とある蒸気船の物語   作:トッキー

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大変遅くなってしまい申し訳ありません。


番外編 第四話

 遠征に出した艦隊が帰投した時、鎮守府中が騒然となった。それもそのはずであり、その艦隊が、深海棲艦を、それも男性形を連れ帰って来たのだ。

 だがその知らせを受け、その深海棲艦を一目見ようとした艦娘達――全員が何かあった時のために、武装をしている―-は皆、愕然とした。

 

――あの船が、なんで――

 

 やがて艦隊が入港した時、そこにいた艦達は連れられてきた者のその姿を見て、知らず知らずのうちに涙を流していた。特に―――鳳翔や葛城、鹿島や北上、伊勢や大和、ほかの多くの軍艦―――『その世界』において、彼のおかげで沖縄特攻や呉軍港大空襲など、末期の戦災を生き延びた者達は、膝をつき、そして静かに泣いた。

 

 まさか逢えるとは思わなかった。再び目にすることが叶うとは、思わなかった。それでも、逢える日を楽しみにしていた。でも本当に、本当に再び逢えることが叶うとは、思ってもみなかった。

 静かに泣き声が響く中、鳳翔などが、彼の姿を改めて見てみると、それは傷だらけであり、とても無視できるものではなかった。そうして慌てた彼女達は、直属の指揮官である提督に嘆願した。

 

 「お願いします、提督!あの深海棲艦、いやあの船を、今すぐ修復して下さい!お願いします!!」

 「提督、お願いだよ!あの深海棲艦、あの船を助けて!!」

 「Admiral!お願いします!!」

 

 

 彼女たちの上官である提督は、これには流石に驚いていた。本来ならば敵である深海棲艦は、彼女たちがこぞって撃滅しようとする相手なのだから。

 しかし彼女たちは、揃ってあの深海棲艦を助けてくれと頼んだ。その理由を提督は問いただしたが、彼女達は途端に口を噤んでしまう。しかし、鳳翔を始めとした彼女達は、その噤んでいた口を開けた。

 

 「あの深海棲艦・・・いえ、あの船のおかげで、私達は、軍艦としての誇りを。そして帝国海軍の艦艇としての意地を、失わずに済んだんです」

 「馬鹿にするつもりはないよ。でも…提督には、分かんないかもしれない。軍艦として何もできなかったのに、あの船は私達を守ってくれた。助けてくれた。それで私らは、復員してきた人達を、何回もこの国に、運ぶことができたんだ」

 「私達は沖縄特攻が叶わなくて、あの恐ろしい新型爆弾の実験台になりかけました。でも、あの方のおかげで、助かったんです。そして、あの時の造船技術の結晶として、生き延びることができました。どんな処罰も甘んじて受けます。お願いです、提督。あの船を…助けて下さい」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かった。入渠を許可する」

 

 艦娘達の懇願や、遠征艦隊の真剣な眼差しを受け、提督は決断した。それは軍人としてでなく、血が通った一人の人間の姿でもあった。

 そうして伊勢が連れてきた彼は、入渠ドックへと連れられていった。幸いに他の艦娘が入居しているということはなく、彼一人だけだった。

 伊勢や、陸奥の手によりなんとかドックに身を横たえた彼に、高速修復材が使われることになったが、そこで思いもよらないことが起こったのである。

 

 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 修復材が彼の肌に触れた途端、突然彼が叫び声をあげたからだ。その声を聴いた艦娘達が、ドックに飛び込んできた。

 

 「一体どうしたの!?」

 「分からない!修復材を使った途端、苦しみだしたの!」

 

 そうして何人かの艦娘の手によって、彼は慌ててドックから引き揚げられた。彼の体は大半が確かに治り始めているが、その反面、彼はまるで、劇薬を体に浴びたかのように苦しんでいる。

 修復材を浴びた彼は、息も絶え絶えになり、虫の息であった。

 彼女達は、そんな彼を慌てて救護室に連れていき、ベッドに寝かせた。そして夕張と明石が気を失っている彼の脈拍や体を、今出来る範囲で調べていった。

 そうして何とか調べ終わった彼女達は、作戦室に向かった。そこには、彼の様子を機にかけていた艦娘達が揃っていた。

 

 「はっきりしたわけではないんですが、彼が修復材を浴びて苦しんだ理由は恐らく、大元の船体に起因していると思われます」

 「船体?」

 「はい。ですが確証は持てません」

 「それでも構わない。話してくれ」

 

 日向の言葉に、明石は頷き言葉を続けた。

 

 「多分ですが、船体が古すぎて、修復材で修復を行うには、あまりに劇薬すぎたのではないかと」

 「それってつまり、どういうこと?」

 

 北上が疑問の声を上げると、他の艦娘達も同じように疑問を抱いた。明石はそれを何とか噛み砕いて説明した。

 

 「人間で分かりやすく言えば、曲がってしまった骨を、強力な薬で無理やり元に戻そうとしているようなものです。現状では今の彼の体は、普通の人間と同じように、ゆっくり直すしか手がないかと…」

 「それは、どうにかできないの?」

 

 陸奥の言葉に明石は黙って首を振るしかできなかった。

 それを見た彼女達は俯いてしまった。特に、戦争末期を生き抜いた者達は涙があふれそうになっていた。

 ―――――――――せっかく会えたのに、話すこともできない。

 ―――――――――艦娘になってから、色々なことがあった。それを聞かせたい。そしてあなたの声を聴きたい。共に笑い合いたい。

 しかし彼はボロボロで、今はただ見ていることしかできない。作戦室から出る彼女達は、皆救護室がある方に目を向けていた。

 

 

 

 そしてその夜、ほとんどの艦娘が寝静まった後、長門はただ一人救護室にいた。彼女はすぐそばに座り、ベッドに横たわる彼に向かい、知らず知らずのうちに呟いていた。

 

 「すまない…すまない…すまない…すまない…」

 

 やがて彼女は俯き、その声は嗚咽交じりになっていた。

 

 「ごめんなさい…ごめん…ごめん、なさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 

 

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