ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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今回はただの平和回です。


第百十五話 戦士達の日常

【変わり者の父】

 

 都会で車を見かけないという事はほとんどない。

 車道の近くであれば、大体何処を見ても車の一台くらいは視界に入るものだし、車道ともなれば車が走ってない事のほうが珍しいくらいだ。

 真夜中や早朝でもない限り、大体車は走っている。

 今もまた、青になった信号の前を一台の車が通過して行った。

 その運転席でハンドルを回しているのは悟空だ。

 服装は白のシャツの上からオレンジ色のジャケットというラフなもので、袖の部分だけが黒いのがお洒落だ。

 肩には『59』と書かれているが、この数字が何を意味しているのかは着ている悟空も知らない。

 しかし59という数字は語呂合わせで悟空とも読める為、このデザインはそれなりに気に入っていた。

 下は緑色のジーパンと、普段の胴着姿ばかりの悟空を知る者から見れば新鮮な恰好と言えるだろう。

 リゼットが見れば、『原作でセルゲーム前に着ていた服だ』と思ったかもしれない。

 助手席にはチチ、後部座席には悟飯とビーデル、パン、悟天……それから格闘技世界チャンピオンのMr.サタンが座っていて、更に後ろには多くのベビー用品が積まれていた。

 時間が経つのは早いもので、パンが生まれてからそろそろ一年が経過する。

 なので少し早い誕生日祝いとして、息子夫婦を連れて一家揃っての買い物と洒落込んでいるのだ。

 勿論発案者はチチであり、悟空は荷物持ちとして付き合わされた形になる。

 

「すみません、義父(おとう)さん。買い物に付き合って頂いて」

「気にすんな。オラもパンには元気に育って欲しいからな」

 

 ビーデルの控えめな声に悟空が軽く答える。

 悟空はサタンほど露骨ではないが、彼は彼なりにパンの成長を楽しみにしていた。

 気付けば自分もお爺さんで、孫はそろそろ一歳になる。

 サイヤ人なのでまだまだ若い時期は続くが、心は若いままではいられない。

 勿論若い奴等に負ける気はないが、自分も年を取ったと実感してしまう。

 今は亡き義理の祖父……孫悟飯もこんな気持ちだったのだろうか。

 そう思うと、何だか少し嬉しくなった。

 

「そっちこそいいのか? サタンが全額負担なんてよ。

オラも少しくらいなら金を出せるぞ。

最近どこも不作らしくて、野菜が高く売れるんだ」

「いえいえ、そこはこのMr.サタンにお任せを。パンちゃんに必要な物は全て私が揃えてみせましょう」

 

 悟空の問いにMr.サタンが答える。

 悟飯とビーデルの結婚により親戚となった彼との関係は良好だ。

 最初こそ世界チャンピオンという事で傲慢さが目立っていたが、根は悪い男ではない。

 今ではすっかり打ち解け、悟空とは爺さん仲間として気軽に話せる仲となっている。

 ちなみに悟空に敬語なのは、付き合ううちに孫一家の常識離れした強さに嫌でも気付く羽目になってしまったからだ。

 しかしそんな和気藹々とした空間の中でただ一人、チチだけが不機嫌であった。

 彼女は悟空を横目で睨む。

 いや、正確には……彼の青い髪を睨んでいた。

 

「悟空さ。頼むから買い物の時くらい超サイヤ人はやめてけろ」

「いや、超サイヤ人じゃなくて超サイヤ人ブルー……」

「どっちでもいいだ! 何で最近いつも超サイヤ人なんだべか!

おかげで『またチチさんの旦那さん、髪染めたの?』とか言われるだ!」

「おう、それなんだけどよ。ずっとブルーを続ける事で無駄な気の消耗を抑えられるようになってな。

ブルーは強えんだけど気の消耗が激しい上にすぐ息切れしちまって、強さも十分の一以下にまで落ちちまう。

けど、気を体内に留める事で今までよりずっと……」

「そんな事聞いてねえだ!」

 

 悟空のどこかズレた返答を聞き、チチが叫んだ。

 彼は最近、ずっと青い髪を維持したまま日常生活を送っている。

 家にいる時も風呂に入る時も、食事中も……挙句仕事中までずっとブルーのままだ。

 別にそれで誰かに迷惑をかけているわけではないのだが、夫が変な髪色のままというのはあまり視覚的に嬉しくない。

 その分、修行と称してどこかに行く事は減ったし、畑仕事も今まで以上にやってくれるので収入は増えたのだが……チチはやはり、本来の黒い髪の悟空が好きなのだ。

 なので出来ればブルーは止めて欲しかった。

 

「まあ待ってくれって。もうちょっとで何か完成しそうなんだ」

 

 しかしそこは根っからの武道家、孫悟空だ。

 常識がないわけではないが、しかし強くなりたい欲求がそれを上回る。

 最近ウイスの所に行かないのも、日常生活でブルーを慣らすという修行に専念しているからでしかない。

 それどころか、最近はリゼットから自律気弾の使い方を教わって自分の分身に畑仕事をさせ始めた。

 どう見ても後にサボる布石である。仕事を分身に任せて自分は修行に行く気だ。

 しかもこれで畑の規模が拡大して収入が数倍に膨れたので文句も言えない。

 パオズ山の豊かな自然で育まれた悟空の野菜は評判もよく、通常の野菜より高く買い取られている。

 最近では高級レストランなどでも使われているらしい。

 

「……ったく。店に入る時はやめてけろ」

「ああ、分かってるって」

 

 結局チチが折れ、悟空は視界の端に赤信号を捉えてブレーキを踏んだ。

 そんな二人の会話をビーデルとサタンは興味深そうに聞いている。

 なんというか、常人離れした凄い会話であった。

 

「……ん?」

 

 不意に、今まで緩んでいた悟空の顔が引き締まった。

 それは、信号を無視して追い抜きをかけた一台のトラックを見付けたからだ。

 トラックは交差点から入って来た別の車が見えておらず、車の方もブレーキが間に合わない。

 当然のように二台がぶつかり、更にそれに巻き込まれて数台の車が横転してしまった。大惨事である。

 それを見るや、悟空は車を完全に停車させて瞬間移動をする。

 次の瞬間には悟空がトラックの前に現れており、素手で暴走トラックを止めていた。

 悟飯や悟天でも同じ事が出来ただろうが、しかし二人は両端をビーデルとサタンで固められていたので咄嗟に動けなかったようだ。

 

「悟飯君、貴方のお父さん、相変わらず凄いわね……色んな意味で」

 

 咄嗟に大事故の拡大を止めた悟空を見ながらビーデルが言う。

 そんな彼女に悟飯が笑い、「まあね」と返した。

 

「父さんは色々常識外れだからね。でも……」

 

 顔をあげ、悟空を見る。

 彼は横転した車を次々と戻しては中の被害者達を引っ張り出しており、感謝されていた。

 そんな父を見る悟飯の顔はどこか誇らしげだ。

 

「僕の、自慢の父さんだよ」

「……そうね。素敵なお父さんだと思うわ」

 

 少しズレていて、どこまでも武道家気質で、時折ドジで。

 しかしそれでも、悟飯にとって孫悟空はヒーローだ。

 ピッコロと同じくらい尊敬している、幼い頃から変わらない憧れである。

 

「じゃあ、義父(おとう)さんに負けない恰好いいパパにならないとね」

「ああ、そうだね。悟天。僕たちも行こう。父さんを手伝わないと」

「うん!」

 

 だが憧れてばかりではない。

 悟空に負けない恰好いい父親である事を娘と妻に見せたい。

 故に悟飯もまた、悟空に遅れて車を降り、被害者の救助に向かった。

 

 

 

【修行してばかりではないです】

 

 先日に復活してリゼットと戦って以降、神殿の一員となったミラは目標であるリゼットを超える為に彼女の修行を観察していた。

 敵を知れば己の弱さも見えて来る。

 ここ数日彼女を観察して分かったのは、そもそもの武の練度が自分とは段違いだという事だ。

 なるほど、勝てないわけだと思う。

 単純な戦闘力で負けている上に技術で負けているのでは勝てる要素がどこにもない。

 かつてミラはリゼットに『こんなものか』と言ったことがあるが、今となってはよくぞあんな事を言えたものだと自分で自分に呆れてしまう。

 あんなのはパワーの差に物を言わせていただけ……戦う者としては、最初から彼女の方が格上だったのだ。

 そう思ってからミラは、まず目標に追いつく為にリゼットの修行を模倣する事にした。

 真似だけで超える事が出来るなどと最初から思っていないが、真似する事で見えるものもあるはずだ。

 実際リゼットの動きは参考になる。

 いくつかは女性ならではのしなやかさや、彼女の小柄さだからこそ出来るような動きもあるが、完成された武というのはこの上ない教科書だ。

 そしてこの日、リゼットは何故か魔人ブウの腹を触っていた。

 柔らかそうな腹をタプタプしたり、触覚を撫でてみたり、ブウのお腹に頬をうずめてみたり……。

 はて、あれは何をしているのだろうか。

 やがてリゼットは満足そうに去り、ミラは不思議そうにしながらブウへと近づいた。

 

(……ブウで技を試していた? いや、それにしては攻撃の意思が見えなかった)

 

 とりあえずリゼットがやっていたようにブウの腹を触ってみたり叩いてみたり、触覚を引っ張ったりしてみる。

 だがこれで何が強くなれるのかがまるで分からない。

 こんな事は初めてだ。今までのリゼットの修行には必ず強くなれる為のヒントがあったのに、これからは一切の意義を見出せないのだ。

 

(分からない……これに意味はあるのか……?)

「おい、何だお前。俺に何か用か?」

「あ、いや……すまん。特に用はないんだ」

「そうか」

 

 ミラは魔人ブウから離れ、腕を組みながら歩いた。

 あれは何だったのだろう……。

 もっとも、魔人ブウから見ればミラこそ「あいつ何だったんだろう」だが。

 

 それからしばらくして、リゼットはコートを羽織ると下界へと降りた。

 そこで彼女が立ち寄ったのは一つの店だ。

 もしやあそこに強くなれるヒントが? ミラもすぐに同じ店へと突入した。

 そこで彼を待っていたのは猫、猫、猫の山だ。

 リゼットは猫と戯れてご満悦だが、ミラは険しい顔をしているだけだった。

 そんな彼の頭や肩に次々と猫がよじ登るが、ミラはそんな事にも気付かず悩んでいる。

 

(分からない……これに一体何の意味が……)

 

 

 後日、セルに相談してみたところ「お前真面目すぎないか?」と呆れられてしまった。

 曰く、リゼットのあれらの行動に意味などない。

 別に彼女も修行だけして生きているわけではないのだ……という事らしい。

 考えてみればミラは次期魔界王になる為に生み出され、トワに従って戦い三昧の日々を送っていた。

 いわば戦いの為に生み出された存在で、それ以外の事に思考が及ばない。

 戦士として純化した事で生真面目さに磨きがかかってしまい、それが空回りを生んだのだ。

 

 どうやら、彼が地球に馴染むにはまだまだ時間が必要らしい。

 

 

 

【後継者】

 

「そういえばセル。未来の方のトランクスの世界では貴方は無事に生き残りのナメック星人を見付けたそうですけど、こちらではまだ見付からないのですか?」

 

 修行の合間の休憩時間。

 魔人ブウに付き合わされる形でゲームをやりながらリゼットは、ふと思い出したようにセルへ質問を飛ばした。

 セルがこの時間に留まっているのは、生き残りのナメック星人を探す為だ。

 そしてこの前、未来トランクスが来て未来が無事に平和を取り戻した事を報告してくれたのだが、そこにはあちらの世界のセルの活躍があったという。

 向こうのセルは見事にやり遂げ、未来を救った。

 しかしあちらよりも遥かに情報が集まりやすい現代に留まっているセルが、未だに成果を上げていない事をリゼットは不思議に思ったのだ。

 

「ふむ……なかなか見付け難い場所にいるようだ。それらしい情報はない。まあ、気長にやるさ」

 

 セルはさして気にしていないのか、落ち着いた声で言う。

 別の時間の自分に先を越された事に対して、特に焦りなどは感じていないらしい。

 一方画面の中ではリゼットの操作するウダン皇帝というキャラクターが勢い余ってリングの外に落ちてしまった。

 悔しがるリゼットと笑う魔人ブウ。

 そんな二人に背を向け、セルは神殿の端まで歩き始めた。

 そして気を探り……とうに発見していたナメック星人の生き残りの気が今日も無事に残っている事を確認する。

 結論を言えば、セルはとうの昔に生き残りのナメック星人を発見していた。

 しかしセルはまだ未来へ帰る気はなかった。

 その前に一つ、どうしても残しておかなければならないものがあるからだ。

 だからセルはそれの完成具合を確認するべく飛び、カプセルコーポレーションへと向かった。

 

 カプセルコーポレーションを訪れたセルは、そのまま真っすぐに地下へと案内された。

 そこで彼が見たのは、培養液の中に眠る――一人の人造人間であった。

 銀色の長髪に、桜色の肌……整った顔立ち。

 それは、似ても似つかないがこの時代のセルだ。

 正確にはこの時代のセルと、破棄されていたとある人造人間を融合させたハイブリット体である。

 完成までに長い時間を要するセルは、この時代ではまだ完成していない。

 しかし時期的に完成は間違いなく近づいて来ている。

 

「後、どれぐらいで完成する?」

「一年ってところかしらね」

 

 培養液の中で眠るセルは、最初から完全体と呼んでいい。

 ほかでもないセル自身の細胞を与える事で、最初から完成度の高いセルを造り出す事が可能となった。

 勿論自分同様に余計な悪人の細胞は排除し、代わりに他の細胞……自分にはなかった、強力な戦士達の細胞をこの現代セルには与えていた。

 例えばそれはあの第6宇宙の試合で出会ったボタモやキャベ……そしてヒットの細胞だ。

 他には界王神やキビト、魔人ブウといった未来ではリゼットが出会わなかったが故に得られなかった細胞も採取済みだ。

 勿論従来の戦士も当時とは比較にならない。

 悟空とリゼットは神の域に達し、ピッコロはより強力になり、最近ではミラという戦士まで加わった。

 それらの細胞をベースに作り出された現代セルは、間違いなくここにいる自分を遥かに超えるポテンシャルを秘めている。

 ビルス、ウイスの細胞は残念ながら使っていない。

 ブルマ曰く、それらの細胞を入れると強力すぎて暴走する可能性が出るからだ。

 

「……やっぱり、完成したら帰っちゃうの?」

「ああ。潮時というやつだ」

 

 セルがまだ現代に留まっているのは、己の後継者を造り出す為であった。

 この時代には何だかんだで思い入れがあるし、自分が去った後にまた恐ろしい敵が出現しないとも限らない。

 だから自分の後を託し、この世界を守れるもう一人の自分を残したかった。

 それに……正直なところ、戦力的な限界が見えてきたのだ。

 セルはサイヤ人の細胞を持つが、純粋なサイヤ人でない為にゴッドや4にはなれない。

 フリーザの細胞を得たが、ゴールデンフリーザと同じ形態になっても実の所そのパワーアップ倍率は超サイヤ人3よりはマシという程度だ。

 ゴールデンフリーザがブルーの悟空と互角だったのは、単純な種族差……基礎能力でフリーザが上回っていたからでしかない。

 リゼット達はまだまだ強くなる。

 だが自分は……恐らく、近いうちに置いていかれる。

 強さという名の特急列車から途中下車するべき時が来たのだ。

 

 だがこの新生セルは違う。

 これは、この時代の強者達をベースに生み出された完璧を超えた究極のセルだ。

 自分に代わり、これからの地球を守っていけるだろう。

 ならば自分のこの時代での最後の役目は、この新生セルの誕生を見届けて後を託す事だ。

 それが済めば、その時こそ安心して未来へ帰る事が出来る。

 そして彼女を、ようやく目覚めさせる事が出来るのだ。

 

「そういう事だ、『私』よ。お前の完成を楽しみにしている。

ではまた、一年後に会おう」

 

 この時代に留まれる時間はそれほど多くない。

 その事に達成感と僅かな寂しさを感じながら、セルは別れの時が近付いているのを感じていた。




【戦闘力】
孫悟空:10億
超サイヤ人ブルー:2兆
完成ブルー:6兆
※悟空が超サイヤ人ブルーを完成させました。

【超サイヤ人ブルー(完成)】
漫画版で披露された超サイヤ人ブルーの完成バージョン。
無駄に放出されていた神の気を体内に閉じ込める事でパワーアップし、安定した。
漫画版よりも更に安定性を求めた結果、弱点をほぼ完全に克服した代わりに出力は漫画版の完成ブルー以下に。
気を体内に閉じ込める性質上、界王拳との併用は困難。なので通常のブルー+界王拳の出番が消えたわけではない。
安定して戦うなら完成ブルー、一瞬の爆発力ならブルー+界王拳という使い分けが可能。

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