ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第百九話 そして未来は続いていく

「そうだ、悟空さん。それに父さん……帰る前に、一度だけでいいから会って欲しい人達がいるんです」

 

 それは、ブラックを倒して過去へと帰ろうとした時の事。

 トランクスは遠慮がちに……しかし強く願うような口調でそう切り出した。

 本当ならば悟空達はこのまま過去に帰すべきだ。異なる時間軸の人間が長居するのは決していい事ではない。

 だがそれを分かっていても、どうしても一度会って欲しい人達がいた。

 彼女達の心を少しでも救うためにも、どうしても、元気な姿を見せてあげて欲しかった。

 

「……そうか、この世界の」

「はい。この世界のチチさんと、母さんに、どうか……」

 

 悟空が察したように言い、トランクスもまたそれを肯定した。

 そう、どうしても会って欲しい人というのは、この世界のチチとブルマだ。

 ブルマは人造人間との戦いで夫を……チチは息子をそれぞれ失ってしまっている。

 特にチチの心の傷は深い。

 ブルマはまだ息子であるトランクスがいたから自分を保つ事が出来た。

 だがチチは悟空に続いて悟飯まで失ってしまったのだ。

 その心の傷は、悟空が思う以上に深い。

 

「分かった。ベジータもいいか?」

「……ああ」

 

 この時間の人間ではない自分達が会った所で救いになるかは分からない。

 だが一度会っておくべきなのだろう。

 妻を置いて行ってしまったこの時代の自分達に代わり、少しでもブルマやチチの心を救えるならばきっと意味はあるはずだ。

 悟空は、そう考えた。

 

「チチの気は……あっちか。そんじゃちょっと、行ってくる」

 

 自分が知るそれよりも随分と弱弱しい気を何とか見付け、悟空は空を飛んだ。

 瞬間移動しなかったのは、いきなり前に出る事を悟空自身が躊躇ったからだ。

 そもそもこの世界の自分は既に死人だ。そんな自分がいきなり目の前に現れたらチチは驚いてひっくり返ってしまうだろう。

 もしかしたら成仏してけろ! なんて叫びながら殴りかかってくるかもしれない。

 

「未来のチチかあ、きっとおばさんになってるんだろうなあ」

 

 おばさんになったチチを想像して少しだけ笑い、悟空はパオズ山に降り立った。

 家は昔のままで、何も変わっていない。

 ……いや、よく見ると少し汚れているか?

 

「さあて、どうすっかな……チチの事だから、オラを見たら驚いて叫ぶだろうし。

ん~……とりあえずあれこれ考えても仕方ねえか。

ま、オラらしくいつも通りにいけばいいだろ」

 

 悟空は、このドアの向こうにいつも通りのチチがいる事を疑ってはいなかった。

 多少は老けているだろうが、あの気丈なチチの事だ。元気でやっているに違いあるまい。

 問題はどういうリアクションをされるかだ。

 驚いて叫ばれるか、それでも成仏してくれと喚かれるか……もしかしたらドラゴンボールで生き返ったと思われて普通に「今頃戻って来たんだべか」と言われるかもしれない。

 まあ、どのパターンでも問題はあるまい。

 ドアを開き、まずは開口一番、極めていつも通りの明るい声で気楽に挨拶をした。

 

「オッス! チチ、いる…………か?」

 

 

 ――悟空は、部屋に入ると同時に固まった。

 そして後悔した。軽く考えていた自分自身の考えを心底悔いた。

 可能ならば今すぐにでもウイスに時を戻して貰って、もう一度入るところからやり直したいほどに。

 

「………………悟空……さ?」

 

 そこにいた女性を、悟空は一瞬チチだと認識出来なかった。

 顔には深く皺が刻まれ、生気というものがない。

 頭髪は残らず白髪になっており、所々が抜け落ちていた。

 老けているだろうとは思っていたが、何だこれは。これではまるで老婆ではないか。

 悟空達の時代から見て二十年後なのだから老けているのは当たり前だし、予想はしていた。

 白髪くらいは増えているだろうとも思っていた。

 だがチチの年齢はこの時代でもまだ59歳のはずだ。80や90ではない。

 彼女の後ろでは介護をしていたのだろう、牛魔王が驚きに満ちた顔で悟空を見ている。

 

「ご、悟空! おめえ、どうして……」

 

 牛魔王の方はまだ予想通りの外見だ。

 自分の知る彼が順当に20年過ごせばそうなるだろうという老け方である。

 しかしチチは、親であるはずの牛魔王よりも老けて見えた。

 そんな彼女は車椅子からフラフラと立ち上がり、頼りない足で悟空へと向かう。

 その途中で崩れかけた彼女を、悟空は咄嗟に駆け寄って支えた。

 

「ああ……悟空さ、やっと、迎えに来てくれたんだな……。

会いたかった……会いたかっただよ……。

夢みてえだ……いつか悟空さが、いつもと変わらねえ様子でそのドアから帰ってきてくれるのを夢見てただ……」

 

 満面の笑みを浮かべて涙を流すチチを支えながら、悟空は何も言えなかった。

 トランクスが会って欲しいと言った理由がよく分かった。

 自分の見積もりが甘すぎた……。

 チチは気丈だからきっと、元気でやっているだろうと……そんな甘い考えが一瞬で消し飛んでしまった。

 涙声で話すチチの声は掠れ、耳を澄ませなければ聞き逃してしまいそうだ。

 その姿は、元気なチチの姿しか知らない悟空にとってはあまりに衝撃的過ぎた。

 

「悟空、生き返ったんだべか!?」

「い、いや……すまねえ、牛魔王のおっちゃん。オラはこの時代のオラじゃねえんだ。

トランクスが過去に行ったって話は知ってるか?」

「あ、ああ……そうか。おめえは過去の世界の……」

「ああ……トランクスの奴に、一度チチに会ってやって欲しいって言われてよ……」

 

 悟空にしがみついて嗚咽をもらすチチの力は驚くほどに弱い。

 少し動けば簡単に振りほどけてしまうだろう。

 いつも修行より仕事しろと叫ぶチチの姿からは想像もつかない儚さだ。

 最近のチチは孫が出来た事でますますパワフルになり、悟空もその勢いにタジタジであった。

 それが、こうも変わるとは……。

 

「…………」

 

 悟空は息を吐き、それからチチを自分からゆっくりと剥がして顔を見た。

 自分はこの時代の孫悟空ではない。

 だがきっと彼が言いたかった言葉がある。

 そして彼に代わって言うべき言葉がある。

 チチが自分の死を振り切って前に進むためにも、今はそれを言うべきだ……そう思った。

 

「オラはこの時代のオラじゃねえけど、きっと生きていたらこう言ったはずだ。

…………ただいま、チチ。今帰ったぞ……随分長い事待たせちまって悪かったな」

「う……ああ……うあああ……っ! あああああああ…………っ!」

 

 その言葉で堰を切ったようにチチが泣き崩れた。

 そんな彼女を悟空は力強く……しかし壊してしまわないように抱きしめる。

 悟飯が死んだ時からチチの時間は止まっていた。

 現実を認識出来ず、認識しようとも思えず。

 生きたまま死んで、身体だけが老いて、いつか死んであの世に行く事だけを心待ちにしていた。

 悟空と悟飯の元に行く日だけを待ちわびていた。

 だが過去の世界から来た悟空の言葉で、ようやく彼女の時間が動き始めたのだ。

 

 

 

「そうかあ……そっちでは悟飯ちゃんは偉い学者さんになれたんだな」

 

 それから一時間後。

 ようやく落ち着いたチチは、車椅子に座って朗らかに話していた。

 老いた身体は戻らないが、それでも先程までの生気のない彼女ではない。

 弱弱しくはあったが、それでも悟空の知るチチの顔だった。

 

「ああ。最近は何かよく分からねえ論文を発表しててよ。

やっぱ頭の出来がオラとは違うんだろうな。難しい言葉ばっかで何言ってるか全然分からなかったぞ」

「あははっ……そりゃあ悟空さじゃ無理だべ」

「これでも悟飯が子供の頃は勉強を見るくらいは出来たんだけどなあ」

 

 今、悟空はチチにせがまれて自分達の時代の事を話していた。

 誰一人欠ける事なくあの絶望的な戦いを乗り切った世界の、平和に生きている悟飯やチチ、そしてこの世界では生まれる事も出来なかった悟天やパンの話だ。

 その話にチチは一喜一憂し、嬉しそうに笑っている。

 自分達の世界はこんな結末を迎えてしまったが、それでも幸せな世界もある。

 それを思うだけで、幸せな空想に浸る事が出来た。

 

「あ、そうだ……これ。こっちの悟飯なんだけどよ……」

 

 悟空はふと思い出したように胴着の中から一枚の写真を出した。

 それはパンが生まれた時に撮った集合写真だ。

 今日に限ってそんなものを持ち歩いていた理由はただの横着だ。

 写真を撮った後に胴着に仕舞い、そのまますっかり忘れて入れっぱなしにしていた。

 しかし怪我の功名というべきか。おかげでチチにそれを見せる事が出来た。

 

「同じ悟飯ちゃんでも、こっちとは随分違うんだな……。

うん、スーツがよく似合ってるだ。こっちの女の子は悟飯ちゃんの奥さんだべか?」

「ああ、ビーデルっちゅうんだ。んで、抱えてる赤ん坊が悟飯の子だ。パンっていうんだぞ」

「そっか……パンちゃんか……」

 

 眩しいものを見るようにチチが微笑む。

 自分達では辿り着けなかった幸せな未来。その光景はチチにとって何よりも尊いものに見えるのだろう。

 悟空は少し考え、それから口を開く。

 

「チチ……気休めは言えねえけどよ。

けどこの時代のセルが生き残りのナメック星人を探してるはずだ。

もしドラゴンボールがあれば、死んじまった皆も生き返れるかもしれねえ。

オラは心臓病で死んじまったらしいから、ドラゴンボールでも戻ってくる事は出来ねえだろうけど……悟飯が帰ってくる可能性はゼロじゃねえ。

いや、仮にこっちのセルが駄目だったらオラがオラの時代で超ドラゴンボールを集めて皆を生き返らせてやる。

だから、その時はお前が悟飯を出迎えてやってくれ。こっちのオラにはもう、出来ねえ事だ」

「悟空さ……ああ、そうだな。悟飯が帰ってきた時に、オラがあんなんじゃ心配させちまうもんな」

 

 チチは強気に微笑み、そして写真を悟空へと返した。

 幸せな空想はもう終わりだ。そろそろ現実へと戻らなくては。

 

「写真はもういいのか?」

「ああ、それは悟空さが持っておくべきもんだ。オラ達は、オラ達でその写真にも負けねえ未来を作らねえとな」

「ああ、そうだな……それでこそ、オラが好きなチチだ」

 

 悟空は普段、あまり好きだの愛しているだのは言わない。

 言いにくいというのもあるが、別に言わなくても伝わるだろうと思っている節があるからだ。

 それでも今、あえてそれを口にしたのはこの世界の自分がきっと言いたかった言葉だろう、と思ったからである。

 

「それじゃあ……オラはそろそろ行くぞ。チチも元気でな」

「ああ。そっちのオラにもよろしくな」

 

 チチの言葉に悟空は無言で親指を立て、それから外へ出て空へと飛んで行った。

 その背中を見送り、チチは涙を浮かべて可笑しそうに笑う。

 

「全く……未来でも過去でも、いっつも慌ただしい人だべ。

けどおかげで元気が出ただよ。いつまでも落ち込んでる自分が馬鹿みてえだ」

 

 まるで台風のようだった、とチチは思う。

 だが孫悟空はいつもそうだ。

 一つの場所に落ち着かず、あっちこっちをいつも飛んでいる。

 パオズ山に、西の都に、神殿に。海に、陸に、空に。

 時には地球すら飛び出して他の星や、界王星へ。

 こっちの悩みなど知らぬと奔放に飛び回り、なのに憎めない。

 やがてそんな彼に感化されて、悩むのも馬鹿らしくなって皆が笑っている。

 そして今も、やはり台風のようにやってきてチチの悩みを吹き飛ばして飛んで行ってしまった。

 きっとこの時間の悟空もあの世で飛び回っているのだろう。

 そう考えたら、自分だけ落ち込んでいるのが何だか馬鹿みたいではないか。

 

「……ありがとうな、悟空さ」

 

 だから一度だけ礼を言い、そしてチチはウジウジ落ち込んでいる自分と、訣別を果たした。

 

 

「……こ、この時代の、ブルマだな」

「え、ええ……過去のベジータ……よね?」

 

 悟空がチチと会っている頃。

 ブルマが拠点としている地下室でブルマとベジータが出会っていた。

 ベジータの後ろにはトランクスが控え、邪魔にならないように口を閉じている。

 この時代のブルマはベジータが知るよりも若干老けており、髪を後ろで縛っているが恐らく激動の中で美容に気を遣う余裕もなかったのだろう。

 美容液を自分で開発して年齢不相応の若々しさを保っているこちらのブルマとは少し違った。

 

「そ、そのだな……何というか……この時代の俺じゃない俺が言う事ではないかもしれんが……」

 

 ベジータは言葉を詰まらせながら言うべき台詞を探す。

 その姿にブルマもまた驚いていた。

 何せ、自分の知るベジータとイメージが一致しない。

 ベジータならばこんな時、「貴様がこの時代のブルマか。フン」くらいで済ましてしまいそうな、そんなぶっきらぼうなイメージしかないのだ。

 こんな必死に言葉を探している時点で何かおかしい。

 やがてベジータは意を決し、真剣な表情になった。

 

「ブルマ……俺がいない中、よくトランクスを一人前の男に育ててくれた。

お前が育てたトランクスと、お前の作ったタイムマシンによって俺達の時代は救われた。

……よく頑張った。感謝しているぞ」

「…………」

 

 真顔でブルマの功績を労うベジータを、ブルマはポカンとした顔で見上げていた。

 え、誰こいつ?

 これ本当にベジータ? ウーロンかプーアルが化けた偽物じゃない?

 そう思い、気付けばブルマはベジータの頬を引っ張っていた。

 

「な、何をする!?」

「あ、いや、本当にベジータかなあって……あんた、実はウーロンだったりしない?」

「するかぁ!」

 

 ベジータはブルマに怒鳴りながらも、激しく振りほどこうとはしない。

 力の差もあって、派手な事をすればブルマを怪我させてしまう事が分かっているからだ。

 そんな気遣いもまた、ベジータらしくはなかった。

 

「ちっ……やはりどの時代でもブルマはブルマだな」

「あんたは随分変わったのねえ……驚くほど丸くなっちゃって……」

「フン! 地球の環境がそうさせたんだ」

 

 ベジータの変貌ぶりに驚くブルマの前でベジータは恥ずかしそうに腕を組んでそっぽを向いた。

 変われば変わるものだ、とブルマは改めてベジータを見る。

 あの傲慢そのものだった王子様がまさかこうなるとは。

 そんなベジータと一緒に暮らしているという向こうの自分が少し羨ましく思えた。

 

「ブルマ。この時代の俺が死んだ時期から考えて、俺はそういう事を言う性格ではなかっただろう。

だからハッキリと言った事はないだろうが、俺は決して流されて適当にお前を選んだわけじゃない。

俺は……俺は、そのだな……つまり、あれだ……お前のおかげで救われたというか……最初の時点でもそれなりに気に入ってたというか……。

つまり……俺は、お前の事をだな……あ、あ、愛……ぐ……愛、し……」

 

 ベジータは顔を赤くし、この世界の自分が最後まで言わなかっただろう本音を言おうとする。

 だが実の所、ベジータ自身もブルマにハッキリとそう言ったことは実はない。

 言わなくても伝わっているだろうが、こちらのブルマは違う。

 この世界の自分が死んだ時期はまだ地球に馴染んでいない頃であり、あの頃の自分は自分勝手だったとベジータも自覚している事だ。

 だから絶対に伝わってないだろう気持ちを伝えようとしているのだが、思えばブルマにも言ってない言葉を同一人物とはいえ未来のブルマに言うのは浮気に当たらないだろうか?

 というかそんなのを抜きにしてもキャラではない。死ぬほど恥ずかしい。

 そんな葛藤が言葉を遮り、とうとうベジータは顔を真っ赤にしてブウのように耳から煙を出した。

 

「くそったれえええーーーーッ! 愛しているぞブルマァァァーーーッ!」

 

 叫び、そして逃げるように階段を駆け上って行った。

 というか逃げた。超サイヤ人に変身までして逃げた。

 その余りの光景にさしものブルマも唖然とし、目を丸くしている。

 

「……あっちのベジータって随分ユニークなのねえ」

「む、昔は結構自分勝手というか、もっと乱暴な人だったんですけど……随分変わったみたいで……」

「そっかあ……ベジータにも、ああなれる未来があったって事か」

 

 ブルマはクス、と笑う。

 それから階段を見上げて、小声で話した。

 

「……ばーか。そんなの最初から知ってたわよ」

 

 

 こうして未来での戦いは幕を閉じた。

 悟空達はタイムマシンに乗って元の時代へ帰り、トランクスは丘の上で自らが守り抜いた星を見ながら微笑んでいた。

 その隣にはマイがおり、トランクスに身を寄せている。

 少し離れた木の裏ではバーダックが腕組みし、邪魔にならないように無言を貫いていた。

 

「守りきれたんだね……この世界を」

「ああ。これも悟空さんやリゼットさん、それに父さんや皆のおかげだ。

それに……ずっと俺を支えてくれたマイも……」

「トランクス……」

 

 二人は見つめ合い、そしてどちらが先という事もなく口づけを交わした。

 意図せずしてその光景を見てしまったバーダックは居心地の悪さを感じて「やるねえ」などと小声で茶化す。おい空気読めよ。

 更に言うと、この光景は時の巣で時の界王神も見ているので後でからかわれるのは確定事項であった。

 

「これで終わったのかな……?」

「そうなればいいけど、きっとこれからも色々な事があるだろう。

けど安心してくれ、マイ。何があろうと俺は絶対に負けない」

「ああ、信じるよ……あんたはこの世界の、希望だからね」

 

 これで戦いが終わるならばそれが一番だ。

 だがそうならないという予感がトランクスにはあった。

 タイムパトロールとして様々な時代を見てきた彼は、この後に起こるかもしれない戦いの知識も持っている。

 破壊神ビルスにゴールデンフリーザ。第6宇宙。そして力の大会……。

 もしかしたらベビーや超17号との戦いだってあるかもしれない。

 この時代でそれらの戦いが起こる可能性は100%ではなく、しかし0%でもない。

 だが何があっても勝ってみせる。絶対に負けたりはしない。

 たとえ一人でも、この世界を……母を、マイを、守り切る。その決意がトランクスにはあった。

 

「――決意を固めているところを悪いが、一人ではないぞ」

 

 そんなトランクスに、空気を読まずに誰かが声をかけた。

 無駄に渋いその声は、この時代に残った数少ないトランクスの仲間だ。

 宇宙に旅立っていたが、どうやら戻っていたらしい。

 そう思いながら振り返り……トランクスは、硬直した。

 

 

「大きくなったなあ……トランクス。それに強くなった」

 

 

 そこにいたのは、昔に死んでしまったはずの師であった。

 黒い髪と赤い胴着。頬の傷。

 父親に似せて作ったという胴着には『飯』の文字が刻まれ、その顔には笑みが浮かんでいる。

 

「悟飯……さん……」

「一人でよく頑張ったな、トランクス。あの世でずっと見ていたぞ……立派だったな」

 

 悟飯の言葉に目頭が熱くなる。

 思わずセルを見ればしてやったりという顔で笑っていた。

 そう、彼はやり遂げたのだ。

 ザマスの手にかかる前にナメック星人を見付け出し、そしてドラゴンボールの力でピッコロを復活させた。

 それに連動して究極のドラゴンボールが蘇り、究極のドラゴンボールをその辺の星で使用する事で超ドラゴンボールを復活……その力で、ザマスに殺された宇宙中の神々を蘇生させたのだ。

 時の巣で時の界王神がドラゴンボールを使ってくれたが、それで蘇生出来たのは地球の人々だけだ。いくらドラゴンボールでも宇宙中を救う事など出来はしない。

 だが超ドラゴンボールならばそれが叶う。

 神の言語がなければ超ドラゴンボールは使えないが、彼は宇宙を旅していた時にズノーと出会い、それも習得していたのだ。

 そしてセルは更に復活したナメック星のドラゴンボールを使った。

 そして蘇ったのは、まず三人。

 勿論この三人で終わりではなく、今後もヤムチャや天津飯、ターレスなどを蘇生させていく予定だが、まずはトランクスを労う意味でもとある三人を優先して蘇生させたのだ。

 そのうちの一人はトランクスの父であるベジータ。

 もう一人は孫悟飯。

 そして最後の一人は……。

 

「本当に……よく頑張りました、トランクス。私達は貴方を誇りに思います」

「あ……ああ……!」

 

 白銀の髪が風になびき、金色の瞳が慈しむようにトランクスを見る。

 あの戦い以降、目を覚ます事のなかった彼女が再び瞼を開いている。

 微笑み、立っている。

 それがトランクスにはこの上なく嬉しかった。

 

「……リゼット姉さん……!」

 

 青い風の希望の戦いによって邪神は消え、神なき世界は再び星の神を呼び戻した。

 その全てはトランクスが勝ち取ったものだ。

 今までずっと気を張っていた彼の瞳から涙が零れ、子供の時のような笑顔が浮かぶ。

 そんな英雄へと、リゼットは優しく言う。

 

「……おいで」

「…………っ!」

 

 英雄はこの瞬間、ただの子供へと戻った。

 ずっと張りつめていた緊張の糸が切れ、師と姉に縋りついて泣き……だがその姿を笑う者は一人もいなかった。

 彼が今までどれだけ戦い、どれだけ傷付いてきたかを知っているからだ。

 

 

 ――辛い未来を生きてきたトランクス……。

 そしてブルマ達にやっと真の平和が訪れた。

 そしてその平和は今後も大切にされていくだろう。

 

 トランクスがいる限り…………。




~現代~
悟空「なあ、チチ」
チチ「なんだべ、悟空さ。今日の飯ならもうちょっと待ってくれだ」
悟空「オラ、チチの事好きだぞ。勿論クリリンや悟飯が好きだとか、そういうのと違う意味でな」
チチ「」
悟飯「ああっ!? 母さんが倒れた!?」
悟天「お母さーん!?」
悟空「チチー!?」

・というわけで、未来編はこれで終わりです。
悟空は蘇生しないままですが、主人公補正はトランクスに引っ越しているのでこの後もトランクスが何とかするでしょう。
ビルスは最初からトランクスがブルーなので少し戦って後は機嫌よく帰るでしょうし、力の大会は時期的に起きるタイミングを完全に外していますが、万一起こっても全宇宙を救った功績で免除されます。
(他の宇宙は……まあジレンが宇宙の復活を望めばワンチャン……)
他にも色々あると思いますが、まあトランクスがいれば大丈夫だと思います。
トランクス「とてつもなく凄い頼もしい真のサイヤ人の戦士の最高イケメン、トランクスだ!
最高過ぎる! 最高過ぎるんですよ僕は! 僕なら信じる事が出来る……全く頼もしい人ですよ」

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