ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第百話 破壊神選抜格闘試合⑤

「悟空君。彼の能力は時間の操作です。

私の見たところ、コンマ1秒ほどの短い時間ではありますが時間を飛ばして攻撃を行っています。

だから彼が攻撃する『過程』が存在しないのです。

分かりにくければ、時間を停めていると思ってください」

「なるほど。そいつは厄介だな」

 

 ターレスを治療しながらリゼットが語るのは、今の闘いで分かったヒットの能力だ。

 それを聞いて悟空は思った以上の厄介さに顔をしかめるが順番を変える気はなさそうだ。

 恐らく何か彼なりの勝算があるのだろう。

 

「能力は厄介ですが、それを抜きにした純粋な気の大きさでは神の気を得た貴方が勝ります。

相打ちでも攻撃さえ当ててしまえば勝機はあるでしょう」

「わかった……参考になったぞ、神様」

「気を付けて下さい」

 

 リゼットのアドバイスを受け取り、悟空がリングへと降りる。

 ターレスは敗れたが、彼が刻んだダメージは決して浅くない。

 ならば回復の間を与えずに畳みかけるのが勝利への近道だ。

 悟空とヒットはリング中央で視線を交差させ、静かに気を高め合った。

 その最中、悟空が静かに口の端を釣り上げる。

 

「……何が可笑しい?」

「いや、可笑しいんじゃねえ。嬉しいんだ。

オラ達はとっくに宇宙でもほとんど誰も勝てねえくらいに強くなったと思ってたんだ。

けど、宇宙は広いな……おめえみてえな奴がまだいたなんてよ。それが嬉しくって、つい……な」

 

 悟空は地球育ちである為、サイヤ人としては穏やかな部類だ。

 しかしその一方で、強敵の存在に喜ぶサイヤ人としての本能はベジータを上回る。

 だからつい、無意識下で笑ってしまったのだ。

 このヒットという新たな強敵の存在に、胸がワクワクして仕方ない。

 いくつになっても治らない、悪い癖だ。

 それを思い、嬉しさ半分、自嘲半分で笑ってしまった。

 悟空とヒットは、互いに短い会話の中で相手が油断ならない相手であると悟っていた。

 その落ち着いた雰囲気が……あるいは隙の無い佇まいが。否応にも相手の強さを伝えてくる。

 互いが強者であるからこそ、それが分かるのだ。

 

「いい試合になりそうだな」

「フ……変わった奴だ」

 

 これ以上の余計な会話は必要ない。

 後は拳で語り合うだけ。

 言葉など介さずとも、分かり合えるものがある。

 悟空が構えながら好戦的に笑みを見せ、ヒットもそれに感化されたように薄く笑った。

 

「孫悟空選手VSヒット選手、開始!」

 

 開始のゴングと同時に悟空が超サイヤ人2へと変身してヒットへと突撃する。

 それに合わせてまずはヒットの見えないカウンターが炸裂し、だが悟空は僅かにのけぞっただけだ。

 ヒットの攻撃はスピードを優先している為、基本的には軽い。

 だがその軽さを補う為に急所を狙っており、総合的に考えれば敵に与えるダメージはかなり大きなものとなる。

 だが悟空は何度もリゼットと模擬戦を行い、急所への攻撃を受けてきた。

 その慣れが咄嗟の反応へと繋がり、ほとんど身体が勝手に動くに等しい反射で急所への直撃だけを避けているのだ。

 勿論、流石のリゼットも悟空の股座を蹴り上げるような真似はしないし、目潰しなども行わない。

 それでも人体……特に顔というのは急所の宝庫であり、そうした部分をリゼットは容赦なく攻撃してくる。

 だからこそ、悟空もそうした攻撃への慣れが出来ているのだ。

 再び攻撃を仕掛け、フェイントを織り交ぜて攻めるも再びヒットが時間を飛ばした。

 だが悟空の天才的格闘センスはターレスの闘いを見ていた事と自分で受けた事によりヒットの攻撃のタイミングを読んでしまう。

 

「ふっ!」

 

 コンマ1秒先に放たれるはずのヒットの攻撃。それを完全に予測し、悟空の拳がクロスカウンターでヒットの顎を揺らした。

 まさかの反撃にヒットがよろめき、その隙を逃すまいと悟空が拳の連打を叩き込む。

 胸筋へ幾度となく悟空の拳がめり込み、更に蹴りを放つ。

 だがヒットが再び時間を飛ばして攻撃を避け、悟空の頬へ拳を当てる。だが、悟空は勢いを殺すどころか殴られた衝撃に任せて回転し、更に廻りながら赤く輝く超サイヤ人――ゴッドへと変身。

 そして回し蹴りへと移行し、ヒットの首を渾身の力で蹴りぬいた。

 だがヒットもこれを腕でブロックし、時を飛ばして悟空の背後へ回り込む。

 それを予測していた悟空の裏拳がヒットへ放たれるも、ヒットはそれを屈んで避け、水面蹴りを放った。

 しかしこれも予測済み。悟空は軽く跳躍して振り返りつつ右回し蹴りへ移行。

 顔を狙うと見せかけて途中で軌道を変えて腹へ。しかしこれを読み切ったヒットが蹴りを防ぐ。

 そのまま時を飛ばして潜り込み、ボディブロー!

 だがこれをも読んでいた悟空が左足で防ぎ、更に右足と左足でヒットを挟み込んで逆立ちしつつ彼を足で投げ飛ばした。

 ここまで、ほんの一秒にも満たぬ間の出来事である。

 

「やるな……!」

 

 投げ飛ばされたヒットが後方宙返りをしながら着地し、それと同時に時飛ばしで距離を詰める。

 悟空も気を抜かずにヒットを迎え撃ち、二人の間で目にも止まらぬ拳の応酬が始まった。

 観客席にいる亀仙人達には、両者の拳が消えているようにしか見えないだろう。

 だが二人はこの瞬き一瞬ほどの間に千を超える攻防を繰り広げていた。

 それもただ、単純に殴り合っているわけではない。

 互いにフェイントをかけあい、拳の軌道を幾度となく変え、相手の次の次の、そのまた次の一手を予測しながら戦っているのだ。

 

(こいつ……ただ荒々しいだけじゃない。

積み上げてきた経験と、潜って来た多くの修羅場……数多の戦いを潜り抜ける事で完成された武道家の重みがこいつにはある。

面白い……見た目通りの若さではないという事か!)

 

 悟空は一見すると荒々しいがその実、決してパワー頼りの戦いばかりではない。

 多くの師と出会い学んできた事がある。

 亀仙人から学んだように心をリラックスさせ。

 カリンから教わった通りに無駄なく動き。

 ポポから教わったように心は空のように澄み、動きは雷のように速く。

 それらをリゼットから教えられた効率のいい身体と気の動かし方と融合させ、悟空自身の才覚と組み合わせて一つの武として昇華させている。

 年齢を重ねる事で肉体全盛期は過ぎ去った。だが積み上げた時間は彼に老練の技と円熟な心を齎している。

 ならば心・技・体の全てが高次元で揃った今こそが孫悟空の最盛期だ。

 その悟空のセンスは既にヒットの時飛ばしを完全に予測し切り、戦いの天秤は完全に悟空へと傾いていた。

 時を飛ばして放たれたヒットの拳を受け止め、逆に悟空の拳がヒットの顔を打ち抜く。

 鼻から血を流しながらヒットが吹き飛び、しかしすぐにリングへと着地した。

 

「……ふ、ふふふ……正直言って驚いたぞ……。

お前のような男がいたとは……敵ながら感動させられた……」

「ああ、オラもだ」

「お前ならば……死なんかもしれんな」

 

 ヒットはゆっくりと立ち上がり、静かに構えた。

 彼の本業は殺し屋である。

 故に、殺し禁止のこの大会では使えないような、殺しの技もいくつか持っている。

 それらは決して使うまいと封じていたが……だが、思う。

 この男ならば……孫悟空ならば、これさえも受け切ってくれるのではないか、と。

 そんな不思議な、信頼にも似た気持ちにさせられる。

 それはヒットにとって、初めての事であった。

 

「しっ!」

 

 ヒットが離れた場所から拳を放つ。

 一体何だ……などと思う前に悟空は気弾を放ちながら横へ跳んだ。

 あのヒットが無意味な事をするはずがない。その行動には必ず意味がある。だから棒立ちして何かが起こるまで待つなんて真似はしない。

 その悟空の読みは的中しており、放った気弾が何かに散らされた。

 

(気は感じねえ……だが、感じねえだけでそこにあるって事か……。

見えなくした気を遠くから飛ばしたってとこか……? やっぱあいつ、ただもんじゃねえ)

 

 初見でヒットの見えない拳の正体をほぼ見抜き、瞬間移動でヒットの背後へ回り込んだ。

 初見殺しには初見殺し。ここまで温存していた瞬間移動でヒットの虚を突き、回避する間も与えずに拳を叩き込んだ。

 だが――当たらない。

 そこにヒットがいるはずなのに、まるで煙でも殴っているように拳が突き抜けたのだ。

 それと同時にヒットが見当違いの方向へ拳を放ち、悟空は本能的な寒気を感じて咄嗟に身体をずらした。

 直後に脇腹に深く何かが突き刺さり、悟空を吹き飛ばす。

 

「がっ!」

 

 痛みを堪えながらも空中で回転してリングに手を付け、二度、三度と後方倒立回転を決めてすぐに体勢を立て直す。

 改めてヒットを見るも、やはり彼は動いていない。あそこにいる。

 

「勘がいいな……今の攻撃で死なないどころか、倒せなかったのはお前が初めてだ」

「なるほど……それがおめえの本当の実力ってわけか」

「そういう事だ」

 

 殺しはこの大会では禁止である。

 故にこの技で悟空を殺してしまえば負けるのはヒットの方だ。

 だが彼は、この程度では悟空は死なないと確信したのだ。

 むしろこうしなければ、勝てないレベルの相手だ。

 僅かな手合わせではあったが、ヒットは悟空の拳から鋭さと力強さ……そして極まった武道家の重厚さを感じ取った。

 一体どれだけの戦いを経験すればこれほどの高みへ至るのか……敵の完成度に感動したのは、生まれて初めてだ。

 

「じゃあ……オラも本気でいくか!」

 

 無論、ヒットが殺しの技を解禁した事を悟空は咎めなどしない。

 むしろますます嬉しそうに戦意を高め、それに呼応するように彼の気が高まった。

 髪は逆立ち、赤から青へ。

 通常の超サイヤ人と似て非なる、青色の超戦士へと進化を果たす。

 

「サイヤ人ってマジで何回変身すんだよォォォォ!? インチキもいい加減にしろよォォォ!」

 

 シャンパはもう半泣きだ。

 サイヤ人おかしい、マジおかしい。

 しかし驚いていたのはシャンパだけではなく、味方であるリゼットやターレスも同様であった。

 

「青い……超サイヤ人? ゴッドと気の性質が似ているようですが……」

 

 悟空が見せたその変身にリゼットを始めとした面々が驚きを見せた。

 この悟空の変身は原作知識を持つリゼットですら知り得ぬ新たなる変化だ。

 その反応にウイスが気をよくし、微笑みながら解説をする。

 

「ああ、そういえばリゼットさん達はまだ知りませんでしたね。

あれこそ悟空さんやベジータさんが得た新たなる超サイヤ人の姿……超サイヤ人ゴッドの力を持ったサイヤ人の超サイヤ人……さしずめ超サイヤ人ゴッド超サイヤ人……いえ、長いので超サイヤ人ブルーとでも名付けましょうか」

「超サイヤ人……ブルー……」

「ええ。先程貴方が語った通り従来の超サイヤ人とは方向性が異なる新たなるサイヤ人の可能性です」

 

 まさかゴッドの更に上があるとはリゼットも予想していなかった事だ。

 超サイヤ人ゴッドは己の気を神の気へと変質させるという最強の変身であったが、変身時間の短さと再変身には仲間の協力が必須という条件があった。

 それらを踏まえて考えるならば超サイヤ人4の方が安定して強いとリゼットは考えていたし太古に善と悪のサイヤ人の闘いで悪のサイヤ人が勝ってしまったのもこの継戦能力の差によるものだと思っていた。

 だがその認識は今覆された。

 認めるしかない……超サイヤ人4にすら匹敵する更なる超サイヤ人があった事を。

 その最新にして最強の変身を遂げた悟空は今まで以上の速度でヒットへと突撃した。

 そして拳を放つも、やはりヒットには当たらない。

 だがここまでは織り込み済み。悟空は目を閉じて神経を研ぎ澄ます。

 風の音……僅かな気の動き……空気の乱れ。

 その全てを肌で感じ、ヒットの敵意を感覚で追う。

 やがてヒットの見えざる拳が胸に触れ――。

 

「そこだあ!」

 

 叫び、回転。見えざる拳の打点を外しつつ、その先へと気弾を放った。

 その先には何もない。

 だが何かに当たったように爆発し、その中からヒットが弾き出された。

 

「な、なんだ!? 何であんな場所から!?」

「ヒットさんは、飛ばした時を蓄積させる事で別空間を創り、その中に潜む事が出来るのです。

しかしあの孫悟空というサイヤ人は、それすらも見破ってしまったようですね。

いかに異次元に隠れようと、攻撃の一瞬だけは本人が出ざるを得ない……一瞬にも満たない僅かな間の事ですが、その弱点を突かれました」

「嘘だろ!? 異次元に潜っての奇襲も通用しないってのかよ!?

あっちの宇宙のサイヤ人は化け物しかいないのか!?」

 

 ヴァドスの語るヒットの能力は驚異的の一言だ。

 宇宙最強の殺し屋の名に一切の偽りなし。裏社会の生ける伝説と呼ばれるだけはある。

 だが真に驚くべきは、それを僅かな戦いで見破ってしまった悟空の方か。

 すぐに距離を潰した悟空が拳を放ち、ヒットも咄嗟に迎え撃つ。

 二人の腕が衝突し、衝撃波が拡散した。

 

「ぐ……本当に、お前はとんでもない男だ。これほどの相手が宇宙にいたとは……」

「まだ終わりじゃねえんだろ? 見せてみろよ、おめえの全てを」

「そうだな。お前にならば……俺の全てをぶつけてやろう!」

 

 悟空とヒットが互いの実力を認めて笑い合い、正面からの殴り合いへと突入した。

 時に愚直に、時にフェイントを混ぜ――能力を行使し、それを読み切り、二人は顔に好戦的な笑みを張り付けたまま渡り合う。

 その戦いの中で悟空は地力と読みの鋭さで順調にヒットを圧倒するが、しかし途中でヒットの攻撃が彼に直撃した。

 読み違えた? 否、悟空の読みは完璧だった。

 変化したのはヒットの時飛ばしの時間だ。

 

「っ! 不味い……あのヒットという選手、成長しています! それも凄い速度で!」

「何い!?」

 

 リゼットの慌てたような声にビルスも声を上ずらせた。

 ターレスの4連勝で余裕と思われた闘いだが、ここにきてまさかの暗雲だ。

 悟空という強敵を得た事で……そして彼に感化された事で。

 ヒットが武道家として、急成長しつつあるのだ。

 ただでさえ強いのに時飛ばしが成長してしまっては手に負えなくなる。

 今ならばまだリゼットの時間停止の方が勝っているが、このまま悟空との闘いで成長を続ければどうなるか分からない。

 

「ヒットさんが飛ばせる時間は今の所0.2秒ほど……今ならばまだ、リゼットさんの時間停止が勝りますが、この先どうなるかは未知数ですねえ。楽しみです」

「や、やばい! おい悟空、棄権しろ! 手に負えるうちにリゼットと代われ!」

 

 呑気に言うウイスとは対照的にビルスが焦りを見せた。

 悟空の後にベジータとリゼットが控えていれば絶対に勝てると思っていたのだが、それは間違いだと悟ったのだ。

 もし悟空やベジータとの戦いでヒットがダメージを受けるどころか成長してしまえば、リゼットすら突破されかねない。そう危機感を抱いた。

 しかしここで終わらないのが孫悟空だ。彼は起き上がると、再び構えを取る。

 

「へへっ……待ってくれよビルス様。オラだってこのまま終わりじゃねえさ」

「何!?」

「出し惜しみしてたわけじゃねんだけどよ。

本当は完璧になってからビルス様との闘いで使うつもりだったんだ。

けど、このまま全部出せずにやられたんじゃ相手に申し訳が立たねえ」

 

 悟空が覚悟を決めたような表情となり、気を解放した。

 それは己の奥底から無理矢理に気を絞り出すような無茶な気の行使であり、リゼットにも覚えがあるものだ。

 間違いない……悟空は今界王拳を使用している! 超サイヤ人の状態のままで、だ。

 

「ヒット、おめえだって本気を見せてくれたんだ。

なら、今度はオラが見せる番だよな……。

いくぜ……界王拳!」

 

 一気に気を跳ね上げた悟空が飛び込み、ヒットが迎え撃つ。

 先程までの焼き直しではない。再び攻守が逆転し、完全に悟空が優勢だ。

 悟空の拳が、蹴りが、次々とヒットを打ちのめし傷を刻んでいく。

 あるいはヒットがベストの状態だったのならばまた結果も異なったかもしれない。

 だが彼は試合が始まる前からすでにターレスに受けたダメージがあった。

 それがそのまま試合の行く末をも決定してしまい、いいように悟空に叩きのめされる。

 

「だあありゃりゃりゃりゃああああ!!」

 

 拳打の連発。ヒットの時飛ばしや異次元への移動すら完璧に予測し、何十何百とおこなわれる読み合いに勝利して彼を圧倒した。

 青と赤の炎を纏った悟空の拳がヒットの顔や腹をサンドバッグのように殴り、彼の身体を浮かす。

 落ちてくるヒットに合わせて跳躍。追撃を仕掛けた。

 しかしヒットの成長も尋常ではない。

 時飛ばしを用いてのカウンターが悟空を迎撃し、かろうじて着地した悟空が無茶な気の行使と相まってよろめいた。

 

「かはっ……!」

 

 悟空が倒れそうになり、身体から力が抜けていく。

 やはり超サイヤ人ブルーと界王拳の同時行使には無理がありすぎた。

 倒れそうになる悟空だが、しかし瞬間彼の耳に届いたのは仲間達の自分を呼ぶ声だ。

 

「悟空さー!」

 

 まず最初にチチの声が耳へと入る。

 

「悟空ーっ!!」

 

 続いてクリリンの、ベジータの、天津飯の、ピッコロの、ヤムチャの、悟天の、トランクスの……そしてターレスやビルス、リゼットの声が聞こえる。

 それを聞いた瞬間悟空は踏み止まり、完全に界王拳と超サイヤ人との同化を物とした。

 

「っはああああ!」

 

 界王拳を10倍まで引き上げ、地を蹴って突撃。

 渾身の右拳をヒットへ叩き込み、更に休まず連撃!

 拳打! 肘打ち! 膝蹴り! 前蹴り! 回し蹴り! 裏拳!

 

「だあああありゃあああああッ!!」

 

 勢いが衰えるどころか更に加速し、一瞬でヒットの身体を上空へと運ぶ。

 殴る、殴る、殴る!

 一瞬にしてヒットの体力を削り切る程の猛烈なラッシュを叩き込み、それでも尚悟空は止まらない。

 顔、頭、首、肩、胸、腹、膝、肘、脇腹、足!

 ヒットの身体の至る箇所を強打し、最後に腕をクロスして気を集約――爆発させた。

 

「っはあああああああ!!」

 

 超サイヤ人ブルーの青い炎と界王拳の赤い炎が同時に広がり、名前のない星から光の柱が立ち上る。

 目も開けていられないほどの極光。

 その余りの輝きに皆は目を開けていられず、そして第6宇宙の界王神が手に持っていたスマホのような何かを落として壊してしまった。

 

「ああっ、神チューブに上げる動画が!

……よ、よかった、データは無事だ……でも、カメラが壊れてしまった……」

 

 どうやら第6宇宙の界王神はこの試合を録画していたらしい。

 後で神チューブなる物に上げようとしていたようだが、まあご愁傷様と言うしかないだろう。

 その間も光は続き、やがてそれが収まった時、リングの上の勝敗は決まっていた。

 ヒットは白目を剥いて倒れ、悟空は立っている。

 審判はヒットの意識の喪失を確認し、そして手を掲げて勝者を宣言した。

 

「勝者、孫悟空選手!」

 

 審判の宣言にビルスが立ち上がり、観客席からも歓声が上がった。

 結局結果だけを見れば第6宇宙は先鋒のターレスしか倒せず、第7宇宙の圧勝という形に終わっている。

 その事にビルスは勝ち誇り、そしてシャンパは悔しそうに地面を叩いた。

 これにて第7宇宙、第6宇宙対抗試合は決着を迎え超ドラゴンボールはビルスのものとなった。

 無論これに納得いかないのがシャンパだ。

 しかしいくら納得いかなかろうとルールはルール。従う他ない。

 そうなると今度は怒りの捌け口を探すもので、彼が目を付けたのは自分の宇宙の戦士達だ。

 負けたのは自分のせいではない。自分がビルスに負けたわけではない。

 代表選手がだらしないのが全て悪い。

 彼の思考はその結論へと達し、殺意を込めた目でヒット達を射抜いた。

 

「お前達……無事に帰れると思うなよ。全員破壊してやる!」

「シャンパ様! お止め下さい!」

 

 気絶したヒットへ手を翳すシャンパをキャベが止めようとする。

 だがシャンパは止まるどころか、今度はキャベへ狙いを定めた。

 

「黙れ、お前もだ! どいつもこいつも俺の顔に泥を塗りやがって!

全員まとめて破壊してやる!」

「やべえ!」

「孫悟空」

 

 シャンパの本気を悟った悟空が止めに入ろうとするが、そこにビルスが待ったをかけた。

 彼は何ら慌てる事なく、まるでこの事態を予想していたように、どうでもよさそうに言う。

 

「出過ぎた真似をするんじゃない」

「だ、だがビルス様……」

「お前達はよくやった。だが試合はもうおしまいだ」

 

 ビルスは語る。もうルール有りの試合は終わりだと。

 その言葉を引き継ぎ、今度はシャンパが吠えた。

 

「そう、ここからは元通り俺達が全てを仕切る。

分かるか? 俺達がルールなんだよ」

「もっとも破壊神と戦ってそのルールを変えるっていうなら話は別だが」

 

 シャンパとビルスが自分達こそがルールであり、絶対であると語る。

 もっともそのニュアンスは異なり、シャンパのそれは『出来るわけがない』と確信したものだがビルスのそれは何かを期待しているような口ぶりだ。

 そもそも期待していないならば、破壊神と戦ってルールを変えるなどという発想そのものを出さない。

 リゼットはそれを察し、仕方ないですねと笑った。

 

「ビルス様、ルール変更の権利がこちらにはありましたね」

「ああ、あったね。試合が終わっちゃったから結局使い道なかったけど」

「ならそれ、私が貰いますよ」

 

 リゼットが踏み出し、リングの上へと着地した。

 もう試合は終わっているにも関わらずのリングインだ。

 審判が不思議そうに彼女を見る中で、リゼットはシャンパへと提案をもちかけた。

 

「シャンパ様。こちらには先程貴方自身から頂いた一度限りのルール変更の権利があります」

「……ああ、確かにあるな。だがそれは試合のルールに関する事だ。

試合が終わった今、俺の行動を制限する事など出来ん」

「ええ、ですから……まだ試合を続けましょう」

 

 リゼットは微笑み、そして挑戦的にシャンパを見据える。

 

「審判! ルールの変更を要請します!

変更内容は――6番目の選手としての破壊神自らの参戦!

そしてこの闘いに私が勝利したならば、選手への破壊を止めて頂きます!」

「なっ!? お、お前、俺と戦うつもりなのか!?」

「ええ、そう申しています」

 

 リゼットの気が爆発的に膨れ上がり、白い粒子が舞い散る。

 冗談やハッタリではない。彼女は本当にここでシャンパに戦いを挑むつもりだ。

 

「さあ、どうしますシャンパ様? まさか……第7宇宙の辺境の惑星の神如きを相手に逃げはしませんよね?」

「……後悔するぞ」

 

 不敵に笑うリゼットの前へシャンパが降り立ち、試合への参戦の意を示す。

 かくしてここに異例の対破壊神が実現し、リゼットとシャンパが正面から相対した。

 両者の気の差は圧倒的だ。

 シャンパを巨木とするならばリゼットは若木にも等しい。

 同じ神の領域であっても、まだそこには埋めがたい差が存在している。

 しかしリゼットはあくまで笑みを崩さず、一度だけ悟空を見た。

 

(感謝しますよ悟空君……貴方のおかげで、万に一つの勝機が見えました。

神の気の上からの界王拳の上乗せ……無茶ではありますが、気のコントロールさえ完全なものとするならば不可能ではない。それを貴方は証明してくれた)

 

 やはり孫悟空は天才だ。リゼットは改めてその事実をこの上なく実感していた。

 ずっと不可能だと思っていた。身体の方がもたないと諦めていた。

 だがその理論だけの不可能を悟空は可能だと立証してくれたのだ。

 本当に……気付けばいつだって、彼は前を歩いている。

 単純な強さではリゼットの方が上のはずだが、それでも悟空は皆の先頭を歩いていて、そして道を示してくれる。

 ならばやってみせよう。

 悟空とターレスがここまで力を魅せてくれたこの試合、自分達が勝ったばかりに相手が破壊されるなどという後味の悪いものになっていいはずがない。

 

 まず、神の気を解放。

 リゼットの背中に光輪が出現し、そして制御する事に力の大半が奪われる。

 ここまでは従来通り。そして重要なのはここからだ。

 かつてリゼットが使っていた戦闘力を倍加させる技……バーストリミットを使う。

 それは無謀な行いだ。

 悟空のブルーと違い、リゼットのゼノバースは無理矢理出力を抑えてこれなのだ。

 それを倍加などしてしまっては、到底制御出来なくなってしまう。暴走するに決まっている。

 だが、その方向性が逆(・・・・・)ならばどうか。

 

「バーストリミット……マイナス」

 

 戦闘力を倍加させる――のではない。

 あえて戦闘力を半減させる。

 その倍率は四分の一倍。

 自らに弱体化をかけ、その上でゼノバースの制御を放棄。

 今まで抑えていた圧倒的な神の力が荒れ狂い、しかしそれと同時にリゼットは自らに枷を嵌めた。

 戦闘力を倍加させる技の方向性を反転させ、己の力を半減する。そうする事で制御出来ないはずのゼノバースを本気で使う事が出来るのだ。

 どこからともなく現れた光の鎖が拘束具のようにリゼットの手首と足首に巻き付き、かつて気霊錠で自らの力を制限していた時と同じように彼女を弱体化させる。

 

「行きます。お覚悟を」

 

 それでも尚眩い神の力が、純白の極光として溢れた。




カハッ .';・ (゚Д゚ )

(´゚Д゚`) ゴクウサー!

(゚Д゚)(゚Д゚)(゚Д゚)(゚Д゚)
(゚Д゚)(゚Д゚)(゚Д゚)(゚Д゚)ゴクウー!

【バーストリミット・マイナス】
バーストリミットと気霊錠を融合させた技。
本来は自らの戦闘力を倍加させる技を反転させる事で自らを弱体化させる、何のメリットもない技。
しかしこの技を使う事でゼノバースの制御を放棄しても理性を留める事が出来るようになった。
現在は1/4倍が暴走しないギリギリラインだが、リゼットが慣れるたびに手足の鎖が一つずつ外れ、その度に真の全力に近付いていく。
ちなみに敵にも使えるが、実力差がありすぎる場合は鎖を引き千切られるだけ。

【戦闘力】
・リゼット:30億
ゼノバース(真):120兆
バーストリミット・マイナス(1/4倍):30兆

・孫悟空:10億
超サイヤ人ブルー:2兆
界王拳10倍ブルー:20兆

・破壊神シャンパ:110兆

ちょっと前:本編リゼットがこの領域(1兆5000億)まで行けるかは不明。
今:30兆

オラがいた方が地球はやべえらしいby悟空

【神チューバー第6宇宙界王神】
誰が試合を録画してUPしたのかは語られていないので、勝手に第6宇宙の界王神と捏造。
彼が持っていたスマホも原作では登場していない。
ゴクウサー! からの一撃技で彼のスマホが壊れてしまったので、この先は動画にされない。安心!

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