それはともかく本編
……………………………頭いたい。ここどこ?? 私はいったい………
「あー、そうだ私……ッ」
と、立ち上がろうとした所で気が付いた。私縛られてる
見渡すと、ここ数日ですっかり見慣れてしまったゴーイングメリー号の甲板だ。私はそのメインマストに縛られている。
『早………になり……いよ………ベル………ルさん…………』
風に乗ってナミの声が聞こえてくる。状況が読めないな
私は十中八九、ナミの奴になにか薬を盛られたのだろう。じゃないとあんな急激な眠気に説明がつかない。きっと渡されたお茶に入っていたのだろう。
ナミは海賊専門の泥棒だって言ってた。しかしこの船に積んである宝は殆どがナミ個人の物、この海賊の共有物で価値のあるものなんてこの船くらいのものだ
………………………つまりそう言う事だろう
あぁもう面倒くさい。しかし話は簡単だ。‘ナミが裏切った’。その一言に限る
戦闘力の高いルフィとゾロ、自分で言うのもなんだが、私もその辺の一般人に比べれば強い方だろう。その私達と一緒に来る事で、私達が戦う海賊から金目の物を盗む。その代わりにナミはマトモな航海術を持たないこの一味の航路を切り開く、そういう約束だった
しかし私達がこの立派な船を手に入れたことによって、この一味にも盗む価値のあるものが出来てしまった。だからナミはそれを盗んだのだろう
改めて私は自分の体を調べる。
腕はガチガチに固定されていて、後ろに縛られている。そしてメインマストに背を向ける形で腹の辺りを何重にも縛られていると言う、ご丁寧な二重構造だ。ちょっと自力での脱出は難しそうだなこれは
縛られているから武装のチェックは出来ないが、あの周到なナミの事だ。私の針は軒並み奪われたと見ていいだろう。
「はぁ………ちょっとーーー!! ナミーーー!!!」
どうにもならない事を確認した私は、仕方ないので船の前の方にいるナミを呼ぶことにする。声が流れてきた方向的にきっと前だろう
その予想は的中して、ナミは頭を出して歩いてきた。少し目が赤い、なんだ? 泣いてたのか?
「………………………」
「なに黙ってるのよ? 私の口を自由にしてるってことは、会話する意図があるってことでしょ? 私からはこの縄を解きやがれこの野郎ってことくらいよ。あ、あとあのカミヒトエの二人組は何処よ? 私と一緒で縛られてんの?」
その言葉を受けて、ナミは少し眉を潜める。なんだ?なんでそんな顔をするのかしら? 演技にしては臭いわね
「………………随分と余裕そうね。あの二人なら海に突き落としたわ。アンタは毒でも盛らないとなんとか出来そうに無かったし、仕方ないから縛っておいたのよ。大人しくしていたら帰してあげるわ、勿論船ごとね」
「…………………ふーん?」
船、返してくれるんだ。色々と思うところは有るけれど、もしかしたら前情報が間違えていたのかもしれない。
「にしても、レイム、アンタ本当に人間? あのお茶に入れた睡眠薬って象でも気絶するようなやつよ。流石に殺しちゃうかと思って薄めたけど、こんな短時間で起きる様な代物じゃ無いわ」
「オイ死ぬわ」
これまでの会話で少しは読めてきたかな? もう少し突っ込んでみよう……。この状況で使えるのは口くらいだし
「ねぇナミ? ベルメールって誰?」
私がその単語をいった瞬間、ナミの顔色が分かりやすいくらいに変わった。瞳に映るのは怒りと困惑かな? 聞かれてると思ってなかったのか?
「………………アンタ、本当にいつから起きてたのよ」
ナミは小さく口を開く
「本当についさっきよ。
ふぅん………? まぁいいわ。ぶっちゃけ興味ないし」
私は小さくあくびをする。頭は起きたけど体にはまだ毒が残ってる様だ。眠い
ナミは歯を割れる程に食いしばり、憎々しげな表情を浮かべる。そして呪詛の様にすら聞こえてくる言葉を吐いた
「本当にいつも飄々としてるのね? ねぇレイム? 今の状況解ってるの? アンタは今縛られていて動けなくて、そのアンタに薬を盛って縛り付けた張本人がここにいるの? 少しは焦ったらどうなのよ?」
「逆に聞くわよ? どこに焦る必要があるのよ? 私はあなたに薬を盛られて縛り付けられて、‘生きている’。殺すつもりが有るならとっくに殺してるでしょ? なんの理由かはともかく、あなたは私を殺すつもりはない。違う?」
ナミは私の言葉を聞いて、表情を更に曇らせる。
刹那、ナミの脚先が私の顔面を捉えた
「グッ……………ったいわね」
「いい? レイム? 何を勘違いしてるのか知らないけれど、安心してるなら大間違いよ。アンタの心臓は私が握ってるの。今は私の気紛れで生きているのかも知れないけれど、いつでも殺せるのよ」
口の中に血の味が広がる。今の蹴りで唇を切ったわね……。
舌を出して血舐める。少し沁みるがその程度だ。
「勘違い………ね。私、勘はいい方だと自負してるんだけど。」
「そぅ? ならその勘は外れよ。なんせ私はアーロン一味の幹部なの。アンタの勘は大外れ。アンタを生かしてるのここまでの旅の駄賃みたいなものよ。それ以上の物は無いわ」
ナミはその言葉を告げると、操舵室の方に歩いていく。私は首をなんとか伸ばしてそっちを見るが、いかんせん首が回らない。早々にナミの姿を捉えるのは諦めた
「ねぇナミ」
「……………………………………なに?」
姿が見えなくなったナミに向かって語りかける。意外と言うか、そうでもないかはともかく、返事は返ってきた
「あなたがそのアーロン?って奴の仲間だったとして、その程度でルフィが諦めると思う?」
「………ッ」
息を飲むのが聞こえた。言葉は返ってこない
「アーロンとか言う奴のことは知らないわ。でもね、ルフィはきっとそいつより我が儘よ」
私はきっと、呆れたような笑みを浮かべてるんだろう。ルフィが自分の航海士と思ってるナミを、なんの説得もしに来ない訳がない。大して長い付き合いじゃないが、それがわかる程度にはルフィの奴は解りやすい。
私はきっと、その事を憎からず思っているのだろう。そして、それはきっとナミもだ
ナミからの返答は無かった
✳
さて、あれからやはり眠気に負けて時間がたった。気が付いたが状況に変化はない。しかしどこかの島に着いたみたいだ。
「さて…………どうしようかしらね」
船に人の気配はない。ナミはどこかに行ってしまった様だ。縛られたままなのは問題だけど
体の中の薬はあらかた抜けた。眠気は感じないし、怠さも殆ど無い。強いて言うならお腹が減った位だろう。あぁ、この前買ってきてもらった、バラティエのお土産のポトフは美味しかったなぁ
思い出したら涎が出てきてお腹が鳴った。畜生め
暇過ぎてもう一回寝ようかと思い始めた頃、船の周りがなにやら騒がしくなってきた。
『俺…………縄………どけバカ!!』
『何だあの船は…………ねェ船……』『……………………っ』
『ちょっと待てお前らァ!!!!!』
……………うん、ゾロの声だ。縄を解けとか聞こえてきたけどなに? アイツも縛られてんの?
そのまま気配は遠ざかっていく。なんなのよいったい
それから体感で30分くらいたった。空の太陽を見手も多分そんなもんだろう。あんまり動いてないし
はぁ、暇な時間ってどうしてこう進まないんだろう
何度めになるか解らない大きなアクビを噛み殺した所で船に誰かが入ってきた
「誰よアンタ」
そこに立っていたのは女だった。右手の肩から肘にかけて大きな入れ墨を入れたおでこの広い女。気の強そうな目が印象的だ。その目がナミに似ている気がする
「そうね、ナミの仲間かしら?」
「ふぅん?」
彼女はノジコと名乗りナイフを取り出した。そのナイフで私を、縛っている縄を切り始める
「っと……メチャクチャに固く縛ってるじゃない。刃物でも中々切れないわよ」
「まー、適当に縛ってるなら私抜けちゃうからね。こんなもんでしょ」
「なんで威張ってんのよ。……………っと、やっと切れた」
ふっと体が軽くなる。かなりの長時間縛られていたから体がガチガチだ。あーあ、痕が付いちゃってる
肩を軽く回したりジャンプしたりして体を慣らす。よし、感覚戻ってきた
「あー痛かった。ありがとね。ノジコ」
「……………ナミがアンタの事、かなり癖の強い奴だって言ってたけど意味がわかったわ。…………あの子の事をあんまり責めないであげて色々と事情があるの
さて、今の状況についてどこまで理解してる?」
「理解もなにも……。私、今までここで縛られていただけなんだけど
説明してくれるの? 今の状況とかナミのあれこれとか」
「えぇ、そのつもり。ただし、アンタのお仲間たちと一緒にね」
ノジコは私に着いてくるように促すと船を降りる。私は軽く鼻を鳴らして後を追った
✳
「初めまして、俺の名前はサンジ!! 遠くから眺めてたよ!! レイムちゃん!! これから一緒に仲良くやろうね!!!」
「あぁ……はい……、まぁよろしく」
あまりの勢いにちょっと引き気味に成った私は悪くない。なんだ遠くから眺めてたって。ストーカーか?
ルフィがバラティエから連れてきたコックのサンジ。何気に初対面なんだけど、ぐるぐる眉毛が特徴的なナンパ男だった
ちっちゃくて可愛いなぁ~なんて言ってくるサンジの頭にチョップを入れてから改めて自分の仲間連中に向き直る。私を蚊帳の外にしてる間に色々とやらかしていたらしい。いつの間にか全員集合だ
なんでもウソップはナミに殺されかけたり、ゾロは噂のアーロンって連中の雑兵を斬り倒したり、ルフィ達は怪物を手懐けて船で空を飛んだりしたらしい。なにしてんだコイツら
「で? レイムは何してたんだ?」
「寝てたわ」
「ゥオイ!!」
ウソップに聞かれたので正直に答えると怒られた。解せぬ
「はぁ、成る程ね、確かにあの娘には毒だわこの連中」
そう小さく呟き私を解放してくれたノジコ。彼女は悲しそうな、それでいて慈しみを感じるような表情を浮かべながら口を開く
「お願いだからもうこれ以上この村に関わらないで。いきさつは全て話すから、大人しくこの島を出な」
ノジコはそう言って、私達の方を向いた
「おれはいい。あいつの過去のになんか興味ねェ」
ルフィはそう言ってノジコの言葉を突っぱねる。彼はそのまま散歩と言って歩いていってしまった。自由ねぇ……
「………………あいつは?」
「気にすんな、ああいう奴さ。話なら俺達が聞く。聞いて何が変わる訳でもねェと思うがね」
そんなことを私達を代表してゾロは言う。そして話が始まる前に寝始めた。舐めてんなこいつ
「………俺は聞くぜ!! 理解してェ」
「俺も!!」
「………がー……ぐぅおーー……」
上からウソップ、サンジ、ゾロだ。
私はどうしようかしらね。正直な話あまり興味無いんだけれど。これ、状況に流されたら聞かなくちゃ成らない流れよね
「……………まぁいいか。私も聞こうかしら」
ノジコはその言葉を受けて、小さくため息をつく。
「成程………。ナミが手こずる訳だ……」
そしてノジコな語り始める。この村、ココヤシ村に何があったのかを……………
✳
「あぁ!!愛しきナミさんを苦しめる奴ァ!! この俺がぶっ殺してやるァ!!」
…………………ハッ!! 寝てた!! サンジの叫び声を目覚ましに目を覚ます。そのサンジはノジコに拳骨を喰らっていた
しかしやっぱあれね、興味ない話は寝てしまうわ
「それをやめろとあたしは言いに来たんだよ。アンタ達がナミの仲間だとここで騒ぐことで、ナミは海賊達に疑われ、この8年の戦いが無駄になる。
だからこれ以上……あの娘を苦しませないで欲しいの」
…………………ヤバイな。全く話を聞いてませんでした。もっかいって言える雰囲気じゃない。
まぁいいか、もっかい聞いたところでまた寝ない保証はないし。
私は立ち上がってルフィが歩いていった方に向かうことにする
「レイム?」
「取り敢えずルフィを追いかけましょう? 何をするにしても船長が居ないことには始まらないわ」
取り敢えず未だに寝ているゾロを蹴り起こしてルフィの行った方に向かう。ゾロが何やら文句を言ってくるが無視だ無視
方向的に、ルフィはココヤシ村に向かったのか。何を考えてるんだろうなアイツは。……………………なんも考えてないのか
✳
村は騒然としていた。何やらナミの貯め込んでいたお金を奪われたらしい。村を支配から救うためのお金だとかなんだとか言っているが、話を聞いていなかった私とゾロは頭上にはてなマークを浮かべている。聞いていた組は目を血走らせて怒っているが
その中心にナミはいた。話は解らないけど、ナミがこの村を救おうと必死になっているのは解った。村人を本当に大切に思っているんだ。そんな村の人たちと敵対してでも止めようと、彼女は短剣を持って立ちはだかる
「やめてよみんな!!!!! もう私………あいつらに傷つけられる人を見たくないの!!!!
死ぬんだよ……………っ!!??」
ナミは泣いていた。涙は浮かべていないけれど、きっと泣いていたんだ
風車を帽子にさした全身傷だらけのオッサンは前に出て、言う。
「知っている」
オッサンはナミの短剣を握りしめ、それを放り捨てた。刃を握ったオッサンの手は血塗れだ。でも、彼は痛みなんて感じていない様な顔で叫ぶ
「いくぞ!!みんな!!! 勝てなくても、俺達の意地を見せてやる!!!」
そして村人達は行ってしまった。後に残されたナミは崩れ落ち、呪詛の様に口を開く
「アーロン…………アーロン!!…………アーロン!!!!!!!!」
叫びながらナミは自分の肩の入れ墨を刺した。そこにはなにやら鮫を模した入れ墨が入っている
聞いているこっちが泣きそうになる悲痛な叫びは唐突に止まった。ルフィがナミの手を止めたからだ
「…………っ!!?? 何よ、 何も知らないくせに!!!」
「うん、知らねぇ」
「あんたには関係ないから、島から出てけって……行ったでしょう!!!」
「あぁ、言われた」
ナミは必死にルフィに敵対する。砂を掛け、涙を流し、痛みに耐えてそして
「ルフィ………………助けて…………」
ルフィはいつも被って大切にしている麦わら帽子をナミの頭に被せる。少し前に進んで大きく息を吸った
『当たり前だ!!!!!!!!!!!!!!』
その大声は村中に響き渡る。本当にルフィは単純だ。だからきっと
「いくぞ」
『オオッ!!!!』
きっとどこまでも強いんだろう
▼▼▼
太陽だ。
雲ひとつない晴天、それに反射的に飛び起きた
「っ!!??」
体が焼かれるような錯覚をする。そして直後に錯覚だと気がついた
「わ、たしは…………?」
自分の体を見る。薄い水色をしたふわふわとレースのついた服に、ナイトキャップ。そして‘背中にはコウモリの様な羽根’
足元は固さなんて感じない柔らかな地面。……地面? それは真っ白で柔らかい。まるで雲のようだ。いや、雲は触れないけれど
そこで気が付く。自分の記憶が無いことに
「あっ………あぁ…………っ!!??」
恐怖だった。泣きそうだ。頭を抱えてうずくまる。怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!
「誰か………………」
そこで、誰かが私のそば側に立って居るのに気がついた
「ひっ………」
私は恐怖でそっちを見る。そこには小さな女の子が立っていた。彼女は不思議そうなものを見る目で私を見ている
「驚いた。アンタ急に現れたんだもん。誰よ? あ、私はアイサって言うんだけど」
「わ、私は……」
その時、アイサと名乗ったら少女は私に近付いて、おっかなびっくりといった様子で私に触ってくる。そしてゆっくりと抱き締めてくれた
「大丈夫だよ。ゆっくりでいいから。」
その言葉に私は安心してしまう。彼女から感じる暖かさが、恐怖を溶かしてくれるみたいだ
「私は………何も覚えてなくて………名前は……名前も……うぅ………あぁ……………」
「大丈夫………大丈夫だから……」
その声に、私は安心してしまう。あぁ、大丈夫なんだ。そう思って、ゆっくりと目を閉じて
意識を失った
東の海編の集大成とも言えるアーロンパーク編。話を書くのに読み返していたのですが、やはり最高ですね。この話の完成度は凄まじいの一言につきます。
東方勢は美鈴以外はグランドラインに居るので、絡ますにはもうちょっとかかるなぁ………