ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第百七話 目覚めた人格

 ターレスとブラックの戦いは完全にターレスへと勝利の天秤が傾いていた。

 いかにブラックに神の気があろうと戦闘力に差が付き過ぎたのだ。

 ブラックは戦うほどに強さを増していくが、それもブロリーほどの急激なパワーアップではない。

 だからこのままターレスが押し切って勝つと……その場の誰もがそう考えた。

 しかし忘れてはならない。今ブラックが使っているのは孫悟空の身体なのだ。

 

「まだだ! 俺を舐めるな、人間!」

 

 怒りの為か口調まで変わり、ブラックが今まで以上の気を発揮した。

 ただ気の出力を上げただけではない。

 薔薇色の気の上から紅蓮の炎を噴き出し、10倍以上に力を高めているのだ。

 

「界王拳だと……!? 馬鹿な、それはカカロットの技のはず……。

いくら身体を乗っ取ったといっても、技まで真似出来るもんじゃねえはずだ」

「愚かなり。俺は界王神だぞ……たかが界王如きの技が、人間に使えて、俺に使えないはずがない!」

 

 身体を取り換えただけでは技までは模倣出来ない。それがターレスの考えであった。

 しかし悟空の身体を乗っ取ったザマスは、戦闘という面においては紛れもない天才である。

 彼の界王神離れした才能は悟空のかめはめ波や瞬間移動を模倣し、マスターしていた。

 ならば界王拳だけ真似出来ないなどという道理があるはずもない。

 力の差を強引に埋めたブラックがターレスへ挑み、ターレスが迎え撃つ。

 戦力は再び接近し、二人は空中で一進一退の攻防を繰り広げた。

 拳打と拳打が衝突し、蹴りが交差する。

 絶え間なく打撃音が響き、何度も二人の姿が消えては縦横無尽に空を駆け回った。

 その戦いの最中、ターレスは考える。

 

(このまま続けても共倒れだ……それでもカカロット達が控えている以上、最終的にはこっちが勝つだろうが……毎回そんな役回りってのもなあ)

 

 戦略的に考えるならば、ここでターレスとブラックで共倒れになるのはそう悪い事ではない。

 こちらにはまだ悟空がいて、バーダックがいて、リゼットも控えている。

 悟空達はサイヤパワーを自分に供給してしまったから本気はしばらく出せないだろうが、リゼットはほぼ体力満タンの状態だ。ザマス相手に苦戦するはずがないし、今頃はもう始末していると確信出来る。

 ならばブラックを疲れさせるだけ疲れさせて後続に繋げるのも一つの手だろう。

 しかしターレスもサイヤ人だ。可能ならば自分一人の力で勝ちたいという欲がある。

 勝ち目がなくなったならば仕事に徹する程度の冷静さはあるが、勝ち目があるうちから後続の為の踏み台になるのは何か違う。

 

(よし……10倍(・・・)で一気に決めるか)

 

 超サイヤ人4には切り札がある。

 それは、気をブーストさせて気功波の威力を一瞬のみ10倍まで跳ね上げるというとっておきの一撃だ。

 リゼットしか知らないIFの世界においては『10倍かめはめ波』と呼ばれていたものと同種の力である。

 勿論10倍と言っても単純に戦闘力が10倍になるわけではない。

 例えばリゼットのレイジングブラストは三つの気功波を融合させる事で完成する技であり、通常の気功波の3倍の威力を誇っている。

 だがリゼット自身の戦闘力が3倍になっているわけではなく、あくまで気功波3発分という意味でしかない。

 例えばキュイが10人いるとしよう。それが同時に気功波を発射すれば通常の気功波の10倍と言っていいだろう。

 ではそれを戦闘力12万のギニューにぶつけたら、キュイはギニューに勝てるだろうか?

 勿論、否である。ダメージにすらならない。

 ベジータがいくら格上の敵に気弾を連射しても効かないのと同じだ。

 戦闘力18000のキュイが10人で気功波を発射したとしても、戦闘力が単純に18万相当になったりはしない。

 同じように戦闘力5の銃を持った農民が千人集まって銃を発射しても戦闘力5000相当になってラディッツを射殺……なんて事にはならないだろう。

 ターレスの10倍気功波も同じ事で、カラミティブラスターを十倍にして発射してもそれはあくまで『カラミティブラスター10発分』の技でしかなく、『戦闘力10倍のカラミティブラスター』にはならない。

 しかしそれでも、普通に撃つより遥かに威力が勝るのは間違いない。

 そしてそれを当てる事が出来たならば、今のブラックといえど致命傷は免れないだろう。

 

 問題は撃つタイミング。一度外してしまえば次からは警戒されてしまうだろう。

 必ず当てる為には、相応の状況を作り出さねばならない。

 ターレスは少しばかり思案し、やがて一つの答えへと至ったのか小さく笑った。

 

「どうやら勝負あったな! 所詮は人間、神には及ばんのだ!」

「ちいっ!」

 

 ブラックの蹴りがガードの上からターレスを跳ね上げ、追い打ちの蹴り落しで地面へ落とされる。

 そこに気弾連射。必死に避けるが何発かは喰らい、前に回り込んで来たブラックに殴り飛ばされた。

 瓦礫を削りながら吹き飛ぶも、地面を殴ってその反動で跳躍。

 反撃の気功波を発射した。

 だがブラックは瞬間移動の如き速度で消え、ターレスを背後から強襲する。

 肘打ちで地面に倒され、起き上がった所を狙いすまして拳打で瓦礫に叩き付けられた。

 

「かめはめ波!」

 

 倒れたターレスに黒いかめはめ波が命中する。

 爆炎があがり、ターレスの気が目に見えて弱くなった。

 煙が晴れた時、そこにあったのはボロボロに傷付いたターレスの姿だ。

 超サイヤ人4こそ解けていないが、明らかにダメージを負っている。

 そして気絶しているのだろうか、ピクリとも動かない。

 ブラックはそれを見て勝利を確信し、止めを刺すべくゆっくりと歩を進めた。

 

「ふふ、俺の勝ちだな。喜べ、お前との戦いもまた俺を強く成長させてくれた」

 

 ブラックはターレスの首を掴み、吊り上げる。

 後は止めを刺すだけ……。

 その一瞬にターレスの指先が動き――横から飛んできた気功波がブラックを呑み込んだ。

 

「な、なんだ!?」

 

 ブラックが煙を吹き飛ばし、攻撃の出所を睨む。

 そこにいたのは、青い気を纏ったトランクスであった。

 元々髪が青みがかった色である為分かりにくいが、それは紛れもなく超サイヤ人ブルーと呼ばれる形態だ。

 その変化に悟空とベジータも驚き、隣にいるリゼットを見る。

 聞かずとも分かる。彼女が何かしたのだ、と。

 

「俺が相手だ……ブラック!」

「トランクス……!」

 

 トランクスが背中から剣を抜き、ブラックが手に気の刃を創って迎え撃った。

 それを見ながらリゼットはターレスを治療しようと近付くが、掌を翳そうとした瞬間にターレスは何事もなかったかのように起き上がってしまった。

 髪を乱暴に掻きながら、恨めしくリゼットを見上げるその姿にダメージは感じられない。

 

「あら、起きてたんですか?」

「ああ。奴を誘う為にわざとやられた振りをしてたんだよ。

絶好のチャンスだったんだがなあ……」

 

 どうやらターレスの邪魔をしてしまったらしい。

 その事にリゼットは少し悪い事をしてしまった、と思ったが同時にこれでよかったとも思っていた。

 ブラックはこの時代に現れた敵だ。

 ならばやはり、最後の締めはトランクスがやるべきだ。

 自分達が全て片付けてしまっては彼の成長に繋がらない。

 

「それにしても……超サイヤ人ブルーか。いつのまに変身出来るようになった?」

「いつの間にではありませんよ。三週間の修行を経てようやく、です」

「なるほど、やっぱアンタが鍛えてやったのか」

「ええ。今後の事も考えればトランクスには強くなって貰わないと困りますから」

 

 リゼットはそう語り、また上空へと視線を戻した。

 そこでは立派に成長を遂げたトランクスがブラックと一進一退の攻防を繰り広げている。

 戦闘力ではブラックがまだ勝るが、ターレスと戦っていた時ほどではない。

 やはり界王拳と超サイヤ人の併用には無理があるのだ。

 その無茶な行使の副作用で、ブラックの気は小さくなり始めていた。

 一方トランクスは戦闘力では及ばずとも、気を流した剣を巧みに操りブラックを追いつめている。

 この剣もまた、今までの物ではない。

 従来のトランクスの剣を、リゼットがカッチン鋼で新たに強化し直した逸品だ。

 ブラックはリゼットを視界に入れ、ここでようやくもう一人の自分……ザマスの敗北を知ったのだろう。

 その顔は驚きと失望に染まった。

 

「ザマスめ、敗れたか……役立たずめ。

まあいい。人間0計画など、俺一人いれば事足りる」

 

 もう一人の自分に対する暴言。それにリゼットは顔をしかめた。

 仲間を役立たずと言った事に不快感を感じたわけではない。彼等の仲がよかろうと悪かろうと関係ないし、第一同一人物だ。

 そう、同一人物……のはずだ。

 トランクスはそう言っていたし、タイムパトローラーである彼がそう言うならば間違いはないのだろう。

 ゴクウブラックの正体は、超ドラゴンボールで悟空の身体を奪った別の時間軸のザマス。これは確定情報だ。

 だが何かが引っかかるのだ。どうしようもない違和感を感じてならない。

 例えばそれは口調。ゴクウブラックは普段は自らを私と呼ぶが、感情が昂ると俺と呼ぶ。

 だがこれはどちらの口調なのだ?

 ザマスではない。ザマスの口調とは明らかに一致しない。

 どちらかといえば悟空に近いだろう。彼は普段はともかく、超サイヤ人になったばかりの頃は自分を俺と呼び、口調が荒々しくなる事もあった。

 だがあれは超サイヤ人になる事で凶暴性を増し、サイヤ人としての本質が前面に出てしまっていたからだ。少なくとも今は、そうなる事はない。

 ゴクウブラックの口調はまるで、凶暴性を増した孫悟空のものだ。

 

(ザマスとは異なる口調……人間0計画……超ドラゴンボールへの願い……)

 

 ザマスが超ドラゴンボールへと願ったのは何だったか。

 確か、『孫悟空と自分の身体を入れ替える』……だったはず。

 孫悟空とザマスの身体を…………。

 …………。

 孫悟空だけ(・・)をザマスの身体へ?

 

「随分な言いぐさだな。もう一人の自分がやられたってのに役立たず呼ばわりか」

「フン。確かにザマスは俺だ。だが俺はザマスではない……サイヤ人の肉体という神の恵みの究極を得た今の俺は、それ以上の存在なのだ。

最早、奴如きでは俺と同一存在とは言えん」

 

 呆れたように言うターレスへとゴクウブラックは無情な返答を返す。

 だがリゼットにとって、その返答は納得出来るものであった。

 いや、むしろ益々己の予測が正しいという確信を深めてしまう。

 目の前にいるこのゴクウブラックはザマスだった。今もそれは変わらない。

 彼は間違いなく、悟空の身体を乗っ取ったザマスだ。

 だがザマスの他にもう一人、ゴクウブラックの中には人格が存在している。

 いや、というよりも融合しているというべきか?

 

「それは、そうでしょうね」

「何?」

「何故なら貴方はもう、ザマスであってザマスではない。

その身体に元々あった人格と知らないうちに融合してしまった、全く別の存在だからです」

 

 リゼットは考えた。

 孫悟空とは、彼が地球に来てから付けられた地球人としての名前だ。

 つまり、地球に来るまでの彼は孫悟空ではなかったという事になる。

 もしも、超ドラゴンボールがそれを孫悟空と認識しなかったら?

 人格が変わった後の孫悟空だけ(・・)をザマスの身体へ移していたとしたら?

 ――本来の孫悟空(カカロット)の人格が身体に残っていたとしたら?

 

 この世界では起こらなかった、原作(IF)の世界にてクリリンは語った。

 悟空は大猿になった時に凶暴化しているのではなく、大猿になっている時だけ本来の自分に戻っているのではないか、と。

 そう、孫悟空の中には普段は眠っている本来の彼(カカロット)がいる。

 それは大猿になった時のみに発現する不安定なものだが、確かに彼の中にカカロットはいるのだ。

 それが、残ってしまっていたとすれば?

 

「……どういう事だ?」

「貴方は超ドラゴンボールの力で悟空君をその身体から追い出し、奪い取った。

しかし“カカロット”を追い出したわけではありません。

貴方は知らないでしょうが、孫悟空とは地球に来てから与えられた地球人としての名前……彼には、孫悟空ではなかった時期が存在しています。

そして本来の悟空君……いえ、カカロットは人間を滅ぼす使命を帯びた、凶暴なサイヤ人だった……今の貴方のように」

「……っ!」

「貴方自身、思い当たる節はありませんか?

ザマスとも悟空君とも異なるその口調は、一体何に引っ張られたものですか?

人間0計画にしても、何故自らの手で完遂する事に拘ったのですか? それこそ、この時代の超ドラゴンボールを破壊なんてせずに、全宇宙からの人間の抹消を願えば、それで終わっていたはず」

「そ、それは……」

「それは、その身体に残るカカロットの意思が、“人間を皆殺しにする”使命を帯びていたから。

だから貴方は知らずそれに引きずられ、自らの手で使命を全うする事に拘った。無意識のうちに」

 

 リゼットはゴクウブラックを指差し、そして言う。

 ようやく分かった、彼の本当の正体を。

 

「貴方はもうザマスではない。悟空君でもない。

ザマスの魂とカカロットの残滓が混ざり合った歪な存在。

もしかしたら、あったかもしれない孫悟空の暗黒面(ゴクウブラック)――それが貴方の正体です」

 

 お前はザマスではない。ザマスではなくなってしまった。

 その答えを突き付けられたゴクウブラックは顔を強張らせて硬直した。

 それはそうだ。今の今まで自分だと思っていたものが、実はとうに失われて変質していたなどと言われればアイデンティティを失ってしまう。

 ゴクウブラックは顔を俯かせて震える。

 それは自分を見失った恐怖だろうか? 恐れだろうか?

 否、そのどちらでもない。

 それは……歓喜であった。

 

「ふ……ふはは……ふはははははははは!

そうか! そうだったのか! そういう事だったのか!

なるほど、道理で道理で! 俺は俺を美しいと感じていたわけだ!

そうだよなあ、ザマスなら孫悟空の……人間の身体を美しいなどと思うわけがない!」

 

 ゴクウブラックは自分を見失ったのではない。

 たった今、自分を見付けたのだ。

 そして、その歓喜に打ち震えている。

 

「強くなる事に喜びを感じた」

 

 右の拳を握り、それに応じるように気が高まる。

 

「戦いを楽しいものだと感じた」

 

 左の拳を握り、身体をロゼのオーラが包み込む。

 

「痛みすらが心地よかった。お前達との戦いに高揚(ワクワク)した」

 

 身体から再び、消えかけていた紅蓮のオーラが噴き出した。

 その勢いは今まで以上であり、そして尽きる気配を見せない。

 彼はここにきて、悟空の力を完全に物にしてしまったのかもしれない。

 悟空の身体には彼のような本物の戦闘狂でなければ使いこなせないサイヤ人の細胞がある。

 だがゴクウブラックはそれを使いこなせた。何故か?

 それこそが彼がザマスであってザマスではない事のなによりの証明。

 彼の中には本物の戦闘狂(カカロット)が残っている。だから彼は悟空の力を完全に物に出来るのだ。

 

「俺はザマスの魂と孫悟空の身体と、そしてカカロットの人格を持つ者……。

そう、俺は……ゴクウブラック(カカロット)だ。

感謝するぞ、リゼットよ。お前のおかげで俺は俺を見付ける事が出来た」

 

 ゴクウブラックは好戦的に笑い、そして自分が神であるという驕りを捨てた。

 もうそんな肩書はいらない。宇宙などどうでもいい。

 ただ強く、何よりも強く。

 強い敵と戦い、闘争を心ゆくまで楽しみたい。

 ただそれだけの、純化させた一人のサイヤ人の姿だけがそこにはあった。




【戦闘力】
未来トランクス:9億8000万
超サイヤ人ブルー:1兆9600億

【ブラックの口調】
ブラックは漫画版でもアニメ版でも時折一人称が『俺』になりますが、これは悟空、ザマスどちらの口調とも一致していません。
じゃあこれ誰の口調だよ、と思ったところで『カカロットじゃね?』と思い付き、こんな展開になりました。
また、ベジータが『本当の戦闘馬鹿しか使えないサイヤ人の細胞がある』と言っていたのにブラックはあっさり使いこなしてしまい、視聴者を「?」とさせたのもこれを思いついた理由です。
なのでこのSSではゴクウブラック=ザマスの魂を得たカカロットです。
まあ、個人的にブラックの正体がザマスなんて小物であって欲しくなかったという願望があったのも否定は出来ません。

【10倍かめはめ波】
戦闘力が10倍になるわけではない。
あくまで威力が10倍になるだけ。
FFで言えばレベル10の黒魔導士がファイガを撃ったとして『ファイガ10発分のダメージを与える』効果はあっても、『撃つ瞬間だけレベルと魔力が10倍になる』わけではない。
つまり十分ぶっ壊れ技。
というかFFは最終的に連発系の方が強いので、単発技しかないキマリは通さない。

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