目が覚めた。
「どこだここ…?」
記憶では父に刺され意識を失ったハズだ、奇跡的に生き残ったのだろうか…?
にしては今見えている景色がおかしい、見たこともないほど高々と成長した木々に囲まれた場所で目覚めたのだ。発した声は深い森の奥に吸い込まれていき、返答してくれる相手がこの場に存在しないことを物語っていた。
「これがあの世ってやつかな?随分想像していたのと違うけど」
《解。 現在地は「あの世」という名称、又意味合いをもつとされる場所ではありません》
「うおっ?!」
脳内に声が響いた
「また幻聴か…死んでも聞こえるのかこれ…」
《解。 幻聴ではなく、ユニークスキル『勉学者』の効果です。》
「うおっ?!またかよ!なんだよ勉学者って!回答プリーズ!」
どうやら幻聴ではないそれ、『勉学者』と言うらしいそれに話しかけてみた。周りから見たら痛い子である。周囲に人の気配どころか生物の気配も感じないが
《解。 ユニークスキル『勉学者(マナブモノ)』の効果___
思考加速:通常の千倍に知覚速度を上昇させる。
事象解析:得たスキル、技能等を解析し知識を得られる。
又、スキル、技能の使用に耐えうる身体に可能な範囲で身体を再構築することが出来る。
詠唱破棄:魔法等を行使する際、呪文の詠唱を必要としない。
諸事万端:この世の隠蔽されていない事項のほとんどを網羅する。
以上の4つが主な能力です》
「うん、よくわからん!呪文とかめっちゃファンタジーなワードも聞こえたし、やっぱり幻聴だな!うん!」
《……。》
あれ?拗ねた?無機質な喋り口だったからてっきり感情がないものだと思っていたんだけど…
《__拗ねていません。》
あ、言葉として発さなくても伝わるのね…
というか反応が意外と面白いな、しばらく話し相手になってもらうか
「試しに思考加速とやらを使ってみようかな」
そう言葉にした直後、俺は意識を失った。
《ユニークスキル『蘇生者』を自動使用します》
《ユニークスキル『勉学者』を自動使用。思考加速及び所有スキル全ての使用を可能とする身体へ再構築します……成功しました》
「ハッ?!」
今何が起きた……?思考加速を使う、そう発言しただけで失神…いや、死んでいたのか?
《解。思考加速に耐えうる身体ではなかった為、使用と同時に絶命しました。その際、ユニークスキル『蘇生者』を使用し、蘇生しました》
「ちょ!おま!絶命しました。じゃねーよ!殺す気か!いや!死んだわ!いまだに生きた心地しないわ!」
《『蘇生者』及び『勉学者』を並行使用し身体の再構築を行いました。思考加速の使用、及び習得済みスキルの使用がすべて問題なく行えるようになりました》
使えた訳では無いけど一瞬で絶命してまた一瞬で蘇生したら信じるしかないよなぁ、スキル…
しかし『蘇生者』…死んでも即座に蘇るとかチートすぎないか?
というよりこいつ…死ぬのを見越してスキルを使わせたな…
いやそんなことより…
「『勉学者』身体の再構築って何をしたんだ?」
《解。種族名:人間の状態では思考加速から得る情報量に耐えられないため、容姿などはそのままに、種族名:亡者へ再構築しました》
亡者…?亡者だと……?!生きてるぞ俺…いや、ついさっき死んだけど!…待てよ…?あのゲームとかに出てくるゾン…いやいやいやまさかねー!変なこと考えちゃったよ!いけないいけない!まさか俺があんなグロの申し子のようなモンスターに…
「『勉学者』…サマ…?亡者とは一体どのような種族なのでしょう…?」
《解。“種族名:亡者”にはスケルトン、ゾンビ、死霊などの魔物が分類されています。》
「やーめーろーよー!!!ゾンビとか言うなよ!!!スケルトンとか死霊とかもいやだけどさ!肉体あるし!骨じゃないし!ゾンビじゃん俺!ひょっとして臭い?!俺の体はボドボドじゃないよね?!」
《解。___》
どうやらゾンビという魔物になってしまったようだが、想像していたより悪いものでは無いらしい。まず気になった[匂い]だがこれは全く問題ないようだ。俺のイメージするゾンビと違って、腐ってる訳でもないし、無駄に変な匂いを発する生き物(生き物というのもおかしいが)でもないらしい。
本来ゾンビという魔物は、生物が絶命した後何らかの要因で活動を始める魔物らしいのだが、その再び活動を始めるまでの期間に腐食が進みグロテスクな状況になってしまうらしく、それを除けばむしろ人間より清潔なようで、まず人間と異なり生命維持のために食事をとる必要がなく、それに伴い排泄の必要もなければ、体温維持の必要も無いため、発汗なども一切しないらしいのである。なんなら呼吸すら必要としないみたいだ。そりゃそうか、死人だし。
ちなみに俺は即座に甦ったので一切腐ってません。臭くないからね!マジで!
「めちゃくちゃ便利じゃん」
そんなことを口に出すほど現状に慣れ始めていた頃、ふと違和感に気付いた。何故今まで気付かなかったのか、まあ状況の理解が全く出来ていなかったさっきまでの自分では仕方が無いのかもしれないが。
「なんか俺の声、変じゃね?やけに高い声になってるけど」
(そしてなんか裸である…そして見覚えのないものが…)
《解。世界を渡る際、記憶を基に身体を再構築しました》
「世界を渡る……???」
どうやら様々なことをこの『勉学者』に聞く必要があるらしい。俺は「思考加速」を使用し『勉学者』の話を聞くことにした。
*
長い話だった……嫌な予感がしたので要点だけわかりやすく簡潔に説明してもらったのだが本当に長い時間話を聞いていた……
「『勉学者』今の話でどのくらい時間を使ったんだ?」
《解。十二秒経過しました》
「ちなみに思考加速を行わなかった場合どのくらい時間がかかったんだ?」
《解。三時間と三十三分三十三秒所要していたと考えられます》
「ヒェッ…」
なっが……よく眠らなかったな俺……えらいぞ……!!!
心の中で自分を褒めてやっていたら
《種族名:亡者には睡眠の必要はありません》
「わかってるよ!さっき聞いたし!」
多分『勉学者』さん、不機嫌である。
だけど実際眠かったのだ、睡眠の必要が無いのに眠くなるとはこれ如何に
うとうとしていたら《睡眠の必要はありません》って怒られたのだ
まるで学校の先生のようだ、今後『勉学者』先生と呼ぼう、そう思った。
まず長い話をさらにまとめると、今いる場所は俺の知る世界ではないらしい、俗に言う異世界というやつだ。
そして俺は転生者と呼ばれる存在でありなおかつ異世界人と呼ばれる存在であるらしい。
他にも異世界からこちらの世界にくる方法があるらしいがそれについては情報開示が出来ないとのこと。どうやら一度その事象に触れる、もしくはその事象についての知識を少しでも得ない限り『勉学者』から情報を得ることは不可能らしい。
めんどくさいとは思うが、裏を返せば、少しでも知識を得られさえすればそれに対して即座に解析が始まり自分のものに出来るのだ、十分インチキな能力である。
そして自分の持つ他の能力についても説明を受けた
まず耐性について
『痛覚無効』
文字通り痛覚を無くす能力、不死性を持つ俺にはうってつけの能力である
『熱変動耐性ex』
名前からして暑さ、寒さを感じなくなる程度のものかと思っていたがどうやらすごい耐性のようである。炎のような極高温から想像もつかない極低音までもが身体に影響を与えなくなるレベルの耐性らしい。[氷を投げつける][焼石を投げつける]みたいに熱を伴わない攻撃では普通にダメージを負うみたいだが、もちろん冷たさ熱さは感じないため、ただの投石に等しい攻撃になるらしい
そして次はエクストラスキル
本来ならスキルの説明が必要らしいがユニークスキル『勉学者』によりすべてエクストラスキルに進化したとの事、スキルの進化とは滅多に起こらないことらしいので『勉学者』先生…すごく…チートです…。
『温度操作』
自身の身体、及び視認できる範囲内の温度を変化させることが出来る。視認できる範囲の中でさらに範囲指定もできるようなので、薪に火をつけるような使い方から、視界全域を火の海に変えることも出来るらしい。ちなみに『熱変動耐性ex』はこのエクストラスキルをもとに進化したため、操作出来る温度範囲は耐性と同等である…ってヤバいなこれ……
『超感覚』
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の強化、及び第六感の強化、そして身体を用いずに五感が使用できるらしい。試しに視覚を強化したところ全方位を動かないまま見渡すことが出来、目を凝らすと障害物が透け、その先も見渡すことが出来た。さらには身体を用いず上空から自分を中心とした広範囲を見る視点を追加することが出来るようだ。しかも見る角度は変更出来るようで自分の正面から自分を見ることも出来る。人間の体ではこの情報量に耐えきれずさっきの俺のように脳が破壊され死に至るであろう、ちなみに『温度操作』との相性はいわずもがなである。これもたいへんヤバいことになっている
そして最後にユニークスキル
『蘇生者(ヨミガエルモノ)』
超速再生:なんか傷を負っても瞬時に治るらしい、知らんけど
完全蘇生:死んでも蘇る。行ったことのある場所であれば絶命した際にどこで蘇るかを指定出来る。デスルーラである。
生命譲与:自分の命と引き換えに他者を蘇らせることが出来る。[完全蘇生]があるので実質無償で他者を蘇生出来る。ズルい。
又、[生命譲与]を行った対象は自分と同じ種族、要は亡者に変質してしまうらしい
補足だが『勉学者』先生曰く[生命譲与]を行った相手のスキル全てを解析出来るらしく、高位な能力は無理だが、耐性やスキルは問題なく自分にも使えるようになるとのこと。とてもズルい。
生命回廊:自分と命を共有したもの、すなわち[生命譲与]を行った相手と能力を共有することが出来るらしい。要は[生命譲与]を行った相手が成長すると俺も成長する。また逆も然り。って感じらしい。元は自分の命だったわけだし繋がりが出来て当然ではあるが、これもこれでずるい能力だと思う。
以上四つがユニークスキル『蘇生者』の能力である。敵としては
「『蘇生者』ハンパないって!あいつハンパないって!自分も仲間も瞬時に蘇ってくるもん!そんなんできひんやん、普通……そんなん出来る?」
ってなるに違いない、とても可愛そうである。
そして『勉学者(マナブモノ)』先生である。
さて能力のおさらいも終わったところで最重要事項の確認を行おうか
世界を渡る際に再構築されたという[美少女]の確認を……
*
「……///」
いや、凄かった…。実に素晴らしいぞ『勉学者』君…!!!
俺の記憶を元に作られたらしいのだが、絶世の美少女と言うやつだなこれは。
十二歳ほどの子供のような小さな姿で、純白の長髪を腰まで伸ばしていた。
瞳はルビーのように紅く輝き、きめ細やかな白い肌も相まって人間離れした美貌を持っている。ロリコンではないので胸はしっかりとは見ていない、ああ見ていないともさ!小ぶりだが綺麗な胸など一切見ていない!
そして最後に気になる場所を___。
*
「童貞だったもんな…記憶を元にって言ってたもんな…。」
結論から言うと何も無かった。強いて言うならナニも無かった。
そこに関する記憶が一切なかったのが原因だと思うが非常に残念である。
そういえば今でこそ排泄の必要が無くなっているけど。
「あのまま人間の身体だったらアレが破裂してたな…」
ゾンビになってよかった、そう心から思えた。
*
「しっかし深い森だな…」
色々な確認を終え、未知の世界へと歩を進め始めた俺は鬱蒼と生い茂る木々にウンザリしていた。
「いつまで歩けばこの森から出られるんだ…」
あれから四日間ほど歩き続けているのだが森を抜けられる気がしない、上空から見下ろしながら歩いているので確実にまっすぐ進んでいるハズなのだが、それでも森を抜けられる気がしない。
「不死で死ぬことも無く、誰とも何とも出会うことなく、ただ森だけが続く世界…このまま永遠に森をさまようようなことになったら…」
死ぬよりも辛い、そう思った。
「『勉学者』先生…なにか解決策はないんでしょうか…?現状を打破できるようななにか…」
《解。エクストラスキル『温度操作』を使用し__。》
「却下!ここら一帯を焼き払えってことだろ?!さすがにそれはやっちゃダメだって」
《……。》
『勉学者』先生…。効率的なのは確かなのだが根本的に人間のような価値観が欠落しているようだ。まあスキルだし仕方ないだろうけど……
確かに木々を焼き払って更地にすればかなり歩きやすくはなると思う。でもそれだけだ、視界が悪いのは『超感覚』の元では関係ないのでそこまで影響はないのだ。
「空とか飛べればな…」
『超感覚』の視覚強化で大空から見下ろしているから尚更そう思う。同じように空を飛び回ることが出来ればすぐにこんな森抜けられるだろうに……。
そんなことを考えていた時
「__うん?」
上空からの視界の隅に「何か」が一瞬だけ見えた気がする。
「なんだ今の……?」
《解。正体不明の飛行生命体です。視界に入らないよう何らかの能力を使用していると思われます。エクストラスキル『超感覚』の聴覚強化にておおよその位置を補足可能です。》
飛行生命体……?一体何者だろうか……
「とりあえず聴覚強化してみるか」
聴覚強化を使用した瞬間
「っ________!!!!」
尋常ではない爆音が脳を貫いた
「解除解除!!!!」
即座に能力を解除する。
「な!なんだいまの!!!」
《解。聴覚強化により大幅に聴力が向上したため半径1km範囲全ての音を聴くことができます。》
なるほど、そんなに耳が良くなるのか、そりゃただの風音でもとんでもない音が聞こえるはずだ
「『勉学者』先生?多分だけど嗅覚とかもそんな感じ?」
《解。その認識で構いません》
アカン…、視覚以外の感覚を強化するのは危険かもしれない、とはいえもったいないよな…どうにかならないものか…
《ユニークスキル『勉学者』とエクストラスキル『超感覚』をリンクすることで、必要な情報のみを確認することが可能です。リンクしますか?___Yes/No》
そんなことも出来るのかよ!
「勿論Yesで、よろしくお願いします。」
その瞬間景色が変わった。全方位ある程度の距離までなら見て聴いて触れて味わって嗅ぐことができるのだ。視界が圧倒的に広いのは以前のままだが、目で見えてる任意の位置の視覚では得ることのない情報を獲得できるようになった。そして__
《ユニークスキル『勉学者』にて感知可能範囲に存在する異物の位置、視覚情報、匂い、感触、音、味の情報を得ることが出来ます。新しい情報が入るとその位置情報を認識できるようになります。確認は任意です》
うん、これは圧倒的にずるい。正確な距離は解らないがかなりの広範囲での感知が可能みたいだ。さっきの飛行生命体だかの位置も丸わかりで__。
「普通にこっちに向かってきてるんだけど!!??」
しかもめっちゃ速い!なんだこいつ!明らか一直線に向かってきてるんだけど!
《およそあと三秒ほどで接触する可能性があります》
「三秒……だと?!そんなの逃げる余裕も__」
と、とりあえず思考加速!!!
(これで知覚速度は千倍……さて、どうしたものか)
こんな速度で迷わず俺の場所まで飛んできてるんだ、少なくとも敵意が全くないということはないだろう……。ひとまず視覚を強化してどんなやつなのか見てみようか、どうせここまで来たら回避するのは不可能だしな
(それにどうせ殺されても蘇れるし、痛みも感じないし)
視覚を強化して少し先を見据えると何やら霧のような白いモヤが広がっていた。
(このモヤ……例の謎の飛行生命体と一緒に移動してるみたいだな、これのせいで広範囲を見渡しても補足することが出来なかったのか……)
ちなみにモヤの中に例のヤツがいるのだが位置はわかるのに視覚情報が一切無いのである。視覚は全く意味をなさないようだ。
(とにもかくにも初エンカウントだ、ただ死ぬのはゴメンだな)
まずこの世界、知り合いなど全くいないわけで、出逢うものはすべて赤の他人である。
さらに言うと未知の生物とかいるわけで……。
(味方ってことは無いよなぁ…。『勉学者』、このモヤ全てを『温度操作』の効果範囲にすることは可能か?)
《解。ユニークスキル『勉学者』とリンクされている為。対象を選択すると自動的に範囲指定されます》
さすが『勉学者』先生。俺に出来ないことを平然とやって退けるぅ!!
(さて、準備は整ったな、『勉学者』先生!やっておしまい!)
温度を−200℃に指定、効果範囲をモヤ全域に指定、これはもう技名は決まっている……
「喰らえ!『永劫凍結波(エターナルフォースブリザード)』!!!!」
(相手は死ぬ__)
決まった……。しかし正体を判別する前に攻撃するのは不味かったかな?まあでも隠れて超高速で突っ込んでくるんだもん、やらなきゃやられてただろう……うん、そうだよな……
ってあれ……?
「これ、死んだわ」
超巨大な氷の塊がそのままの速度で突っ込んできた。
(じつにぼくは馬鹿だなぁ……)
そうして俺の意識は闇に沈んでいく
(このままだと死ぬことに慣れちゃうな……)
次は死なないように頑張ろうと、決心した。
*
「ふぅ……」
そのまま蘇ると氷の下敷きなのである程度離れた場所を指定し復活をしてみた
「便利すぎるだろこの能力……。発動条件が死ぬことってのがアレだけど…」
この世界に生まれ落ちていきなりこんな馬鹿げた能力に目覚めたけれど、能力が無かったらと思うとゾッとする。あんな速度で飛んできたもの、もし普通の人間があんなのにぶち当たったら死んだことにする気づけないだろうな……
「さて、と『勉学者』先生、この中に生体反応___。」
ドゴンッ
「はっ?」
どうやら聞くまでもないようだ。俺の命を奪った巨大な氷塊からなにかが勢いよく飛び出してきた。
「貴様!急に氷漬けにするとは!失礼ではないか!」
そう語りかける。えーっと、トカゲ?でっかいトカゲ……羽が生えたでっかいトカゲ……!!???
「もしかして!ドラゴン!!!???」
すげー!ゲームとかで見た事あるドラゴンだ!かっけー!!!そんなことを考えていると。
「種族名で呼ぶではない!我には“レジーナ”という名があるのだ!」
名前もかっこいい……まさかこの世界で最初に出逢ったのがドラゴンとは……
「あ、あの!レジーナさん?でいいんでしょうか?凄まじいスピードでこちらに向かってくるものですから思わず迎撃してしまいました。申し訳ございません……」
ここは誠意を持って謝ろう……。問答無用で攻撃をした時点で誠意も何もあったものじゃないけど。
「その呼び方で構わぬ。ふむ、さきの攻撃、見事であったぞ。我の体全てを凍らせるなど……」
よかった、そこまで気分を害してはいないようだ……
「久しぶりに面白かったぞ、貴様、名をなんという?」
あ、この人(竜)あれだ、強者ってやつだ、さっきの攻撃に“久しぶりに面白かった”なんて感想を持つ時点でとんでもないバケモノだろう。しかし名前を聞かれるとは、もしかして気に入られた?
「恐縮でございます…。私の名、ですか?私の名は…、私…の…、」
あれ…、いやいやいや、えっ?!いやそんな…えっ?
「俺の名は!!!!????」
「ぬおっ!!??」
いやいやいや落ち着け……忘れてるだけだ……ショッキングなことが多すぎて忘れてる……よし、思い出すぞ……
「ふむ、名を持たぬのか…それでいてその実力中々のものよ…」
やばい、ぜんっぜん思い出せん…ほかのことは覚えてるのに名前だけ出てこない…。
「喜ぶが良い、我が名を授けてやろう。はて、何が良いか…」
試しに『勉学者』先生に聞いてみたが《該当する項目がありません》とか言われるし、そもそも名前だけピンポイントで忘れるってなによ!
「よし、貴様は今から“レミア”と名乗るがいい!」
そんなドラゴンの言葉を聞き流していたら
「!!!!!!」
ビクンっと体の中で何かが一瞬だけ跳ねたような気がした。っていつの間にか名前をつけられてる?!ちょいちょいちょい!
「レジーナさん…実は俺、名前を忘れているだけなんですよ」
「ふむ、だが名付けは済んだぞ?それは、もとよりお前に名がないということの証明になるのだが」
つまり俺は名前を失っていた…?
《世界を渡る際に失われた可能性があります》
なるほど、じゃあ転生者ってことを伝えてみるか
「実は俺、転生者なんです。元々は別の世界で暮らしていて、そしてそこで死んだ後、ここに来たんです」
「ほう、転生者とな、ならば世界を渡る間に名前が失われたのだろう。この世界で“名を持つ”というのは少なからず大きな意味があるからな。だが不思議なものよ、転生者ならば人間の赤子として新たな生を受けるものだと思っていたのだが、そうではないのだな?」
らしいっすけど先生!どうなんですか?
《解。世界を渡る間にユニークスキル『蘇生者』を自動使用し自ら蘇生したため正式な意味での転生には至りませんでした。》
ふむふむ、なるほど
「色々ありまして、まあ簡単に言うと、俺の獲得したユニークスキルの力で世界を渡る間に蘇生したみたいなんですよ」
『勉学者』先生から聞いたことそのままである
「なるほど、ならばその姿も納得できよう。しかしそんなことがあるとは、異質な存在なのだなお前は、更には魔物の体も得ている。これもお前のスキルによるものなのだろうな」
この人(竜)結構頭いいんだな…おそらく推論で話しているのだろうけど概ねあっている…
「しかしすまぬな、既に名前を持っていたのであろう?余計なことをしてしまったようだ…」
そしてめっちゃいい人、初めて会った俺の話をこんなに親身に聞いてくれて、あまつさえ謝罪まで……それに俺は…
「いえ、そんなことはありません…むしろ名付けてくれてありがとうございます。正直以前住んでいた世界のことは大嫌いで、その世界で付けられた名前に未練は一切ないんです。なので、今からレミアって名前をありがたく名乗らせてもらいます」
そうだ、あんなクソみたいな世界で付けられた名前に未練なんかない、父を狂わせ、母を殺し、俺を殺したあんな世界で名乗っていた名前など……
「ふむ、よくわからんが、既に名付けは済んでいる。今更嫌と言われても取り消せんのだ。お前がどう思おうとその名はお前の魂に刻まれた。我が認めたのだ。今後は謙った物言いも許さぬ、友として接するが良い。」
友…友達か…。この世界で最初に出来た友達がドラゴンとか、
(最っ高にファンタジーだな!)
ニヤケが抑えられないまま俺は
「ああ、よろしく!レジーナ!」
レジーナさんは「うむ!」と尊大な態度で応えてくれた。ともあれ、意思疎通のできる存在と出会えてよかった。
こうしてこの世界で初めての友達が出来たのだった
「ところでレミアよ…」
「ん?どうしたんだ?」
「お前服は着ないのか?」
「あっ」
*
時を同じくして、世界は大騒動をもたらされる。
“天災“級モンスター”暴風龍“ヴェルドラの消滅が確認されたのだ
レジーナは何かを感じとったようでそのことを俺に教えてくれた。
「あの“暴風龍”が消えた…。フフっ、またなにかあったのだろう。あの方がそう簡単に消え去るハズがない、近いうちに再びまみえる日が来るかもしれんな」
その言葉の意味が分かるのは少しあとのことになるのだが、名を受けたばかりの一体の亡者には理解などできるはずもなかった。