ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第百十九話 全王の戯れ

 それは邪悪龍との戦いが終わってから数週間が過ぎた頃の事であった。

 以前から続けていた修行の成果により、遂に潜在能力との完全な同化を果たしたリゼットは常にアルティメット化発動時と同じだけの力を発現出来るようにまで至っていた。

 これに伴いアルティメット化という変身を失い――否、変身する必要がなくなり、今まで以上に戦力が安定した。

 更にゼノバースも研磨を重ね、バーストリミット・マイナスの倍率を1/2倍まで引き上げる事が可能となった。

 短時間ならば3/4倍も不可能ではないだろう。

 そんなリゼットはその日、全王からの呼び出しを受けて宮殿にまで足を運んでいた。

 悟空と同様に『全王様スイッチ』なるものを受け取ってしまったリゼットはいつでも全王を呼び出せるし、宮殿へ行くことも出来る。

 そこまでは別にいい。勿論全王の相手はリゼットに心労をかけてはいたし、対応を間違えてはならないという精神的重圧もある。

 しかし全王はとりあえずリゼットとの会話で不機嫌になった事は一度もないし、ゲームなどで負けてもニコニコと楽しそうに笑ったままだ。

 しかし問題は、その日呼び出された用件であった。

 

 その日は、いつもと様子が違っていた。

 まず、呼び出されたのがリゼットと悟空だけではない。

 ビルスや界王神も呼ばれ、更にいつもならば全王宮に通されるが今回はそことは違う開けた空間に案内された。

 宙に浮かぶ僅かな足場の上にリゼット達は待機させられているが、それも一つではない。

 周囲を見れば同じような足場が十二個あり、それぞれの上にはビルスと同じような服の者達と、界王神達が立っていた。

 恐らくは他の宇宙の破壊神と界王神だろう。つまりは宇宙でも最高位に立つ神々が一堂に会しているわけで、この場所は彼等の集会場というわけか。

 流石に少しばかり場違い感を感じてしまう。一方悟空はいつも通りの自然体であり、こういう点は流石だと思わされた。

 とはいえ、気を抜いているわけではない。自然体ではあるがその表情は引き締まっており、注意深く他の神々を観察している。

 

「……全員、ビルス様と同じ破壊神っつう奴か。本当に十二人いるんだな」

「それに天使と界王神様もいますね」

 

 悟空が落ち着いた声で話すが、若干の驚きもあるようだ。

 話に聞いて知ってはいたが、それでもビルスとウイスクラスの強者がこんなに集まっているのを見ると宇宙は広いと思わされる。

 

「どうだ孫悟空? ワクワクするか?」

「いやあ、どうかな……ワクワクすっけど、それと同じくらいおっかねえかもな」

 

 バトルジャンキーの悟空をからかうようにビルスが声をかけるが、悟空はそれに本気半分冗談半分といった声色で答えた。

 悟空といえど恐れ知らずのバトル脳ではない。

 彼の珍しい一面が見れてビルスは少し愉快そうだ。

 しかしそこは戦闘種族サイヤ人だ。おっかないという言葉に嘘はないのだろうが、それでも悟空の口元には好戦的な笑みが浮かんでいた。

 

「ほう……ビルス、お前も見る目が磨かれてきたようだな」

 

 別の宇宙の破壊神から声がかけられた。

 そちらを振り向けば、そこにいたのは黒い帽子を被った破壊神だ。

 ビルスを始め、他の破壊神が基本的にはキツネやネズミ、象、魚人などの動物型で占められているのに対し、その破壊神は人間型の女性であった。

 顔立ちはややきつめで化粧が厚いが、十分に美女と呼べる顔立ちだ。

 そんな彼女の視線は何故かリゼットへ固定されている。

 

「うむ、良いな。第7宇宙には勿体ない美しさよ。

どうだ、そこの娘。我が第2宇宙へ来ぬか?」

「おいヘレス、うちの宇宙の奴を引き抜こうとするな」

「我が宇宙は愛と美の宇宙。美しきものは我が宇宙に集う事こそ真理よ」

 

 破壊神も割と性格は様々らしい。

 とはいえ、ビルスに比べると何となく人間の感性に近そうなイメージを受ける。

 少しだけ、破壊神を取り換えてほしいと思ったのは内緒だ。

 このアホ猫様は食べる事と寝る事しか考えてないので困る。

 

「全王様のご入場です!」

 

 大神官の声が響いた。

 それと同時に神々が一斉に膝を折り、リゼットも合わせて同じ事をする。

 それから一秒遅れて悟空が咄嗟に真似をした。

 皆が見守る中、椅子に座った全王が宙から降りてくる。

 そして場を見渡し……悟空とリゼットを見付けて顔を綻ばせた。

 

「リゼットー」

 

 そしてフヨフヨと飛んできた。

 これには神々も驚きに目を剥き、ビルスは顎が外れんばかりに口を開ける。

 そんな神々の見ている前で全王がリゼットの胸に飛び込み、反射的に抱きかかえた。

 この光景に神々は一斉に叫んだ。アバー!

 

「よく来てくれたのね、リゼット。悟空!」

「……ええ。そちらも元気そうで何よりです」

 

 他の神の見ている前では止めて欲しかったのだが、今更言っても仕方あるまい。

 全王の頭を撫で、あやしていると悟空が全王の耳元に顔を寄せて小声で話す。

 

「おい全ちゃん、いいのか? みんな見てんぞ」

「いいのね」

「んー、そっかあ?」

 

 全王は周囲の視線など知らぬとばかりに悟空の前に浮く。

 こうなれば仕方ない、と悟空は腹を括ったのだろう。

 おもむろに全王を抱え、そして持ち上げた。

 その光景に神々は叫んだ。アババー!

 

「で、全ちゃん。今日はどうしたんだ?」

「ゼンチャン!?」

 

 悟空の口から出た呼び名にビルスが目を剥いて卒倒した。

 何たるマッポーめいた呼び名か!

 全王はそんなビルスに目もくれずに悟空の肩に乗り、楽しそうに言う。

 

「あのねあのね、今度力の大会を開く事にしたのね」

「力の大会、ですか?」

「うん、そう! 宇宙全部で大会をするのね! きっと楽しいのね!」

 

 遂に来たか、という気持ちはあった。

 以前第7宇宙と第6宇宙が試合をした後、リゼットは気絶してしまっていたがその際に全王が訪れていつか全宇宙で同じような大会をやろうと言っていた事はセルから聞かされたので知っている。

 それ以降一年以上に渡って何の話もなかったので、その話はすっかり流れてしまったのかと密かに期待していたのだが……残念ながら、単に全王が忘れていただけらしい。

 どうせならばずっと忘れたままでいて欲しかったのだが、思い出してしまった以上は仕方がない。

 問題は、どれだけ吹っ飛んだルールにされてしまうかだ。

 何せ全王はその気になれば宇宙を消してしまえる。そんな彼が主催する以上ただの平和な武闘会で終わるはずもあるまい。

 ならば考え得る最悪の事態は一つ。

 

「それで、勝った宇宙には……いえ……負けた宇宙は、どうなるんですか?」

「ほう……もう察しましたか。流石に聡いですね」

 

 最初に明かされた情報だけで、ただの大会で終わるわけもないと察したリゼットへ大神官が珍しく僅かな驚きと、それ以上の感心を見せた。

 普通は1の情報だけでここまで読み取る事は出来ない。

 大体の者は……それこそ神々であろうとも、まずは宇宙規模の大会という事実だけに目を向けて負けた際のデメリットなど考えないだろう。

 いや、考えたとしても精々がペナルティ程度の発想で止まるはずだ。

 それは考えたくないから……最悪の想像から無意識に目を逸らしてしまう。

 しかしリゼットはもう読んでいる。恐らくはこれから己が口にするだろう事までも。

 流石は、優勝候補(・・・・)といったところか。

 

「貴女が考えている通りです。敗れた宇宙は全王様が消してしまわれます」

「やはり、そうですか……」

 

 外れていて欲しかった。今ほどリゼットがそう思った事はない。

 敗北、イコール、消滅。これほど残酷なルールがあるだろうか。

 負ければ自分達が消える……無論それは大変な事だ。絶対に負けるわけにはいかない。

 だがこのルールは勝利した際に相手の宇宙を、そこに住む全ての命を殺す事をも意味している。

 11の宇宙を殺して自分達だけが生き延びるか、それとも自分達も消える側になって死ぬか。その二択しかないのだ。

 

「以前から全王様は宇宙が多すぎると申しておりました。

そこで人間レベルの低い宇宙……レベル7に満たない宇宙を大会に出場させ、勝利した宇宙を特別に免除してあげる事にしたのです」

「人間レベル?」

「はい。貴方の言葉に近付けるならば……民度。魂のレベル。悪人の少ない宇宙という事ですね。

勿論それ以外にも様々な要素がありますが、概ねそういったものと考えて頂ければよろしいかと」

 

 人間レベルという初めて聞くランク、その基準を聞いた時点でリゼットは第7宇宙の免除はないなと判断し、自分達が出場するか否かの問いをしまい込んだ。

 確認するまでもない――低い。確実に、それも致命的なまでに。

 地球だけでもレッドリボン軍にグルメス国、魔族に魔神城の魔物達。ドクターウイロー。

 それらはリゼットが悉く排除し、セルによって不本意ながら起こしてしまった暴走で地球人の悪の心もほとんどを消してしまったが、宇宙へ目を向ければこんなものではない。

 サイヤ人にフリーザ親子。その配下の宇宙人などどれだけいるかも分からない。

 ヘラー一族に魔人ブウ、それに暗黒魔界などという悪人しかいない世界まで第7宇宙には存在している。

 魔導師ホイのような者もまだどこかにいるかもしれないし、ヒルデガーンなど悪の心の集合体だ。

 究極のドラゴンボール――超ドラゴンボールがあるのに究極の名を冠しているのも微妙なので以降はダークドラゴンボールと呼称する。

 ダークドラゴンボールが存在している事から見て、マシンミュータントやベビーなども宇宙の何処かにいると考えていいだろう。

 サイヤ人という種族一つ取っても第6宇宙との差は歴然だ。

 同じ戦闘種族でも、向こうのサイヤ人は正義の味方なのに対し、こちらでは頭の悪い野蛮な侵略者の集まりでしかなかった。フリーザと手を組む前ですら他の星々を滅ぼして回っていたという。

 これで人間レベルが高くなるはずがない。

 

「しかし全王様は慈悲深いお方です。第7宇宙……それも地球に限り特例を出して下さいました」

「……特例、ですか?」

「はい。第7宇宙の人間レベルは元々は3.18と大変低い数字だったのですが、それがここ数年で5.96とかなり高いレベルにまで急上昇を果たしております。

その時期はリゼットさん、貴女が神に就任した時期と一致しており、原因を調べてみた所人間レベルの低い者達を貴女が排除、あるいは浄化していたおかげだという事が判明しました。

暗黒魔界さえなければ7を超えていたかもしれませんね。

地球単体で見れば人間レベルは8.8。これは12宇宙全体で見てもトップクラスのレベルの高さです。素晴らしい成果であると言えるでしょう」

 

 リゼットにとって、かつての暴走は恥ずべきものである。

 仮にも神たる者が我を失い、正義を押し付けて人々の心から無理矢理に悪の芽を消し飛ばしてほとんど別人にしてしまった。……決して褒められた事ではない。

 だが神々の視点から見ればリゼットの行いは正しい事だったと大神官は言う。

 実際、リゼットが暴走して以降は地球での犯罪率は劇的に落ちた。

 以前は町中での強盗事件などが日常茶飯事だったのが、今では犯罪に遭うどころか犯罪を目撃する確率すら圧倒的に低くなっている。

 それでも犯罪が起こる事は起こるが、その数少ない犯罪ですら生活に困っての窃盗などが大半だ。

 そして地球以外に関してもリゼットはフリーザ配下の者達を倒したり、浄化したりを過去に何度か行っている。

 ボージャック一味などの巨悪と呼べる者達も倒してきた。

 むしろ、ここまでやってまだ7に達しない第7宇宙は少し世紀末過ぎる気がしないでもない。

 

「ここまで出来る者を消してしまうのは余りに惜しい。

実際これは大したものですよ。一人の力で、この短期間でここまで人間レベルを上げる事の出来た神というのは過去にいません。ましてや一惑星の神である事を考えればまさに偉業。

全王様はそう考え、特別に貴女と、貴女が守護する地球だけは負けても消さない事を宣言して下さいました。よかったですね」

 

 ……何がいいものか。

 そう言いたいのを堪え、リゼットは口を噤んだ。

 反論をしたい気持ちはあるが、しかしここで噛み付いても事態はよくならないだろう。

 むしろ折角地球だけは助けてくれるという条件を撤回されてしまう可能性すらある。

 全王だけならばいい。ゆっくりと言い聞かせて根気よく説得すればきっと耳を傾けてくれると思う。

 問題は大神官だ。この男が何を考えているのか、本当に分からない。

 

「お、お待ち下され大神官様! わしらは……神はどうなるのですか!?」

 

 そこに思わずといった様子で声を挟んだのは老界王神だ。

 高齢故に死を恐れない彼だが、流石に全王による消滅は恐れる。

 そして彼の疑問はこの場にいる全員の疑問だろう。

 神々が固唾を飲む中、大神官はさも当然のように話す。

 

「勿論、天使以外は全て消えます。例外は第7宇宙の地球のみ……勿論、地球にいるからといって破壊神や界王神は対象外になりません。

負けても消えないのは地球の神が守護する住民と星のみです」

 

 他の神々の視線が一斉に自分に向くのをリゼットは感じていた。

 それはそうだ。神すら消されるこのルールの中でリゼットだけは負けても許されるのだから、怒りを買うのは当たり前の事である。

 なのでリゼットは無言で彼らの怒りを受けておく事にした。

 

「大会の詳しいルールや、会場が出来上がり次第連絡を送ります。

よき大会になる事を期待していますよ」

「頑張ってね、リゼットー」

「……ええ。勿論、全力でやらせて頂きます」

 

 全王に一礼をし、大神官と目を合わせずに神殿を後にした。

 本当に厄介な事になってしまった……とにかく、まずはビルスや界王神を交えて話し合う必要があるだろう。

 

 その後しばらくして、力の大会の正式ルールが発表された。

 試合開始は50時間後。

 この大会には第2、第3、第4、第6、第7、第9、第10、第11の人間レベルが規定に達しなかった8宇宙が強制参加となり、勝利した宇宙以外は消滅となる。

 試合は無の界という空間に作り出した武舞台の上で行い、参加宇宙の戦士達が同時に戦うバトルロイヤル形式を採用。試合時間は48分間とする。

 勝利条件は相手を舞台の外へ叩き落す事であり、舞空術の使用は封じられる。

 また、術以外の武器の使用は禁じられ、相手を殺してしまうと反則負けとなる。

 そして優勝した宇宙には褒美として超ドラゴンボールを使う事が認められる。

 これが大神官から伝えられた大会の全容であった。




【常時アルティメット化】
これからはアルティメット化の戦闘力が基本値として扱われます。
ただし一応変身している扱いなのでアルティメット化の状態から更にゼノバースで2000倍とかはなりません。

【人間レベル】
実はよく分からない。
結局これがどういったものなのか説明されなかったので視聴者で想像するしかないが、ビルスがサボりまくって悪人がのさばっている第7宇宙が下から二番目で、『肥溜めのような宇宙』と住人にすら言われる第9宇宙が最下位な所を見ると、やはり民度的や治安的なものではないかと思われる。
後は文明の発達とかも入っているかもしれない。

【今の全王】
原作の全王よりは大分マシになっているが、まだまだ下の世界の事をよく分かっていないお子様。
リゼットや悟空、アラレとの触れ合いで何でもかんでも消すのは止めるようになったものの、自らの関心がないものは相変わらず消しても何とも思わない。
むしろ第7宇宙を消せば地球を全王宮の近くに移動させて、いつでも遊びに行けるとか思っている。
彼から見てリゼット達以外は相変わらず、ゲーム画面のNPC程度にしか見えていない。
残念ながら今の所は『お気に入りだろうが消す』が、『お気に入りは消さない』に変わった程度。
善王になるにはまだまだ経験と時間が足りない。
一応これでも改善の方向には向かっている。

【へレス】
第2宇宙の破壊神。ややナルシストな神様だが、ビルスに比べるとかなり人間に友好的。
アニメ版と漫画版でリブリアン達の美醜感覚はかなり異なり、アニメ版だと『美しきヘレス様』と言われているが、漫画版だとリブリアン達にブスと思われている可能性が高い。
少し可哀想な神様。

【リブリアン達の美醜感覚】
・アニメ版
18号の容姿をそれなりに認めている節があったり、ヘレスを『美しきヘレス様』と呼ぶなど、地球人に近い感覚を持つ。
クリリンの事は『美しくない。鼻がない』と言い、否定的。
一方でおっさん達を美しいと言ったり、デブリアンが美しい女神扱いだったり、ジーミズがタキシード仮面のようなポジションだったりと、おかしい部分もある。
地球人と完全に感覚が違うというより、地球人よりも美しく見える物が多いというイメージ。
感覚が違うのではなく、美に対する器が広いのだろうか。
このSSではこちらを採用。

・漫画版
こちらは明確に地球人と異なる。ハゲに優しい宇宙。
18号をブスと呼び、クリリンを『非の打ち所がないイケメン』と称した。
髪と鼻がないシンプルな顔が超イケメンらしい。
つまりこの宇宙ではヴォルデモートは超イケメンである。
これはこれで面白いが、これだと自分の宇宙の神であるヘレスどころか、変身前の自分すらブスと思っている可哀想な子になってしまう。
というかこれだとカクンサとロージィまでブスになるのではないだろうか。
なのでこのSSでは漫画版の第2宇宙の設定は切り捨て、一切考慮しないものとする。

【ヴォルデモート】
ハリー・ポッターシリーズのラスボス。
お辞儀をこよなく愛する。
お辞儀をするのだ! ポッタァァァァァァ!!

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