郡千景の日記帳   作:黒歴史ノート

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3. 園子の特訓するお姉ちゃん

 園子達は合宿所の旅館へ到着するなり、荷物を置いて道場へと向かった。

 スケジュールは、大赦が用意したものが時間の許す限り詰まっていた。

 訓練の時間は、朝五時から夕方五時まで。

 その内容は、基礎体力から技の型に連携まで、その道の達人から個別に指導を受ける物だった。

 

「じゃあ、これから追加メニューね」

 

 しかし、そんな合宿に初日から、千景の爆弾は放り込まれた。

 一日の訓練が終わって温泉で疲れを癒す中、千景から発表された追加メニュー。

 それを聞いた瞬間、銀はこう言った。

 必殺技習得イベント来たと。

 

「基礎も武術もいいけど、ちょっと私の真似をしてパワーアップしましょうか」

 

 千景の真似というだけで、園子は興味が湧いた。

 千景はその日、鍛錬をこなして息一つ乱さず、汗一滴流さなかった。

 勇者に変身しているわけでもない、秘密の正体は気になっていた。

 

「やるのは勇者として力を取り込むのと、同じような事よ」

 

 そして、千景はあっさり教えてくれた。

 自分は勇者システムに頼らず勇者の力を使っているだけなのだと。

 力の源こそ異なるが、大した違いは無いと。

 

「かといって、安直に勇者の真似をしているだけでもないわ」

 

 曰く、千景の秘密には基本として五つの段階があるらしい。

 器に力を注いで肉体を活性化する初心者コースで、勇者未満。

 器を体の外まで広げて外部強化する初級者レベルで、勇者と同等。

 器を更に広げて世界と繋がる中級者レベルで、気配だけで敵を捕らえられる勇者の完成系。

 器を介して世界に干渉して神威を発揮する上級者レベルで、神の領域入り口。

 神威を勇者装束という形に固定化できれば免許皆伝だが、神威を強める為には器を鍛えて力を取り込み続ける必要があり、神に勝つには相応の準備が要る。神の器があれば力を注ぐだけで際限なく強くなれるが、人間が用意できる物ではないので、今回は考慮しないそうだ。

 

「どれも勇者システムに上乗せで効果があるから、試してみる?」

「やるやる! やります!」

 

 千景に提案されると、銀はすぐに湯船を泳いで千景の元へ行った。

 そして、そのまま腕の中へと収まる。

 千景に遠慮しないその姿が、園子は少し羨ましかった。

 

「それで、何するんですか千景先輩?」

「本来は時間をかけて器を広げていくのだけど、私がエスコートするから、ゆっくり息を吸って・・・・・・」

「すぅぅぅぅ・・・・・・」

 

 それは異様に長く、一定の呼吸だった。

 

「はい、息を止めて」

「んっ」

「今、私の遊離魂が三ノ輪さんに入ったわ。内側から広げていくから、痛かったり苦しかったら言って頂戴」

 

 そうして千景の腕の中、銀が佇むことしばらく。

 最初は空気の揺らぎが見えただけだった。

 しかし、それはすぐに収まり、やがて銀が光を放ち始めた。

 

「わ~、ミノさんが光ってるよ、わっしー・・・・・・」

「どういう原理なのかしら・・・・・・?」

「中級から上級への途中、神威の発露の一つよ」

「ミノさんもう上級に届きそうなんだ~?」

「勇者なら中級までは要領を掴めば簡単だけど、三ノ輪さんは飲み込みが早いわ。これは本格的に改造すれば、私以上になるかも・・・・・・」

「改造、言いようのない不安を感じる表現ですね・・・・・・」

 

 しかし、銀の発光は数分で収まってしまった。

 千景が言うには、銀は上級に手をかけたところで終わったらしい。

 

「うぅ、なんか変な感じ・・・・・・」

「大丈夫~、ミノさん?」

「いや、見えない筈の場所が見えるっていうのが、なんか気持ち悪くて・・・・・・。須美の内股にほくろがあるとか」

「なっ!?」

「その感覚は大事にしなさい。世界と繋がって得られた直観よ」

「園子が妙に可愛く見えるのも?」

「きゃ~♪」

「えぇ、世界と一体化すれば、全てが愛おしく見えるものよ」

「いや、全てと言うか、園子だけ・・・・・・。これ、千景先輩の主観が混ざってません?」

「気のせいよ」

 

 その後、園子も銀みたいに教えてほしいと、千景にお願いした。

 しかし、悲しいかな、どうしても世界と繋がる感覚がわからないのだった。

 

「園子ちゃんの器は、とても引っ込み思案みたいね・・・・・・」

「そんな~・・・・・・」

 

 それでも必殺技らしき物の片鱗を見せた園子を、千景は褒めてくれた。

 千景にも真似できない、すごい技だと。

 

「鷲尾さんは、案外行動的なのね。少し気が強いけど、悪くないわ」

 

 しかし、須美はというと、銀と同じように広い視野を獲得していた。

 銀がお湯をかける悪戯をしても、首を傾けるだけで避け切っていた。

 一人だけ仲間外れの園子は、千景に特訓をお願いした。

 そうして、睡眠学習ならぬ睡眠特訓が、園子の合宿スケジュールへ加わるのだった。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 三日間の合宿の終わり。

 園子は複雑な気持ちで帰り支度をしていた。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 なんとも言えない気持ち悪さが、園子の胸には渦巻いていた。

 そんな時だった、安芸先生に話しかけられたのは。

 

「三日間お疲れ様。チームも纏まって、良い感じになってきたわね」

「あはは・・・・・・だったらいいな~・・・・・・」

 

 園子は暗くならないよう、笑顔に気をつけながら話した。

 合宿の中で、連携は皆のおかげでどうにか出来た。

 しかし、園子個人はすっかり三人に水をあけられてしまった。

 千景は最初から別次元だが、二日目には指南役の達人が舌を巻く技を見せた銀と須美に対して、園子は三日目に滑り込みで合格点。

 それが、千景に特訓までお願いした園子の惨状だった。

 

「乃木さんは、皆と一緒じゃないと不安?」

「はい~、もっと頑張らないといけないな~って・・・・・・」

 

 現時点では、どうして園子がリーダーなのかわからない。

 もっと頑張らなくては、見捨てられてしまうかもしれない。

 不安のあまり、園子は涙が出てしまいそうだった。

 

「私は今でも十分、乃木さんが四人のリーダーに相応しいと思うわ」

「え~、それって・・・・・・」

 

 園子が権力のある"乃木"の生まれだから。

 口から漏れそうになったそれを、園子は飲み込んだ。

 あまりに卑屈で、相手を嫌な気持ちにさせるだけだから。

 

「えっと、安芸先生ーー」

 

 しかし、代わりの言葉を伝えることもできなかった。

 安芸先生は、園子を励ます表情そのまま、時間を止められていた。

 

「あー・・・・・・」

「そのっち! お役目よ!」

「ありがとう、わっしー」

 

 廊下を走って来た須美に応えて、園子は携帯端末を手に取った。

 お役目に園子の気持ちは関係ないから、切り替えなくてはいけない。

 合宿所から大橋まで、勇者ならそう時間はかからない。

 

「おー! 千景先輩のパワーを上乗せして走るの初めてだけど、ナニコレヤバイ!」

「ミノさん待って~!」

「あっ、園子ゴメンごめん」

 

 大橋に辿り着いたとき、敵の姿はまだ無かった。

 しかし、大橋の向こうから現れた姿に、園子は緊張した。

 こちらの戦力を考慮して、敵も陣容を練り直したのだろう。

 

「嘘、四体も・・・・・・?」

「これは、合宿後で助かったって奴・・・・・・?」

「なんだか容赦の無い悪意を感じるわね・・・・・・。これが終わったら一回きちんと話をしておこうかしら・・・・・・」

 

 前から順に天秤型、装甲板型、四本角型、サソリ型とでも言おうか。

 天秤型は千景が逃がしてしまった個体が、また来たらしい。

 須美と銀は身構えるが、戦う相手を選びあぐねている。

 これまでは一体ずつだったのだから、無理もない。

 

「ミノさん! わっしーの邪魔をする天秤から!」

 

 なので、園子がリーダーとして決断する。

 最前列の矢を吸着する天秤型がいる限り、須美は戦力になれない。

 

「残り三匹は、私が囮になって引きつけておくわ」

「では、私は増援を警戒します!」

 

 園子の指示を軸に、千景と須美はフォローへと回る。

 園子と銀が接近すると、天秤型のバーテックスは分銅のついた腕を振り回そうとした。

 

「ミノさん!」

「おう!」

 

 しかし、このとき園子は合宿で習得した力を使う。

 園子は合宿の中では、大した力を得ることができなかった。

 千景から夢の中でも指導を受けたが、それでもギリギリ中級レベル。

 力は強くなったけれど、視野は狭いままで、かろうじて繋がることができたのも銀と須美だけ。

 できた技も、ぜんぜん凄くない、園子の苦し紛れだった。

 千景は多くの可能性を秘めていると言ってくれたがーー

 

「"ミノさん、がんばれ!"」

 

 それは繋がった仲間に対し、園子の力を上乗せするだけの技。

 技が発動すると、園子の身体から力が抜ける。

 その代わりに力が倍化した銀が天秤型バーテックスの間合いへ滑り込み、その分銅を切り飛ばし、胴体も両断した。

 

「園子、サンキュー!」

「うん、それじゃあ・・・・・・」

「そのっち! 上空に敵増援一体! 弾幕来るわ!」

「"ミノさん、わっしーを!"」

「了解!」

 

 パワーとスピードが倍化した銀が、須美を抱えて一跳躍で後退する。

 直後に降り注ぐ、光の矢の雨。

 嵐のような弾幕に、園子は槍を傘に変形させて耐えた。

 

「くぅっ・・・・・・。・・・・・・え?」

 

 ところが園子の目の前に、まさかの光景があった。

 そこに居る筈のない、サソリ型のバーテックス。

 千景を出し抜いて来たというのか、それこそまさか。

 悲鳴のような声が遠くで聞こえるが、敵は光の矢で射抜かれながらも毒針を振りかざし、園子に狙いをつける。

 

「・・・・・・やだーー」

 

 だが、園子が動かずとも、サソリ型へ炸裂する矢が打ち込まれた。

 

「そのっちから離れなさい、化け物!」

 

 一本ではなく、二本三本と矢継ぎ早に打ち込まれる。

 それは光の矢の範囲から逃れた、須美による援護射撃だった。

 サソリ型が怯んだ隙に、園子も傘を差したままかろうじて離脱する。

 

「無事、そのっち!?」

「ありがとう、わっしー!」

 

 上空の遠距離型バーテックスは奇襲で三人まとめて足止めするつもりだったのだろう。

 奇襲を悟られたうえに広範囲の弾幕から脱出されるのは想定外だったらしい。

 散開した三人に対して的をしぼれず、攻撃の手を止めていた。

 

「せっかく一体片づけたのに、相変わらず四対四のままかぁ・・・・・・」

「安心して、もう二対四よ」

「ワォ、千景先輩さっすが・・・・・・」

「いいえ、ごめんなさい。三匹まとめて相手すると言っていたのに・・・・・・」

「大丈夫だから、気にしないでいいよ~」

 

 そして、囮になると言っていた千景が、四本角型と装甲板型のバーテックスを片づけていた。

 よって、残りはサソリ型と遠距離型のみ。

 

「わっしーは私と、遠くのアイツを。ミノさん達はサソリをお願い」

「わかったわ」

「了解よ、リーダー」

「千景先輩となら楽勝っすね!」

 

 その後の戦いは、特筆する事もなく終わった。

 遠距離型を須美が打ち落とし、サソリ型を銀が叩き潰した形だ。

 園子は結局、一体のバーテックスも倒せなかった。

 

「園子、ナイスファイト」

「ありがと~。ミノさんこそ、カッコよかったよ」

「そのっち、怪我は無い?」

「痛いところがあったらすぐに言うのよ?」

「大丈夫。わっしーもお姉ちゃんも、凄かったんよー」

 

 それなのに、三人は園子に集まって優しく声をかけてくれた。

 戦果が一つも無かった園子なのに、皆はとても優しい。

 

「わっしー、ミノさん、お姉ちゃんは大丈夫?」

「えぇ、そのっちのおかげで無傷よ」

「同じく、思いっきり攻めたのに、かすり傷すら無し!」

「上に同じよ」

 

 だから、三人に怪我が無かったことに、園子は心から安堵した。

 園子にはもったいない、優しい大切な友達だから。

 

「しっかし、園子が狙われたときは寿命が縮むかと思ったなぁ」

 

 でも、銀の言葉に、園子は胸がチクリと痛んだ。

 足を引っ張ってしまったと思った。

 

「千景先輩はどう思います?」

「園子ちゃんの機転と、鷲尾さんに助けられたわね・・・・・・」

 

 そんな園子を気にしたわけではないだろうが、千景は言う。

 そもそも悪いのはサソリ型を逃がしてしまった自分だと。

 千景が、バーテックスの殺意を見誤っていたゆえの失態だ。

 まさか二体が捨て身で千景を妨害してまで、園子達を潰す方向に動くと思っていなかったと。

 

「遠距離の奇襲からの連携、最初から考えていたとしか思えないわね・・・・・・。最前列に天秤がいたのも、たぶん奇襲の間合いに誘い込む罠・・・・・・」

「その罠にまんまと嵌まった形だったなー・・・・・・」

「わっしーのおかげで助かったんよ~」

「そのっちと銀が天秤型を倒してくれたおかげよ」

「じゃあ、結局は園子のおかげだな!」

「え~、そうかな~・・・・・・?」

 

 須美と銀にいきなりおかげと言われ、園子は戸惑った。

 いつもの調子で喜ぶこともできず、苦笑い気味になってしまった。

 

「奇襲から須美を逃がしたのも園子の判断だったし!」

「私はそのっちの槍に三人で隠れるものだとばかり・・・・・・」

「えっと、それはやったらダメかなって~」

 

 園子は須美の防御案については、そうしなかった理由を説明する。

 とはいっても、園子のわがままが偶然当たっただけなのだが。

 あそこには須美を連れて後退できる銀がいた。

 だから、友達をわざわざ危険な場所に留めておくのは避けたのだ。

 

「それじゃあ、そのっちだけ危険を覚悟してたの・・・・・・?」

「えっと~・・・・・・」

 

 たしかに一人で光の雨に取り残されたのは、園子も危ないと思った。

 サソリ型を目前にした瞬間は、死の気配を肌に感じた。

 けれども、そうしないと全員が危険だったのだから、仕方ない。

 

「でも、一人だけあんな・・・・・・」

 

 それでも、園子が須美に心配をかけてしまったのは事実。

 

「ごめんね、わーー」

 

 しかし、園子の謝罪は、須美に封じられてしまった。

 

「え・・・・・・?」

「そのっち、ごめんね・・・・・・」

 

 園子を抱きしめて、須美は言った。

 園子を危険な目に遭わせたのは自分だと。

 須美が一人で後退するのが不安で、園子に判断を仰ぎに行ったから。

 銀と一緒に後退するという選択肢を塞いでしまった。

 

「えっと・・・・・・」

「千景先輩、完全勝利したのに、どうして空気が重いんっすかね?」

「やっぱり、園子ちゃんがサソリ型に狙われた恐怖が尾を引いているんじゃ・・・・・・」

「よっし、園子! ぎゅー!」

「えぇっ!?」

 

 園子が須美への返答に悩んでいると、銀が後ろから飛びついた。

 なんだかよくわからないまま、園子はもみくちゃにされてしまった。

 

「園子はこうしてくっつくのが好きだもんなー?」

「うん、そうだけど~・・・・・・」

「二人では足りないと言うの!? なら、千景さんお願いします!」

「わかったわ」

「えぇぇっ!?」

 

 挙げ句、千景まで含めての団子にされてしまった。

 しかし、そうしていると園子もいつしか不安が和らいでいた。

 友達がそこにいる、園子を認めてくれる、何よりの証拠を得られたおかげかもしれない。

 

「ねーねー、次はわっしーをみんなでギュッてしよ~?」

「よし来た!」

「え、ちょーー!?」

 

 須美、銀も順繰りに抱きしめられた。

 全員を抱きしめる事に意味など無い。

 ただの純粋な好意から来る、幼い愛情表現だった。

 

「あ、千景先輩が逃げた!?」

「千景さんだけ逃げるなんで卑怯ですよ!」

「お姉ちゃんもギュッてしよ~?」

 

 しかし、園子達のじゃれ合いは、千景が逃げても続いた。

 千景が合宿所の旅館へ逃げ込んで、安芸先生の背中に隠れても。

 安芸先生にそっと差し出されて驚愕する千景を、全員が笑顔で抱きしめたのだった。

 

 

 

(つづく)




園子のスキル設定
名称:支援(サポート)
概要:器に力を注ぐのではなく、園子の器を伸ばして仲間を包んで強化する技。仲間とぶつかり合うこと無くアシストとして成立するのは園子のセンスの賜物。それでも、園子は声かけで相手と呼吸を合わせないと使えない。千景がやると相手は潰れる。

名状しがたい力を取り込んでいるぐんちゃんですが、対人の気遣いがあまり得意でなかったり、神様側の悪意に鈍感な弱点もあります。
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