ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
――エイジ796。
荒廃した町の上空。
そこで三つの影が激しい戦闘を繰り広げていた。
戦況は2対1。しかし戦闘は1が2を圧倒するというものであった。
それを受けて立つのもまた、悟空と瓜二つの顔立ちの男であった。
トランクスは超サイヤ人3へ変身し、バーダックも外見こそ変わらぬが潜在能力を極限まで解放した絶大な戦闘力を身に付けた状態へと変わる。
だがそれでも圧倒されているのは、相手側がそれを上回る変身をしているからだろう。
超サイヤ人ロゼ――神の気を纏ったサイヤ人の肉体に悪しき神が憑依する事で為し得る新たなる変身。
それを前にトランクスとバーダックは苦戦を強いられていた。
「時空犯罪者ブラック! 今日こそ貴様を倒す!」
「フン、ほざくな。クロノアの狗風情が」
トランクスが雷光を纏った拳を繰り出し、ブラックと呼ばれた男が軽々と受け止める。
その姿は超サイヤ人の悟空に酷似しているが、色合いが違う。
通常の金でもなければゴッドの赤でもなく、ブルーの青でもない。
ロゼの名が示す通りの薄い薔薇色であり、纏うオーラは悟空とは似ても似つかぬドス黒いものだ。
彼の正体はザマスという界王神見習いが超ドラゴンボールを用いて孫悟空の身体を奪い取ったものである。
勿論リゼット達のいる時間軸ではなく、全く別の……リゼットが存在しない時間軸での事だ。
そして本来は界王神しか持たぬ筈の時の指輪を持ち、時を越えて罪を重ねている。
その罪たるや、まさに宇宙始まって以来類を見ないレベルのものだ。
彼はあろう事か、この時空のあらゆる宇宙――この第7宇宙だけではなく、第1から第12までの全ての宇宙の界王神を殺し、間接的に破壊神すらをも殺めているというのだ。
これを未曾有の危機と判断した時の界王神クロノアは早急にタイムパトローラーであるトランクスとバーダックを派遣し、事に当たらせた。
そしてこれはトランクスにとっては決して無関係の時空での話ではない。
何故ならブラックが目を付けたのは……他でもない、トランクスが生きる時間軸だったからだ。
「悟飯さんとリゼットさんが命を捨ててまで守った平和なんだ……!
それをお前などに壊されてなるものかァ!」
トランクスの拳がブラックの頬を打ち、怒涛の連撃を叩き込む。
一撃ごとに大気が揺れ、地球全体が地震のように震えた。
しかし打たれながらもブラックは哂い、甘んじてトランクスの攻撃を受ける。
ビルの残骸に叩き付けられ、止めとばかりに飛び込んできたトランクスの腕を軽々と掴み取った。
「それを言う資格が
知っているぞトランクス……かつてこの世界は、神が命を捨ててまで守った平和を愚かな人間が台無しにした事を」
「それは……!」
「人は滅ぶべきなのだ。神の慈悲は既に尽きた。裁きを受け入れよ、人間」
「そうかい」
「っ!」
余裕の笑みを見せるブラックを、上空からバーダックの拳が急襲した。
一瞬で地面に叩き込まれ、その上にバーダックが立つ。
そして拳を握り、ブラックの顔面に機関銃の如き速度で拳を放った。
一撃打つごとに大地が砕け、地球の形状が変わる。
だがブラックも無抵抗ではない。殴られながらも蹴りを繰り出し、バーダックを跳ね飛ばした。
蹴り上げられたバーダックは空中で回転して着地し、すぐに駆け出す。
それに合わせてトランクスも突貫し、二人で同時に猛攻を仕掛けた。
しかしブラックはこれすらも余裕を残して捌き、いなす。
「私を時空犯罪者などと、よくぞ呼べたものだ。
ならば貴様の行った事は何だ? タイムマシンなどという驕りこそが最も大きな罪ではないか。
私とドミグラと、そして貴様。そこに一体どんな違いがある?」
「黙れ!」
「私の掲げる理想の世界! 人間ゼロ計画! その邪魔はさせんぞ!
貴様にも、破壊神にも、そしてクロノアにも!」
ブラックの蹴りがトランクスを弾き、拳がバーダックを吹き飛ばした。
二人はすぐに体勢を立て直すも、既にブラックの姿はない。
見失った一瞬――その僅かな間にブラックは二人の背後へと回り、後頭部へ拳を叩き込んだ。
前に倒れ込みながら即座に地面に手をつき、アクロバティックな動きで倒立回転しながらバーダックとトランクスは距離を取る。
「テメェの気取った理想なんざ知った事かよ。
俺が気に入らねえのはたった一つだ……その身体を、誰の許しを得て使ってやがる!
そりゃあ、俺のクソガキの身体だッ!」
バーダックが猛り、クラウチングスタートからのダッシュを行った。
迎撃にブラックが拳を出すが、まるで瞬間移動のようにバーダックが消え、背後へと現れて首へと腕を回す。
そのままスリーパーホールドへと移行し、ブラックの首を思い切り圧迫した。
バーダックの腕が一回り太くなり、血管が浮き出る。
ブラックも負けじとバーダックの腕を掴み、徐々に緩み始めた。
だがその隙を逃さずにトランクスが接近し、動けないブラックの腹へ拳の連打を叩き込む。
「だだだだだだだだっ!」
「ぐ、お!? がはっ、ぐ、ごぼっ!?」
「だだだだだだだだだだだだだだああああっ!」
「っ! か……げはっ! ごっ!」
流石に無抵抗の状態でのこの連撃は効く。
しかも防ごうにも、トランクスを気にしていては今度はバーダックのホールドが強まるのだ。
このまま押し切れるか?!
そう僅かに思った意識の緩みを誰が責められよう。
いや、仮に緩まなかったとして、果たしてそれを回避する事が出来たかどうか……。
突如上空から飛来した気の刃がトランクスの背中を貫き、口から鮮血が溢れた。
その一瞬でブラックはトランクスを蹴り飛ばし、更にバーダックの腕を掴んで背負い投げする。
バーダックは倒れ込みながらも地面を転がり、素早くトランクスを回収して距離を開けた。
(ちっ……死んじゃあいねえが今の一撃で気絶したか……!)
トランクスの安否を確認しながら、油断なく上空を睨む。
そこから降りてきたのはモヒカン頭の緑色の男だ。
本来ならば宇宙の秩序を保つはずの存在……界王神ザマス。
それこそが彼等の敵であり、そして今トランクスを攻撃した男であった。
「お出ましかい、不死身野郎」
「言葉に気を付けろ、下等で野蛮なサイヤ人よ」
「生憎とお上品な生まれじゃなくてね」
バーダックは相手と自分達の戦力差を冷静に分析し、そして勝ち目がない事を悟った。
今出て来たザマスという男は、ハッキリ言って強さそのものは大した相手ではない。
強い弱いで言えば間違いなく強いのだが、それでもブラックと比べれば霞んでしまう程度の男だ。
だがこの男の厄介な所は『殺せない』事にある。
心臓を貫こうが、首を切断しようが、すぐに再生してしまう不死身の身体を持っているのだ。
ブラックに比べれば幾分劣るとはいえ、それでも手強い事に違いはない相手がいくら攻撃しても死なないのでは勝敗が見えている。
未来予知で脳裏に浮かぶ映像も最悪だ。自分とトランクスの死に様だけが視えてしまう。
このまま戦闘を続行した末の未来は既に確定した。これ以上はただの死に戦だ。
追い打ちの気弾を避けながらバーダックは舌打ちをし、時空間移動で素早くその時代からの離脱を図った。
★
――エイジ779。
「では、いくぞ」
「いつでもどうぞ」
神殿の訓練場。
そこでリゼットとセルが対峙し、気を高めていた。
リゼットから仕掛ける事はしない。まだセルの準備が整っていないからだ。
セルはまず四身の拳で二人に分身し、一定の距離を保った。
それから二人のセルが両手を外側へと向け、チョコチョコと格好悪い移動を始める。
今、彼が試そうとしているのはフュージョンだ。
二人に分身した自らとフュージョンする事が出来れば、従来を遥かに上回る超パワーを得る事が可能となる。
「フュー……ジョン!」
「ぶるあ!」
セルが輝きに包まれ、一人の超戦士へと変わった。
互いに自分であるが故に意識のズレもなく、セルはセルのままかつてない超パワーを得る事に成功していた。
今の彼から感じられる気はリゼットすら遥かに凌駕している。
そして、一瞬で融合は解けた。
「…………」
「どうやら無理のようですね」
リゼットが予想していたように呟き、セルが目に見えて落ち込んだ。
まあこれは予想出来た事だ。
そもそもフュージョンは別人同士が融合する為の技であり、同一人物同士の融合など想定されていない。
いや、あるいは同一人物であっても未来のセルと過去のセルなどであれば、可能なのかもしれない。
だが四身の拳で増やした同一個体では無理のようだ。
残念ながらこの強化は出来ない、という結論が出てしまった。
「やはり地道に修行あるのみか」
セルはそう呟き、リゼットを見る。
彼女との差は……広がる一方だ。
人々から集う念を力へと変える彼女は注がれる念が多ければ多い程強くなる。
そして一体どういうわけなのか、あの対抗試合が終わって以降、更にそれが強まっているのだ。
リゼット本人にも原因はさっぱり分かっていなかったが、ウイスに相談してみた事で答えは返ってきた。
何でもあの試合を見ていた第6宇宙の界王神が他の神々に口頭でリゼットの戦いを伝えたらしい。
星の神であっても破壊神に勝つ事が出来る。
リゼットはあの場でそれを証明してしまい、結果、神々の中にはリゼットのファンになる者が出現して信仰の念を送ってしまったという。
つまりは神から直接注がれる神の念だ。その効果は人間の信仰数億人分に匹敵する。
更に性質の悪い事に一度注いでしまった念は半永久的に彼女を強くしたままにしてしまう。
別に信仰が弱まれば彼女が弱まるとか、そういう事はない。
一度注いでしまえば、そのままなのだ。
例えるならば、一つのバケツがあるとしてそこに水を注ぐとしよう。
途中で注がれる水の量が減ったとしても、既に入れてしまった水の量が減る事はない。
実際、同じ理屈で強さを得たハッチヒャックなどはサイヤ人に憎悪を抱く者達が死んであの世に行き、生まれ変わりまでしているのにあの強さであった。
即ちリゼットの最大戦闘力は既にあの対抗試合の時よりも更に上昇しており……これからも飛躍し続けるという事だ。
もしかすると、本当にそのうち素の実力で破壊神を追い越してしまうかもしれない。
……しかし、勿論置いて行かれてばかりではない。
リゼットはまだ気付いていないようだが、あのフリーザとの戦いはセルに新たな道を拓いてくれた。
戦いの最後にセルはフリーザの腕から生体エキスを吸い取った……つまりフリーザの細胞を得る事に成功したのだ。
ならば出来るかもしれない。今はまだ不可能だが、いつかはフリーザのあの変身と同じ事が……。
「……っ! この気は……」
セルが思案に耽っていると、リゼットが何かを感知したように顔をあげた。
遅れてセルも気を感じ取り、軽い驚きを感じる。
感じられる気はトランクスのものだ。それも自分達が知る小さい方のトランクスではなく、未来の方の青年トランクスの気が感じられる。
近くにあるのはバーダックの気だろうか。
どうやら悟空達の近くに現れたらしいが、酷く弱っていた。
「何かあったようですね。行きますよセル」
「ああ」
リゼットとセルは瞬間移動を行い、カプセルコーポレーション前へと転移した。
すると悟空達もこちらへと顔を向け、ブルマが真っ先に駆け寄って来る。
子供の方のトランクスは自分をそのまま成長させたような青年の登場に思考が追いつかないらしく、あわあわしている。
何故かビルスとウイスまでおり、魚肉ソーセージを貪っていた。
「神様! 丁度呼びに行こうと思ってたのよ!
トランクスがいきなりボロボロになって出て来て! 早く治してあげて!」
「わかっています」
リゼットはカプセルコーポレーションの庭に作られた小さな小屋へと近付き、その中で寝かされているトランクスへと掌を翳した。
リゼットの治癒術はデンデやキビトのそれに比べれば幾分か性能負けするものの、死んでさえいなければ大体の傷は癒す事が出来る。
つまりリゼットさえいれば余程の怪我でない限り仙豆要らずというわけだ。
もっとも肝心のリゼット自身の気を回復させる時には流石に自分で自分の気を回復させる事は出来ないので仙豆が完全に不要となったわけでもない。
リゼットの治療を受けて目を覚ましたトランクスは咄嗟に跳び起きて剣に手をかけるが、自分を見るブルマ達の姿を前に硬直してしまった。
「こ、ここは……ブラックはどこに?」
「落ち着けトランクス。ここはあの時代じゃねえ」
「バーダックさん! 何故時の巣ではなくこの時代に!?」
「ああ、いや……逃げる時にしくじっちまってな。ブラックの野郎の気弾が時空転移装置に掠ったらしく、この時間軸に不時着しちまった……」
そう言いながらバーダックは自分の腕を見せる。
そこには機械で出来た腕輪のようなものがあり、恐らくはこれで時間を移動しているのだろう。
その二人の会話を他の者は理解出来ないだろうが、リゼットとセル、悟空の三人だけは理解する事が出来た。
何故ならこの三人はかつて時の改変を目論んだドミグラと対峙した経験を持ち、その記憶も失っていない。
詳しい状況は分からないが、どうもトランクスは『ブラック』なる人物と交戦するも気絶して撤退し、そして時の巣へ戻るはずが事故でこの時間軸へ来てしまった……という所だろう。
厄介事の気配がする。むしろ厄介事の気配しかしない。
本当に悟空が地球に来てからというもののトラブルに不足しないな、と思いながらリゼットはとりあえずトランクスに説明を求める事にした。
リゼット「ゴクウブラック……」
セル「ゴクウブラックか」
ビルス「名前からして黒い悟空という事だろう」
悟空「黒いオラかあ」
ベジータ「ゴクウブラック……」
ターレス「おい、何で俺を見るんだ。俺じゃねえよ」
【時空転移装置】
捏造。そんなものは本編にはない。
ゼノバースではタイムパトローラーは当たり前のように過去や未来に飛んでいるが、具体的にどうやって移動しているのかは不明。
トワのように魔術ではない事だけは確か。
時の界王神が移動させていると解釈してもいいが、彼女がいない時でも移動しているので多分違う。
なので時を移動する便利な道具を持っているという事にした。
【未来トランクスの世界のセル】
ナメック星人を探して宇宙を旅している。
【戦闘力】
・バーダック
基本戦闘力:9億
アルティメット化:4500億
・トランクス(未来)
基本戦闘力:9億8000万
超サイヤ人3:3920億
・ゴクウブラック
通常戦闘力:10億
超サイヤ人ロゼ:2兆
※アニメだと何故かノーマルのまま超2悟空と互角だったが、それだと意味が分からなくなるのでこの辺は漫画版に合わせてノーマルで超2と戦うのは無理としておく。
ターレスではない。
・ザマス
戦闘力:500億
※悟空ならともかく、普通の超サイヤ人2である未来トランクスにすら不死身でなければ負けていたのでこの程度と判断。ぶっちゃけ不死身でさえなければ大した相手ではない。
漫画版でも悟空に「お前は大した事ねえ」と言われていた。アニメ版でブルーと戦えていたのはいつもの演出として割り切る。
もしかしたら神なので神の気に耐性があるのかもしれない。