とある蒸気船の物語   作:トッキー

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第四話

 リンガ泊地の鎮守府内―――正確には作戦会議室、及び司令室でだが―――では、幼い提督以下、その指揮下の艦娘達が、『彼』の処遇に関する内容を話し合っていた。

 処遇に関する会議が進む中、何人かの艦娘は、ふと窓の外を見た。

 

 彼らの視線の先には、数日前、新たに入港した大型客船『グレート・イースタンⅡ』号の、巨大な船影が存在していた。

リンガ泊地にいる所属する艦娘達を救助してからというもの、彼への風当たりはほぼなくなったといってもいい。

 

 現に何人かの艦娘は、暇な時は彼の周囲を航行したり、色々と話しこんだりもしている。

  

 しかし、窓に反射して写っていたその表情は皆、不安などの暗いものであった。

 

 

 

 しかし、物語はそう簡単には進まない。確実に、頭を悩ませる問題も生じたのである。

 

 艦娘でもなければ、深海棲艦でもない彼をどうすべきか。

 たとえ、そのままリンガ泊地の鎮守府に組み込んだとしても、最高速度が14ノットという、給糧艦の間宮と変わらない速度では、どんな作戦にも支障が出る。

 本当に民間船―――さらに言えば時代遅れのものならば、戦地であるここに置くべきではないのだ。

 

 だがそれとは別の問題も浮上している。

 

 

 

 艦娘とも共通する事―――燃料だ。

 

 

 彼と話して分かった事だが、艦娘達が口にするものはどれも彼は受け付ける事ができなかった。

 燃料はなんとか受け付けたが、その瞬間的な爆発力で、彼の機関が不調をきたしてしまったのだ。

 

 重油は、噴霧器を用いることでもしなければ緩やかに燃えるために、爆発は起こりにくい。そのため、扱いは容易である。

 

 しかし、彼ほどの巨船の釜は石炭の火力に頼っていた為に、燃焼炉は巨大なものであった。

 第二次大戦中は経費などの問題から、重油の噴霧器が取り付けられていた。

 だが戦後、浮き倉庫として使われる折に、もはや重油を使わなければならない必要性が見当たらなくなり、撤去されたのだ。

 

 

 

 さらに、この燃料補給に関して、彼が今リンガ泊地にいること自体問題でもあった。

 リンガ泊地の付近には、史実同様パレンバンの油田・製油所が近いために、彼女達が補給する分には問題ない。

 しかもそこの油田で精製された燃料は、本土やほかの鎮守府に向けて、送り出されてもいるのだ。

 

 

 だが、彼が本来必要とする燃料の石炭を都合しようとしても、幾分か厳しいものがある。

 

 艦娘や深海棲艦が戦いを繰り広げる中でも、今現在人類が使うエネルギーの大多数が、石油や原子力に頼っているのが現状だ。

 そんな中、油田が近くにあるのに、時代を逆行するかのような大量の石炭を鎮守府に届けてもらうことは、どう見ても怪しいものがある。

 

 

 当初、この油田で不具合が見つかったと虚偽の報告をする案も出されたが、そんなことをすればすぐに問題が大事になるだろう。

 

 

 

 けれども、鎮守府から生み出される可燃性の物もないわけではない。内燃機関を持つ船と違い、外燃機関は極端に言えば、燃える燃料ならば何を燃やしてもいい。

 それこそ群生している木や、最悪どうしても出てくる生ゴミなども候補に挙げられる。

 

 

 しかし彼自身はあまり考えていないが、艦娘達だけにとどまらず、彼はもはや歴史の生き証人とも言える存在だった。

 また彼の中にある蒸気機関も、19世紀当時の技術の結晶といってもおかしくはなかったのだ。

 

 

 そのような、産業遺産と言っても差し支えのないエンジンを持ち、また多くの艦娘達が慕う彼に、そのようなことを出来るはずがなかった。

 

 彼も燃料云々に関して、彼女達に言及したことがあった。

 

 しかし皆一様に「そんな焼却炉みたいなことはさせられない」と猛反発したのだ。

 

 

 こうして、彼への燃料補給がままならないことから、入港して以来窯の火は消され、解体ドックのすぐ近くで停泊させたままとなっている。

 

 

 

 これはかつて、『彼』の中にNATO軍司令部が置かれていたにも関わらず、すぐに司令部が戦艦「ヴァンガード」に移動した事を思い出させることでもあった。

 

 『彼』がいた前世では、かつてその積載量に目をつけ、NATO軍司令部が置かれていたことがある。しかし、彼を動かすのに必要な石炭の量や、設備の古さなどからすぐに司令部を移し替えてしまったのだ。

 

 そうして司令部の任を解かれた「グレート・イースタンⅡ」号は、軍属ながらも浮き倉庫として利用されたのである。

 

 

 なお、この様子を見ていた年老いた一人の海軍少将が、後の伝記にこの時のことを、このように記している。

 

 『ロイヤルネイビーは、かつてのこの船の威光を忘れてしまった。この船は・・・あのビッグ7と一緒に、ビキニで眠らせたほうがよかったかもしれない』

 

 

 

 

 

 

 

 そしてさらに日が経つと、これまで以上に頭を抱える出来事が発生してしまった。

 なんと、彼のことを聞いた大本営が、直々に調査隊を送るといってきているのだ。

 

 出処は、ここに赴任している提督とは別の艦隊にいた青葉だった。

 

『彼』が寄港して数日後に行われた演習の中で、「正体不明の大型船」が航行していたという情報が錯綜していた。その中で、雷が「もしかして…」と、うっかり口を滑らせてしまったのだ。

 他艦隊にいた青葉は根掘り葉掘り聞こうとしたが、自身の艦隊の提督や、他の艦娘によって、それ以上聞くことができなかった。

 

 しかし、ジャーナリストとしての血が騒いだのか、どのように突き止めたのかは不明であったが、「謎の大型船」がリンガ泊地に入港していることを突き止めたのである。

 そして入港した事実を知らせなかったとして、リンガ泊地の提督は幼いが故に、降格などはなかったが口頭注意を受けた。

 

そして情報を広めた青葉は、その独断行動が下手をすると、利敵行為にもなりかねないという理由から、レベルを下げられ、そして青葉がいる提督共々厳重注意を受けたらしい。

 

 余談になるが、レベルを下げられた原因が、雷や電の泣き顔を激写しそっち(・・・)方面の提督に売ろうとしたということであった。

 なお、その方面の提督は憲兵隊に逮捕され、重営倉行きとなったらしい。

 

 

そうして情報を耳にした本土にいる将官や提督達は、『彼』が寄港した後から行われた調査では不十分であるとし、この「不審船」を調査することを決定したのである。

 

 ここでさらに驚いたことに、その調査隊の中にイギリス大使館の関係者も、複数人参加するというのだ。

 なんでも『彼』の写真が載った報告書を偶然目にした関係者が、鼻息を荒くしつつも外交筋を通して無理やりねじ込んだのである。

 

 

 

リンガ泊地にいる彼らは、この通達に慌てに慌てた。

いくら調査隊を送ると連絡があったとはいえ、まさかわずかひと月にも満たない間に、調査隊が来るとは思わなかったからだ。

 

 

 彼をどこかに隠すか?―――そのような場所も、時間もない。

 ならばいっそ、解体するか?―――リンガ泊地にいる艦娘だけでなく、下手をすると英国すら敵に回しかねない。

 

 

 

 

 そしてそうこうする内に、調査隊がやってくる日が来てしまったのである。

 

 

 リンガ泊地にいる提督や艦娘達は皆、短艇から『彼』に乗船していく高官や政府関係者の面々を、緊張の趣で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

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