「なにこれ?」
俺は夢を見ているのだろうか? 何故か目の前に金髪美少女がいるのだが……どうやら起きたと思っていたが気の所為だったらしい。
もう一度寝てから起きよう。
「おはようさん……翔?」
「何で今の俺を見て瞬時に翔と判断出来たのか、その理由を是非とも知りたい」
「だって私がやったんだもん」
「やっぱりお前かぁ!」
あぁ、今日は朝から散々だ。二十四にもなって実家から出ようとしない、最近黒魔術を始めたらしい姉に女にされた。
もしこの思考を覗いている人が居るのならば是非とも愚痴を聞いて欲しい。
俺がまだ小学校低学年の時、勝手に高校を辞めた姉は何処からか稼いできた収入の一部を納める代わりに、辞めたことを許して欲しいと親に嘆願した。
それを了承した親もどうかと思うが、家に引き篭っている姉の姿をずっと見ていた当時の俺に悪影響を与えたコイツはもっと反省していいと思う。
絶対コイツ頭おかしいぞと何度友達に愚痴ろうとして、結局断念して辞めたことか。
何を言っても信じられない自信があるし、そもそも俺自身が信じたくないのだから、人に信じろというのは無茶苦茶すぎる。
そんな思考回路を継続した結果……
「いやこの姿戻せよ」
副産物として、昔から色んな姿に変えられた俺が最早驚くようなこともなく淡々と告げてしまうのは、仕方の無いことだと思いたい。
「え〜やだ」
そしてこの反応もいつも通りで、俺は何だか少し安心してしまった。
「いや、安心するなよ」
そしてこのツッコミもいつも通りだ。
「本当に今日一日この姿で外出して過ごしてたら戻してくれるんだよな?」
「あったりまえでしょ? お姉ちゃんのこと信じられないの?」
「いや、信じられる訳ないだろ」
「いや〜ん、光が冷た〜い。じゃあ楽しんでね、お金は全部使っていいから」
そう言ってバタンと閉められた家の扉を眺めながら、何処からか監視されてるんだろうなと脳死でこの状況を処理し、返す足で取り敢えず秋葉原に行く為に駅に向かう。
まさかよりによってこの日に姉の開発欲求が爆発するとは思っていなかったが、人の姿である分まだマシだろう。
問題は……
「こ、このスカートすーすーするな」
後ろ手でスカートの裾を抑えながら、誰からも見られてないことを確認して、改めて今着ている服を見返してみる。
下はとっても短い赤色のスカートを履いていて、その内側に白フリルが顔を覗かせている。
しかし注目すべきは更にその下にある、健康的な艶のある太腿だ。
傍から見て直ぐに分かるほどの太腿は、その歩いている時に擦り付け合う内腿が男達を欲情させて、少しスカートを持ち上げれば姉に用意された白のパンツがこんにちわするだろう。
しかしそれはまだいい、いや、全然良くないがまだいい。
問題は上だ、男というのは袖がない服を着たりとかはよくあるが、余り露出はしない。
だというのに今の服はどうだ? 何故かへそが出ている。きっとこれを聞いている人がいれば何言ってんだこいつと思うかもしれないが、元男としてへそ出しの服を着るのはキツイ物がある。
今は生えていないとしても、前までは生えていたお腹に伸びた毛とかぶよぶよした腹が脳裏に刻み込まれていて、出しているという事実に無性に恥ずかしさが込み上げてくる。
更に女になった動揺で最初は意識しなかったが、案外俺の胸は大きく、しかもそれを強調するような所謂童貞を殺す服だ、それの胸の下に紐だけ通ったへそ出しバージョンな感じ。
これを作った俺の姉は頭がおかしいと思う。
今が冬ではなく夏で良かったと思うけど、それにしてもこれは頭がおかしいと思う。
というか今言った服以外は全く身に付けてないとか……今の俺は痴女じゃないか?
「あ、でも肩掛けバッグは持ってるわ」
まぁ仕方ない、どうせこうなったら何が起きようとも続けなければならないのだ。
姉の言ったどんな角度でも何故か見えそうで見えないスカートというのを信用するしかない。
何故か姉は色々無茶をけしかける癖に、こういう類いの時では俺の身を守ろうとするのだ。
実際についさっき俺のスカートの中を覗こうとしていたジジィが、数分かけて覗けずに悔しそうな表情を浮かべていた。
……女って結構大変なんだな……
「……」
何だろう、凄い見られてる……やっぱりこの格好が原因かなぁ。
絶対そうだろうなぁ。
何があっても口には出さないようにしながら心の中で溜息を吐いて、椅子に座っている俺をめっちゃ凝視してくるエロい男達に睨みを効かせる。
すると直ぐに目を逸らすが、しかし俺が目を離すとまた見てくる。
俺ももし同じ立場ならそうするが、俺が女の時は絶対にするな。
「……んっ、ふぅ〜」
だけど、何だか面白くなってきた。
合わせた太腿の間に手を入れながら、俺は椅子に座り疲れた風を装って切なそうな溜息を吐いてみる。
すると周りにいた男達は一斉に反応して、中には股間を抑えだした強者もいる。
これは中々……面白い。
女というのは魔性と言うが、たったこれだけの動作で男達の視線を集められるのは正直好きだ。
なのでわざと腕を伸ばして胸を強調してみたり、足を組んでみたり、前屈みになったり、その度に反応が帰って来るので本当に楽しい。
腰に掛かる位に長い金色の艶やかな髪を指でくるくる回しながら考える。
今の俺は本当に可愛い、この容姿を活かせばアニメの声優業に就く事も可能なのではないだろうか?
悶々と考えながら秋葉原で電車を降りた俺を、驚愕の目で皆が見てくる。
うん、注目されるというのは……悪くない。
「あ、やってるやってる」
秋葉原の一角を占領して、何か舞台のような物が設置されていた。
その周りにはロープが張られていて、周りには野次馬が集まり、ロープの中にはパイプ椅子が五十個並べられていた。
今日はここで俺の大好きな声優がイベントをやるのだ。
何かのアニメのイベントらしいが、俺は佐藤さんっていう声優にしか興味が無いので知らん。
五万くらい金を使ってCD買ってやっと一枚当たったので、このパイプ椅子の一つに座ることが出来る。
まだ時間はあるというのに、一番前の真ん中の席以外は埋まっていた。
よし、俺も行くか。
「おい、見ろよあの子。すっげぇエロいぞ」「あっ、ふぅ〜」「やべぇ、俺のタイプだぞ」「お前誰にでも同じこと言ってるよな。小学生に言ってた時は本気で怖くなってお前のフィギュア燃やしたわ」
好き勝手言いまくっている男達を無視して、俺は通行証を見せてロープの中に入り、唯一空いている席に座る。
あぁ、ここはいい席だ。もしかしたら佐藤さんのパンツが見れるかもしれない。
あぁ、とってもいい席だ。
「……うわぁお」
そしてその瞬間はやってくる。
舞台脇から出てきたのはよく分からない声優陣と佐藤さん。
全員がコスプレしてて、手を振りながら挨拶してくる。
だから俺も必死に今できる最高のぶりっ子声でこんにちわ〜と言いながら手を振ると、俺を見た人達がびっくりした顔で見てくる。
それはそうだろう、こんな美少女がこんな痴女みたいな服を着ているのだから。
あと佐藤さんの驚き顔が可愛い。
俺はもう満足して、そのあとの話を聞いていなかった。
いつの間にかラストに入っていたイベントは、最後に五十人の中から抽選でプレゼントが渡されるらしい。
それは一番前の中央席に座っている人に上に登ってもらって渡すらしい。
……俺やないかい!
「え〜、私ですか? やった!」
手を軽く握って顔の横に出しながら可愛こぶる俺のキュートさに酔いしれるがいい。
そんな感じで舞台に登った俺に、とても多くの劣情の目が向けられる。
それを俺は……びっくりした。
「あ……ひぅっ」
思わず空気を飲んでしまった俺は、少し後ろに下がる。
女性声優陣は皆こんな目を向けられているのか、人生最大の尊敬を覚える俺の背中に何かが回された。
それは佐藤さんで、急に抱き着いてきた彼女は耳元で小さく言った。
美少女と美少女の絡み合いというオカズに出来そうな光景に阿鼻叫喚の嵐が巻き起こる中、俺はイベントが終了して家に帰って部屋に戻り、そのまま瞳を閉じて眠るまで、あの時の言葉を考えていた。
「パンツ……見えてましたよ。貴女可愛いですね」
あぁ、俺一生このままでいいかも。