とある蒸気船の物語   作:トッキー

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皆様、大変長い間お待たせして申し訳ありません。
なんとか次話にいけました・・・。

でも全然話が進まん・・・。うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・。


番外編 第三話

任務を終えた艦娘達―――長門、酒匂、陸奥、日向、鈴谷、島風の六隻―――は、提督から与えられた任務を終え、鎮守府に帰還しようとしていた。

 

 敵を撃破した彼女たちの前には敵の姿もなく、そして電探にも敵の姿が映らなかったため、あとは悠々自適に戻るだけであった。

だがそんな彼女たちの電探に、突然反応があったのはその直後だった。

 

 場所は―――真下。

 

 

 「長門さん!電探に反応アリ!」

 「分かっている。島風、頼む!」

 「まっかせてー!」

 

 

海中に潜んでいるのならば、潜水艦に違いないと思った長門は、島風に攻撃準備を命令した。

 しかし「それ」は、潜水艦よりも早く海面に姿を現した。

 

 体中にフジツボや珊瑚を身に付け、服はあちこちがボロボロで漆黒に染まっていた。

 その合間から見える肌や顔は、アンバランスなほど白く、ひどく目立つ。

 

 しかし何より彼女たちが驚いたのは、その姿が「男」であったことだ。

 彼女たちが驚くのも無理はなく、今までの深海棲艦は女性型や、何やらわからぬ形をしたのがほとんどだったからだ。

 そしてなにより、目の前の「それ」はひどく老けていた。

 彼女たちはその姿を見て、思わず呆けてしまった。

 

 「それ」も同じ気持ちだったらしく、ほんの一瞬だったが彼女たちを見た瞬間、呆けた表情を見せた。

 そして「それ」は、彼女たちの姿を確認したと同時に、何かにすがるような表情で彼女たちに手を伸ばしたが、彼女たちがそれに気づくことはなかった。

 皆一様に「敵」に対して、攻撃態勢をとったからである。

 

 

 

 

 

 

 任務をあらかた終えた長門は、ふと周囲を見渡した。それは警戒の目ではなく、どこか遠い光景を思い出す、そんな目であった。

彼女は正直、任務とはいえこの海域に来るのは、あまり好きではなかった。それは彼女だけでなく、日向や酒匂、そして榛名も例外ではない。

彼女の記憶にあるのは、自分の身と引き換えに、自らが祖国に帰る機会を与えてくれた古い蒸気船。

 

 彼の存在は、国の内外から集められた、各国のあらゆる軍艦の命を紡いでくれた。しかしあの船はそれと引き換えに、今でもひとり寂しく、海底にその身を横たえている。

 彼女はそのことを思うと、申し訳無さと、不甲斐なさで胸がつぶれそうになった。

 

 

 「蒸気船一隻も守りきれず・・・なにが、戦艦だ」

 

 

 しかしそんな思いをあざ笑うかのように、電探に反応があった。すぐに島風に爆雷による攻撃を命じたが、それより先に向こうが姿を現した。

 

 

 その姿は、長年会いたいと思うと同時に、謝りたいと思っていた者の姿だった。だがその姿は、彼女が思い浮かんだ姿とは程遠いものでもあったのだ。

 そして次の瞬間、艦娘として僚艦である仲間たちに命令を飛ばした。

 

 

 「全艦、単縦陣!砲雷撃戦、始め!!」

 

 

 長門の怒声に我を取り戻した他の艦娘たちは、すぐに単縦陣を取り砲火を開いた。

 

 

 

 

 「それ」は、まさか撃たれると思っていなかったのか、手を伸ばしたまま多くの砲弾をその身に浴びてしまった。

 「彼」は驚き、そして戸惑ってしまった。何故長門が、あの娘達が撃ってくる?何故酒匂が、榛名が砲撃をしてくる?なんで?私だ。頼む!撃たないでくれ。頼む、話を聞いてくれ!

 

 「彼」は懸命に伝えようとした。しかし口から出てくるよりも前に、砲弾や魚雷が彼を襲った。そして「彼」は彼女たちに背を向け、なんとか逃げようとしたが、それでも彼の周囲には砲弾が海面で破裂し、波しぶきが降り注いだ。

 「彼」は逃げ惑いながら、自分を攻撃する艦娘達に、心のどこかで叫び続けた。

 

 

 なんで、なんでこんなことをする!長門、陸奥!私を忘れてしまったのか?私は・・・ただ、もう一度、海を。もう一度、海の上を歩みたいだけなのに。

 

 

 後ろを見ようとした瞬間、長門が自分に殴りかかるのが見えた。

 

 

 

 

 攻撃を受け、手酷くやられた「それ」は自分達に背を向け、逃亡を図ろうとした。

 

 次の瞬間、長門は「それ」に躍りかかった。彼女はその右手に、相手を殴りつけた時の、確かな感触を得ていた。

 「それ」は海面を2,3回跳ねながらも、なんとか立ち上がり、逃げようとしていた。

 長門はすぐに「それ」の首元を掴み、渾身の力を込めながら、殴り続けた。

 

 陸奥や日向だけでなく、他の艦娘も、長門のその行動に意識が追いつかなかった。

 長門だけでなく、陸奥や日向はよく見れば、「それ」に見覚えがあったはずである。だが、それよりも先に、「敵」に対して攻撃をしたのは仕方ないとも言える

 しかし長門は構わず殴り続けている。

 

 その理由は、敵を撃破するという単純なものではなく、別にあった。

 

 

 あの船の姿をするんじゃない。あの船の顔をするんじゃない。貴様なんかに、貴様らなんぞに、あの船の、あの方の思い出を汚してなるものか。

 

 

 ほんのしばらくして、長門は自分の拳が止まっていることに気づいた。ふと周りに目をやれば、殴るのを止めようとしている陸奥や榛名、そして鈴谷と酒匂の姿が目に入った。

 

 

 

 「何をする?鈴谷、酒匂・・・そして日向、陸奥」

 「それを言いたいのはこっちよ。長門。あなた、今自分が何をしているのか分かる?」

 「何をだと?ああ、分かっている。私は敵を!」

 「長門、今お前が殴っているそれが、今の本当に私たちの敵なのか?それをはっきり、分かって言っているのか?」

 「当たり前だ!私は」

 

 

 

 自分の妹や僚艦の航空戦艦の声を聞き、改めて自分が殴りつけている相手を見たとき、振りおろそうとした手が止まった。

 目線の先にいたのは、人類や自分たち艦娘の敵ではなく―――見間違うもない、かつて自分を救ってくれたあの船の顔であった。

 「それ」は、懸命に何かを伝えようとしており、そしてか細い声でありながら、何を伝えようとしていたのか、長門だけでなく、周囲の艦娘にも伝わっていた。

 

 

 「ナガ、ト・・・ムツ・・・ヒュウガ。ミンナ、ナン、デ・・・ナン、デ・・・」

 

 

 時折どす黒い血のようなものを吐きつつ、むせび泣くように「それ」は伝えなければならないことを、彼女たちに教えようとしていた。

 

 長門はそれを見て、思わず掴んでいた手を離そうとし、身を仰け反らせた。それはまるで、自分のしたいことを認めたくないようにも見て取れる。

 彼女の手から逃れかけた「それ」は、なんとか自分の意思を伝えようとしていた。

 

 しかし長門の拳は握られたまま、場が硬直した。しかしそんな空気を破ったのは、先ほど攻撃を命じた島風だった。島風はもはやどうすればいいのか分からず、追随している連装砲達を抱きしめ、涙を流しながらうろたえていた。

 

 

 「長門、もうやめてよ。もう、その船・・・ボロボロで、戦えないじゃない」

 「し、島風。だがこれは」

 「お願いだからやめてよ!長門、今自分がどんな事をしてるのか分かってる?他の皆が、今どんな顔してるのか分かってる!?なんでそんなことするの!その船は・・・長門や、皆の恩人じゃないの!?」

 

 

 長門は島風の叫びを聞き、今しがた自分がしたことを改めて確認させられた。

 自分は今何を殴っている?あの方に姿を似せた「敵」をだ。

 

 しかしそれは本当に似せただけか?本当に「敵」だったのか?

 

 長門は殴りつけていた相手を、改めて凝視した。体中にフジツボや様々な貝類がこびりつき、チ級とまではいかないまでも、やや大きめな手甲のようなものを付けていた。

 だが他の深海棲艦とは違い、武装らしいものはほとんどなく、海上に姿を現した時から丸腰であったように見て取れた。

 

 それはもはや、呼吸することも思うようにままならず、時折苦しそうに咳き込んでいた。

 しかしその目線は、もはや彼女たちに向けてではなく、まるで迎えに来た誰かを見ているように、ただ空中を見ていた。

 

 日向は「彼」に近づき怪我の具合を確認した。そして「彼」を担ぎ鎮守府に向けて出発しようとしたところ、長門が慌てて声をかけた。

 

 

 「ま、待て。日向。そいつを一体どうするつもりだ!」

 「どうするか、だと?見て分からないか。治療のために、連れて帰るんだ」

 「だ、だがそれは!!」

 「黙れ」

 

 

 日向のその一言は、いつもの飄々とした姿を感じさせるものではなかった。長門に対し述べたその一言は、誰よりも重く、また耳に残るものでもあった。

 

 

 「長門。確かに貴様は旗艦だ。だがな、いくら貴様がかつての連合艦隊旗艦だからといって、全部の命令に従うと思ったら間違いだ。我々艦娘は、確かに深海棲艦を倒さなければならない。それに今提督から受けている命令の中にも、接触した敵は、もし可能であれば撃破しろとある」

 「だったら!」

 「だがつい先程まで、こいつは奇襲するにはうってつけのところにいた。そして我々を攻撃せず、逆に姿を見せた時、こいつは一切の攻撃を仕掛けてこなかった」

 

 

 それにと日向は一度言葉を切り、長門を睨みつけるように見た後、言葉を続けた。

 

 

 「もし、こいつが本当にあの船の生まれ変わりなら、我々は命の恩人を殺すことになる。私としては、絶対に許せるものじゃない。長門、お前はどうだ?」

 

 

 日向の問いかけるような、さりとて答えをはぐらかすような許さない口調が、長門に重くのしかかってきていた。

 日向はその長門を見て、さらに口調を荒げた。

 

 

 「それでもいいのか!!」

 

 

 長門はそれに応えることはなかった。

 彼女たちは正体不明の船を抱え、鎮守府に帰投した。長門は最後尾にいたが帰投するまでの間、一言も言葉を発することはなかった。

 

 

 

 




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