箸休め程度に
番外編 レミリア
私は怒っていた。憤慨と言ってもいい。敬愛するお嬢様が消え、美鈴さんも消えた。犯人も解らず、解決の目処も立たない。紅魔館始まって以来の一大事だ。
にもかかわらず小悪魔はいつも通りだし、相変わらずパチェリー様だって何をしているのか解らない。さらに妹様にいたってはこの状況を楽しんでいる節すらある。解りやすく言えばお嬢様の心配をしているのは私だけなのだ
「あいつ経理とか意外と出来たのねー。最初はスカーレット乗っ取れたとか思って楽しかったけど、思ったよりつまんないや。あーあ、早くお姉様帰ってこないかなぁ~徘徊老人かっての」
今私は、紅魔館の書類仕事を執務室でこなしている妹様……フランドール・スカーレット様の後ろで補助をしながら仕事をこなしている。そんな彼女はニコニコニヤニヤ笑いながら、お嬢様が散歩にでも出たような言い方で彼女を揶揄していた
「………………お嬢様が消えてもう半月になります。もう少し、心配してさしあげることは出来ませんか? 妹様のたった一人の肉親ですよ?」
私はお嬢様に拾われた。貧民街で残飯と汚物にまみれながら死ぬだけだった私を救い上げてくださった。私の命はお嬢様の為のものだ。お嬢様がもしも……、万が一にでも帰ってこれないなんて事態になるなら、私に生きる意味は無くなる。私がお仕えしているのはお嬢様であってスカーレットではない。お嬢様の妹のフランドール様には勿論敬意は払うが、それだけだ。そしてその肉親である妹様はお嬢様が居なくなったのにいつもニコニコニヤニヤと……。私は自分で気が長い方だとは思っていないぞ?
あぁ、どうして行ったのが美鈴さんだったのか。私の方がお嬢様のお役に立てるのに。この世界ではあちら世界に干渉する事が出来ない以上、お嬢様を補助できるのは美鈴さんだけになってしまう。年中寝ているあの人ではお嬢様のお役に立たないんじゃ無いだろうか? あぁお嬢様……咲夜はお嬢様が心配です。か弱いお嬢様が違う世界に投げ出されるなんて咲夜は………咲夜は心配で心配で………
「唯一の肉親って言えば聞こえはいいけど、あいつ私にとって敵だよ? 居なくなったなら居なくなったで都合いいことの方が私にとっては多いんだけど?」
「………っ。妹様!! お嬢様は…」
「それに………、あいつの事なんか心配するだけ損だよ」
妹様はグチャリと笑いながら私を見る。妹様は感情の起伏が激しい方だ。どこに地雷が埋まっているか解らないが、そこを踏み抜けば途端に感情を爆発させる。そしてお嬢様の話は地雷原になっている事が多い、しくったと思ったが、それでも止まりたくなかったので私は、口を開いた
「妹様。今はお嬢様の……いえ、紅魔館の一大事です。当主代理として……」
「あぁ、そういうのいいよ。咲夜がお姉様にしか興味ないの知ってるし
………………………………咲夜ってここに来て何年だっけ?」
「…………7年です」
「そっか。そうだね、なら暇だし私とお姉様の昔ばなしをしてあげる。この話を聞いたらあいつの心配なんか馬鹿馬鹿しくなってくるよ」
「待ってください!! こっちの収支の確認書類がまだ……あれ?」
終わっている。と言うか、今週中にやらなくてはならない事務が全部終わっている……
「うふふ? なにか言った咲夜?」
「…………………………いえ、申し訳ありません。私の勘違いでした」
妹様は立ち上がり、地下室に向かって歩き始めた
「お茶をとお菓子をお願い。私の部屋で話しましょ? 少しだけ長い話になるわ」
彼女は幼いその姿から想像できないほど妖艶な笑みを浮かべ、そう言った
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レミリア・スカーレット、永遠に幼き赤い紅い月。彼女は化け物だ
スカーレット家についての説明は今更、といった感じでしょう? 詳しく元をたどればかなり古い家なのだけれども、まぁ吸血鬼の名家と覚えていればそれでいいわ。今となっては地が途絶えていない以上の意味はないしね
私が生まれるまで、つまり495年前までは普通の家………まぁ吸血鬼の一家に普通が有るのかどうかは解らないけれど、普通の家だった
お父様は奇特な方だったらしいわ。厳格で、自分に厳しく、それでいて情に厚い、そんな人。
特殊と言えるところは彼は吸血鬼特有の、人間見下す事をしなかったくらいかしらね? 同じ物とは考えていなかったけれど、共に歩む隣人程度には考えていたそうよ。あの頃の上位種に有りがちな人間を家畜としてみるような偏見はなかったらしいわ
だからかしらね? 彼は人間の女を妻にとり、そしてその女だけを愛してその生涯を終えたわ。…………なによ? そうよ、私もお姉様もハーフよ? 知らなかったの? と言うか純血のヴァンパイアなんて極々低確率で自然発生する意外では基本的にいないわ。串刺し公がそうだなんて言われているけどどうなのかしらね? お姉様は詳しそうだけど、私はあまり興味がないの
まぁそれはいいのよ。彼は人間と恋をして、彼と結婚した。そして生まれたのがお姉様。人より少し恐がりな彼女は温かくて優しい両親の元でスクスクと育っていきました。
そして彼女が4歳のときに妹の妊娠が発覚して、その誕生を心待にする。そんな優しい優しいお姉様。
そしてその待ちに待っていた妹が生まれたわ。優しくて温かくて日溜まりみたいなお母様の腹を‘ひきちぎって’ね
即死だったそうよ。そしてその母の腹を裂いて生まれた悪魔は呆然としている父を破壊したわ。哀れなお姉様。大好きな両親が一夜のうちに死んでしまい、そのまま彼女は逃げ出したわ
お姉様は知っていたそうよ。私がお父様とお母様を殺すことを。お姉様の能力って知っているわよね? そう、『運命を操る程度の能力』よ。その能力の真髄は未来視にある。生まれながらに保有していたその力は自分の両親の最期を見せていた
………………そして、お姉様は自分の最期も視た。十二年後、紅魔館で自分の妹に殺される。そう言う最期を
逃げた先でも有りとあらゆる死に出会ってそれを視たそうよ。閉じた世界にいた彼女の未来視は二度しか発動しなかった。つまり両親ね。初対面の人間を視界に写すと、彼女の力が発動する。それはその人間の死を確定させる事だった。外に出て彼女はそれを知ったの
お姉様にとって運が悪かったのは、両親が人格者だったことね。人間を家畜として見ているような人ならば彼女もそう言う風に思い、心を痛めることもなかったでしょう
逃げた先で、家に泊めてくれた人のいいおじいさんは強盗に襲われて死ぬのが見えた。次の日にそうなった
その強盗たちが軍隊に銃殺されるのが見えた。一週間後、ふらりと立ち寄った町で公開処刑にされていた。
スラムで残飯を漁っていた時、食べ物を恵んでくれた優しい貴族のお嬢様は、部下に強姦され絞殺されるのが見えた。その数時間後、路地裏で首の折れたお嬢様を発見した
その部下が拷問の末に殺されるのが見えた。半月後、お嬢様の父親を名乗る男に連れられて、悲鳴をあげる男たちを見つけた
お姉様の能力は自分がその人間の結末を視るなら発動すると言うものだったらしいわ。お姉様がその人間の死を視るならば、その人間はお姉様の目の前で死ぬ。当時はそう言う能力だったらしいわよ。
お姉様は死にたくなかったそうよ。当たり前ね。しかしその力、視た相手がいったいいつ死ぬのがなんとなく感覚で解るらしいの。紅魔館から逃げ出したお姉様は12年後、すなわち彼女は16の時に死ぬと自らの能力に宣告された訳だ
それからお姉様は狂ったようにその力を振るい始めたわ。視た結末を変えるために、人間の人生に必死に干渉を始めた。
でも変えられなかった
お姉様の感覚だと見殺しよ。死ぬと決まった人が目の前にいて、それを救うことが出来ないのだから。優しいお姉様は必死になって干渉した。予言者紛いの事をしてね。墓地で死ぬのが見えたならば行かないように忠告したりとか、あるときには実力行使もじさなかったらしいわ。結局、一人も救えなかったらしいけどね
苦悩して、絶望して、人を自分を救えないことに発狂して、血涙を流して咽び哭いて。そんな優しいお姉様
でも周りは勿論そんな風には見てくれない。レミリア・スカーレットに宣告された者は必ず彼女の前で死ぬ。そんな噂が広まって、いつしかお姉様は化け物扱いを受けていた。死神だと、悪魔の使いだと。まぁ死神はともかく悪魔はその通りなんだけれど
そして誰も救えないまま、人間に絶望しきって12年の月日がたつ。そしてお姉様は紅魔館に帰ってきた
お姉様は優しいから。こんな最悪の妹の為に帰ってきたんだ。なんでかって? 私が生まれたときに見えたんだって言ってたよ。私が自分の首を抉って自殺するところが
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「へぇ、それで帰ってきたんだ。凄い凄い。いやー、お前は姉の鏡だね。愛してるよ殺してやる」
「……………………フランドール。この10余年、貴方にずっと聞きたかった事があるんだ」
「随分とあっためたねぇ。いいよ、最後だしなんでも聞いてよ?」
「……………貴方はなんで…………お父様とお母様を殺したんだ……ッ」
「……………しょーもな。決まってるじゃん。私を生むなんてふざけた事した奴は‘大罪人’でしょ? なら死んだ方がいいよ。それだけ」
「ッ………………………」
姉は信じられないものを見る目をこっちに向けてきたあと、血でも吐くのかと思うような苦々しい顔で手に持った槍を構えた
「フラン」
「なぁに?」
「殺すわ」
「ええ、ありがとう。お姉様」
妖力で炎の剣を作り出す。数瞬後、真っ赤な閃光が瞬いた
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妹様は言葉を切って、紅茶を飲み干した。そして私に笑顔を向ける
「それで私がお姉様に半殺しにされて、おしまい。お姉様はそこから『運命を視る程度の能力』から『運命を操る程度の能力』へと自分の能力の名前をを変えて、私を再建した紅魔館の地下室に幽閉した。自殺しないように縛り付けてね。あの頃の私の目的はお姉様を殺して私も死ぬことだったから、そんな事しなくても死ぬつもりなんてなかったのにね。
で、お姉様がパチェと出逢って私の危険思考とか、自殺願望とか殺戮衝動とかその辺のぶっ壊れた倫理を多少操る術を作ってくれるまで私は縛られたまま、身動きひとつ取れずに地下室で縛られていたわ。ざっと三百年くらいかしら?」
「………………」
妹様は軽く語っているが、それがどれ程の物だったのか私程度に理解はできない。ケタケタ笑う妹様は楽しそうだけれど、瞳の奥のどす黒い光が見えた気がした
「で、咲夜。私が言いたいこと解った? なんでお姉様の心配なんかするだけ損かって」
「…………い、いいえ」
妹様は笑みを深くして、口を開いた
「パチェの能力考察によればね、お姉様の能力は確定された運命を視ることなの。ちなみにそれはいまも変わってないないわ。そのお姉様は自分の死の運命を視て、私の死の運命を視た。そしてそれを覆したの。それからお姉様は何度も何度も運命を変えてきたわ。血を吐きながら、涙をこらえながら、苦しみながら、それでもお姉様きっとなにも諦めない
世界が変わったとか、力を無くしたとか、記憶を無くしたとか、その程度の事ででお姉様が死ぬとか有り得ないよ。アイツ、マジで化け物だもの」
運命を操るの具体性を考えた結果、レミリアが根性系主人公になった話。ちなみにこれ、レミリア視点だと長いです。具体的には150000文字ちょっと。