ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第百十一話 経験者は語る

 ――どうしてこうなった。

 全王の宮殿の一室でリゼットは座りながら憂鬱気に眉をひそめていた。

 彼女が今現在悩んでいるのは、その腕の中にいる存在についてだ。

 全十二宇宙の頂点、全王。彼は今、あろう事かリゼットの膝の上に乗って楽しそうにはしゃいでいた。

 向かい側には悟空がおり、リゼットが即席で創ったジェンガで遊んでいる。

 悟空とリゼットが呼ばれた理由は意外も意外で、友達になって欲しいというものであった。

 何でも、今まで彼と握手したり抱きしめてくれたりする相手がいなかったという。

 悟空はこれに快く承諾し、リゼットもまた退路はないと悟ってこれを受け入れた。

 恐ろしきは悟空の図太さか。

 彼は破壊神すらも恐れる全王に、いかに本人から呼び方の変更を求められたとはいえ、『全ちゃん』なる渾名を与え、すっかり打ち解けてしまったのだ。

 一つ言っておくと悟空とていきなりそんな名前を呼んだわけではない。

 全王から呼び方の変更を求められ、彼なりに考えたのだ。

 だが思えば悟空は自分で何かに名付けた事がほとんどない。技だって大抵誰かから教わったもので、唯一オリジナルと呼べるのは龍拳くらいだ。

 そんな中、悟空は不意に昔も似たような事があったのを思い出してしまった。

 ――……はっちゃんの時みてえだな。じゃあ今回は全ちゃんか?

 思わずそう言ってしまったのが悟空の失敗であった。

 その呟きを聞いた全王が「それいいね!」と気に入ってしまった事で、めでたく『全ちゃん』になってしまったのだ。

 リゼットも一度全王様と呼び名を直そうとしたのだが、前の方がいいと本人に言われたので以前の通り全王君と呼ぶことにしている。

 これ、大丈夫なんだろうか? 無礼打ちとかそのうちされそうで少し怖い。

 ちなみに同行してきた界王神は宮殿に到着してからずっと土下座している。何というか、神の世界もやっぱり縦社会なんだなあと妙に悲しい気持ちにさせられる光景だ。

 

「僕ね、ずっと友達が欲しかったのね。

今日は初めて友達が出来たのね。それも二人も」

「そっかあ、オラ達が全ちゃんの初めての友達かあ……そりゃあ不思議だなあ。

全ちゃん、こんなに話が分かる奴なのに」

 

 悟空は慎重にジェンガのブロックを抜きながら、うーむと考える。

 そしてそーっとブロックを抜き、一番上へと積んだ。

 

「オラが思うに多分、みんな全ちゃんの良さを分からねえんじゃねえか?」

「そうなの?」

「ああ。全ちゃんはその気になりゃあ何でも消せちまうんだろう?

皆、それが自分に向けられるのが怖えんだよ、きっと。

んで、その能力ばっか怖がって全ちゃんの事を見ねえんだ」

 

 悟空の意外な正論に全王が表情を変えず、しかし少しばかり落ち込んだのをリゼットは感じた。

 リゼットはそんな彼を慰めるように頭を撫でる。

 これに側近の二人はハラハラしっぱなしだ。先程からずっと滝のような汗を流し続けていた。

 足元に溜まっている汗だけで14kgの砂糖水ならぬ塩水が出来そうだ。後で刃牙に飲ませよう。いや、この世界に刃牙いないけど。

 界王神はこの世の終わりのような顔をし、頼むからこれ以上悟空が変な事を言わないようにと祈っている。

 

「だからよ、まずは相手を怖がらせないよう頑張ろうぜ。

すぐに消すんじゃなくてよ。まずは相手の言葉を聞いてやるんだ。

悪い奴は確かに沢山いるし、全員と仲良くしろなんてオラだって言わねえ。

けど、仲良くなれるはずの奴まで消しちまったら勿体ねえだろ?」

「うん、勿体ないね。悟空もそういう事あった?」

「ああ、あったさ。オラの仲間なんかほとんどそんな奴ばっかだぞ。

そうだなあ……例えば『亀』って書いた石を相手より先に探すっちゅう修行があってよ、それでオラは相手に騙されちまったんだ。『その石は本物か? 貸してみろよ』って言われてな。

結局オラはその日は修行に負けた罰で飯を食わせてもらえなかったなあ」

「酷いね、それ」

「だろ? けど、そいつは今じゃオラの一番の友達だ。

もしオラに全ちゃんと同じ力があって消しちまってたら、今頃そいつはオラと友達じゃなかった。

他にも金を奪いに来た奴もいたし、ライバル流派の武道家もいた。

世界征服を企んでた奴もいれば、地球を破壊しに来た奴だっていた。

けど、そいつ等は今じゃ頼もしい仲間だ。

消しちまってたら、今のあいつ等はいなかっただろうな」

 

 それは、多くの敵と戦いながらその敵すらも仲間にしてきた悟空だからこそ言える事で、彼しか言えない事だ。

 孫悟空だからこそ教えられる事がある。

 彼の言葉だからこそ重みがある。

 全王も悟空を見上げながら、彼の言葉を噛みしめるように聞いていた。

 

「……じゃあ、もしかしたら僕が消した奴の中にも、友達になれた人はいた?」

「いたかもしれねえな。けど、消しちまったら、もうそれも分からねえ。

分かるか、全ちゃん……そいつがいい奴だったのか悪い奴だったのかも二度とわからねえ。消すっていうのはそういう事だとオラは思う」

 

 悟空は言い聞かせるように全王の目を見て、真剣な声で話す。

 宇宙を消すという行為……その事を悟空は決してよく思っていない。

 かつて、星を次から次へと壊していたフリーザに怒りを燃やした彼だ。全王の行いを良しと思うはずがない。

 もしもこれがフリーザのような輩であれば、彼は今頃戦いを仕掛けていただろう。

 しかし全王は邪気のない子供だ。だから悟空も怒るのではなく、諭すように話した。

 悪いのは全王だけではない……何でも消してしまえる力と、そして彼を正さなかった周囲の連中こそが最も悪い。

 

「だからまずは、相手を知る事から始めりゃいいんだ。

そうすりゃあ、すぐに友達なんか沢山できっさ。全ちゃんは良い奴なんだから」

「本当?」

「ああ、本当だ。なあ神様?」

 

 そこで私に振りますか。

 そう思いながらもリゼットは微笑み、全王を少しだけ強く抱きしめた。

 こう言ってはあれだが、サイズ的にぬいぐるみみたいで抱き心地がいい。

 

「そうですね。立場や力の差というのはそれだけで互いを阻む壁になってしまう事があります。

ましてや宇宙の頂点ともなれば、そこにいる界王神様のように平伏してしまう方も多いでしょう。

それはある意味仕方のない事かもしれませんが、だからこそ全王君はそれを相手に感じさせないようにするのがいいと思います」

「うーん、難しいなあ」

「大丈夫、ゆっくりやりましょう。悟空君も私もお手伝いしますから。

もう全王君は独りじゃないですよ」

 

 独りじゃない――その言葉に全王の目が揺れたのを、大神官だけが捉えた。

 全王は常に孤独だった。否、周りが孤独にしていた。

 全てを消せる能力。全王という絶対の権威。

 それを誰もが恐れ、消される事に怯えた。不興を買うのが怖くて進言すらしなかった。

 結果として出来たのは、全王の言葉に怯えて服従するばかりの神々のみ。

 だが悟空とリゼットはそこに小石を落とし、全王の心に僅かな波紋を呼んだ。

 面白い人達ですね……そう思い。大神官は不気味に哂う。

 もっとも、その目だけは笑っていないが……。

 

「ありがとう、凄くうれしい」

 

 全王は宙に浮かび、リゼットの胸に飛びつく。

 リゼットはこれを優しく受け止めて抱き上げると、全王は今度は悟空の手を握った。

 どうやら握手が気に入ったらしく、悟空もそれに応じて全王を上へ下へと遊泳させるように握手をした。

 この光景に界王神の胃はストレスでマッハだ。緊張しすぎてそろそろしめやかに失禁しそうである。

 

「なあ神様。全王様のいい友達になれそうな奴いねえかな?

あんま全王様を怖がらねえような奴がいいな」

「んー……」

 

 リゼットは頬に指を当てて考える。

 全王の友達、となるとやはり精神年齢的に近い悟天やトランクスだろうか。

 しかし出来ればもっとこう、全王を全く恐れず、それていて彼に全力でぶつかるような相手の方がいい。

 該当する人物は……。

 

 ……いた。一人だけ、確実に全王だろうと恐れずに全力で遊ぶ娘が。

 

「一人、心当たりがあります。あの子なら確実に全王君とも仲良くなれるでしょう。

……多分、立場とかそういうのを理解しないでしょうし」

「本当? 友達増える?」

「ええ。その子を消したりしないと約束して頂ければ」

「うん、約束するよ。地球もその子も消さない」

「全王様に約束とは無礼な!」

「うるさい。消すよ?」

「――」

 

 リゼットの出した条件に側近の二人が怒りを見せたが、それはすぐに全王によって鎮圧された。

 もしかすると全王は、自分に従ってばかりで何かというと自分から他者を遠ざけるこの側近の事をあまり快く思っていないのかもしれない。

 リゼットはそんな彼の頭を、痛くないように軽く叩いた。

 まさかの暴挙に側近は叫んだ。アバー!

 

「駄目ですよ、消すなんて言ったら。

そんな事をしていては誰も全王君に近付いてくれなくなります」

「駄目だった? リゼット怒ってる?」

「はい、少し怒ってます。そのお二人はいつも全王君を守ってくれているのでしょう?

ならそんな事を言わずに、日ごろの感謝を伝えるべきです。そうする事で少しずつ人の輪は広がっていきます」

 

 リゼットの言葉に全王は少し考え、そして側近へと顔を向けた。

 それから、一度として側近にかけた事のない言葉を口にする。

 

「いつもありがとうね。それと消すなんて言ってごめんね」

 

 まさかの労いに側近は叫んだ。アバー!

 そしてリゼットは微笑み、全王の頭を撫でる。

 

「はい、よく出来ました。偉いですよ」

「もう怒ってない?」

「ええ、怒ってませんよ」

 

 リゼットが怒ってないと言うと、再び全王は嬉しそうに飛びついた。

 こうして接していると宇宙の頂点だなどとはとても信じられない。

 一方界王神は「消すよ?」の部分でガタガタと震えだした。

 もしかしたら自分に言われたのでは? と思っているのかもしれない。

 それにしても彼はいつまで土下座をしているのだろう。

 とか思っていたら何故か床に寝そべりはじめた。

 土下寝ッッ! 敗北のベストオブベストッッ!!!!

 

「ねえ、あれ何してるの?」

「さあ? 放っておいていいんじゃねえか?」

「そうだね」

 

 その後も悟空と全王はジェンガで遊び、何度かやって悟空が負け越した所でその日はお開きとなった。

 全王は残念そうにしていたが、まあ神と人では生活が違う。

 また必ず、今度は新しい友達を連れてくると約束し、二人は地球へと帰って行った。

 ちなみに界王神は自分では立つ事も出来ない程憔悴しきっており、悟空に荷物のように担がれている。

 第7宇宙の最高神とは一体何だったのか。

 

 

「帰ったぞ、ビルス様」

「も、戻って来たか! どうだった?」

「別にそんな特別な用じゃなかったさ。

友達になってくれって言われたから友達になってきただけだ」

「友達!? 全王様とお前達が!?」

「ああ。こう言っちゃなんだが……思ってたよりずっと子供っぽいな。

宇宙を消せるっていうからどんな奴かと思ってたんだが、悪い奴っていうよりは悪い事といい事の区別もついてねえ感じだった。

敵だった時の魔人ブウと似てっかもな……ビルス様達がびびんのも少し分かる気がする」

 

 ビルスの問いに、悟空は淡々と答えた。

 友達になったとあっさり言ったが、悟空は決して全王を軽く見ているわけではない。

 全王は言ってしまえば、癇癪持ちの子供に『いつでも宇宙を消せる権利』を持たせてしまったような存在だ。

 全王にとって宇宙を消すと言うのは気に入らないゲームのセーブデータを捨てるに等しい行為であり、そこに罪悪感などは生じない。

 例えば町を発展させるゲームがあったとして、思い通りにいかなかったセーブデータを子供が消したとしても、その子供は別に悪くはないだろう。

 全王にとって宇宙とはそういうものなのだ。現実感が悟空達とは致命的にズレている。

 宇宙が多すぎるから整理するために消す。

 この宇宙は出来が悪いから消す。

 この宇宙にはむかつく奴が沸いたから消す。

 それは子供がゲームのデータを消すのと同じように。全王にとっては悪い事ではない。

 

「まあ、地球は消さねえって約束してくれたし、根っこはそんな悪くねえと思う。

それより分からねえのは大神官様の方だな……オラには全王様より、あっちの方が不気味に見えるぞ」

 

 悟空は全王を全ちゃんと呼ぶ許可を得たが、だからといってどこかれ構わずにその名前を呼ぶような事はしない。

 全王が他の神々にとってどういう存在で、その呼び方を迂闊にあちこちで言えばどういう感情を抱かれるかくらいは予想出来る。

 父への不評に複雑そうな顔をしながら、ウイスは話題を切り替えた。

 

「それでリゼットさん。一体どなたなのですか? 全王様のお友達というのは」

 

 ウイスの口から発された問いにビルスがリゼットを見た。

 あそこまで言ってしまった以上、今更適当な事を言いましたは通じない。

 最悪、不興を買って宇宙が消されてしまう。

 そんな約束をしていたのかと、ビルスは無言でリゼットを非難していた。

 

「この前、ビルス様がお腹を壊してしまった時の事を覚えていますか?」

「ああ、あれかあ」

 

 ビルスが思い出したように頬を掻いた。

 それはつい先日の事であった。

 Mr.サタン主催で科学者が集まり、一番の発明品を決める世界発明アワードというパーティーが西の都で開催されたのだが、そのパーティーで受賞に選ばれたのは大凡の予想を覆して則巻千兵衛という名の田舎村のドクタースランプであった。

 そう、則巻千兵衛である。アラレちゃんのキャラクターで実は最初期は主人公だったはずが気付いたらアラレちゃんに主役の座を奪われていたあの変な物ばかり造るが天才である事は間違いないあの男である。

 彼の造った発明の『ホンモノマシーンMK-Ⅱ』は実際凄まじいものであり、強い願いを受信してそれを空気中から作り出してしまうという神の領域に手が届くレベルの代物であった。

 リゼットも同じ事が出来るが、発明でこれをやられてしまうと神様の立場というものがない。

 さて、勿論そのまま何事も終わるはずがなく、式の途中に何故かドクターマシリトが乱入した事から事件が発生した。

 彼は確かにアラレちゃんの終盤でオボッチャマン君に吹き飛ばされて死んだはずなのだが、式に呼ばれなかった悔しさで地獄から脱走してきたらしい。

 いくらギャグ漫画のキャラクターだからといえど、とんでもない話である。

 そんな簡単に脱走出来るなら今頃地球にはブロリーやクウラやその他諸々の悪党が大集結してしまっている。

 そんな出鱈目をやらかした彼はアラレちゃんに『遊びたくてしょうがなくなる』薬、アソビタインZを与えて式に乱入し、アラレちゃん&ガっちゃんズを大暴れさせた。

 どうでもいいが、リゼットが下界を覗き見たところ、何故かは知らないがペンギン村の住人は誰一人として年を取っていなかった。本気でどうなっているのだろう、あの村。時間まで無視してあそこだけサザエさんワールドになってしまっているし、悟空などが気を高めて地球全体が揺れている時も、あそこだけは平和なままだ。全ての干渉をシャットアウトしてしまっている。多分魔人ブウが地球を消し飛ばしてもあの村だけは無事なのだろう。

 太陽は喋るし月も喋るし、地球は地球儀だし、ちょっと本当に意味が分からない。

 そんな理不尽の化身たるアラレちゃんが暴れればそれはもう手が付けられるはずもなく、自信満々で挑んだベジータは手も足も出ずにボコボコにされ、超サイヤ人ブルーとなった悟空すらも割と本気で負けそうであった。ギャグ補正侮りがたし。

 そこでブルマは毎度恒例の、最早ただの便利キャラになりつつあるビルス召喚を行うべく『ホンモノマシーンMK-Ⅱ』に世界中の人々の『世界一美味しい物』の念を集結させて変な球を生み出し、その匂いは宇宙を越えてビルスの星にまで届いて昼寝中であったビルスを起床させて地球へと見事呼び出す事に成功した。元気玉ならぬ元気食といったところだろうか。

 その味はビルスをこの上なく満足させてついでにマシリトも破壊してくれたが、しかしその直後にビルスは腹を下して大急ぎで帰ってしまったのだ。

 ビルスがお腹を壊した理由はよくわかっていない。人々の考える様々な美味しい物を無理矢理凝縮させた事で化学反応が起きたのかもしれないし、破壊神の胃でも耐えられない美味さだったのかもしれない。

 もしかしたらその玉を造る前に同じマシーンでウンチを造っていたせいかもしれない。

 どちらにせよ、破壊神でも腹を下す事が分かった貴重な1シーンであった。

 余談だがこの事件にリゼットは一切関与しておらず、終始天界から眺めていただけだ。

 ギャグ漫画のキャラクターがいくら暴れたって深刻な事態に発展するはずがないと最初から分かっていたし、ある意味安心して観戦に徹する事が出来た。

 尚、アラレちゃんが割った地球はリゼットが修復したので別に何もしなかったわけではない。

 

「アレは美味しかったなあ……お腹を壊すのは勘弁だけど、もう一度食べてみたいよ。

だがそれがどうしたんだ?」

「ああ、そうか! 分かったぞ神様! アラレちゃんを全王様の友達にする気だな!?」

 

 ビルスはアラレちゃんに興味を全く抱かなかったので覚えてすらいないようだが、流石に悟空は理解が早い。

 そう、リゼットの言う全王の友達になれそうな娘とはアラレとガッちゃんズの事である。

 彼女達ならば全王相手だろうが遠慮など一切しないだろうし、全力で遊ぶ事だろう。

 むしろ全王相手に物怖じせずに本気で遊べるのなど彼女達くらいしかいない。

 

「そりゃいい考えだ。オラちょっとペンギン村に行って呼んでくるぞ」

 

 悟空は名案だとばかりに賛同し、その場から消えた。

 それにしても不思議なのは、あの村だけ明らかに世界観そのものが異なる点か。

 見ている物の主観云々の話ではなく、本当に世界が違う。

 太陽は話すし月も話す。昼夜は一瞬で入れ替わる。地球には『地球』と書いてあり、それにアラレちゃんがいくらペンギン村で地球割りをしてもこちらの地球にダメージはない。逆も然りだ。

 ……もしかするとペンギン村とは、本当に別の世界線の地球に存在している村であり、あの村だけが何らかの理由でこちらの地球に繋がってしまっているのかもしれない。

 いわばペンギン村とは二つの異なる世界線を繋ぐ、入り口の役割を果たしているのではないか?

 そこまで考えてリゼットは思考を打ち切った。

 馬鹿馬鹿しい。ギャグ漫画相手に何を本気で考察しているのだ、自分は。

 

 ところでふと思ったのだが、あの村の何処かを今日もウロウロしているであろう絶対神の分身ことガスマスクロボを連れて全王と面会させたらどうなってしまうのだろうか?

 少し興味が沸いたが、それをやると宇宙が終わる気がしたのでこの思考もすぐに打ち切った。

 

 

「キーーーーーーーーーン!」

「キーーーーーーーーーン!」

「「クピペポパー!」」

 

 ――後日。

 地球のペンギン村にて仲良く走り回る全王とアラレ、そしてガッちゃんズの姿があった。

 全王は相変わらず子供染みているが、しかしアホしか住んでいないペンギン村の住民は誰一人として全王を恐れず、普通の子供として接してくれる。

 勿論リゼットも定期的に全王の元を訪れては彼に色々と教えたり、遊んであげたりしている。

 全王に必要だったのは何でも言う事を聞き、彼を崇める者達ではない。

 それを続けていては彼はいつまで経っても神の視点でしか物を見れないし、星や命の尊さに気付けない。

 彼に必要なのは、対等の目線で接してくれる者達だ。

 そういう意味では、アホしかいないペンギン村はまさに適任である。

 全王は、変わりつつある。

 その事を側近二人は強く感じていた。

 もしかしたら全王が不用意に宇宙を消したりしない。そんな未来が来るのかもしれない。

 

 そしてその光景を、大神官だけが面白くなさそうに空から見下ろしていた。


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