郡千景の日記帳   作:黒歴史ノート

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今回は日記形式ではありません、ご注意ください。


番外編
郡千景の白昼夢


 

 かき氷に穴を掘るのは、案外に奥が深い。

 奥に行くほど氷が固くなって、プラスチックのスプーンでは歯が立ちづらくなる。

 無理に突き崩そうとするとかき氷が崩壊してしまう。

 ゆえに、軽く神威を練り上げる。

 一点集中、周囲に力が逃げないように研ぎ澄ませた一撃を突き立てる。

 サクッという小気味よい音と共に、また一本のトンネルが開通した。

 

「ふふっ・・・・・・」

 

 郡千景は暇だった。

 夏休み、勇者部の面々はおろか寮の知り合いが軒並み帰省してしまい、話し相手すらいない。

 夏といえば海だろうと一人でフラフラ海岸へ出かけては、カップルや家族連れに気圧される。

 自分は遊びに来たわけではないと言い訳するように海辺のゴミ拾いをして、清掃ボランティアの人に感謝されても、心は空しい。

 ゲーム漬けで外出しない日が続いたかと思えば、近所の喫茶店で一人寂しくかき氷にトンネルを掘る、千景は勇者にあるまじき存在と化していた。

 

「はぁ・・・・・・高嶋さんに会いたい・・・・・・」

 

 散々にトンネルを掘り尽くした、いちご味のかき氷の残骸を始末をしながら窓の外を見やる。

 どこからともなく蝉の声が聞こえてくる、夏真っ盛りの景色が広がる。

 今日は雲があって過ごしやすいと天気予報は言っていたのに、天を仰げば実に清々しい青空だ。

 かき氷一つでいつまでも喫茶店に入り浸るわけにもいかず、千景は嘆息した。

 

「駅前の図書館にでも行こうかしら・・・・・・?」

 

 千景は暑い空の下に出るのを億劫に思いつつも会計を済ませて、喫茶店を出る。

 ところが、店を出た途端、目の前を掠めて行く物があった。

 

「えっ・・・・・・高嶋さんっ!?」

 

 それほどしっかり見ていなかったが、千景の目は相手を見逃さなかった。

 少し日焼けしているように見えたが、あの顔はまぎれもなく千景の大切な親友。

 しかも、わき目もふらず駆け抜ける、その表情は何かに怯えているように見えた。

 

「大変、追いかけないと・・・・・・!」

 

 千景は考えるより先に走り出していた。

 何より重要なのは高嶋友奈、そこに雑念が入る余地はない。

 うっかり人を撥ねないよう注意しつつ、勇者の運動能力は発揮された。

 

「待って・・・・・・! 高嶋さんっ・・・・・・!」

 

 しかし、距離が詰まっても、親友が千景の呼びかけに応じる様子はない。

 やむなく強引に肩を掴んで、引き留める形になる。

 

「高嶋さんっ!」

「くそっ! ・・・・・・って、誰?」

 

 だが、引き留めた相手は、千景の顔を見るなり怪訝な顔をした。

 おまけに「くそっ」などと、驚きの悪態まで。

 

「えっ、あの・・・・・・。高嶋・・・・・・さん?」

 

 千景はまさかと思いつつも、念のため確認を取る。

 すぐ近くで顔をよく見ても、造形は間違いない。

 しかし、千景の知る親友とは全体的にこう、雰囲気が違う気がしたのだ。

 

「高嶋・・・・・・それって、勇者の高嶋友奈のこと?」

「え、えぇ・・・・・・。貴女は・・・・・・」

「ぜんぜん、貴女が探しているのとは、別人だよ」

 

 そして引き留めた相手から発せられた、人違いの宣告。

 恥ずかしさと申し訳なさから、千景はその場ですぐに謝罪をした。

 

「ごめんなさいっ! 人違いを・・・・・・っ」

「ううん、構わないよ。それより、もしかして貴女も勇者?」

「はい・・・・・・。郡千景・・・・・・ぇっ!?」

 

 だが、羞恥の感情はすぐ驚愕に塗り替えられた。

 なぜ、目の前の少女は、千景に抱きついているのか。

 やわらかい感触に戸惑い、それを気にする低俗な己を内心で恥じる。

 そして、自己嫌悪で冷静になったところで、千景は問いかけていた。

 

「あの、どうして・・・・・・?」

「探していたの、勇者を・・・・・・。おねがいします、"レンち"を助けてください!」

 

 理解が追いつかない状況に、しかし、千景は妙な既視感を覚えた。

 大社に裏切られたときによく似ている。つまり厄介事の気配。

 

「わかったわ。詳しい事情を聞かせて頂戴」

 

 それに対して、否は無い。郡千景は勇者だった。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 人目を避けたいという少女を連れて、千景は寮へと戻った。

 寮の守衛は、少女を千景のルームメイトと見間違えて通してくれた。

 千景に促されるまま談話室のソファに腰掛けた少女は、その名を"赤嶺友奈"と言った。

 

「あの、これから信じられない話をすると思いますが、まずは話を聞いてもらえますか・・・・・・?」

「えぇ、その為に人のいない場所まで案内したのだから」

 

 千景はお茶も淹れて、友奈に差し出す。

 近頃、千景も人との接し方が自然になってきた。

 無意識のうちに練り上げてしまう神威を制御して押さえ込むことが可能になり、ひとまず周囲に怖がられることは無くなった。

 友奈が話に前置きをしたのも、千景が怖いからではないだろう。

 

「実は私、七十二年後の未来から来たんです・・・・・・」

「奇遇ね、私もそういう経験があるわ」

「えっ」

「だからそこは疑わない。大丈夫よ」

 

 友奈に対して、千景は気軽に話すよう促した。

 何に困っているのか、どうすれば助けることができるのか。

 話がまとまっていなくても、まずは考えを聞かせてほしいと。

 

「えっと、周辺国をワーッてするために勇者を造る計画があるって、私のところに人が来て、七十二年前の勇者の話を聞かされて、学校も転校して、怖かったけどレンちと友達になれて・・・・・・」

 

 友奈の話は本当に散らかっていたが、千景にはまたもや既視感があった。

 千景が大社から勧誘された、あの日と重なって見えたのだ。

 

「"レンち"さんはとても大切な友達なのね」

「はいっ! あ、名前は弥勒蓮華で、レンちは呼び名で・・・・・・」

「私の友達も、いつもみんなを愛称で呼んでるから、慌てないで大丈夫よ」

 

 そんなところまで親友にそっくりとは。

 友奈の容姿と名前も手伝って、千景はますます親近感を覚えた。

 

「でも、勇者になる為だっていう儀式が、すごく気持ち悪くて・・・・・・」

「気持ち悪い?」

「はい・・・・・・」

 

 そして、友奈は語り始める。

 七十二年後の、勇者を造るための儀式について。

 

「枕元に変な石像を置いて眠るんだけど・・・・・・変な夢を見るんです」

 

 夢の中では勇者の候補者は、太陽も地面も歪んで見える、巨石の建造物が乱立する島にいる。

 生臭い粘液で表面を覆われた石畳を進むと、大きな扉に行き着く。

 見たこともない象形文字が記された扉の前でひざまずいて、祈りを捧げると声が聞こえてくる。

 

「クトゥルフ・フタグン、って」

「勇者というか、ずいぶんな物を呼び出そうとしてるわね・・・・・・」

「そうなんですか?」

 

 千景は話の前半から嫌な予感がしていたが、最後がトドメだった。

 未来の人間はあれの電波を受信したのだろうか。

 

「ネットで調べればこれくらいすぐ・・・・・・あぁ、ひょっとして外部との接触は禁止されてる?」

「はい、神様の声を聞くためには物忌みをしないといけないって」

「あれと物忌みは関係ないでしょ・・・・・・。大丈夫なの、その組織・・・・・・」

 

 たしかに、あれは神託みたく夢を媒介にして人間に語りかけてくる。

 あれが復活したとき、信者を神の領域へ押し上げもする。

 だが、その精神構造が人間と致命的に異なるのに、挨拶感覚で高度な精神同調のコミュニケーションを図るから信者の心は容易く壊れてしまう。心が壊れた信者はろくでもない状態、飾らず言えば狂人になる。

 つまり、人間が安易に接触して良い存在ではないのだ。

 

「未来の神様は何をやってるのよ・・・・・・」

 

 千景は天の神様や神樹様の仕事ぶりにため息が出た。

 

「あの、私をこの時代に連れてきてくれたのは、その神様なんだと思います・・・・・・」

 

 しかし、友奈は神様のことを弁護するように言った。

 

「夢の中でレンちが扉に引きずり込まれて・・・・・・。私が助けに行こうとしたら、海の匂いに包まれて、気づいたらこの世界にいて・・・・・・」

「あぁ、"あの神様"が仕事をしたのね」

 

 そして、千景は納得した。

 あれは通常、海によって封じられているものだ。

 だから、天の神の弟、海の神が動いたのだろう。

 もっと直接的に動けばいいと思うが、何か事情があるのだろうか。

 

「でも、この世界に来てからも生臭い匂いがついて回って来て・・・・・・。あまり長い時間はこっちに居られない、それまでに助けてくれる人を探さないといけないって、神様の声がして・・・・・・」

「滞在が短いのは困るわね・・・・・・」

 

 千景はできれば入念な準備をしてから出立したかった。

 だが、友奈が神樹の樹海にいるような状態なら、悠長にはしていられない。

 帰省中の勇者部を呼び戻すのは難しいと言わざるを得ない。

 

「でも、千景さんがいれば大丈夫ですよね?」

 

 しかし、それだというのに、友奈の信頼は揺るがない。

 友奈曰く、組織の人間が言ったそうだ。

 

 ーー郡千景がいなくなったから、この計画が始まった。

 

 当初、友奈はそれを勇者の代わりが必要になったと解釈していた。

 しかし、これは千景が邪魔だったと読み解くこともできる。

 今日こうして千景と接して、その反応を見たことで友奈は思ったそうだ。

 組織は、勇者を恐れていたのかもしれないと。

 

「だから、千景さんお願いします。私と一緒に、夢の世界でレンちを助けてください」

「・・・・・・しかたないわね」

 

 そこまで頼られては、千景も覚悟を固める他無い。

 いつでも友奈の望むタイミングで連れ出してほしいと答えるのだった。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 千景は久しぶりに深い息吹で世界と一つになった。

 "一は全、全は一"の穏やかな喜びで、千景の世界が満たされる。

 

「えっと・・・・・・千景さんって、人間なんだっけ・・・・・・?」

「そうだけど、どうかしたの・・・・・・?」

 

 そして、そのまま千景は、友奈の夢の中へと飛び込んだ。

 いや、友奈の言うとおり、それがおかしいのは千景も理解している。

 真に世界と一体化すれば、過去未来、飛び込む先など存在しない。

 あるとすれば、千景と一つにならない何かがそこにあるという事だ。

 証拠に夢に入ると、千景は湿度の高い部屋に入ったような淀みを感じた。

 

「組織の人が、ここは神様の世界だって言ったけど・・・・・・」

「そうね、空気に独特な重さを感じるわ・・・・・・」

「でも、千景さんの周りだけ花畑で、世界を侵食してない?」

「・・・・・・・・・」

 

 友奈に言われて周囲を確認する。

 たしかに生臭い粘液に覆われた遺跡がくり抜かれて、千景を中心に半径五○メートル程度、花畑が広がっている。

 しかし、これは夢だから起きる現象だろう。

 

「夢なら、いきなり景色が変わることだってあるでしょう?」

「そうだけど・・・・・・っ」

「夢の世界なんてわりと誰でも塗り替えられるんじゃないかしら・・・・・・ほら、こんな感じに」

 

 千景がぐっと力を込めたら石畳から遠くの神殿まで、麗らかな陽気が注ぐ花畑に変わった。

 一人、花畑の中で倒れている子がいたので助けに行く。

 

「この子が弥勒さん?」

「違うけど・・・・・・っていうか、何をしているの、千景さん?」

「この子の魂が、なんだかよくわからない深海生物と"入れ子"になってるから、夢から醒めたときに元の身体に戻れるように手当を・・・・・・」

 

 身体と魂を線で結んで一筆。これは天の神様から教わった、世界の理を都合よく書き換えて、壊れ物を直したりできる便利な技だ。世界を炎の海に沈めることができるそうだが、千景はもっぱら園芸部が上手に咲かすことのできなかった花を咲かせることに使っている。

 

「よし・・・・・・。赤嶺さん、探索を再開しましょう」

「これを探索と呼ぶのは、千景さんくらいだと思うな・・・・・・」

 

 花畑の侵食で雑巾掛けするように探索を進めるうちに、千景が近づいても景色の変わらない場所がついに見つかった。

 花畑の中にポツンと残った百平方メートル程度の空間だが、千景がぐっと力を込めても景色が揺らぐ様子が無い。

 

「レンち、この中にいるみたいだね・・・・・・。行こう、千景さん」

「ダメよ、赤嶺さん」

「えっ!?」

 

 そして、千景の歩みがそこでピタリと止まった。

 千景が発した強い制止の声に、友奈は身構えた。

 ここがはそれほど危険な場所なのか、と。

 

「なんとなく、こういう雰囲気の場所には覚えがあるの」

「それって・・・・・・」

 

 千景が話すのは、少し前の苦い記憶。

 天の神と人間が仲直りできてなかった頃の出来事。

 

「たぶん神様のプライベートルームよ」

「あっ、それは入ったらまずいね・・・・・・」

 

 神様にも踏み入られたくないパーソナルスペースというのがある。

 五メートル離れたところを飛んでいるチョウを可愛いがる人でも、顔面スレスレで飛ばれたらイライラするように、神様にも適切な距離感という物が存在するのだ。

 

「私が塗りつぶせたところは、たぶん信者が作った夢の世界ね。冒涜的なイメージに合わせて増築したんでしょうけど、こうして掃除してみると本家との違いが大きいのがわかるわ」

「あ、そういえばここは苔生してはいるけど、ぜんぜん臭くないね」

「あれは星辰が揃わないと寝てるんだから、体液が漏れるわけもなく生贄も何も要るわけがないのよ・・・・・・さて」

 

 ーーQ'thulu fhtagn?

 

「今なんて言ったの?」

「クトゥルフさんいらっしゃいますか、なニュアンスよ」

 

 あれは適当な発音でも意味を読みとってくれる親切な存在だ。心を読んでいるのだろう。

 ゆえに日本語でも通じるだろうが、現地の人に声かけするときくらいエクスキューズミーやスミマセンを使い分けるのがマナーだ。

 そして、千景の脳裏にメッセージが降ってきた。

 

「えっ!? そんな、たまたま人を捜すついでに掃除しただけで・・・・・・」

 

 だが、そのメッセージには、千景も恐縮してしまった。

 

「千景さん何言われたの?」

「神殿周りの掃除、ありがとう。綺麗な花畑、嬉しいって」

「あはは、けっこう可愛い神様なんだね」

「神様というか、ただの宇宙規模の迷子みたい・・・・・・」

「迷子?」

「えぇ、ゾスに帰りたいって」

 

 なお、本来は友奈に伝えたような可愛らしいメッセージではない。

 ところどころに慣用句みたく冒涜的なイメージが織り交ぜられ、ウィットに富んだ精神の侵食を試みられていた。千景は現在進行形で、文化の違いをまざまざと思い知らされているところだ。千景が発狂していないのは、天の神が十日かけて千景の器を改造し、横入りした金星の神が世界の真理を授けて、たまたま冒涜的な友人を受け入れるだけの器を持っていたおかげである。

 天の神様達ありがとう。

 しかし、話し相手がいなくて退屈していた冒涜的な友人が千景に技術的なアドバイスを精神同調で流し込んでくれたおかげで、明日から千景は外宇宙へ遊びに行くことも、銀の鍵の門を潜ることもできそうだ。文化は違えど、異なる視点からの尖った意見が技術的なブレイクスルーを生むのは、どこの世界でも変わらないようだ。

 

「そう・・・・・・世界の事に詳しいのね・・・・・・」

 

 それと引き替えに、千景は久しぶりに精神的な消耗を自覚した。これほどダメージを受けたのは若葉に前世からの思いの丈をぶつけて、恥ずかしさに身悶えて以来。つまり案外余裕だった。

 しかし、いつまでも世間話に興じているわけにもいかない。

 千景は最後に飛んできた親しみある発狂ジョークをうまく笑って聞き流したところで、冒涜的な友人に当初の目的を伝えることにした。

 

「私達の目的なんだけど、弥勒蓮華って女の子を捜していて・・・・・・」

 

 すると、意外なことに彼女は丁重に扱われていた事がわかった。

 曰く、挨拶を受けて気絶で済む、希有な素質の持ち主だったからだと。

 しかし、千景が話し相手になったから、もはや解放するのはやぶさかでもないという。

 

「えぇ、じゃあそれで・・・・・・。赤嶺さん、おまたせ。入って良いらしいわよ。祭壇に寝かせておくから連れて帰りなさいって・・・・・・」

 

 そして、あっさりと交渉は成功した。

 

「うわぁ、口だけで神様どうにかしちゃった・・・・・・」

 

 友奈が大げさなことを言っているが、口だけな筈は無い。

 千景が天の神から授かった、世の理を書き換える力で空に星を描いて、星辰を整えてほしいという相手の希望を叶えることが条件だった。なお、復活しても信者に力を与えないよう千景側から要望を出そうと思ったが、千景の心を読んだ相手が信者を捨てるのはもちろん地球から一族揃って退去すると気前よく言ってくれたのは助かった。

 なんでも滅びた故郷のゾス星系が蘇れば、地球に未練は無いらしい。

 

「ねぇ、やっぱり千景さんって人間じゃないよね?」

「そうかしら・・・・・・そうかも?」

 

 そして、友奈の質問が今度は胸に刺さる。

 軽く星を作ると言う自分が果たして人間なのか、自信が無くなってきたのだ。

 

「組織の人が言ってた、"いなくなった"って、絶対死んでないよね?」

「いや、流石に・・・・・・寿命は・・・・・・」

 

 はっきりと死ぬと言えない自分が、千景は少し怖かった。

 挙げ句、冒涜的な友人には、たまに連絡して欲しいと名状しがたい電話番号らしき思念を渡されてしまった。皮肉なことに、それの使い方は精神同調した際に流し込まれており、千景にもわかってしまった。

 だが、スマホの電話帳を見せるノリの思念で、"郡千景"と並んで"イスの偉大なる種族"がいるのはどういうことか。

 

「その人、千景さんの知り合い?」

「・・・・・・・・・」

 

 友奈の何気ない質問が深々と胸に刺さる千景であった。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 千景は夢の中で、友奈が蓮華をおぶって消えるところまで見送った。

 冒涜的な友人は、千景が空に星を書き足すと神殿の扉から飛び出して、流れ星のように空へと去ってしまった。

 夢の中での出来事だが、おそらく現実でも似たような事は起きているのだろう。こっそり目覚めた友奈の視界に意識を飛ばしてみると、地上から空へ飛び立つ流星群が発生していた。

 

「・・・・・・まぁ、よほど注意深く見ないとただの幻想的な光景よね」

 

 誰にともなく言い訳をこぼしつつ、千景は友奈との接続を切った。

 主がいなくなり、一面の花畑と化した夢の世界にも、もはや用は無い。

 

「帰りましょう・・・・・・」

 

 そうして、千景は夢から覚めた。

 そこは七十二年後の世界でも、夢の世界でもない。

 冷房の効いた寮の談話室で、ティーカップが二つ並んでいた。

 正面のソファには誰かが座っていた形跡はあるが、誰の姿もない。

 まるで白昼夢を見ていたような、奇妙な光景だった。

 

「まぁ、夢じゃないけど・・・・・・。誰にも言えないわね・・・・・・」

 

 千景は余韻を洗い流すように、スマホでお気に入りの音楽を聞いて、心を現在に呼び戻す。

 

「はぁ・・・・・・高嶋さんに会いたいな・・・・・・」

 

 かくして、千景は何事もなかった如く、暇な夏休みへと戻った。

 宇宙規模の恐怖神話が始まる予感は、中学生の夏の夢に終わった。

 

「一度メールしてみようかしら・・・・・・」

 

 高嶋友奈から「お土産にたこ焼き買って帰るね」とメールがあったが、深い意味は無いだろう。

 

 

 

(おわり)




ご読了ありがとうございます。

ぐんちゃんにクトゥルフの呼び声の探索者になって欲しい願望と
天の神様の天沼矛と、大神の筆しらべが似てるという妄想の産物でした。
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