八雲紫。幻想郷の創始者にして管理人の一人。私はニコニコ(にやにや?)と胡散臭い笑みを浮かべているスキマ妖怪を目の前にしていた。
「さて、私がここに来た要件は理解しているかしら? 八坂神奈子」
「さぁね? 皆目見当もつきやしないよ、スキマ」
その胡散臭い笑みにちゃぶ台を挟んで対するは、凶悪な笑みを浮かべている、私のお仕えする神様の八坂神奈子様。この御二人が睨み合っている様はどうにも心臓に悪いっす。
白黒から、お前は心臓には毛がびっちり生えてそうだよなー、なんて言われたけれども、この光景を見たらアイツだって縮み上がるに決まってるっすよ。
あ、申し遅れました。私、東風谷早苗って言うっす。 え? 誰に挨拶してるかって? そりゃ奇跡の向かう先っすよ。訳わかんないっすか? 大丈夫っす。私もよくわかってないっすから。
「…………………まぁいいわ。取り敢えず今は状況の説明に来たの。私としては必要が有るのか謎だけれども、あなたのところも消えている人はいるしね」
そう言って、八雲紫はチラリとこちらを見る。いや、あれはチラリなんてものじゃないっすね。ギロリでした。
ギロリと流し目で見るなんて、中々難しいことをやってのける人っすね。年を取ればそんな器用な真似を出来るように成るんでしょうか? あんまり使う機会のない技術だと思うっすけど
「まず、あの子達のいる世界について解っていることを言うわ。残されていた霊夢達の力の痕跡を辿ることで見つけることが出来たわ。星が違うとか次元が異なるとかそんなレベルではない異世界に霊夢達は飛ばされたの。
理由については取り敢えず置いておきましょう、原因については究明中だしね。
その世界は、星の殆どを海で覆われており、小さな島々が転々と存在する、そんな世界よ。
そして問題なのがここから、その世界は幻想種がわりと普通に存在しているわ」
私はその言葉に目を見開いてしまった。
「もちろんその世界でも伝説級の生き物はそう言う扱いを受けているし、本当に噂話程度の存在で、形を取ることが出来ない者達もいたわ。だけどあの世界なら、信仰心が存在に不可欠な神はともかく、‘妖怪連中なら問題なく存在できる’でしょうね。なんせその世界、ある場所では超常現象が当たり前のように存在しているんだもの。
あの世界を見て笑ってしまったわ。あんなものが有るなら幻想郷を作る必要もなかったじゃないってね」
八雲紫は言葉を区切ると、スキマを出現させる。そこからお茶と煎餅を取り出して、ついでの様に一つの果物を取り出した。
それは何だかリンゴの様な見た目をしているが、すぐに違うとわかる。なんせ渦巻きの様な気持ちの悪い模様がびっしりと描いてあったのたから。しかも何だか気味の悪い力をその身から感じることが出来る。私の知ってるなかで一番近いのは魔力っぽいっすね。
「何っすかこれ? お茶請けにしては不味そうっすけど」
「実際不味いらしいわよ? これはリキリキの実って呼ばれてる向こうの世界の果実の一種よ。総じて悪魔の実って呼ばれているらしいわ。一つ失敬してきちゃった」
てへ♪ と本人は可愛らしいと思っているのか、頭に握りこぶしを当てて舌を出してウインクをする紫。正直自分の年齢のうん百倍の存在がやってる様はなかなか心に来るものがあるっすね。正直キツいっす。
「こほん。この悪魔の実を食べると体に悪魔が宿って能力を一つ獲ることが出来るらしいわ。例えばこのリキリキの実を食べれば揚力を操る揚力人間に成れるらしいわよ? 同じところにあったこの悪魔の実図鑑とかも借りてきたんだけど読む?」
スキマから中々分厚い本を取り出して聞いてくるので貸して貰うことにした。パラパラとめくってみたけれど意外と面白そうっす。
「白黒魔法使いみたいなことを言うね……。そんなことはどうでもいいんだ、私としてはこの異変に解決の目処がたっているのかいないのかが気になって仕方ないんだが?」
「あぁそうね。結論だけ言えば目処はたったわ。実行可能かどうかは置いておいてね。
あの世界では私も力を大幅に制限されてしまうの。理由の検証はそう言うのが大好きな連中に任せるとして、そのせいで霊夢達を探すことが出来ないわ。精々帰還用の小さなスキマを少し開いたり、何かを取り出したりする程度の力しか使えなかった。概念の境界を弄るなんて全く無理ね」
この妖怪、境界を操ると言うドン引きクラスの能力を持っている。何が問題かって言うと、操る事の出来る境界は概念的なものにも及び、かつての異変では昼と夜の境界を操って太陽と月が同時に登っていくなんて訳のわからない天候にしたこともあった。この能力、手加減して使えばスティッキィ・フィンガーズごっこも出来るんすかね? 出来るならやってみたいんすけど。
「ふぅん? 能力は多少でも使えたんだね? じゃあ妖力はどうだったんだ?」
「殆どは使えないわ。本気の妖弾はおろか、弾幕ごっこ用の弾でさえ使えなかったわ。ただし、殆どってのがミソね。
幾つか検証してみたんだけど、個人の固有の能力なら多少は発動可能みたいですわ。ただし、大幅に弱体化してたけれども。そして魔力や妖力、霊力といったものは使おうとすることすら不可能でしたわ。まるで世界に存在することを許されないかの様にね。
すなわち、と言うとあれなのだけれども、あの世界に存在するであろう神が認めた力なら使うことが出来るんじゃ無いかしら? 事実、あの世界特有の力も存在するみたいだし、その力なら私でも扱うことが出来ましたわ」
もっとも、質が違いすぎて使いこなすことなんて出来ませんでしたが、と付け加えて紫は言葉をきった。
「……………肝心の方法を聞いてないよ? 言う気がないなんて言わないだろうね?」
神奈子様は眉をひそめながら言う、その言葉に紫は鼻をならして答えた。
「勿論そんなつもりはありませんわよ?
あの世界において、私のスキマでは出来るのは目の前の人間を移動させるくらい。あの広い世界で指針もなく消えた連中の場所を特定するのは不可能に近いですわ。
ただ、都合よくこちらの世界から向こうにいる人達の場所を知ることが出来るものがありますのそれが………」
✳
「それがこれよ」
冥界、白玉楼。霊魂達の楽園で、お茶をすする一人の亡霊がいた。
そこで西行寺幽々子は親友である紫の言葉を聞いていた。
ちなみに現在、亡霊とは思えない程大食漢であり、その食生活を賄っていた妖夢が消えたことによりとても困っていた。具体的にはやつれていた。
「なんでもいいわよ~。ようむ~。早く帰ってきてぇ~」
「はぁ……あなたね。もう少ししゃんと出来ないの? と言うか、その妖夢ちゃんを連れ戻すのに必要な情報だって言うのに」
「だってぇ~」
ぐぎゅるるるる、と彼女のお腹から切ない音が鳴り響く。紫は小さくため息をつくとスキマを取り出してそこに向かって二、三言葉を発した。
「藍にご飯作るように言ったから少し我慢しなさい。出来るまで話を続けるわよ?」
「やぁよぉ~。妖夢のご飯がいいのぉ~。藍ちゃんがご飯作ったら油揚げ定食になるじゃない」
「あの子は人に作るときはちゃんとしてるわよ。ちなみに自分で自分のご飯を作るときは油揚げ定食じゃないわ。油揚げに油揚げを乗せてそれを油揚げで挟んで油揚げに詰めたものを料理と言い張って食べてるわ。ドン引きよ」
「それ、ただの油揚げじゃない」
余りの衝撃に一瞬素に戻る幽々子。そこまで行ったら普通に油揚げを大量に食べてる方がマシな気がする。
閑話休題
紫が取り出したそれを幽々子は手に取る。それは二振りの刀だった。そしてその形を彼女はよく知っていた。
「白楼剣と楼観剣? いえ、違うわね」
「えぇ、違うわ。これは妖夢ちゃんが残した霊力を、固めて打ち直したものよ。言ってしまえばその二振りのレプリカね」
ちなみに本当の白楼剣と楼観剣は妖夢が残した霊力と記憶の塊の隣に落ちていたらしい。
「へぇ? あのこの力ってこの形に成れるのねぇ。面白いじゃない」
「面白がるのはいいけど、重要なのはそこじゃないわよ。向こうの世界では、霊力や妖力は存在しない。だからこうやって形を与えてしまえば向こうの世界でも使えるようになるって寸法よ。
検証の結果は成功。私もスキマで似たようなことをしてみたけれど、思ったより上手く行ったわ。弱化は否めないけれど、普通に使うよりはマトモに能力が使える」
紫はスキマを作り出すと、それを握り潰すように手に取る。
手の中には一つの果物が出来ていた。
「向こうの世界での力の形の一つ、悪魔の実。それをモデルに私の能力を閉じ込めたものよ。コレを食べれば境界を限定的だけど操ることが出来るようになるわ。
そうね、ケイケイの実とでも呼ぼうかしら? 食べたら境界人間に成れるわよ」
不思議な模様がかかれた果物を弄びながら紫は言う。
「つまりそれを食べればあの悪趣味なスキマにいつも付きまとわれるのね。あぁ恐い」
「酷いわね。私の可愛いスキマちゃんに何て事を言うのよ」
紫は自ら作り出した実を食べ、体を大きく震わせた。そして舌を出して眉を潜める。
「うえぇ……。これ、向こうの悪魔の実をモデルにしてるから共通する事象は変えられないのだけれども、本当に不味いわね。形容しがたい何かを感じるわ…。SAN値減りそう……」
「あなたどちらかと言えば減らす方でしょうに」
幽々子はお茶を一口すすり、口を開く。
「取り敢えず、能力については理解したわ。消えた人達の力を刀や向こうの世界の能力に加工することで、あちらでも使える様にするって事ね。
成る程、いい考えよ。でも紫? 肝心なことを忘れているわ。そしてこの肝心な事が解決すれば全ての問題が片付くの。解ってるでしょう?」
「ええ解ってるわ。そしてそれについての解決目処ももう少しでつきそうだし、上手くいけばすぐにでも解決しそうなの。
でも今回の異変、巻き込まれた連中には悪いけど、中々使えると思ってるの。少し幻想卿の技術発展に利用させてもらおうと思ってね。あの連中の策に乗るのはシャクだけど、それ以上のメリットが有りそうだから私は乗ることにしたわ
取り敢えず………………。」
そこで紫は立ち上がる。そしてスキマからさっきのとは別の身の丈よりも長く、赤と白に彩られた刀を取り出して
「これを霊夢に届けなくっちゃね」
そう言った。
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「くしゅんっ…………!! はぁ、なにか渋みの有る温かいものが飲みたいわ……」
説明回でした。難産な上にあんまり上手く説明できなかった……。解りにくかったらごめんなさい
皆さんよいお年を~