ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
闇夜に紛れ、地球の神殿へと何者かが近付いていた。
それは一目見ただけで分かる、地球人ではない者達――宇宙人の集団だ。
彼等は第9宇宙より派遣されて来た刺客であり、その目的は第7宇宙の主力勢の暗殺であった。
人間レベルが低い宇宙を消すというこの大会において、唯一例外とされているのが第7宇宙の地球だ。
加えてこの星の神であるリゼットという女は、どうやったかは分からぬが全王に取り入っており、大神官からの覚えもいいように見えた。
どう考えてもおかしいではないか。
故に第9宇宙の
あの女が全王様をそそのかし、こんな大会を開かせたのではないのか?
奴こそが今回の騒動の原因ではないか?
一度疑い出せばキリがなく、加えて人というのは一度自分が正しいと思うとなかなか思考の軌道修正が出来ない。それは神も同じだ。
真実を追い求めていると自分では思っているが、実際は『あの女が悪い』という前提を敷き、全ての思考をその上から成り立たせている。
だからどのような考えを経ても最終的には『あの女が悪い』で収束する。
考えているようで考えていないのだ。
先に結論ありきで考えて、その結論に納得出来るだけの思考過程を後から作る。
故に彼らの中でリゼットは『全王をそそのかして宇宙を消そうとしている悪』であり、それ以外の結論が出ない。
だから、あの悪を殺す。
その為に第9宇宙は多くの選りすぐりの戦士を派遣し、神殿へと差し向けていた。
だが彼等は知らない。
自分達が足を踏み入れたそこが、『悪』などという言葉では表現出来ない――混沌の坩堝である事を。
「よし、あれが神殿だな」
「所詮一惑星の神殿だな。バリアを張っているが、大した事はない」
地球の神殿は侵入者を防ぐべく、別次元に潜行した上でバリアを展開している。
しかしこちらは界王神と破壊神の後押しを受けた部隊なのだ。
たかが一惑星の守りなど無いに等しく、こんなものは簡単に突破出来てしまう。
そしてまさにバリアを破ろうとしたその時……。
――彼らの背後に、音もなく巨大な幻魔人が出現した。
「……は?」
思わず、間の抜けた声を出したのは最後尾にいた男であった。
彼は気の探知能力に優れ、一惑星分開いた遠距離の相手であろうとその気を感知する事が出来る。
だからこそ言える……こんな奴は今、この瞬間まで
気を消して隠れていたとか、そういうレベルではない。
姿を消していたとか、そんな次元ではない。
本当に現れる瞬間まで、どこにも存在していなかったのだ。
「ゴアアアァァァァ!」
幻魔人――ヒルデガーンの口から灼熱の火炎が吐き出された。
完全な不意打ちで放たれたそれは一瞬で第9宇宙の刺客達を飲み込み、半数以上を墜落させる。
慌てて迎撃態勢を取った戦士達だが、その目の前でヒルデガーンは姿を消した。
「な……!? ば、馬鹿な! 消えた!」
「よく探せ! あんなでかいのが隠れられるはずがないんだ!」
「落ち着け! 恐らくワープか何かだ! よく気を探すんだ!」
突然の奇襲に第9宇宙の刺客達は浮足立ち、騒然とする。
何とかヒルデガーンを見付けようと気を探るが、残念ながらそれではヒルデガーンは見付けられない。
何故なら彼は幻。本当に存在していないのだから、現れる瞬間以外は見付けられないのだ。
再びヒルデガーンが姿を現し、尻尾を
すると中から細い触手が何本も飛び出し、第9宇宙の戦士達を絡め取っていく。
「ひいいい!」
「た、助け……」
次々と戦士達が捕食され、彼等は狙う側から狙われる側へと変わってしまった。
叫びがあちこちで木霊し、統制が取れなくなる。
リーダー格の刺客が咄嗟に破壊玉――第9宇宙の破壊神シドラに渡されていた彼の破壊のエネルギーを投げつけるも、ヒルデガーンには通じない。
再び姿を消し、対象を外した破壊玉はあろう事か味方に炸裂して破壊してしまった。
「な……なんだ……なんなんだ、この宇宙は……」
リーダー格の男が怯え、後ずさる。
すると背中が何か柔らかい、弾力のあるものにぶつかった。
恐る恐る振り返ると、彼の背後に立っていたのはピンク色の肥満体……かつて宇宙を荒らし、界王神すら手にかけてきた恐るべき存在、魔人ブウだ。
「うっ、うおおおおおおお!」
咄嗟に振り返り、拳を雨あられと放つ。
一撃ごとにブウの身体がへこみ、拳が埋まる。
だがおかしい……手応えがない。
息が切れるまで攻撃を続けた彼の前でブウはポヨン、と元に戻ってしまった。
「今ので終わりか? 全然面白くないぞ」
「……あ……あ」
どんな攻撃もすり抜ける幻魔人と、どんな攻撃も通じない魔人。
その二人に挟まれ、刺客達は戦意喪失するしかなかった。
「ほれほれ、そんなものかの?」
カリン塔付近にも刺客が来ていたが、彼等はそこにいた一匹の猫にすら翻弄されていた。
カリンはヒラリヒラリと攻撃を避け、手にした杖でポコポコと刺客を叩き落していく。
それはまるで不出来な弟子に稽古をつけてやっているかのような、余裕溢れる所作だ。
そこから少し離れた場所ではゴッドガードンズの眼が闇の中で光り、次々と刺客を捕獲している。
Mr.ポポは雷のように機敏に動いて次々と刺客を撃破し、まるで寄せ付けない。
「もういいじゃろう。ブウよ、やれい!」
「飴玉になっちゃえ!」
カリンの指示に応えて魔人ブウが触角からおやつ光線を発射した。
それは次から次へと刺客に命中し、一人残さず飴玉へ変えてしまう。
ヒルデガーンによって地面に落とされた者達にまで光線は届き、更にそこにヒルデガーンが尻尾に閉じ込めていた者達まで加える事で、全滅させる。
それをカリンが念力で動かして巨大な袋の中へ全て閉じ込めると、入り口をきつく紐で結んでしまった。
その光景に、遠くから水晶で眺めていた第9宇宙の破壊神と界王神は戦慄くばかりだ。
「ば、馬鹿な……我が宇宙の精鋭達がこんな……」
「これが、第7宇宙の選手なのか……」
第9宇宙が送り込んだ戦士達は力の大会に出る者達ではない。
だがそれでも、神が直々に選んだ者達だ。その実力は第9宇宙では間違いなくトップクラスである。
それがこうも呆気なく全滅するなど、悪い夢でも見ているようだ。
そんな彼等の前で、カリンが水晶に顔を映す。
「ほう、これで見ているんじゃな? 聞こえていますかな、第9宇宙の神よ。
貴方達が送り込んで来た者達は一人も……ああいや、そちらの破壊のエネルギーで自滅してしまった者以外は、飴玉になりましたがまだ生きております。
この者達は後でお返ししますが、このような事は止めて頂きたいものですな」
それだけ言い、映像が途切れてしまった。
向こうの方で水晶を破壊したのだろう。
しかもこちらが第9宇宙という事が完全にバレてしまっている。恐らくは心を読む能力でもあるのだろう。
第9宇宙とわざわざ言ったのは、『お前達の事などとっくにお見通し』だと言われたに等しい。
しばらくロウとシドラは無言だったが、やがてロウが地面を叩く。
「おのれ、第7宇宙め……! これほどとは……」
「むう……あの巨大な怪物は一体何だったのだ……」
「わからぬ。わからぬが……あれが向こうの宇宙の最強の戦士に違いあるまい。
ぐっ……あんなものを相手にしてはいかにトリオ・デ・デンジャーズといえど……」
「し、しかしこれで向こうの手の内がある程度読めた。あの巨大な奴とピンクのデブ。それから黒い奴と白い猫……あいつらは選手と見て間違いないだろう」
犠牲は払ったが、第7宇宙の選手をある程度晒す事が出来た。
そう思い、ロウとシドラは何とか溜飲を下げようとする。
だが彼等は知らない……今、彼等が見た中に選手は一人しかいないという事を。
そして彼等が最強と判断したヒルデガーンすら、数合わせに過ぎないという事を、彼等は大会本番になってようやく思い知る事となるのだ。
★
遂に全宇宙の命運を賭けた力の大会が開催される時間が近付いてきた。
予想した通りに夜中に他の宇宙からの襲撃があったが、ブウ達が対処してくれたので問題はない。
向こうの自滅とはいえ、一人の死者を出してしまったのは残念であった。
ヒルデガーンを大会前に晒してしまったが、まあいいだろう。
慣らし運転をさせてもらえたし、それにヒルデガーンはむしろ見せておく事で相手に威圧感を与える事が出来る。
今頃刺客を放ってきた宇宙はヒルデガーンやブウをどう対処するかばかり考え、他の事に意識が向かなくなっている事だろう。
リゼットはセルとヒルデガーン、ミラ、四星龍を伴ってカプセルコーポレーションへと転移し、そこで待っていた五人と合流した。
ヒルデガーンは巨大過ぎて普段は邪魔なので今は幻と化しているが、それでも近くにいる事はリゼットが感じ取っているので問題はない。
悟空達も気合いは十分で、全員が万全の状態を整えているようだ。
先代と融合したピッコロははち切れんばかりの力に溢れ、それでいて今まで以上の落ち着きを感じさせる。
ターレスは時間までカプセルコーポレーションで何かしていたのか、力が漲っているようだ。
「ねえ神様、ターレスったら信じられないのよ。一日で父さんが前に造ったブルーツ波増幅装置よりも更に強いブルーツ波を照射出来る装置を造ってくれだなんて……全く。私が天才じゃなきゃ絶対出来なかったわよ」
「……出来たんですか」
ブルマがリゼットへと愚痴るが、リゼットにとって驚きだったのはターレスの要求よりも、むしろそれを実現させてしまえるブルマの天才性であった。
ブルマは自分で天才を名乗るが、ハッキリ言って全く否定の言葉が見付からない。
確かにこれが天才でなければこの世から天才なんてものはほとんど消えてしまうだろう。
「ああ。おかげでブルーツ波をたっぷり取り込ませて貰った。
今なら、ブラックと戦った時の限界を超えた超サイヤ人4にだってなれるぜ」
「準備は万端のようですね」
「誰が相手でも負ける気がしねえ」
ターレスはしっかりと彼なりの準備をしてきたようだ。
これならば余程無茶な飛ばし方をしない限り試合中に超サイヤ人4が解除される事はあるまい。
元々超サイヤ人4は超サイヤ人3までにあったエネルギーの消耗という欠点を解消した変身であり、十分なブルーツ波さえあれば変身は長時間持続する。
つまり今回のルールに、かなり有利な変身と言えるだろう。
悟空とベジータは今まで通り。悟飯は既に潜在能力を解放した姿になっている。
この変身は極めて自然な状態で超サイヤ人3以上の力を発揮出来るし、消耗もない。変身しておかない理由がないのだから、悟飯の判断は正しいだろう。
通常状態のまま力を発揮する暇もなく、不意打ちで落とされてしまう可能性だってあるのだ。
そして四星龍は前回から引き続き、何とも言えないような虚無の表情を浮かべていた。
彼がこんな顔になってしまった理由は、彼の体内に埋まっている四星球――だった石コロにあった。
ピッコロと先代が融合したという事は、当然ドラゴンボールは石になったという事だ。
四星龍はドラゴンボールに溜まったエネルギーが実体化した存在なので、ドラゴンボールが石になろうと消える事はない。
というかこれで消えるなら、邪悪龍が出ても製作者のナメック星人が誰かと融合すれば解決出来てしまう。
いくら何でも宇宙の脅威として老界王神に恐れられていた者にそんな簡単すぎる攻略法があるわけがない。
なので四星龍は消えない。それはいい……いいのだが、しかし四星龍は複雑であった。
四星球の龍だから四星龍なのだ。ではただの石コロになった今、私は何なのだろう……そう思ってしまったのだ。
だってこれもう四星球じゃなくね? 四星球じゃなくてただの石じゃん。
じゃあ私は石星龍か? いや、星マークないからもうこれ、ただの石龍じゃね?
そんな感じで、彼は自分の存在というものについて自問自答し続けていた。
唯一の救いは、他の龍と違って彼のドラゴンボールは右腕に隠れていて普段は見えない事か。
これが一星龍のように額にドンと鎮座していたら凄く間抜けになる所であった。
何であいつ頭に石埋めてるの? とか言われてしまう。
「全員、問題ないようだな」
ビルスの言葉に四星龍が驚いた。
え? 私はこれで問題ないと見なされるのか?
しかし誰もビルスに突っ込みを入れてくれない。
「ホホホ、頼もしい限りですね」
これから宇宙の存亡を賭けた戦いに臨むが、ビルスの顔に悲壮感はない。
このベストメンバーならば勝てると信じているからだ。
むしろこれだけのメンバーを揃えて負ける姿が想像出来ない。
十人全員が、かつて宇宙最強にして最悪と言われた魔人ブウを軽々と凌駕している。
間違いなく、今が第7宇宙最強の時代だ。力の大会が十年前や二十年前……あるいは彼等がこの世を去ってからでなくて本当によかったと思う。
「さーて、そろそろ時間です。行きますよ」
ウイスが出発を宣言し、リゼット達も彼の近くへと集まる。
もしここにいるメンバーが仲の悪い面子であればウイスは『手を繋いで輪になれ』などと悪戯を仕掛けたかもしれないが、生憎ここの十人にそれを言っても何の問題もなく普通に繋いでしまうだろう。
なので無駄な悪戯はせず、普通に転移をして無の界へと飛んだ。
【石龍】
四星龍である。
四星球の龍だから四星龍なのに、肝心のドラゴンボールを石にされてしまった。
確かに消えないのだが、だからといって消えなきゃいいという問題ではない。
例えるならばそれは角のないロンゾ族のようなもの。
キマリは通さない。
【キマリ=ロンゾ】
ファイナルファンタジー10のパーティーメンバーの一人。
ロンゾ族の青年。魔物の技を覚えて使いこなす。
青魔導士系の宿命としてくさい息も吐けるが、キスティス先生に比べるとインパクト不足。
役割分担のハッキリしているFF10では2軍落ちしやすい。