ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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~前回のあらすじ~
リゼット「ザマスを封印して合体阻止。トランクスも鍛えて勝てそうですが、もう一押し欲しいですね」
・オリチャー発動!
リゼット「そうだ、このタイミングでブラックに揺さぶりをかければ精神的に動揺して弱体化するはず。これで確実に勝てますやったー!」

ブラック「俺はカカロットだ!」
リゼット「何で逆にパワーアップするんですかヤダー!」

リゼット、渾身のガバプレイ。


第百八話 光のWILL POWER

 トランクスとブラックの戦いはブラックが終始圧倒していた。

 いかに超サイヤ人ブルーになろうと、ブラックはそれに相当するロゼに変身した上で界王拳まで発動しているのだ。単純な戦闘力ならばどうしてもブラックに軍配が上がってしまう。

 しかしトランクスは圧倒されながらも必死にくらいついていた。

 彼には背負う者がある、守りたい人がいる、守るべき世界がある。

 力では負けている。だがトランクスにはタイムパトローラーとして戦い続けた事で得た経験があった。

 ブラックが手に纏わせた気の刃と、トランクスの剣が幾度となく衝突する。

 剣の腕ではトランクスが上だ。超速で振るわれる斬撃の嵐を前にさしものブラックも後退を余儀なくされ、しかし下がりながらも気功波を発射する事でトランクスを撃ち落とした。

 

「いいぞトランクス! 戦いはこうしてある程度レベルが近くなければ面白くない!

さあもっとだ! もっと貴様の力を見せてみろ! 俺を楽しませてくれ!」

「ふざけるな! 楽しみだと……!? そんな事の為に貴様は!」

「それがサイヤ人だ!」

 

 煙を裂いてトランクスが突撃し、超速で拳を交わし合う。

 しかし破壊力と速度ではブラックが勝る。唯一勝る経験すらも、この戦いの中で着実に埋められている。

 成長しているのだ。この僅かな時間でブラックは強くなり続けている。

 このままではトランクスの勝ち目はない。

 戦いを見上げて険しい顔をするリゼットへ、ターレスが話しかける。

 

「誤算だったな、神さんよ」

「……」

「あんたはあいつがザマスではないと教える事で、戦う理由を奪う気だった。違うか?」

「……戦う理由を奪うまではいかずとも、戦意を多少萎えさせるくらいは出来るとは思っていました。まさか余計に高揚するとは、確かに計算外です」

「あんたはサイヤ人をまだ理解出来ていなかったようだな。

戦う理由などなくとも、ただ楽しむ為だけに戦う。それがサイヤ人だ」

 

 リゼットは小さく溜息を吐き、己の過ちを認める事にした。

 そう、誤算だった。まさか戦う理由と己の存在を失って失意に暮れるどころか高揚するとは。

 このまま戦闘が終わるなどという甘い考えはしなかったが、それでもブラックの戦意を僅かなりとも減らせると考えていたのは事実だ。

 全く酷い戦闘狂だと思う。自分ならば絶対に真似出来ない。

 理由もなく目的もなく、ただ戦いたいが故に戦うなど。

 戦いが手段ではなく目的……サイヤ人とリゼットとでは、闘争における純度が違う。

 しかしこれは誤差だ。充分に修正出来る。

 リゼットは掌の中に神気を凝縮させ、ブラックを見上げた。

 

「本当ならトランクスに決着を付けさせてあげたかったのですが……止むを得ません。

あの程度ならばまだ、私が出れば問題なく対処出来ます」

 

 ゴクウブラックは確かに強くなった。だがかつて破壊神にすら勝利したリゼットならば消してしまえるレベルだ。

 本当はトランクスに勝たせてあげたかった。この時代はトランクスのもので、部外者に過ぎない自分が決めるよりもその方がいいと思った。

 だがそれはもう叶うまい。ならばせめて、この事態を招いた責をこの手で取るとしよう。

 リゼットの背に光輪が出現し、手足に鎖が絡みつく。

 ゼノバースの上からのバーストリミット・マイナス。今のリゼットが出せる最強の力だ。

 光輪が輝き、手の中に神気が凝縮されていく。

 ――浄化(はかい)

 極限まで圧縮した神の気を叩き付ける事で万物を分解するリゼットの切り札の一つだ。

 しかしその彼女の腕を悟空が掴んだ。

 

「待ってくれ神様。もう少しあいつにやらせてやってくれねえか?」

「悟空君……トランクスを見殺しにしろと?」

「そうは言ってねえさ。ただもう少しだけ……ギリギリまでやらせてやりてえんだ」

 

 リゼットの視線と悟空の真剣な視線が交差する。

 悟空の言いたい事は分かる。リゼット自身もそうであれば一番いいと思っていた事だ。

 この世界の事は、この世界に住むトランクスが解決するべきだ。

 だがもう、それは実現出来ないところまで来てしまった。今は戦えていてもやがてブラックがトランクスに勝つ時が来てしまう。

 そうなる前に、この手で決めてしまうべきだ。それが最も確実な手段である。

 しかし悟空はリゼットの手を離す気配はなく、折れてくれそうにない。

 

「……本当に危ないと思ったら飛び込みます。悟空君も準備だけはしておいて下さい」

「ああ、サンキュー神様」

 

 トランクスとブラックの戦いは尚も激しさを増し、両者共に血に濡れながら攻防を続ける。

 マイは手を組んでトランクスの勝利を願い、この時代に生き残った僅かな人々もまた必死に祈っていた。

 祈った所で何も変わらない。彼等は力なき人間でしかないのだから。

 そして祈るべき神が敵であり、そうである以上祈りになど意味はない。

 ……否、そうではない。彼等もまたトランクスと共に戦っているのだ。

 人々から白い気が溢れ、トランクスへと吸い込まれていく。それはまるで元気玉のように。

 勿論トランクスは元気玉など使えず、こんな事が起こるわけもない。

 だがトランクス自身が使えずとも、人々が願っている。トランクスの勝利を。

 その願いが奇跡を生み、そして気となってトランクスへと注ぎ込まれているのだ。

 

「これは……」

「まるで元気玉みてえだ……」

 

 リゼットと悟空も異常に気付き、周囲を見る。

 そして頷き合い、二人もまたトランクスへと手を掲げた。

 二人だけではない、ベジータやターレスも同じように手を上げ、トランクスへと気を送っている。

 トランクスに力を貸しているのはこの時間軸だけではない。

 今までタイムパトローラーとして救ってきた全ての時間が彼の味方だ。

 リゼット達の本来の時代では残されたセルやピッコロ、悟飯達が。

 こことは異なる並行時間軸では、少年の姿になってしまった孫悟空や、その孫のパンが。

 時の巣では時の界王神が。

 そしてこの時間軸の宇宙のどこかで、生き残りのナメック星人を乗せた宇宙船の中でセルが。

 あの世では悟空やベジータ、他の戦士達……そして悟飯と、この時間軸のリゼットが……。

 皆がトランクスに気を送り、その勝利を願っている。

 絶望に抗い、未来へ進もうとする人々の希望の願い。それは光の意志力(willpower)とでも言うべき力だ。

 皆の願いを一身に集めたトランクスは、その力を余す事なく剣へと伝わらせていく。

 

「これで終わりだブラック! 俺は……俺達は、一人じゃない!」

「よかろう! ならば俺も、この身体に残る全ての力を貴様にぶつけてやる!」

 

 皆の力を剣に集約させたトランクスが飛び、それを迎え撃つようにブラックが界王拳の倍率を無理矢理に20倍まで跳ね上げた。

 悟空の限界倍率は10倍だ。20倍など身体が耐えられない。

 骨が砕け、筋肉が断裂し、口や鼻、目からは血が溢れ、自壊しながらも壮絶な笑みを浮かべたままブラックが飛ぶ。

 

「これで! 最後だあああああああ!」

 

 ブラックが吐血混じりに叫び、気を凝縮させた鎌を振り下ろす。

 それと同時にトランクスが白く輝く剣を振り上げ――。

 

 ブラックの身体が、腹から肩にかけて両断された。

 

「……く、ククク……ああ、いい痛みだ……。

これが戦い……これが充実……もっと貴様等と戦いたかったが、潮時ってやつか」

 

 ブラックは満足し切った笑みを浮かべたまま地面に墜落し、血の海に沈んだ。

 両断され、上半身のみとなった彼に待つのは死のみだ。

 だがブラックはまだ死ねないのか、呻きながらリゼットを見る。

 

「おい、そこの女」

「何でしょうか」

「俺を、魂ごと……破壊しろ。お前なら……出来るだろう……」

 

 それはリゼットにしても驚きに値する言葉であった。

 このままならばブラックは死ぬ。死んであの世へ行き、そして地獄へ落ちる。

 だが彼はそれをよしとせず、この場での消滅を望んでいるのだ。

 

「俺は……このまま死ねば、その魂はあの世へといく……あの世へいって、ザマスへ戻り、俺は失われる……」

「……ええ、そうなるはずです」

「そうなる、前に……俺は俺として……ゴクウブラックとして消えたい……。

僅かな間ではあったが……自分を認識してからのこの数分間は、かつてない充足感があった……高揚があった……俺は、今の俺のままでいたい……」

 

 ゴクウブラックはザマスの魂と悟空の肉体、カカロットの人格が混ざり合った歪な存在だ。

 ザマスの魂という動力を得て、悟空を排除し、その上で初めて今まで日の目を見なかった『カカロット』が表に出る事が出来た。悟空が頭を打つ前の本来の人格が目覚める事が出来たのだ。

 しかしザマスの魂が出て行けばそれは失われる。

 彼はそうなる前に、ブラックのまま消えたいと願ったのだ。

 

「……いいでしょう。どのみち、ザマスの魂を残す事は私にとっても不安な事でした。

望み通りに、ここでゴクウブラックのまま消去させて頂きます」

「ありがとうよ」

 

 ブラックは血に濡れた身体を片腕の力だけで無理矢理に起こし、血を吐く。

 だがそれでも倒れず、手を悟空とトランクスへと差し出した。

 それを見ながらリゼットは神の気を右手に集約させ、ブラックへと向ける。

 

「――浄化(はかい)

 

 リゼットが手を向けると同時にブラックの身体が光の粒子へと変わり始める。

 肉体諸共、魂すらも消去する神の業。それは本来破壊神しか出来ぬ技だが、リゼットは既にその域へと片足を入れていた。

 その中にあってもブラックの笑みは変わらず、満足し切っている。

 

「さらばだ、トランクス……そして、孫悟空……」

 

 咄嗟に悟空が思わず手を伸ばす。

 だが二人の手が触れる事はなく、ブラックは――いや、『カカロット』は完全に光の粒子となって破壊された。

 

 

 

 これでようやく終わったのだ。

 ザマスは力を失って永遠に封じられ、ブラックは完全消滅を迎えた。

 決して死ねない永遠の封印と、二度と蘇れない永遠の無。果たしてどちらがより救いのない結末なのかは人によって意見が分かれるだろう。

 

「やりましたね、トランクス」

「はい! これもリゼットさんや皆のおかげです!」

 

 荒廃し切ってしまったこの世界をここから立て直すのは難しいだろう。

 改めてドラゴンボールの有難みというのを感じずにはいられない。

 それさえあれば、死者達ですら元に戻せたのだ。

 しかしこの世界では地球のドラゴンボールも、ナメック星のドラゴンボールも残っていない。そして超ドラゴンボールですらザマスが砕いてしまった。

 唯一の希望は以前に最長老が語った、どこかにナメック星人がいるかもしれない、という不確かな情報だけだ。

 それを探してこの時間のセルは今も宇宙を旅しているのだろう。今となっては彼が無事にナメック星人達を保護してくれている事を願うばかりだ。

 

「でもよお、酷え事になっちまったな。これからどうするんだ?」

「それなんですが、時の界王神様が特別にドラゴンボールを集めて、ザマス達に殺された者達の蘇生を許可してくれるそうです」

「え? 出来るんですか、そんな事」

「はい。時の巣は全ての時間軸から切り離された空間……ドラゴンボールが無事な世界から持ってくる事が出来ますし、実は俺もその方法でバーダックさんを呼んでタイムパトロールに誘ったんですよ」

 

 どうやら一番の懸念事項はあっさり解決しそうだ。

 時間を管理する時の界王神がそんな事をしていいのかと思わないでもないが、流石に宇宙崩壊レベルの出来事は不味いと彼女も判断したのだろう。

 時を変えたトランクスへの罰を働くだけで済ませている事からも分かるように、時の界王神はかなり慈悲深いのだ。

 見た目はあんなんだが、案外リゼットの知る神の中では彼女が一番神様と呼ぶに相応しい人格者なのかもしれない。

 

「まあ、老界王神様は反対しているそうですが……」

「え? お爺さんの方もいるんですか?」

「ええ。今は俺達に協力してくれています」

 

 何やら随分時間関係がごっちゃになっているようだ。

 恐らく時の巣にいる老界王神もまた別の時間軸から来た存在なのだろう。

 とはいえ、この世界に平和が戻るならばそれが一番だ。

 しかし全て任せっぱなしというのも後味がよくない。

 だからリゼットは最後の仕上げとして、自身の気をこの荒廃した地球へと分け与えた。

 すると至る所から花が芽吹き、木々が生える。

 生き残った人々を祝福するように花が咲き乱れ、暗雲を完全に消し飛ばして陽光が差し込んだ。

 更に物質創造神術。崩れた建物を可能な限り修復し、ブラックが荒らしまわったのがまるで夢か何かのように地球の景観を再生する。

 

「私に出来るのはここまでです。後は任せましたよ、トランクス」

「リゼットさん……はい! 有難うございます!」

 

 死者の蘇生はリゼットには出来ない。

 いかに信仰の念を得て存在そのものが神へと昇華しようと、やはりベースは地球人。ナメック星人ではないのだ。

 だから出来るのはここまで。後はこの時代に生きる者達の仕事だ。

 リゼット達はトランクスに別れを告げ、元の時代へ戻して貰う事にした。

 今の彼なら、きっとこの先どんな敵が現れても大丈夫だという確信を抱いて……。

 

「そうだ、悟空さん。それに父さん……帰る前に、一度だけでいいから会って欲しい人達がいるんです」

 

 だが、そんな彼等をトランクスが呼び止めた。

 ……どうやら最後にもう一仕事だけ残っているようだ。




ブラック「俺を魂ごと破壊しろ」
内なるザマス『!?』
ブラック「ザマスに戻るくらいならこのままブラックとして消えるわ」
リゼット「分かりました。それじゃ遠慮なく」
内なるザマス『おい、何を言っている! やめろ、やめるんだ!』
リゼット「浄化(はかい)☆」
内なるザマス『ウワアアアアアアアアアアアアアア!!』

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