ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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投稿予約時間ミスりました。まあこういう日もあります。


第百十話 ゼンオー君の正体

 未来世界での戦いから二週間が経過した。

 あれからは実に平和なもので、特にこれといった出来事は起きていない。

 あえて語るならば科学者達が集うパーティーに則巻千兵衛が来たり、アラレちゃんが来てベジータをボコボコにしたり、ビルスが地面に落ちた物を食べてお腹を壊したりした程度だ。

 悟空とベジータはいずれ来るだろう全十二宇宙対抗試合に向けて毎日ウイスの所で修行しており、リゼットとセルもまた神殿で修行に励んでいた。

 ターレスとピッコロもそれぞれ、自分なりのやり方で腕を磨いている。

 目指すは全宇宙対抗試合での優勝だ。

 もし他の宇宙が優勝してしまえば、地球がどうなるか分からない。

 そしてどんな未知の強豪がいるかも分からない以上、腕を磨くのは必須事項だ。

 第6宇宙との戦いは殆ど余裕での勝利だったが、他の宇宙相手でそう上手くいくかどうかは分からない。

 もしかしたら最悪、相手側の選手全員がヒット以上という事もあり得るのだ。

 だから彼女達は修行に励む。

 別に修行が大好きとかそういうわけではなく、地球の未来の為に己を鍛えているのだ。

 だから決して趣味に時間を割いているわけではない。多分、きっと。

 

 そんなある日の事。

 神殿に突然、何の脈絡もなくウイスが訪れた。

 普段であれば訪れる前に事前に知らせてくれるはずなのだが、今回はそれもなしでいきなりの来訪である。

 これには、丁度おやつタイムでロールケーキを頬張っていたリゼットも目を丸くした。

 彼女の前に置かれたテレビの中では野球の試合が行われており、バッターのヤムチャが史上最多ホームラン記録を達成しようとしている。

 多くのファンがその瞬間を今か今かと見守っており、ヤムチャコールが休む事なく響いていた。

 

「ウイス様……? 珍しいですね、アポなしで来るなんて」

「申し訳ありません。何分急な事でして。

全王様がリゼットさんと悟空さんへの面会を求めておいでです」

「全王様?」

 

 ロールケーキを飲み込み、お茶で喉を潤す。

 そうしてから、何やら物欲しそうにこちらを見ていたウイスの前に念力で一つ皿ごと転移させた。

 全王様……聞かぬ名だ。少なくともリゼットの知るドラゴンボール無印からドラゴンボールGTまでには登場しない名であるし、各種ゲームや劇場版などでもやはりその名は見ていない。

 とはいえ、この世界はとっくにそれらから外れた特殊な世界線である事は理解しているし、今回もそうした相手なのだろうと当たりを付ける事は出来た。

 ……そういえばつい最近、ゼンオー君という子供と会ったが彼は今どうしているだろう?

 

「モグモグ……十二の宇宙、全ての頂点に立たれるお方です」

「宇宙の頂点ですか。破壊神よりも上なのですか?」

「はい。ビルス様やシャンパ様も恐れています……モグモグ、これ、美味しいですねえ」

 

 破壊神が恐れるとは、これはまた凄まじいのが登場したものだ。

 かつてリゼットは、宇宙は一つであると考えていた。

 神の最高位は大界王神だと思っていたし、それがいない今、東の界王神や老界王神こそが最高神であると思っていた。

 だが実際にはそれと同格の神々が十二の宇宙にいて、更にその同格の破壊神、更にその上の全王なる者がいるらしい。

 ……かつて、閻魔大王は悟空に『界王様は宇宙の頂点に立たれるお方』と言っていたが、あれは一体何だったのだろう。

 

「……お尋ねしたいのですが、実は東西南北の全王様がいたり、その上に大全王様がいたり、更にその上に全王神様や大全王神様とかいないですよね?」

「いないですね。少なくとも私の知る限りではそのような神々は存在しません」

 

 どうやら今回は本当に神格インフレも打ち止めのようだ。

 それにしてもここまで来ると、地球の神ってもう殆ど一般人と同じようなものなんじゃないかなと思えてしまう。

 地球の神などの星々の神の上に閻魔がいて、閻魔の上に界王がいて、東西南北の界王の上には大界王。その上に界王神で更に東西南北の界王神の上に大界王神。これだけでもうインフレしすぎなのに更に破壊神に、その上に全王だ。もう意味が分からない。

 流石に時の破壊神とか時の全王はいないだろうな、と少し不安になってしまう。

 

「そのようなお方が私に何の御用なのでしょう?」

「私にも分かりません。ビルス様も不思議がっておられます。

しかし全王様の命令は宇宙の命令……無視するわけには参りません。

あの方のご機嫌を損ねれば宇宙ごと消されてしまいます」

 

 ……とんでもなく厄介な相手だというのはよく分かった。

 よりにもよって宇宙破壊と来たか。

 そういうのはスーパーロボット大戦でやってて下さいと思わないでもない。

 

「分かりました。向かいましょう」

「助かります」

 

 丁度野球の試合も終わった所だ。

 画面の中ではヤムチャが見事にホームランを決めており、チームメイトや観客の祝福を受けながらグラウンドを走っている。

 リゼットはテレビの電源を切ってウイスの手を取り、以前行った事のあるビルス星まで空間移動をした。

 一瞬にして景色が変わり、切り株に腰をかけて落ち着かない様子のビルスが顔をあげる。

 隣には界王神もおり、彼もまたソワソワしていて落ち着かない様子だ。いや、彼はいつもこんなんか。

 

「来たか!」

 

 ビルスは切り株から飛び降りると、リゼットを拉致するように連れ出した。

 そして悟空達から離れた場所で彼女に話しかける

 

「おいリゼット。いいか? 絶対に全王様の機嫌を損ねるんじゃないぞ。

もしそうなれば悟空もお前も僕も、この第7宇宙も全てが終わりだ。

……悟空の奴は何をするか分からんが、お前が一緒に誘われたのは不幸中の幸いだった。

いいか、悟空の奴をよく見張っていろ。後、界王神にも万一の事がないようにしろ。

宇宙の命運はお前が握っていると思え!」

「は、はあ……」

 

 ビルスの不安はある意味もっともだ。

 悟空は目上の相手に敬意を持たないわけではないのだが、そうした事を少年時代にあまり学んでいないせいで、とにかく自然体で相手に接する。へり下るという事がない。

 流石に彼も初対面でいきなり「オッス!」などと言って無礼に接する事はしないし、その程度の自重は出来るのだが……相手から接して来たならば話は別だ。

 悟空も最低限の礼儀くらいは保とうとするが、基本的にそういうのに向いていない。言ってしまえば接待が下手なのだ。

 それはそれで彼の魅力なのだが、相手によっては失礼と取るだろう。

 なので、全王様とやらがそういうのを気にする方だった場合非常に不味い事になる。

 ……まあ悟空を呼んでいる時点で気にしないような気もするが。

 

「ところで、意外ですね、界王神様の事を心配するなんて」

「ホホホ、界王神と破壊神はセットなのです。

界王神が死ねば破壊神も一緒に死んでしまうのですよ」

 

 リゼットの疑問にウイスが横から口を挟んだ。

 その呆気なく暴露された弱点にビルスが顔色を変え、ウイスを咎める。

 それは余りにも意外な急所であり、だからこそリゼットはちょっと待てと思った。

 

「……あの、それならどうして魔人ブウを放置してたんですか?

元々は五人いた界王神様のうちの四人が亡くなられているんですが……」

「ぐっ」

「ホホホ、ビルス様は一度寝るとなかなか起きませんからね。

界王神達が助けを求めて来た時も、眠いからと不機嫌に追い返してしまったのです」

「ウイス!」

 

 どうやらこの猫神様、自分の命のストックが減っている事にも気付かずグッスリお休みしていたらしい。

 大方、界王神達が助けを求めて来た時も死ぬような事だとは思っていなかったのだろう。

 しかし気付けば残ったのは一番弱かった東の界王神一人。これには彼も相当慌てたはずだ。

 魔人ブウはまさしく、あと一歩で宇宙を崩壊させる所まで来ていたわけだ。

 

「とにかく、絶対に全王様の機嫌を損ねるなよ。いいな?」

「わ、わかりました」

 

 ビルスの剣幕に押されながら頷く。

 何とも嫌な宇宙の危機もあったものだ。

 宇宙の命運を賭けて戦うわけではなく、宇宙の命運を賭けてご機嫌取りをする羽目になるとは。

 あの唯我独尊のビルスがここまで恐れる以上、その能力は本物なのだろう。

 少なくとも、全霊を振り絞っての不意打ちでようやくシャンパに勝てた自分などでは逆立ちしても手に負える相手ではあるまい。

 

「では行きますよ。カイカイ!」

 

 界王神の星間瞬間移動で移動すると、次に視界に移ったのは奇妙な宮殿の前であった。

 その宮殿だが、実に分かり易いデザインをしている。

 『全』という文字をそのまま建物にしたような形状をしており、驚く程に捻りがない。

 宮殿の前にはウイスと似た服装の小柄な男がおり、悟空達へと一礼する。

 

「ようこそおいで下さいました」

 

 ――強い。

 リゼットは一目見ただけでその男の、底すら見えない実力の片鱗を感じ取った。

 感知出来ているのは僅かに強さの片鱗のみ。しかしそれすらが、全力時の自分を凌駕してしまっている。

 破壊神との差すらまだ大きいというのに、その先にこれほどの強者がいたとは。

 全く、本当に上には上がいるものだ。

 彼は悟空とリゼットを見上げると、温和に微笑む。

 

「貴方達が孫悟空さんとリゼットさんですね」

「ああ、そうだ」

「初めまして。リゼットと申します」

 

 悟空もどうやら彼の強さを肌で感じているのだろう。

 平静を装ってはいるが、闘争心が沸き上がっているのをすぐ隣のリゼットには誤魔化せていない。

 しかし彼にも分別くらいはある。昔の、誰彼構わず「おっす」と軽い挨拶をしたりしていた頃の悟空ではない。

 だから表面上はそういう態度を見せないくらいには腹芸もこなせるようになっている。

 もっとも、それすらこの小柄な男には見透かされているだろうが。

 

「急いでいた為、この者達が正装ではない事をどうぞお許しください」

「気になさらぬように。貴方にとってはその服が正装なのではありませんか?」

「まあな」

 

 小柄な男の問いに悟空が軽く笑って返した。

 中々話の分かる男だ。これだけでも大分好印象である。

 ビルスは正装しろと言っていたが、そもそも地球人の正装など向こうにしてみれば文化が違うのだから私服とどう違うのか分からないだろう。

 それならば普段通りの恰好で赴いた方が余程いい。

 正装というのはあくまで、相手がそれを正装であると認識出来てこそ意味があるのだ。

 例えばベジータが好んで着用する戦闘服も、サイヤ人にとっては正装だが地球人にしてみれば変なコスプレにしか見えない。それと同じ事だ。

 

「なあウイスさん。あの人、大分強えだろ?」

「分かりますか?」

「何となくな」

 

 前を歩く男の背を見ながら、悟空が抑えた声で尋ねる。

 気は測れない。だが今の自分が測る事すら出来ないというのが既に実力差の証明でもあった。

 ウイスはそんな悟空に少しばかり感心し、笑みを浮かべる。

 

「大神官様は全宇宙でも五本の指に入るほどの戦闘力を持つと言われています。

私ですら足元にも及びません」

「そりゃすげえ」

 

 ウイスの話を聞いて悟空が楽しそうに口角を釣り上げる。

 サイヤ人としての習性故だろうか。強い相手と聞くと心が高揚してしまうのだろう。

 とはいえ、今はまだ戦いすら成立しない相手だという事もまた理解出来ない彼ではない。

 特にそれ以上騒ぐ事もなく、悟空はただ大神官の背を凝視し続けた。

 

(全宇宙で五本の指、ですか……)

 

 一方リゼットは今のウイスの言葉から、自分達がいかに狭い世界にいたかを痛感していた。

 まず今の言い方からして、五本の指に恐らくウイス自身は入っていない。

 これは各宇宙に破壊神がいて、それぞれにウイス級の付き人がいると考えれば何ら不思議はなく、単純に考えてもビルスと同格が11人。ウイスと同格もまた11人いると考える事が出来る。

 つまり……まだ四人いるのだ。ウイスよりも上の強者が。

 全く世界は広いものだ。しかし、まだ目指すべき高みがあるというのは喜ぶべき事でもある。

 リゼットはそんな事を考える自分に苦笑し、悟空の事を言えないな、と思った。

 

 

 やがて全王の部屋へと辿り着き、大神官が跪く。

 その前には椅子に座る全王がおり、ここでようやくリゼットは自分が先日に何をやらかしてしまったのかを理解した。

 

「やあ、よく来たね。悟空、リゼット」 

 

 そこにいたのは顔が水色と青に分かれた小柄な人物。

 そう、以前にリゼットが名前のない星で出会ったゼンオー君……否、全王であった。

 素直にやってしまった、と思う。

 頭撫でたり、抱っこしたり、どう考えてもこれは無礼だ。付き人があの時死ぬほど驚いていたのも当然の所業である。

 いや、だってあんな所に全宇宙の頂点がいるとか普通思わないし。外見だけを言えば界王神よりも更に威厳ないし。まさかこれが全宇宙の頂点だなどと、初見で気付けというのは無理だ。

 呼び出された理由は……もしかして先日の無礼を咎める為だろうか?

 いや、それは恐らくない。彼も決してまんざらではなかったはずだ。

 だが宇宙の頂点としての体裁もある。付き人に言われて気が変わった可能性もゼロではない。

 ともかく相手の出方をまずは窺うしかない。とりあえず『消えろ』とか言われない事を願うばかりだ。




界王神「この者達が正装ではない事をどうぞお許しください」
リゼット「………………」

リゼット(あれ? 私まで正装じゃない扱い受けてる!?)

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