ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第百十二話 親善野球試合

 その日、リゼットは目を閉じて『ある物』の創造に挑んでいた。

 別に大それた物を創ろうとしているわけではない。

 単なる物質創造の練習であり、そのテストとして先日に見たとある食べ物を再現しようとしているだけだ。

 それは『ホンモノマシーンMK-Ⅱ』が生み出した、人々の美味への想像を結集して生み出されたあの変な球である。

 別に『ホンモノマシーンMK-Ⅱ』に対抗意識を燃やしたわけではない、断じてない。

 人々の念を結集して物質創造とか考えた事もなかったわーと敗北感を感じたわけではなく、これは単なる練習なのである。

 そしてリゼットが思うに、あれは実際に味を混ぜているわけではない。

 味というのは混ぜればいいわけではなく、そんな事をすればむしろとんでもないゲテモノが完成してしまうのは想像に難くない。

 いかに美味かろうと組み合わせが大事なのだ。ラーメンは美味い。ケーキは美味い。だからといってラーメンにケーキを入れるアホはいない。

 上等な料理に蜂蜜をブチ撒けるが如き愚行ッッ!!

 つまりアレは単純な味の合成ではなく、恐らくは人々の『美味』という概念そのものの結集。

 思うに、あの球には数百、あるいは数千の美味の概念が密集され、食べた者が最も美味いと思う味に自動的に変化するのだ。

 だが同時に思う事は、まだまだあれは未完成だったという事。

 あの時テレビを見ていたほんの僅かな人々の味の概念しか集めておらず、更に集めたのは人間の念のみ。

 そう、この地球という星の全てを結集したわけではない。

 ならばもし、全てを結集した『完全版』を創ったならば、それは果たしてどれ程の物となるだろう。

 一度考えるとどうしても頭を過ぎってしまう。試してみたい衝動に駆られる。故にリゼットは試してみる事とした。

 方法は簡単。弱い念話で地球に生きる全ての生命体の無意識へと働きかけ、それぞれが思う一番おいしい食べ物を連想させてその思念を集めるだけ。

 別に洗脳したわけではない。ただちょっと、何故か唐突に美味しい物を世界中の生物が一斉に想像しただけだ。

 後、本物マシーンMKⅡで創り出した物に紛れ込んでいたウン〇要素は当たり前だが排除した。

 ビルスがお腹を壊したのはやはり、あれが原因だったらしい。

 ウ〇チの概念が混ざってしまったせいで食べる=〇ンチ=お腹を壊すという大惨事に繋がってしまったのだ。

 デメリットを排除し、更に全ての生物の念を結集。この地球の旨味を凝縮させて究極の食材を誕生させる!

 一体何やってるんだろう、この神様、とか思ってはいけない。彼女も結構暇なのである。

 まるでリゼットの掌に集うように地球中から念が集い、光が満ちる。

 それは彼女の手の上で一つの球体となり、以前の不完全品とは異なり青く輝き出した。

 それはまるで――地球。掌サイズにまで凝縮した地球そのもののようなそれは、存在しているだけで見る物の食欲を刺激せずにはいられない。

 この日、地球上の全生物は理由も分からずに一斉に口内に唾が満ちて空腹感を感じたという。

 

「うわあ、何か凄いの出来ちゃいました……」

「貴女は何をしているのだ」

 

 気を抜けば自分自身ですら涎を垂らしそうになるが、はしたないので意地で耐える。

 セルも口を横一文字に結び、タピオンは慌てて袖で口を拭っていた。効果は抜群だ。

 ポポや人参化、兎団は隠しもせずにダラダラと涎を垂らして水溜まりを作っている。

 無理もない。いわばこれは美味さという概念そのもの。

 口にすれば必ずや至上の幸福を得られる事間違いなしの、神の逸品なのだ。

 しかしこんなものを食べてしまうと、しばらく他の物が食べられなくなってしまいそうだ。

 食べてみたい気持ちを理性で抑え、リゼットはこれを封印する事にした。

 

 

「野球……ですか?」

「そうだ。第7宇宙と第6宇宙の親善試合だ。

しかし親善試合といえどシャンパに負けるわけにはいかん。

揃えられる限りの最強のメンバーで完膚なきまでに叩きのめすぞ」

 

 そしてまた何日か経過したある日の昼。

 リゼットとセルが修行の合間の休憩として超速で『たたいて・かぶって・ジャンケンポン』に興じている時に唐突に神殿を訪れたビルスから聞かされた内容にリゼットは首をかしげた。

 野球は勿論知っている。

 1チーム9人で行う球技で、攻守に分かれて得点を競い合う極めてポピュラーなスポーツだ。

 昔はよく、ドラゴンボールZの枠を潰して放送された事で当時の子供達の恨みを買った罪深き存在でもある。

 詳しいルールを語ると意外と長くなるのであえて割愛するし、そもそもリゼットはそこまで詳しいわけでもないが、とりあえず基本的なルールくらいは把握している。

 しかしまさかそれを、宇宙の頂点に立つ破壊神同士で行うとはとんでもない話だ。

 破壊神同士で行う草野球……何だか不吉な予感しかしない。

 

「そうですねえ……こちらから最強のメンバーを決めるとすれば悟空君、ベジータ、ピッコロ、セル、ターレス、悟飯君、タピオン、ナッパ……ああ、それからヤムチャは確かプロ野球選手でしたね。

後は4人に分身出来る天津飯や、超能力を使う餃子君も候補に入れていいでしょう。

ブウは……ルールを理解できない気がしますね」

 

 リゼットが指折り数えながら、思い付いた面子の名前を適当に挙げていく。

 普段は戦力外のヤムチャも、今回ならばむしろ主戦力に抜擢してよさそうだ。

 さりげなくリゼット自身を外しているが、生憎リゼットに野郎達に紛れてスポーツに興じる趣味などない。

 こういうのは観戦するのが一番楽しいのだ。

 その面子の充実ぶりにビルスがうむうむと頷く。

 

「ふむ、悪くないな。流石は我が第7宇宙だ、抱える人材で大きく向こうを引き離している」

「全員地球の抱えている戦力ですけどね」

「……やっぱこの星おかしいんじゃないか? 一つの惑星に戦力を偏らせすぎだろ」

 

 満足そうなビルスであったが、ウイスの言葉で現実を直視してしまったのか、渋い顔となった。

 そう、第7宇宙の抱える面子と言えば聞こえはいいが、これは全て地球の戦力である。

 勿論地球も第7宇宙の一員なのでビルスの持つ戦力である事に変わりはないのだが、それにしても一つの惑星に集まりすぎではないだろうか。

 リゼットが就任する以前の地球は、いくら何でもここまでの修羅の星ではなかったというのに、どうしてこうなったのか。

 ビルスとウイスがジト目でリゼットを見るが、彼女は視線を逸らすことで二人の無言の圧力を受け流した。

 違うもん、私何も悪く無いもん。私がいなくても地球は勝手に修羅の国になっていたんですよ。

 あ、でも何人かは私のせいでした。

 

「しかし、ただ野球をして終わりでは味気ないですね。

何かこう、景品みたいなものを用意しませんか?」

「景品かあ……そうだな、その方が悟空達もやる気を出してくれるかもしれん。

何かいいものはないか?」

 

 ウイスとビルスが何か話し合い、そして期待するようにリゼットを見た。

 あ、これ私が景品を出す流れですか、そうですか。自分達では用意しないんですね。

 リゼットは少しばかり思案し、やがて一つ思い当たったのかポン、と手を打った。

 そして亜空間に手を入れ、そこから丁寧に包装された青い球体を取り出す。

 先日、つい創り出してしまった究極食材(笑)である。

 名前は……面倒だ。どこかのインフレグルメ漫画に肖ってGODでいいだろう。神様が創った食材なのだし別に大げさな名ではない。

 何だか食べるだけで捕獲レベルが上がりそうな名前だが、勿論そんな事はない。

 ビルスはそれを見てゴクリと喉を鳴らし、みっともなく涎を溢れさせた。

 

「お、おい、リゼット……それは何だ?

何だか凄く美味しそうな匂いがするぞ。

この前食べた奴と同じような……それでいて、あれよりも更にそそる匂いだ」

「アレをヒントに私が創った物です。地球の生物達の思念を集めてみたら出来ちゃいました」

「よし、それを今すぐ僕に寄越すんだ」

「いや、景品食べてどうするんですか……」

「景品は別の物でいい。それは僕にくれ」

「駄目です」

 

 ビルスが今にも飛びかかりそうなので、リゼットはすぐに亜空間へとGODを戻した。

 とりあえずこの反応の良さならば景品として不足はないだろう。

 ビルスとウイスは揃って、GODが消えた空間を凝視しているが、いかに彼等でも空間の座標を割り出せなければ奪う事など出来まい。

 

「おいウイス、この試合必ず勝つぞ。必ずだ……どんな手段を使ってでも!」

「最悪、時を戻してしまいましょう」

「止めて下さい」

 

 相変わらず食欲に忠実な主従である。

 どうでもいいが、この景品は悟空達にやる気を出させる為の物である事を彼等は覚えているのだろうか?

 つい数十秒前にビルス自身が口にした事なのだが、少なくとも彼自身はもう覚えていないのだろう。

 

「よし、行くぞ。何が何でも勝つ」

 

 ビルスも十分にやる気を出したようで、ウイスを伴って地上へと飛び降りていった。

 

 

 悟空達へ念話で事情を伝え、全員が広場に集まった時には既にシャンパとヴァドス、そして第6宇宙のメンバーは到着していた。

 しかしその人数が明らかにおかしい。

 キャベとボタモ、マゲッタの三人しかいないのだ。

 シャンパ自身が参加するとしても僅かに四人。野球に必要な人数の半分も満たしてはいない。

 まさか人数を揃える事が出来なかったのだろうか?

 いや、そんな馬鹿な。仮にも第6宇宙の頂点であるシャンパならば人数を揃える事くらいわけもないだろう。宇宙は広いのだ。

 確かにあの対抗試合からメンバーを出すとすればこの三人になるのは分かる。

 ヒットは殺し屋だし、無報酬で言う事を聞く性格ではないだろう。

 フロストは論外。となれば確かにこの人選は妥当だ。

 だがそれ以外に誰もいないというのはどういう事だろう。あの三人には劣るかもしれないが数合わせにどこかの星の強者を連れてくる事くらい出来たはずだ。

 

「……フォーフィッテッドゲームでこちらの勝ち、でしょうか?」

「ま、待て待て! ただの草野球だぞ! そんなルールは無しだ、無し!」

 

 野球はプレイするのに人数にして9人必要とする。

 そしてその数を試合前に揃えられなかった場合はフォーフィッテッドゲーム――即ち没収試合となり、相手チームに勝ちが与えられるのだ。

 しかしそのルールを提案したリゼットに、慌ててシャンパが待ったをかけた。

 これは親善試合であり、公式なスポーツの試合ではない。

 多少の不備くらいは大目に見ろ、という事らしい。

 

「ふふん、どうやらそちらの宇宙は随分人材不足のようだな?

数すらも揃えて来ないとは情けない奴め」

「まあまあビルス様。ここは一つ、こちらから選手を貸してあげるとしましょう」

 

 どうやらビルスとウイスもそれでいいらしい。

 この二人がそう言うならばリゼットとしては特に何も言う事はない。

 リゼットはその場から転移し、十数秒後に数合わせの天津飯と人参化、Mr.ポポと餃子、それから魔人ブウを連れて来た。

 これでとりあえず数は揃った。両チームのメンバーは以下の通りとなる。

 

 第7宇宙チーム

 孫悟空。

 ベジータ。

 ターレス。

 セル。

 ピッコロ。

 孫悟飯。

 タピオン。

 ヤムチャ。

 ナッパ。

 

 第6宇宙チーム

 シャンパ。

 キャベ。

 マゲッタ。

 ボタモ。

 人参化。

 天津飯。

 餃子。

 Mr.ポポ。

 魔人ブウ。

 

「……何だ、この、一軍から落ちた奴等を適当に集めたような微妙な面子は」

「文句を言うな。貸してやるだけ有難く思え」

 

 シャンパは何やら不服そうだが、そもそも自分で野球を提案しておいて選手の数すら揃えていない方が悪い。

 彼もそのくらいは自覚しているのか、不満を顔に出しつつもビルスに何も言い返せないでいた。

 しかしそれを流石に哀れに思ったウイスが助け舟を出した。

 

「まあまあ、いいではありませんか。これは親善試合です。

両チームの戦力が均等になるように分けましょう」

「ちっ」

 

 ビルスが舌打ちをするが、特に反論はしない。

 これは別に真剣勝負でもなく、あくまで交流を深める為のものだ。

 ならば勝敗に拘る必要などなく、メンバーを貸すのもまた交流の一環と考える事が出来る。

 もっとも、それはそれとしてビルスにはどうしても勝ちたい理由があるのだが。

 かくしてチーム編成が為され、メンバーは以下の通りとなった。

 

 第7宇宙チーム

 孫悟空。

 天津飯。

 餃子。

 セル。

 ピッコロ。

 孫悟飯。

 タピオン。

 ヤムチャ。

 ナッパ。

 

 第6宇宙チーム

 シャンパ。

 キャベ。

 マゲッタ。

 ボタモ。

 ベジータ。

 ターレス。

 人参化。

 Mr.ポポ。

 魔人ブウ。

 

 悟空と互角の戦力を有するベジータが第6宇宙へと移動し、ついでに同じ顔が二人いて紛らわしいのでターレスも移籍となった。

 代わりに天津飯と餃子の鶴仙コンビが第7宇宙へと移動し、これで戦力はとりあえず均等となった事だろう。

 もっともこれは野球なので身体能力の高さがそのまま勝敗へ直結するわけではない。

 勿論スポーツである以上、身体能力の高さは決して無視出来ない要素には違いないが、それだけが全てを決めるわけではないのだ。

 ヤムチャは一人ほくそ笑み、今回は自分が主役であると確信する。

 悟空達は強いが、野球に関しては素人だ。対し、己はプロだ。つい最近も連続ホームラン記録を更新したばかりである。

 この戦い……もらった。

 ヤムチャは己の活躍を疑いはしなかった。

 

 ――その後、ヤムチャは確かに活躍した。

 繰気弾と狼牙風風拳を組み合わせた曲がる魔球で第6宇宙のバッターを悉く三振に打ち取り、危険人物であるベジータとターレスに回す事なくチェンジを迎えたのは無視できない功績だろう。

 しかしバッターボックスに立った彼を待っていたのは悲劇であった。

 

「消えろ、かっとばされんうちにな!」

 

 投手であるベジータにそう啖呵を切ったまではよかったが、野球のルールを知らないベジータはあろう事か初手でデッドボールを叩き込み、ヤムチャを打ちのめした。

 どんなに速いボールでも打ち返せる自信があった。

 だが自分に飛んでくるボールなど対処出来るわけがない。

 一塁にこそ進んだものの、哀れヤムチャのホームランの夢はここに潰えた。

 余談だが、デッドボールのダメージからしばらく立ち直れずにいたヤムチャへベジータがかけた言葉がこれである。

 

「おい、汚いから片付けておけよ、そのボロクズを」

 

 やはり同じ女をかつては愛し、付き合ってまでいたのに散々浮気したヤムチャに対しベジータも何か思う所があるのかもしれない。

 少なくとも彼は恋愛という面で言えば、愚直なまでにブルマ一筋だ。

 ついでに言うとこの件に関してはリゼットは全面的にベジータの味方である。

 この上物件で浮気する方が悪い。 

 あ、ヤムチャが盗塁しようとしてブウが発射した気弾に撃たれた。

 やはりブウに野球は難しすぎたようだ。

 

「あ、そうだ。ねえ神様知ってる? 最近ランチさんから手紙が来てね。

無事天津飯との間に子供が出来たんですって」

「えっ? あの二人結婚してたんですか?」

「天津飯があんな性格だから式は挙げてないみたいだけどね。ランチさんが押しかけて同居してるうちにいつの間にか、らしいわよ」

「へえ」

 

 野球を見ながらブルマから聞かされる話にリゼットは少しばかりの驚きを感じていた。

 まさか天津飯がいつの間にかランチとくっついて子供まで出来ていたとは思わなかった。

 確か原作ではランチが天津飯を追いかけたものの、結局くっ付く事はなかったはずだが随分違うものだ。

 こちらの世界では無事、既成事実を作る事に成功していたらしい。

 天津飯のあの真面目な性格を考えれば、子供が出来てしまえばランチを無碍に扱う事はあるまい。

 それにしても、確かランチと天津飯が初めて出会ってから26年だったか。彼女も随分一途なものである。

 そして今後、肩身が狭くなるだろう餃子に少しだけ同情した。

 あ、ヤムチャがシャンパ様にボールぶつけられた。

 

「これで私達の中で結婚してないのは餃子とヤムチャ、それと神様だけになったわね」

「私はいいんですよ、もう今年で279歳になりますしね。誰がこんなお婆ちゃんを欲しがるんですか」

「永遠に若いくせによく言うわ……」

 

 リゼットは見た目こそ若いままだが、その実年齢はお婆さんである。BBAである。

 ニコニコ動画とかがこの世界にあれば画面に出る時に『BBAァーン!』とかコメが付いてもおかしくないくらいには長生きしている。

 時の界王神にはリゼットちゃん呼ばわりされているが、あれは仕方ない。何せ向こうは7500万歳の化石なのだから、そりゃ彼女から見れば自分など赤子みたいなものだろう。

 あ、ヤムチャがターレスに蹴られた。

 

「おいヤムチャ。おめえもう休んだ方が……」

「だ、大丈夫だ……問題ない……」

 

 一方グラウンドでは、ヤムチャが普段は見せないガッツを見せていた。

 悟空の心配を笑い飛ばし、フラフラと立ち上がっている。

 彼はああ見えて意外とタフな男なのかもしれない。

 あるいは野球界のスターとしての意地だろうか。

 

「ところで餃子君は全く成長していないようなのですが、彼に結婚という概念はあるのでしょうか?」

「さ、さあ……」

 

 餃子は地球人の中でもかなり特殊なタイプである。

 というか本当に地球人なのかも疑わしい。

 何せ昔から全く成長しないし、今でも子供のままだ。

 彼が結婚をして家庭を築く姿というのは想像し難いものだ。

 あ、地面から突然生えてきたサイバイマンがヤムチャに抱き着いて自爆した。

 この世界ではせっかく回避していたのに、時間差でノルマ達成とは恐れ入った。

 というか誰だ。あんな所にサイバイマン植えた馬鹿は。

 

「あっ、悪い。サイバイマンの種落としてた」

 

 お前かナッパ。

 何をしているのだろう、この馬鹿は。

 そして何だかんだで試合は進み、何だかんだでビルスとシャンパが乱闘を開始していた。

 破壊神同士の戦いは宇宙を崩壊させる。

 そうなってもウイスとヴァドスが直してくれるだろうが、だからといって死ぬのは嫌だ。

 リゼットは二人の近くまで浮遊し、GODを見せびらかした。

 

「はいストップです。それ以上喧嘩をしたらこれ、あげませんよ?」

「ぬっ」

 

 効果は抜群だ。

 ビルスはピタリと喧嘩を止め、シャンパも食い入るようにリゼットの持つGODを見た。

 本当に食欲に忠実な破壊神達である。

 いや、よく見ればヴァドスの視線もこちらに釘付けだ。

 もしかして天使も全員こうなのだろうか?

 

「お、おい、第7宇宙の地球神……それは何だ? 何か滅茶苦茶美味そうな匂いがするぞ」

「ビルス様と同じ反応ありがとうございます。これは今回の試合の勝者に与えられる景品みたいなものですね」

「な、何だと! よ、よし、何が何でも勝つぞ!」

 

 シャンパが大人しくなり、試合へと意識を戻した。

 しかしもう遅い。乱闘に入ってしまった時点でこのゲームは終了だ。

 つまり現時点での点差がそのまま勝敗となり、両チーム0点で引き分けとなる。

 

「いいえ、この試合は没収試合となります。

第7宇宙のサヨナラ勝ちですね」

「え?」

「えっ」

 

 ウイスの台詞にシャンパとリゼットが同時に不思議そうな顔をした。

 そして下へと視線を戻し……彼女達は見た。

 天を指さすような姿勢で倒れ、しかしベースに触れているヤムチャの雄姿を。

 倒れたままヤムチャは呟く。

 

「へ、へへ……プロ選手は伊達じゃない……ぜ」

 

 プロの意地を見せ、見事ヤムチャは勝利をもぎ取って見せた。

 流石に現役プロ野球選手は格が違った。

 その雄姿にビルスが破顔する。何だ、この男もやる時は結構やるではないか。

 そして18号は「あいつもう武道家じゃないね」と呆れていた。

 

「よくやったヤムチャ!」

「そ、そんな!」

 

 ビルスが歓声をあげ、シャンパが項垂れる。

 ご馳走を目の前に出された直後のこれだ。彼は泣いていい。

 ビルスは素早くリゼットの手からGODを奪い取り、勝ち誇った。

 

「ちょっと、ビルス様!」

「何だ? 試合に勝ったんだからこれはもう僕の物だ。そうだろう?」

「あの、それは元々悟空君達の士気を高めるための……」

「あーあーきこえなーい」

 

 ビルスはリゼットに背を向け、口を開く。

 しかしその動きが止まり、チラリとシャンパを見るとそこには涎を垂らして涙目になりながら己を見るシャンパの姿があった。

 

「…………」

 

 ビルスの頬を一滴の汗が伝う。

 それから数秒の硬直――ビルスはやがて、手刀でGODの1/3程を切ってシャンパへと投げ渡した。

 

「ビ、ビルス! お前……」

「まあ……親善試合だからな」

 

 ビルスは不機嫌そうにシャンパから顔を背け、更に少しだけウイスにも切り渡してから今度こそ口にGODを頬張る。

 やはりこの二人は、何だかんだで仲がいいのかもしれない。

 

 

 ――地獄。

 そこは宇宙の様々な場所で死んだ悪人達が、その死んだ場所に応じて送られる裁きの空間だ。

 その中の一つに『地球の地獄』というものがあり、その中には針山地獄や血の池地獄、火炎地獄、飢餓地獄、そしてリゼットが神に就任してから追加された『パレード地獄』などもある。

 その地獄の中、一人の男が当てもなく地獄の上を眺めていた。

 銀色の短髪に赤い身体……ミラという名の、暗黒魔界の戦士は転生の時を待ちながら、責め苦を受けていない時間の全てをこうして費やしている。

 まるでそうしていれば、ここにはいない誰かの姿を見る事が出来るとでも言うように。

 その彼の周囲に倒れているのは、同じく地獄に落とされた悪人共だ。

 ギニュー、ボージャック、プイプイ、ヤコン……いずれも宇宙に名を馳せた強豪達であるが、それと戦っただろうミラには傷の一つすらもない。

 

「違う……こんなものではなかった」

 

 ミラは最強の戦士だ。そうあるべしと望まれてトワに造られた。

 故に彼は生まれたその瞬間よりの強者であり、元いた時代において敗北というものを経験した事がない。

 己は強い、誰よりも強い。それが彼の存在意義であり、全てだった。それ以外に価値などなかった。

 だがその存在価値は今や跡形もない。

 白い女神――リゼットに完膚無きまでに敗れ、そして奴は今も尚高みへと上っている。

 自分など所詮はその道端に落ちている『かつて倒した敵のうちの一人』でしかなく、彼女の栄光の道を彩る添え物でしかない。

 そして、『かつて倒した敵のうちの一人』ですら最強ではない。

 ミラがいる地獄よりも更に下層の地獄ではブロリーやフリーザが身動きも取れない状態で今も拘束されており、つまりミラは彼等よりも脅威ではないと閻魔から判断されているのだ。

 自分が今まで見ていた世界はあまりにも小さく、満足していた最強はあまりに弱いものであった。井の中の蛙、どころではない。

 井の中すらも知らぬ飼育箱の中の蛙だ。

 

「奴は強かった……こんなものでなかった。

あの得体の知れない強さ……限界を攻め、超え続ける力。

そうだ、あいつは戦闘力以上の強さを常に発揮してきた……。

何故だ……俺やこいつ等のような者と、あいつや孫悟空達の間で一体何が違う」

 

 答える者のない問い。しかしミラは薄々その答えを自らで導き出していた。

 魂が違う。意思の力が違うのだ。

 ただ最初から持っていただけの虚しい『最強』に縋りつく己と、守るべき者の為に戦う彼女。同じなわけがない。

 背負っているものの重みが違うのだ。戦いへ向ける気概が違うのだ。

 負けて死んだ今だからこそ気付けた。初めて知る事が出来た。

 

「俺は……このまま転生とやらを受けるのか?

もうあいつと、戦う事すらなく……」

 

 戦いたい。

 もう一度あいつと戦いたい。

 それだけが今のミラの望みであった。

 時空を巡りキリを集めるのも、最強の名も、全てはどうでもいい。

 やっと分かったのだ。得難い好敵手を得るという事こそが、戦士として何にも代えがたい幸福であったのだと。

 生まれて初めて自分の意思で、自分の目標を見付けたのだ。

 だが生者であるリゼットと死者であるミラを隔てる壁はあまりに高く、超える事が出来ない。

 

「機会が欲しいかね?」

 

 そんな彼に、誰かが声をかけた。

 ミラは身体を動かさずに首だけを動かしてその声の主を見る。

 それは老いぼれた地球人だ。

 老いぼれて、しかし暗い執念を瞳に宿した悪しき天才であった。

 

「暗黒魔界の人造人間ミラ……儂はお前が望むならば、お前にこの地獄を抜けるだけの力を与える事が出来るだろう」

 

 

 

 そう言い、老人――ドクター・ゲロは笑った。




ビルス「――――」
ウイス「?」
リゼット「?」
ビルス「――美味い……」
リゼット(泣いた!?)
悟空(泣いた!?)
ビルス「決めたぞウイス……これを僕のフルコースのメインに入れる」
ウイス「作品が違います」

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