ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第百二十一話 選手決定

「おっ、いたいた。ベジータ」

 

 リゼット達が力の大会に出る十人を決定してから数分後。

 悟空はビルスやウイスと共にカプセルコーポレーションを訪れていた。

 リゼットの念話により主要メンバー……つまりピッコロやターレスには話が行っており、彼等は既に神殿に到着している。

 しかしそんな中で何故かベジータだけが来ないので悟空が呼びに来たのだ。

 何かあったのかと思えば何もなく、ベジータは庭で腕組みをして棒立ちしている。

 普段ならば真っ先に来そうなものだが……そこまで考えた悟空だが、ブルマの膨らんだ腹を見て事情を察した。

 

「何だ、カカロットか」

「ああ、力の大会の事はもう聞いてるよな。それでおめえだけ来ねえから呼びに来たんだけどよ……」

「その事ならば悪いが俺は参加出来ん。ブルマの腹を見れば分かるだろう」

「……そっか。なら仕方ねえな」

 

 ベジータが来なかった理由。それはブルマに第二子が生まれるからだ。

 ベジータが生むわけではないが、それでも父親として側にいてやりたいのだろう。

 宇宙が消えるかどうかの瀬戸際に何を、と思うかもしれないが、一人の父親として子供の出産に立ち会いたいという気持ちは悟空にも分からなくはない。

 特にベジータは、トランクスが生まれた時はまだあんな性格だったから出産に立ち会った事もないだろう。

 だからこそ、今回の子供の出産に立ち会いたい気持ちは強いはずだ。

 悟空もそれを察し、ベジータを誘う事を諦めた。

 それにブルマは見た目は若々しいが、もう47歳だ。

 高齢出産という事もあって、ベジータも心配なのだろう。

 悟空はベジータに近寄り、ニヤニヤと笑いながら小声で話す。

 

「それにしてもこの歳で子供を作るとはなあ。おめえもそういう事に興味ねえような顔してやる事やってんだなあ。あんま元気すぎてブルマに無理させんなよ」

「だ、黙れ! 貴様にはデリカシーというものがないのか!?」

「ひひっ、そう怒んなって」

 

 ベジータが赤面して拳を繰り出すが、悟空はヒラリと避けて距離を取った。

 悟空は昔と比べて老成し、随分と大人になった。

 だが大人になった反面、昔の彼では言わないような言葉が飛び出す事もある。

 仮に悟空が老界王神の力を借りようとしたならば、エッチな写真を餌にするくらいの悪知恵は平気で働かせるだろう。

 よく言えば大人になったが、悪く言えばおっさんと化してしまっているのが今の悟空だ。

 もしかしたら今の彼はもう、筋斗雲に乗れないかもしれない……。

 

「それにしてもおめえも変わったなあ。昔のおめえなら子供が生まれるなんて気にしなさそうだったのに」

「……フン」

「ま、そういう事なら仕方ねえ。十人目は他を当たってみっか。ブルマ、元気な赤ちゃん産めよ!」

「ええ、孫君も頑張ってね!」

 

 お腹を膨らませたブルマに声をかけ、それから悟空はその場を後にしようとした。

 しかしこれに納得がいかないのがビルスだ。

 何を勝手にベジータを出さない方向で話を進めているのだろう。

 宇宙が消えるか否かの瀬戸際だと理解しているのだろうか、とビルスは腹が立った。

 

「ふざけるな! いいからさっさと来い、ベジータ!

別にお前が産むわけじゃないんだからいいだろう!」

「地球の常識とやらですかね。私にはよく分かりませんが……」

 

 ビルスとウイスは流石に数億年も生きる神だけあって、人間とは考えが違う。

 そもそも子孫自体が必要なさそうな彼等にはベジータの気持ちなど分からない。

 そんな二人に悟空が困った顔を見せた。

 

「ビルス様、ベジータがいなくてもその分オラ達が戦えばいいだろ?」

「やかましい! お前達は負けても消されないからそう言えるんだ!

もし負けたら僕は宇宙ごと消されるんだぞ! ウイス! 何とかしろ!」

 

 結局その後、ウイスの術によってブルマのお腹の中の子はあっさりと外に出されてしまい、呆気なさすぎるほどに出産が終了した。

 ベジータはこれに心底複雑そうな顔をしたが、高齢出産という事もあってブルマへの負担を考えたら怒るに怒れないのだろう。

 かくして、何だかんだでベジータの参戦が決定してしまった。

 何だか、報われない男である。

 

 

「グォアアアアアアアアアア!!」

 

 地球のドラゴンボールを使い、蘇生させたヒルデガーンが咆哮した。

 その巨体と、肌にビリビリと感じられる圧倒的なパワーに悟空達は各々の反応を返した。

 悟空やビルスは純粋にヒルデガーンの実力を認め、そして期待するように笑みを。

 トランクスや悟天といったヒルデガーンよりもパワーで劣る者達は戦慄を。

 かつて母星を滅亡の危機においやられたタピオンは複雑そうな顔を。

 そして地面に寝そべっている四星龍は死んだ魚のような顔をしていた。

 

「……なあ、これ順番逆じゃないか? 普通に考えて願いを叶えてから私を出すべきだったんじゃないのか?」

 

 四星龍の言葉にリゼットは思わず目を逸らした。

 何故彼は地面で寝ているのか。それは彼の身体にドラゴンボールが埋まっているからだ。

 これは完全にリゼットのミスである。まずヒルデガーン復活の願いを叶え、それから四星龍を出すべきであった。

 しかしリゼットは間違えて先に四星龍を出してしまい、いざ願いを叶えようとした所で肝心のドラゴンボールが四星龍に埋まっている事に気が付いたのだ。

 しかしここでリゼットは駄目元でドラゴンボールを並べ、その中央に四星龍を寝かせて神龍を呼ぶと言う暴挙に出た。

 そしたら案外何とかなるもので、本当に神龍が出たのだ。

 その結果、ドラゴンボールに囲まれて寝そべる四星龍から神龍が生えるというシュールな絵が完成してしまっていた。

 

『願いは叶えてやった。さらばだ』

 

 神龍が消え、ドラゴンボールは空へ浮いた。

 四星龍も一緒に浮いた。

 そしてドラゴンボールは弾けて飛び散り、四星龍も無表情のままどこかへ飛んでいく。

 

「ああっ!? 四星龍ー!」

 

 

 

 その後、ドラゴンボールと一緒に四星龍も無事に回収され、事なきを得た。

 しかし四星龍からリゼットへのイメージがいきなり下がってしまった気がしないでもない。

 気のせいか皆の視線も若干呆れ気味だ。

 そんな彼等の前でリゼットはわざとらしく咳払いをし、気を取り直して魔術を発動。

 ヒルデガーンのコントロールを掌握して一言命じた。

 

「お手」

「……ガウ」

 

 リゼットの差し出した手に、ヒルデガーンが大人しく自身の手を――というよりは指を乗せた。

 成功だ。リゼットは完全にヒルデガーンを制御下に置いている。

 リゼットの魔術の練度自体はホイやバビディとは比べるべくもなく低い。

 だが、単純な実力でヒルデガーンを上回っている。

 これほどに大人しく従うのは、恐らくヒルデガーン自身がリゼットを格上と認めている部分もあるのだろう。何より一度は自らを滅ぼした相手でもある。

 

「リゼット、こいつは何が出来るんだ?」

「まずは見た目通りの巨体を活かした力押しですね。

それと翼が生えているので舞空術禁止のルールでも空を飛べる上に、巨大なのでいざという時はこちらの足場代わりにも使えます。

それから、幻魔人の名の通りに幻となって敵のあらゆる攻撃を完全無効化出来ます。

実体化するのは攻撃に移る一瞬のみ……逆に言えば、防戦に徹すればほぼ無敵です。

更に常に幻化する事も可能なので、普段は隠しておく事も出来るでしょう」

 

 ビルスの問いに答えながらリゼットが指を鳴らした。

 するとヒルデガーンは完全にその場から消え去り、気すら感知させない。

 幻化している間のヒルデガーンはこの世に存在しない幻だ。

 故にあらゆる干渉を受けず、気の感知もされない。

 攻撃力はゼロになるが、敵からダメージを受ける恐れもない。まさに無敵モードだ。

 

「なるほど……強さでも神の気を抜きで考えれば超サイヤ人3の悟空以上……加えて空を飛べて攻撃も無効か。

こんなとっておきがいたとは知らなかったよ」

「これは、今回のルールならば相当に活躍を期待出来そうですね」

 

 ヒルデガーンの強さにビルスとウイスは満足したように頷いた。

 どうやら無事に彼等の眼鏡にかなったようだ。

 リゼットはタピオンの方を向き、彼に声をかける。

 

「すみません、タピオン。貴方には嫌な思いをさせてしまいます」

「いえ、大丈夫ですよ神様。確かにヒルデガーンは恐ろしい魔人ですが、俺は別にヒルデガーンそのものは憎んでいません……許せないのはそれを利用したホイ達魔導師です」

 

 ヒルデガーンは確かに故郷を荒らした怪物であり、一度は弟を殺した仇だ。その事実は変わらない。

 だがヒルデガーンはかつて、コナッツ星の悪の気を吸い込む事で星を安定させていた魔人像でもあったのだ。

 それに邪悪なエネルギーを注ぎ込んで幻魔人にしてしまったのはホイ達だ。決してヒルデガーンそのものが悪だったわけではない。

 

「俺も……勇者になる前は魔人像に祈りを捧げていた時もありました。

貴女の手で再び守り神となれるならば、それはヒルデガーンにとっても、きっといい事なんだと思います」

 

 魔人像を造った者達は決して幻魔人などを造りたかったわけではない。

 コナッツ星の平和を望んで魔人像を造り上げたのだ。

 邪悪な魔導師一派によりその在り方を歪められ、忌まわしき幻魔人とされてしまったコナッツ星の平和の象徴。それがヒルデガーンだ。

 それが世代を越え、今度は宇宙を守るために戦える。

 ヒルデガーンへの恐れが消えるわけではない。だが少なくとも、少しは製作者達の無念が晴れるのではないだろうか。そうタピオンは思った。

 

「悟空君達も異論はないですか?」

「ああ。オラはねえ」

「こ、こんな化物がいたとは……魔人ブウが可愛く見える……」

「頼もしい限りですねえ」

 

 リゼットの問いに悟空が頷き、界王神が驚きを露にした。

 ウイスは変わらず余裕の表情だ。

 

「それで悟飯君、本当に大丈夫ですか?」

 

 ヒルデガーンの参戦が決まり、後は暫定となっていた十人目を決めるだけだ。

 悟飯かブウか……どちらを出しても問題ないくらいには強いし、悟飯が参加を望まないならばリゼットはそれを受け入れる気でいた。

 しかし悟飯は決意を固めたような顔で力強く頷く。

 

「大丈夫です。ビーデルさんも納得してくれていますし、それに今日と明日は予定も入れていません。

僕にも、この宇宙を守るために戦わせて下さい」

「いい返事です。では老界王神様……」

「うむ、任せとけい。こやつの潜在能力はきっちり、儂が解放しておいてやるわい」

 

 今のままだと悟飯は残念ながら戦力外だ。

 だが老界王神によって力を解放すれば一気に悟空達に追いつくとリゼットは踏んでいた。

 そして悟飯の参戦にともない、魔人ブウはメンバーから外れる事となった。

 しかし彼の出番がなくなったわけではない。

 リゼット達が試合に出ている50分ほどの間、地球は完全に無防備となる。

 そこを他の宇宙の者達が攻撃してこないとは限らないのだ。

 何せ、あの大神官の余計な発言のせいで今や地球は他の宇宙からこれでもかとばかりにヘイトを買ってしまっている。

 これで狙われない、と思うのは楽観視が過ぎる。

 他には、消える事を恐れて地球に移住しようと企てる者が他の宇宙から現れる可能性がある。

 それ自体は仕方のない事だし、それが善良な者で少数ならばいいが……悪質な宇宙人が大挙して押し寄せて来れば地球などあっという間に更地にされてしまうだろう。

 そういう意味では、力の大会に参加出来るレベルの強者を一人残しておけるというのは気持ち的にも安心出来る。

 

「よし、悟飯。時間がない……今すぐに精神と時の部屋に行くぞ。

潜在能力を解放するだけで終わりと思うな。残された時間、徹底的に俺が鍛えてやる」

「はい! お願いします、ピッコロさん」

 

 精神と時の部屋には老界王神と悟飯の他に、ピッコロも同行する。

 彼の役目は二つ。一つは儀式の間、老界王神を精神と時の部屋の過酷な環境から守る事だ。

 老界王神は肉体的には脆いので精神と時の部屋で25時間も儀式が出来るわけがない。

 なのでそれが終わるまで、ピッコロが気のバリアで彼を保護しなくてはならない。

 そしてもう一つは、悟飯を鍛え直す事である。

 いかに潜在能力を解放しようと、実戦の勘が鈍っていては話にならない。

 だから残された時間で徹底的に、悟飯を鍛え直すのだ。

 悟飯達三人は精神と時の部屋へ向かい、その途中でピッコロが足を止めた。

 その理由は……珍しく神殿を訪れている先代を見付けたからだ。

 二人はしばらく何かを話し合い、やがてピッコロは悟飯達と共に精神と時の部屋に入って行った。

 

 ともかく、これで第7宇宙の命運を背負う10人が決定した。

 リゼットを主将に据え、悟空、ベジータ、ピッコロ、ターレス、セル、ミラ、四星龍、悟飯、そしてヒルデガーンの10人が第7宇宙の命運を決める最強メンバーとなる。

 全員が全員、他の宇宙ならばエース格を名乗るだけの実力を有したオールエースだ。

 ただ一人として人数合わせの弱兵などいない。10人全員が単騎で戦局をひっくり返すだけの強さを備えている。

 ならば後はこの10人で何とか勝ち抜くだけだ。

 だが、今の強さに胡坐をかいているわけにはいかない。

 万全には万全を重ね、出来る事は全てやるべきだろう。

 リゼットはそう考え、そしてふと思う。

 今の自分ならば『アレ』が出来るのではないか、と。

 今まで一度もやった事はないが、そう難しい事ではないと最長老は語っていた。

 そう、実際難しい事ではないはずだ。老界王神のように限界以上の力を与えるのではなく、元々そこにあるものを引き出すだけ。切っ掛けを与えるだけなのだ。

 そしてリゼットはその感覚を身体で覚えている。最長老に引き出して貰った時。超神水を飲んだ時。老界王神に解放してもらった時。

 バビディは魔術で『それ』を出来た。リゼットは今やそうした魔術的な力も使う事が出来る。

 出来ないはずがない。いや、出来るはずだ。

 

「……セル。いいですか?」

「ん?」

「少し、屈んで下さい」

 

 セルの身長は200cmを超え、リゼットでは頭まで手が届かない。

 その為少し屈んでもらい、頭に手を乗せる。

 そして意識を研ぎ澄ませ……研ぎ澄ませ…………。

 ――視えた。

 セルの内側に眠る、彼自身が使い方が分かっていないだけの力が。それを抑えている蓋が。

 簡単な事だ。少し蓋をどけてやればいい。

 そうすれば後は勝手に、本人が発揮してくれるはずだ。

 元々そこにあるものをちょっと引っ張れば、それで事は済む。

 

 ――セルの潜在能力を、引き出した。

 

「こ、これは……! 馬鹿な。力だ、力が溢れてくる……!」

「貴方の潜在能力を引き出しました。次の戦いでは強い力は多い方がいいでしょう」

「い、いつの間にこのような事が出来るように?」

「つい今しがた。いえ、あるいはもっと早く出来るようになっていたのかもしれませんが、出来るかもしれないと思ったのは今です」

 

 リゼットのこの芸当に場の全員が目を丸くしていた。

 それはそうだ。掌をポンと頭に乗せてパワーアップなど簡単すぎて信じられない。

 最早何でもありになってきたな、この女。とビルスは呆れ顔になる。

 一方でセルは強い手応えを感じていた。

 出来る……今なら、あの変身が。

 リゼットの行った潜在能力の引き出しは、戦闘力という意味ではセルをそこまで派手に強化していない。そこまで多くの力を余らせていたわけではないのだから、当然だ。

 だがその代わりに、セルの内に眠っていたフリーザの力を引き出してしまった。

 無論それで今更セルの性格が変わる事などなく、要するにリゼット自身が予想していなかったパワーアップをさせてしまったというだけだ。

 

(……とんだサプライズを見せる事が出来そうだ)

 

 思いがけずに会得した新たな力はまだ黙っておこう、とセルは考えた。

 これは次の大会の時にサプライズとして皆に見せたい。

 

「お、おい、神。それは俺にも出来るのか?」

「出来ると言えば出来ますが……恐らく効果は薄いでしょう」

 

 ベジータがリゼットに詰め寄るが、リゼットはそれに静かに答えた。

 

「今のは別に力を与えたわけではありません。元々持っていたものを引き出しただけです。

しかし貴方や悟空君は既に修行で限界『以上』を極めている……無駄に余らせている力がないんです。

そういう相手に使っても意味はありません。

また、ヒルデガーンもこの方法でのパワーアップは不可能でしょう。

セルも……一応は引き出しましたが、元々限界近くまで修行していたので、得た力は残念ながら微々たるものです」

 

 悟空とベジータは既に限界を超えてその先を極め続けている。

 当然余らせている力などあるはずもない。

 コップに例えるならば、潜在能力とはそのコップにどれだけ水が入っているかだ。

 そして悟飯のように無駄に潜在能力を余らせている者とは、コップに蓋とストローを付けて上手く中身を出せないだけなのである。

 だが悟空やベジータは違う。コップの内容量などとっくに超過して、コップそのものを大きくし続けている。

 当然中身は常に一杯だ。そういう相手の潜在能力を引き出しても意味はない。

 勿論ヒルデガーンにそんなものはない。彼は今の姿が最終最強形態だ。

 繰り返すが、余らせている力がなければ意味はない。限界『以上』を与える老界王神の術とは違うのだ。

 

「俺はどうだ?」

「ターレスも限界を超えているので意味はありません」

「オラは?」

「先程意味がないと言ったでしょう」

「俺は?」

「ミラはトワと融合した際に解放されているようですね。潜在能力を感じません」

「ねえねえ神様、俺は?」

「僕も僕も!」

「子供のうちから楽をする事を覚えてはいけません。地道に努力して下さい」

 

 リゼットが潜在能力を引き出せると知って次から次へと戦士達が自分は出来るかどうかを尋ねるが、それにリゼットは一つ一つ答えた。

 流石に地球の主力陣はその殆どが潜在能力など余らせておらず、限界すら超えている。

 実に頼もしい限りだ。

 

 

 

 ――夜。

 リゼットは神殿から夜空を眺めていた。

 後僅か24時間後。試合時間はたったの48分。それだけの事で宇宙の命運が決まってしまうのだ。自分達が負ければナメック星人や多くの、この宇宙に生きる人々が消えてしまう。

 だが勝利すれば、第6宇宙の皆やそれ以外にも多くの命を消す事になる。

 ……こんなにも、勝ちたくないと思った戦いは初めてだ。

 

「リゼットよ」

「……先代様?」

 

 そんなリゼットへ、先代が後ろから声をかけてきた。

 彼が聖堂からここへ来ていた事にも気付かないくらい意識を逸らしていたらしい。

 リゼットは先代へと向き直り、彼の眼を見る。

 それは何か決意を秘めた瞳で……リゼットはそれだけで、彼が何をしようとしているのかを察してしまった。

 彼もまた、この宇宙を守るために最善を尽くそうとしているのだ。

 

「今日はお前に別れを言いに来た」

「……合体、するのですね?」

「そうだ。ピッコロと話し合い、それが一番いいと二人で決めた」

 

 今度の戦いは負ければ取り返しが付かない。

 今までのようにドラゴンボールで蘇るなどと言ってられない。

 何故なら第7宇宙が消滅してしまえば、いくらドラゴンボールといえど元に戻す事など不可能だからだ。

 全王はリゼットや悟空、アラレの暮らす地球だけは負けても消さないと誓ってくれた。

 だが地球以外は消すと言っているのだ。

 それを止める為には、今度の戦いで勝利する以外の道はない。

 勝利して超ドラゴンボールを使って他の宇宙を戻す。それしか見付からないのだ。

 

「今度の戦いにはより強力なドラゴンボールが必要となる。

私とピッコロが融合すれば、ダークドラゴンボールが復活する。

ドラゴンボールの力は創造主の力に比例する……融合後のピッコロが創造主という扱いになればダークドラゴンボールは超ドラゴンボール程とはいかずとも、かなりの力を発揮するだろう」

「……貴方は、それでいいのですか?」

「私は何一つ悔いておらぬよ、リゼット。今にして思えば、かつて悪の心と別れた事すらがこの日の為であったのだ。

悪と善に別れたからこそピッコロ大魔王が生まれ、その息子が生まれた。宇宙を守る事が出来る戦士となり……私はその礎となれる。全ては成るべくして成った事なのだ」

 

 融合。それは死とも異なる消滅だ。

 二人が一人となれば、ある意味ではその融合後の人物が先代であると言えるかもしれない。

 だがベジットのように対等の関係での融合ではなく、融合後に先代の人格は殆ど残らない。

 ベースをピッコロにし、人格も彼を優先しての融合となればそれは最早吸収であり、実質上の消滅に等しい。

 ただのパワーアップの切っ掛けであり、広い知識を与えるのみだ。

 

「ピッコロは変わった。かつてのような粗暴さは鳴りを潜め、随分と落ち着いている。

再び二人に別れる事は、もはやあるまい。

それに元々寿命も近かったしな……どのみち潮時だったのだよ」

 

 先代はもう老年だ。

 かつてベジータ達が地球に攻め込んで来た時点で既にその寿命は尽きる寸前であったと本人が語ってる。

 それが今日まで生きて来ただけでも奇跡のようなものなのだ。

 しかしピッコロはこれからの戦いに必要な戦士だ。老人の老衰に付き合わせるわけにはいかない。

 ならばこそ、ここで融合するのが最善なのである。

 

「私は満足している。見出した後継者は立派にその役目を果たし、私などでは到底出来ぬ地球の守護を完璧に成し遂げて来た。あの日お前に出会った事こそが、私にとって最大の幸運だったのだ。

……私は幸せ者だったぞ、リゼットよ」

 

 今の地球に必要なのは老いた先代の神などではない。

 歴代最強の戦力を誇る今の女神であり、そして彼女と共に戦う強き戦士だ。

 そう思うからこそ、次世代の為の礎となる事を不幸とは思わなかった。

 むしろ少しでも力になれる事を幸福にすら思った。

 

「さよならは、言いません。

これからは一緒に……一緒に戦いましょう、先代様」

「ああ、そうだな。共に戦おう」

 

 言葉遊びである事は分かっている。融合とは名ばかりの吸収である事も分かっている。

 それでもあえてリゼットは別れを口にしなかった。

 それを口にしてしまうと、本当に二度と会えなくなってしまうような気がしたから、言えなかったのだ。

 先代もまたそれを察し、リゼットに合わせた。

 二人は固く手を握り合い、微笑んで見詰め合う。

 そして先代が手を放し、ゆっくりと背を向けた。

 

「ではな、リゼット。また明日、ここに来る……。

今度は一人のナメック星人となって」

「はい……お待ちしております」

 

 

 先代は去り、その背をリゼットはいつまでも見送っていた。

 そしてそれが、リゼットが先代を見た最後の光景であった。

 

 

 第7宇宙のどこかにある無人の惑星。

 その惑星全体を覆うようにバリアが展開され、バリアの内側では真紅の龍が天まで届く巨体を渦巻かせていた。

 その足元にいるのはリゼットだ。

 先代とピッコロの融合……それを聞いてからリゼットは決して使う事はないだろうと思っていたダークドラゴンボールの封印を解いた。

 亜空間や精神と時の部屋に放逐していたボールを全て集め、今ここに真紅の神龍を呼び出したのだ。

 

『さあ願いを言え。どんな願いでも一つだけ叶えてやろう』

「……」

 

 次なる戦いにおいて敗北は絶対に許されない。

 勝たなければならない……何としても。

 勝利し、最優秀選手に与えられる超ドラゴンボールの使用権さえ得れば全王と交渉し、消えてしまった宇宙を復活させる事が出来るかもしれない。

 だが負けてしまえばそれは不可能となる。このダークドラゴンボールでも残念ながら消えてしまった宇宙全てを元に戻すのは不可能だろう。

 だが今度の相手は数多の宇宙。未知の強者達だ。このオールエースチームですら必ず勝てるとは言えない。

 相手の中にビルスなどの破壊神を上回る猛者がいないという保証などどこにもない。

 ならばこそ――この身に、切り札を宿す。

 

「神龍よ。私の願いは――」

 

 

 

 ――そして遂に、宇宙は運命を決する朝を迎えた。




【融合して四星龍は大丈夫なのか】
・邪悪龍(今は浄化龍ですが)はボールに集まったエネルギーが実体化した存在なので一度誕生した後にボールをどうこうしても倒されない限り消えないものとします。
ただしボールはもう石になっているので一度死んだら二度と復活出来ません。
ただしボールが本体な七星龍だけは流石に例外です。

【第7宇宙メンバー決定】

・リゼット:1兆5500億
真ゼノバース:124兆
1/2:62兆
・ついにアルティメット化を完全に極めたリゼット。
これからはアルティメット化がほぼ素の強さ扱いになるが、これで変身しているのでこの上から更に2000倍とかはやらない。

・孫悟空:11億
完成ブルー:6兆6000億
界王拳ブルー(最大20):44兆
・ブルーを完成させた頼りになる第七宇宙の大エースにして主人公。
ブルーの弱点を克服しているので原作『超』のように強さがブレたりしない。
少なくとも伝説化ケール程度ならば軽く返り討ちにしてくれる。

・ベジータ:10億
超サイヤ人ブルー:2兆
完成ブルー:6兆
・悟空への対抗心からいつの間にかブルーを完成させていたベジータ。
後は愛の戦士キュアベジータになるだけだ。
基礎戦闘力が伸びてないのは、最近はブルマと【昨晩はお楽しみでしたね】したり、ブラの誕生までずっと家にいたから。

・ターレス:9億8000万
超サイヤ人4:1兆9600億
超フルパワーサイヤ人4:29兆4000億
・ブルーツ波を事前に過剰摂取する事で切り札の超フルパワーへの変身を可能とした。
(詳しくは次回)
地味に基礎戦闘力も悟空達に近付いている。

・ミラ:2000億
トワ融合モード:3兆
・神の気を抜きにした純粋な強さでは最強クラス。
力の大会寸前に駆け込み乗車してきた期待のルーキー。

・セル:2000億(超サイヤ人相当)
超サイヤ人3:1兆6000億
???:3兆2000億
・リゼットに潜在能力を引き出され、パワーアップを果たした。
新たな形態も獲得しているらしく、最大戦力はミラを超える。
これが彼の最後のパワーアップイベントになるだろう。

・四星龍:3000億
黄金モード:3兆
・駆け込み乗車してきた男その2。スピードは超フルパワーのターレスを上回る。
戦闘力もやばいが、何よりやばいのは太陽と同じ温度にまで上げる事が可能という事。
数多の戦士を屠って来た太陽さんが遂に味方として参戦したかのような頼もしさである。
しかしリゼットのポカによっていきなり恰好悪い姿を晒す羽目になった。
リゼットへの心証も『落ち着きと強さを兼ね備えた女神』だったものが『案外抜けてる女神』に変わってしまった。

・アルティメットピッコロ:55兆
・遂に先代と融合し、基本戦闘値の鬼と化したピッコロさん最終形態。
今こそ本当のカタッツの子の力を見せる時。
リゼット同様にアルティメット化を極め、常にこの強さを維持出来る。
その強さはもう超ナメック星人ゴッドと呼んでいいレベル。
俺は今究極のパワーを手に入れたのだー!

・アルティメット悟飯:1兆8400億
・ピッコロとの修行で心身を鍛え直し、老界王神によってアルティメット化を会得した潜在能力解放悟飯。
一気に最前線に復帰し、潜在能力マンである彼のやばさを改めて知らしめてくれた。
しかし師匠が化け物すぎて未だに師匠超えが出来ない。
アニメのように前髪が生えたり消えたりはしない。ずっとこのまま。

・ヒルデガーン:5000億
・飼い慣らされた幻魔人。魔人ブウとの二択だったが、奇襲性能の高さからこちらが選ばれた。
見た目は一番強そうなのに一番弱い。
兆超えを果たした他のメンバーに比べると『他にいないから入れられた』二軍感が漂うが、その性能は十分脅威的。
攻撃の瞬間以外は完全無敵なので上手く使えば十分やっていけるだろう。



大神官「……ぶっちゃけ第七宇宙が強すぎて他の宇宙全部VS第七宇宙の構図にしないと結果が見えてるんですよねえ……」

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