とある蒸気船の物語   作:トッキー

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番外編 第六話

 長門は「あの日」から、出撃以外はずっと部屋にこもったままであった。

 出撃の時は仲間の忠告にあまり耳を貸さず、自分が傷つくのも顧みず、ただひたすら戦闘に励んでいた。それはまるで何かを忘れようとするために…。

 そしてそれ以外は部屋に籠ったままで、外に出ようともしなかった。陸奥や他の艦娘が声をかけても、生返事ばかりで、視線は床の一点しか見ていない。そんな状況が続けば、当然士気にも影響が出てくる。

 

 そんな日が二週間も続いた。その日も彼女は出撃しようとしたが、突然部屋に妹の陸奥がやってきた。

 

 「長門、いつまでそうしてるの?」

 「む、陸奥…」

 「もうかれこれ二週間よ?そんな状態は」

 「放っておいて、くれ…」

 「そんなわけにもいかないわ。あなたが、夜な夜な彼の所で泣きながら謝っているの、この私が知らないとでも?」

 「それ、は…」

 「あなたの気持ちもわからないでもない。でも、そんな事を続けて、彼の納得がいくとでも?彼がそれを望んでいるの?」

 「私は!」

 

 長門は立ち上がり、声を絞り出そうとしたが喉が上手く動かず、そのまま黙ってしまった。陸奥はそれに気づいたのか、小さく肩をすくめて部屋を出ようとした。しかし彼女は思い出したようにつぶやいた。

 

 

 「長門。それがあなたの贖罪のつもりなら…一言だけ、言わせてもらうわ」

 「な、何…?」

 「あなたが、もしこのまま戦い続けて、沈んでしまったら…「彼」は、今度こそ壊れてしまうかもしれないってことよ」

 「な…そ、それはどういう!?」

 「分からないの?」

 

 陸奥は幼子に教えるように、ゆっくりと語りかけた。

 

 

 「あの「彼」は、どんな事をしてでもあなたを、いえ、あなた「達」を帰したのよ?そんな中、誤解とはいえ「彼」を傷付けた。それでもあなたは自分が許せない。そうでしょ?」

 「あ、ああ…」

 

 陸奥の言葉に長門は思わず頷いた。それを見た陸奥は変わらず視線を長門に向けたままだった。

 

 「じゃあ、聞くけど、もし「彼」が自分の身と引き換えに本土に帰した貴方が、誤解でも自分のせいで自殺してしまったなんて知ったら…「彼」はどうなるか分かってるの?」

 「!そ、それは…」

 

 長門は、陸奥が言わんとする事が痛いほど分かった。分かっていたつもりだった。しかし彼女の奥底にある武人としての、戦艦の記憶がある彼女としてのプライドがそれを頑として認めようとしなかった。

 

 「もし「彼」を本当に想う気持ちがあるなら、謝る気持ちがあるなら、面と向かって伝えなきゃいけないわ。沈んで詫びようなんて考えはしないで。そんなことしたら、「彼」だけじゃない…提督や皆も、それに私も壊れてしまうかもしれないから」

 

 陸奥は部屋を出ていき、部屋には再び長門だけとなった。陸奥の言葉を聞き、長門の目からは再び大粒の涙が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陸奥は「彼」を見舞う為に、病室に向かった。途中で鳳翔と出遇い、他愛ない話をしたが、一瞬の静寂の後に鳳翔が長門について尋ねた。

 

 「陸奥さん、長門さんはやはりまだ…?」

 「ええ。相変わらず思い詰めていたわ。あのままでは自殺しそうだったから、少し話をしといたわ」

 「話を?」

 「ええ、「謝るならちゃんと言葉で伝えろ」ってね。自分の考えだけで相手の答えを決めてそれで苦しんでるなんて、馬鹿としか言いようがないわよ」

 「あ、アハハ…」

 

 

 厳しい口調だったが、それは姉の存在を思いやる為に出た言葉であり、鳳翔もそれは十分理解していた。

 そして「彼」の部屋に着き、扉を開けた時、彼女達は信じられない光景を目にした。それはずっと眠っていた「彼」が、涙を流しながら外を見ていたからだ。

 

 そして「彼」はこちらに気付いたのか、声を上げた。

 

 

 「ム、ツ…?ホ…ウ、ショ…ウ?」

 

 

 鳳翔と陸奥は声を荒げていた。しかしそれは再び「彼」の声を聴けた喜びからくるものだった。

 

 

 「あ、あなた…!も、もう傷は!?」

 「鳳翔、私、提督と長門を呼んでくるわ!ちょっと見ていてあげて」

 「わ、分かりました!」

 

 陸奥は大急ぎで提督の執務室に向かった。大急ぎでドアを開けると、そこには二種軍装に身を包んだ提督と大淀がいた。

 二人とも急にドアが開いた事で目を見開いていた。

 

 

 「む、陸奥!一体どうした!?」

 「て、提督!か、「彼」が、目を覚ましたわ!」

 「な、何!本当か!?」

 「ええ、私は長門を連れてくる!大淀は先に救護室へ行っていてちょうだい!提督、あなたは私と一緒に着て!!」

 「わ、分かった!」

 

 

 そうして彼女は提督と共に、つい先ほど出ていった部屋に来ていた。部屋の中に入ると、長門は両目を赤くし、自分達へ怯えた表情を見せていた。

 

 

 「陸奥…それに、提督。一体…どうした?」

 「長門。よく聞いて。あの船が、彼が目を覚ましたわ」

 「長門、今日の出撃は取りやめだ。今すぐ彼に会ってやれ」

 

 

 長門は目を見開き、慌てて立ち上がったが、彼女は少し躊躇った後、二人の申し出を拒否した。

 

 

 「駄目、だ…。会えない…。今の私に、会うなんてこと…」

 「っ戦艦長門!!」

 

 

 そんな彼女に業を煮やしたのか、陸奥はいきなり彼女を壁際に叩き付け、襟首を掴んだ。

 

 

 「あなた、自分がしたことから逃げるの…?」

 「な、何を」

 「彼を傷つけたことから、逃げるのかって聞いてるのよ!!」

 「おい、陸奥!よせ!」

 「提督は黙ってて!!あなただけじゃない、ここにいる娘達のかつての恩人を傷つけた…。そのことから、逃げるのか!長門!!」

 「…そんなこと、そんなことない!!」

 

 

 陸奥の言葉に、長門は声を張り上げた。そしてその表情は怯えながらも目は透き通っていた。

 

 

 「だったら…逃げるな!面と向かって話せ!あの船は…!「彼」は、あなたを待ってるのよ!だから…今すぐに会え!!」

 

 

 陸奥の言葉を待たずに、長門は強引ながらも妹に手を引かれ、医務室に連れていかれた。そして彼女の心準備も待たずに、扉が開かれた。 

 そこには鳳翔と、包帯だらけの「彼」が横になっていた。

 

 

 

 「ナガ…ト?」

 

 

 

 彼の声を聴いた長門は、ある思いに駆られていた。

 

 ああ、何故再び声を聴くのがこんなにも苦痛なのだろうか。

 

 

 

 

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