものはある。

 

例えば貰いゲロ。

貰った事はないが、以前飲み会に参加した際に貰いかけた事はある。

その時の事を思い出して若干気分が悪くなってしまい、竹仁はその事を忘れようと下を流れる川に目をやった。

 

少しして視線を川から自身の前方に戻すと、公子は太助を負ぶったままこちらに背を向けて歩きだしていた。

 

「こんなヤツに付き合えるの、私ぐらいしかいないでしょ・・・。」

 

「・・・何なんだありゃあ。」

 

「恋人というより、親子みたいですね。」

 

恋人というよりも親子のように見えてしまうのは、彼女が彼氏を背負うという事があまり見られないからかもしれない。

 

「あんな母親俺ならグレるね。」

 

「あはは、アレは子どもに反抗されまくるタイプに見えるねぇ。」

 

彼女が高校生ぐらいの息子や娘と毎日言い争う姿が容易に想像できてしまう。

 

親というのは、存在する数だけ違う考えを個々が持っているから見た目だけでどういう考えをするのか育て方をするのか一概には分からないものだ。

親だけでなく、生きとし生ける他の者にも言える事なのだが。

 

 


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