ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

103 / 176
第百二話 コメソンとおしゃぶりベジータ

 第7宇宙VS第6宇宙の破壊神選抜対抗試合は第7宇宙の圧勝で幕を閉じた。

 その後の祝勝会ではモナカが配達員として宇宙の人気スイーツを運んできたり、そのモナカにトランクスがぶつかって泣かせてしまい、弱い事が全員にバレてしまうなどの騒動もあったがそれは些細な事だろう。

 どうもビルスは悟空のモチベーションを維持する為にモナカを強い事にしておきたいらしく、モナカの着ぐるみを着て悟空と戦うなどの実に涙ぐましい努力を見せてくれた。

 その後は地球の料理に舌鼓を打っており、その姿を見ながらリゼットは小声で悟空へと話しかける。

 

「悟空君。本当は気付いているんでしょう?」

「まあな」

「何!? カカロット、貴様気付いていたのか!?」

 

 悟空は学がないが、決してそれは馬鹿という事ではない。

 むしろ頭の回転は速い部類であり、その彼があんな茶番にいつまでも騙されているというのはこれまでの彼を振り返ればまず有り得ない事だと分かる。

 リゼットがそれを聞いてみれば案の定、彼はモナカの正体にはとうに気付いていたらしい。

 

「そりゃあ流石に気付くさ。モナカの気は全然弱っちいけど神の気ってわけでもねえし、本当に弱えだけだ。

着ぐるみとオラが戦ってる時だって、ずっとモナカの気は地上に残ってたしな。意図的に気を弱くしてるってわけでもねえみたいだし、普段の身のこなしを見てもてんで素人だ。いくらオラでもここまで来れば分かるさ。

あれ……着ぐるみの中身、ビルス様だったんだろ?」

「そ、そこまで……では何故、騙された振りをしていたんだ?」

「そりゃお前、決まってんだろ。折角のビルス様と戦える機会なんだぜ?

やらねえわけにゃいかねえだろ」

 

 そう言い、明るく笑う悟空の横顔を見てリゼットは呆れたように肩をすくめる。

 やはりというか、予想通りの返答だ。

 そう、悟空は気付いていた。気付いていながらあえて馬鹿を演じてビルスの嘘に乗ったのだ。

 その方が余計なトラブルを招かず、かつビルスと戦えると踏んだからだ。

 

「そ、そうか……だが貴様、モチベーションは大丈夫なのか?」

「そんな事か。別にモナカが弱くたって今までと何も変わらねえよ。強くなりてえ気持ちはずっと同じだ。

昔からずっと、超えてやりてえ目標が変わらずオラの前を歩いているからな」

 

 悟空は穏やかに言いながら、しかし炎のような闘志を宿した瞳をリゼットへと向けた。

 リゼットはそれに微笑み、一歩前へと歩く。

 

「なら私は、頑張って悟空君の前を歩き続けなければなりませんね。

貴方のモチベーションを保つ為にも」

「そろそろ抜かせてくれてもいいんじゃねえか? 30年近く経つんだぜ」

「そう簡単には抜かせませんよ」

 

 実の所、悟空は既に一度リゼットを追い抜いている。

 例えば魔人ブウとの戦いの時は超サイヤ人3となった悟空の方がリゼットよりも勝っていた。

 しかしそれも、すぐにリゼットが潜在能力解放という新形態を獲得した事で逆転され、そのまま抜く事が出来ずに今日という日を迎えている。

 故に悟空の中ではリゼットは未だ抜く事が出来ない師であり、目標のままだ。

 そしてその差は……恐らく広がり続けている。

 サイヤ人はその成長性において右に出る者がいないが、やはり肉体の老化は存在するのだ。

 地球人に比べれば若い時期はずっと長いが、それでも永遠ではない。

 悟空の年齢は既に40を超え、最盛期を過ぎてしまっている。

 ならば成長速度が遅くなってしまうのは必然であり、しかしリゼットにそれはない。彼女は死ぬまで成長期のままだ。

 サイヤ人と地球人ベースの神という基本スペックの差はあれど、徐々に衰えていく悟空と成長速度が増し続けるリゼット。この差は決して小さくない。

 だが、だからこそ追いかける甲斐があると悟空は思っていた。

 

 その後、パーティーは何の問題もなく終わり、ビルスは上機嫌のまま帰っていった。

 その際に地球の食べ物を大量に持ち帰っていたが……彼がシャンパのような体型になるのは、そう遠くない未来なのかもしれない。

 

 

 パーティーから数日後。

 リゼットは神殿の自室で目を閉じて瞑想に没頭していた。

 つい先日、シャンパとの戦いの際の無理な気の行使が原因で一時的に気が全く制御出来なくなってしまった事を反省してここ数日は緩やかな修行に切り替えているのだ。

 前回の失敗はバーストリミットとゼノバースを併用した事による無茶にある。

 ゼノバースは悟空達で言うところの超サイヤ人ブルーに相当する。

 そこに界王拳と同質の技であるバーストリミットを合わせた結果、リゼットは『遅発性乱気症』という気が制御出来なくなる症状に陥ってしまったのだ。

 しかしここで懲りないのがリゼットという女である。

 彼女は今後この技を使わないという方向に思考を傾けず、いかに使いこなすかを考えた。

 また、ゼノバースとバーストリミットの併用は負担が大きいが潜在能力解放ならばどうだろう?

 これは超サイヤ人への変身に近いが、超サイヤ人とは違う。

 極めて自然体のまま強さを増す技であり、超サイヤ人のように変身し続ける事で体力を消費するという事もない。

 だからリゼットは考えたのだ。これを常に持続して身体に取り込む事が出来れば……つまりは素の強さにしてしまえたならば、バーストリミットとの併用ではなくなると。

 何とも無茶な理屈ではあるが、試してみなければ始まらない。

 仮に駄目だったとしても潜在能力解放状態に慣れる事は出来るのだから、決して無駄にはならないはずだ。

 そうして潜在能力解放を持続したまま瞑想していたリゼットだが、遠い何処かで巨大な気が衝突しているのを感じて目を開いた。

 この気は……自分もよく知る者達の気だ。

 悟空とベジータが何故か超サイヤ人ブルーに変身して地球ではない何処かの惑星で戦っている。

 再び目を閉じて意識を遠くへ飛ばし、遠視する。

 そして見た光景は本気で戦う悟空と、何故か紫色になったベジータ。

 その戦いを離れて見ているのはおしゃぶりをくわえたベジータだ。

 …………意味が分からない。

 何故ベジータが二人いる? そして何故片方からは殆ど気が感じられず、おしゃぶりなどをくわえているのだ。

 色合い的に多分おしゃぶりの方が本物なのだろうが、突っ込み所満載すぎて理解が追いつかない。

 更に離れた位置ではトランクスと悟天が紫色の液体のような何かに追われており、大分危ない状況のようだ。

 

「……放置するわけにもいきません、か」

 

 毎度毎度よくトラブルに襲われるものだ。

 そう思いながらリゼットはヘブンズゲートを発動し、一瞬にして地球から姿を消して数万光年は離れているだろう惑星ポトフへと転移した。

 トランクス達と液体の間を阻むように立ち、念動力で液体の動きを止める。

 そうしてから突然の登場に驚いているトランクス達へと振り返った。

 

「危ない所でしたね、二人共」

「あ……か……」

「ん?」

「神様キターーーーー!」

 

 トランクスの歓声に、今度はリゼットが驚かされた。

 追い詰められていたのは分かるが、そこまで派手に喜ぶような事なのだろうか?

 恐らくトランクスと悟天ならば空を飛べば自力で逃げ切れただろうし、ぶっちゃけ間に合わず犠牲になるのは何故か一緒にいるジャコくらいだったはずだ。

 そんな事を考えるリゼットの手をトランクスが強く握り、懇願するように見上げる。

 

「神様、お願いだよ! パパを助けて!」

「ええと……どういう状況なんですか、これ? 何かベジータが二人に増えているようなのですが」

「違うよ、紫色の方は偽物! パパの力を吸い取って、それで早くやっつけないとパパが死んじゃうんだ!」

 

 トランクスの説明は稚拙なものであったが、リゼットは既に得ている情報と合わせて答えを自分で導き出す。

 つまりはあれだ。この紫のスライムは相手の力を吸い取って化ける力があり、更に吸い取られた相手はしばらくすれば消えてしまうと。察するにそんな所だろう。

 その場の全員の心を読み、早急に答え合わせを済ませたリゼットは一人頷く。

 この惑星ポトフにはコメソンという代物が封印されていて、それが他の惑星に『超人水』として伝わっていたのが今回の騒動の原因らしい。

 ソテー人のグリール率いる宇宙犯罪者達がそれを求めてこの星に押し入り、更に宅配の為に訪れたモナカと、彼の宇宙船に勝手に乗り込んだトランクスと悟天を巻き込んでの戦いになってしまったらしい。

 それだけでは終わらず、トランクス達を助けに来たベジータが迂闊過ぎる事にコメソンに不覚を取り、力を奪われてしまったのだという。

 そこに更に悟空がやってきて、今は悟空と複製ベジータが戦っているが決着は着かず。

 トランクス達はベジータを助けるべくコメソンの本体を探し……しかし倒す方法が見付からず、逃げていたようだ。

 

(ああ、またベジータが事態を悪化させたんですか)

 

 ベジータはもう昔のような問題児でも慢心王子でもない。

 だが事態を悪化させてしまうのは最早彼の運命のようなものなのだろう。

 本来ならばそこまで脅威ではなかったはずのコメソンが、彼を取り込んだせいで今や神クラスの強敵だ。

 とはいえ、本体がここにいてリゼットが捕まえている以上事件は解決したも同然だ。

 

「神様、あれ早くやっつけてよ! 早く!」

「言われずとも」

 

 事態の把握は終わった。ならば後は終わらせるだけだ。

 リゼットは念力を強め、コメソンの中にあった核を圧壊させた。

 それと同時にコメソンが溶け、更に悟空と戦っていた複製ベジータもドロドロに溶け始める。

 そこに容赦なく亜空間転移気功波!

 ゲートを通過させた白い気の奔流が横から複製ベジータを奇襲し、問答無用に消滅させた。

 その余りに突然の出来事に悟空とベジータが呆気に取られるが、すぐに犯人を把握したのだろう。

 というより、こんな事が出来る人物など彼等の知る限り一人しかいない。

 

「神様! 来てたんか!」

「今来たところです」

 

 悟空の後ろに音もなく転移してきたリゼットに悟空が驚き、ベジータが苛立ったように顔を歪める。

 複製とはいえ自分は自分。それが奇襲でいきなり消されたとあっては、まるで自分が一蹴されたようで気に食わないのだろう。

 

「おい神! 貴様不意打ちとは卑怯だぞ!

正々堂々勝負しやがれ!」

「……貴方は誰の味方なんですか……」

 

 憤るベジータに呆れながらもリゼットは物質創造神術で壺を創り、魔封波の要領で残ったコメソンを閉じ込めた。

 核は砕いたがこれは危険な代物だ。使い方次第では神の域に至った悟空やベジータ、自分やビルスすらも打倒しかねない。

 故に厳重に封印を施し、亜空間の奥底へと閉じ込めてしまった。

 この星に残すという選択肢はない。この星には封印を守る戦力が余りに乏しく、また同じように超人水を狙う輩が来たら防ぎようがないからだ。

 

「そこのご老人。すみませんがコメソンは私の方で預からせて頂きます。

少なくとも、その方がこの星に置いておくより安全な事は保証します」

「も、勿論です。貴女ならば信頼出来る。白の女神よ、貴女にコメソンを託しますぞ」

 

 リゼット自身は認識していないが、宇宙におけるリゼットの知名度は高い。

 というより、第7宇宙で一番有名かつ信仰されているのがリゼットだ。

 どうやらこの老人もリゼットの事は知っていたらしい。

 何ら文句を言う事なく、コメソンの封印をリゼットへと託した。

 

「理解が早くて助かります」

 

 リゼットは笑顔を向け、そして悟空達に先んじてゲートで地球へと戻った。

 そして普段と変わらぬ物静かな顔のまま自室へと優雅に歩き、ドアを閉める。

 更にバリア。音が外に漏れださないようにしつつベッドの上へ乗り、上から布団を被る。

 

 ――そして、ベジータがおしゃぶりをくわえている姿を思い出して大爆笑しながら笑い転げた。

 実はさっきからずっと我慢し続けていたのだ。




リゼット「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ベジータ「ちくしょおーーーッ!!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。