ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
力の大会は終わり、悟空達はそれぞれの日常へと戻って行った。
あの大会で負けた宇宙は宣言通りに全王に消されそうになったものの、しかし結果を言えば消される事はなかった。
それは悟空が彼を止めてしまったからだ。
悟空は全王へ言った。
「なあ全ちゃん、オラ達は超ドラゴンボールで消えた宇宙を元に戻す気だけどよ、つまり消しても無駄じゃねえか?」
「え? うーん……確かに無駄だね」
何と、まさかの願いカミングアウトである。
更に悟空は畳みかけるように、全宇宙の神々が驚愕するようなとんでもない事を言い放った。
「なあ全ちゃん、今回の大会、全ちゃんは楽しかったか?」
「うん、すっごいスーパー楽しかったのね」
「そっか。んじゃあよ、またやろうぜ」
何言ってるのこいつ、という感じであった。
これにはビルスも仰天し、何て事を言うんだと喚いていた。
だが悟空は気にせずに言葉を続ける。
「もう一回なんて言わずによ、オラは何度だってやりてえな。次やる時はきっと、ジレン達はもっともっと強くなってるからよ。
それに次は他の宇宙の奴等だって、もっと強え奴等を集めて来るはずだ。楽しくなるぜ、きっと」
「うわあ……それ、楽しそうなのね!」
「だろ? だからよ……消しちまうの勿体ねえじゃねえか。
皆どんどん強くなるし、次はもっと楽しめる。その次はもっとだ。
勿論オラだってまだまだ強くなるぞ。全ちゃんは見たくねえか?」
「見たい!」
こんな感じで悟空が自分のペースに全王を巻き込み、次もやろうという事で宇宙消滅は免除となった。
更に次は、今回免除された宇宙も参加となり、これには免除宇宙も仰天していた。
こうして全宇宙を恐怖させた力の大会は、終わってみればただの一大イベントとして過去のものとなった。
しかし大神官曰く、優勝した宇宙が他の宇宙の復活を願わなかった場合、全王はその宇宙も消して、本当に宇宙の数を4つにしてしまうつもりだったらしいので願いそのものは間違えていなかったらしい。
やはり子供に見えても本質的には超越者だ。人とは精神構造が全く違う。
あるいは単に幼すぎて罪悪感も何も抱けないだけなのか……。
ちなみに出番のなくなった超ドラゴンボールは使われる事のないまま宇宙に散らばった。
あの戦いが終わってから一月。
リゼットは今、ビルスの許可を得て第11宇宙へと来ていた。
聞いておいた情報によると、この辺りでいいはずなのだが彼の気は近くに感じない。
見渡す限り大地は荒れ果て、倒壊した建造物の跡だけが、ここにかつて人が住んでいた事を教えてくれる。
少し進めば、いくつもの墓標が建ち並ぶ場所へと出た。
不慣れな手造りで、しかし丁寧に造られただろうその墓標こそは『彼』の強さの源なのだろう。
しばらくそれを眺めながら風に吹かれていると、覚えのある力強い気が高速で接近している事にリゼットは気付いた。
やがて気の持ち主はリゼットの後ろに立ち、ゆっくりと墓へ近付いた。
「何故お前がここにいる」
「少し、貴方と話をしようと思いまして」
リゼットが振り返ると、そこには怪訝そうな顔をしたジレンが立っていた。
あの大会で激闘を繰り広げたリゼットとジレンだが、基本的には善側に立つ二人だ。
戦う理由がない今となっては、そう険悪になる事もなく、二人の間には穏やかな空気が流れていた。
「ここが、ベルモッド様の話していた貴方の始まりの場所なのですね」
「……そうだ。俺はここで無力さを知った。無力という名の悪を知った」
ジレンの過去は、あの試合中にベルモッドから聞いた。
というか別に聞いてもいないのに勝手に語られた。
あの時はリゼットも負けるわけにはいかなかったので思考の外に追い出してしまったが、それでもジレンの願いを自分達が踏み躙ってしまった事に違いはない。
後悔しているわけではないのだ。あそこで勝たなければ今頃自分達が生きていたかは分からないし、ジレンが勝利してその願いを叶えていたなら、試合に参加した全ての宇宙が今頃は存在していなかったのだから。
全王は第7宇宙が負けても地球と自分達は残してくれると約束したが、自分達さえよければそれでよし、というわけではない。
やはり誰も消えないのが一番のハッピーエンドだ。
「ジレン、貴方の願いとは結局何だったのですか?」
「……それを話す事に意味を感じない。今となってはもう叶わぬものであり、何より正しかったのはお前達だ。俺が願いを叶えていれば、あの大会に参加した全ての宇宙が消えていただろう」
ジレンは腕を組み、目を閉じた。
その表情はどこか、己を責めるような苦渋に満ちたものだ。
「俺は……正義に全てを捧げたと言いながら、自分の願いしか考えていなかった……」
「別にいいのではないですか? 本当に正義に全てを捧げ、願いすら抱けないのでは、それはもう正義という名の機械です。
貴方は人なのだから、その願いは否定されるべきではありません」
「だが孫悟空は他の宇宙を救った」
「まあ、悟空君は……色々と変わっていますから」
リゼットは微笑み、大会の前に獲得していた力を発動させた。
それは万一の時の為の切り札として得たものだが、あの大会では結局出番が来なかったものだ。
リゼットがダークドラゴンボールに願った内容……それは、『一度だけ願いを使用する権利』だ。
神龍をいちいち呼ばずとも、いつでも願いを叶える事が出来る。そんな能力をリゼットは赤い神龍へと求めた。
言ってしまえばリゼットとダークドラゴンボールを接続したのだ。
つまりリゼットは、本当に危なくなったら願いを叶えられるというズルい能力を隠し持って大会に臨んでいたわけだ。
勿論使っても星の爆破はない。ダークドラゴンボールは七つ揃った状態で保管されているのだからデメリットはほぼ無しだ。
とはいえ、結局それの出番は来なかったので今でもその力はリゼットの中に残っている。
ならば、とその力でリゼットは一つの願いを叶えていた。
「貴方は十分に戦ったと思います。ならば少しくらい、自分の為の望みを抱いても誰も責めはしません」
「俺は正義などではなかった。トッポ達の事も利用していただけだ」
「しかし、貴方がこの宇宙で今まで救ってきたものは嘘ではないはずです」
リゼットはここに来る前に、第11宇宙を軽く調査していた。
すると見えて来たのは、ジレンに救われたものがいかに多く、大きいかだ。
ジレンに救われた人々がいた。
ジレンのおかげで明日を迎えられる町があった。
ジレンに守られた国があった。
ジレンのおかげで日常が続いている星がいくつもあった。
彼は紛れもなく英雄だったのだ。
その始まりの動機が何であれ、本心がどうであれ、彼が救ってきたものは決して嘘ではない。
だからリゼットはここに来たのだ。
自分が踏み躙ってしまった彼の願いを、彼に返す為に。
ついでに言うと、いくらジレンが強敵とはいえあの大会で散々えげつない攻撃を仕掛けてしまった事への詫びも兼ねている。
ああしなければ戦いにすらならなかったとはいえ、人体破壊と鞭打乱発は流石に善人に仕掛けていい技ではなかった。今は反省している。
「貴方は、もう報われてもいい」
リゼットはそう言い、ジレンを横切って歩き出した。
それと入れ替わるようにジレンの視界に映ったのは、遠くから走って来る誰かの姿だ。
しかしそれはありえないもので、ずっと昔に失ったはずのものだ。
そうだ、こんな奇跡があるはずがない。あの人たちはずっと昔に死んだはずなのだから……。
涙で視界が歪むのが分かる。ずっと保ち続けてきた強さという名の鉄仮面が剥がれるのが分かる。
――そこにいたのは、死んでしまったはずの家族と、師匠であった。
ジレンは思わず振り返り、リゼットの背を見る。
しかし、もうそこにリゼットはおらず、代わりに家族が一斉にジレンへと抱き着いた。
「……ッ、……ッッ!」
声にならず、ただジレンは大きくなったその腕で、かつて失った大切なものを抱き締めた。
もう二度と取りこぼさないように。これが夢でない事を確かめるように。
長く、孤独に歩み続けてきた。
仲間など要らぬ、強さだけが全てだと信じて戦ってきた。
だがそれは、失ってしまったものを追い求めて心の隙間を埋めようとしていたに過ぎず、本当はいつだって過去を悔いていた。
だから救ってきた、守ってきた。
自分と同じ思いをする人間を一人でも減らす為に、悪党を裁き続けてきた。
そしてこの日、ようやく彼の戦いは報われたのだ。
★
第7宇宙へ戻ると、何故か悟空とベジータが戦っていた。
場所は、かつて彼等が最初に戦ったギザード荒野だ。
かつての焼き直しのように二人はあの時と同じ構えを取り、しかしあの時よりも遥かに強くなっている。
当時はトワの横やりのせいでおかしな戦いになってしまったが、それでも二人はライバル関係を今も維持しているので、やはり宿命とでも言うべき何かで繋がっているのだろう。
それにしても、やはりというか悟空は身勝手の極意の使い方を忘れてしまったようだ。使う素振りも見せない。
そんな二人を天界から見ながら、リゼットは微笑を浮かべた。
「やはり神の奥義はそう簡単なものではないようですね。もう使えなくなってしまったようです」
「当たり前だ。そうホイホイ使われてたまるか」
リゼットの言葉にビルスが不機嫌そうに言う。
しかしその言葉の中に安堵に似た感情が籠っている事をリゼットは見逃さなかった。
彼にも、まだ抜かれたくないという気持ちがあるのだろう。
だが悟空はかつてゴッドになった後、気付けばゴッドを完全に物にしていたような男だ。
きっと身勝手の極意もそのうち、当たり前のように使い始める事だろう。
リゼットはあの時の悟空の、神の気の使い方を思い出しながら気を操作する。
すると、僅かにではあるがリゼットの片目が銀色に変色し、全身をあの時の悟空と同じ銀のオーラが覆った。
「っ、リゼット……お前……!」
「まだ完全ではありませんが、一度この目で完成形を見ましたからね。
ゴールが見えていれば、そこに向かうのは不可能ではありません」
身勝手の極意は極めて難易度の高い技だ。
だがこれのいい所は、超サイヤ人などと違って特定の種族しか使えないような限定変身ではないという事である。
戦闘力の爆発的な向上には神の気との融合が必要不可欠だが、リゼットは既にそこに近い領域に立っている。
まだあの時の悟空には及ばないが、それでもゴールが見えているのだからいつか辿り着けるとリゼットは確信していた。
「悟空君、あまりのんびりしている暇はありませんよ」
リゼットは不敵に微笑みながら、悟空とベジータの戦いを見続ける。
宇宙は広く、自分が予想もしていなかった破壊神だの天使だの、全王だのといった者達が現れ始めた。
この分だと、まだまだ自分達の知らぬ未知の強者があちこちに潜んでいるだろう。
ドミグラやトワのように時空間に潜む強者もいるかもしれない。
そうした者達がいつまた地球を狙うか分からない以上、研鑽を怠る事は出来ない。
「私だって、まだまだ置いて行かれる気はありませんから。
だからあんまりゆっくりしていると……また、抜き返してしまいますよ?」
今は悟空が最強だ。それは認める他ない。
身勝手の極意の使い方を忘れはしただろうが、切っ掛けがあればまたいつでも発動出来るだろう。
だから今は彼の背を追いかける。
だがいつまでも追ってばかりではない。自分だってまだまだ現役なのだ。
悟空をライバルだと思っているのはベジータだけではない。
ピッコロもターレスも……置いていかれはしたが天津飯も……そして勿論自分だって悟空をライバルと思い、追っているのだ。
気付けば前にいて、そしてその背中を皆が追っている。追いかけるうちにいつしか仲間となっている。
孫悟空とは、そんな不思議な男だ。
そんな彼がいる地球だからこそ、これからも守っていきたいと思う。
リゼットの初志はこの世界を隅々まで旅する事で、その望みを捨てたわけではない。
今回は一時的に神の座を離れただけだったが、いつかは神の座をタピオンに完全に譲って、そして自らは宇宙へと旅立つと決めている。
しかしだ……それはまだ先でいいだろう。
だって、地球はこんなにも楽しくて、騒がしくて……ここよりも楽しい場所なんてないのだから。
だから、悟空達が生きている間くらいは、このまま神様をやっていてもいい。リゼットはそう思っていた。
この世界はきっと、これからも様々なトラブルや困難が待ち受けている事だろう。
未知の強敵が現れる事もあるだろう。
だが、きっとまた何とか乗り越えていける。
大丈夫、ドラゴンボールが無くても、孫悟空がいるのだから……。
ドジで明るくて、優しくて。
そんな悟空がみんな大好きだから。
――悟空がいるから楽しい。だから、ドラゴンボールの物語はこれからも続いていく。
悟空「またな!」
リゼット「このSSの主人公って私じゃなかったんですか!?
これじゃ悟空君が主人公みたいじゃないですかヤダー!」
・最後の最後に主人公力の差を見せつける悟空さマジ悟空さ。
というわけで、『ドラゴンボールad astra』は完結となります。
今まで見て頂いてありがとうございました。
終わり方は、あれこれ考えてもうちょっと捻ってエピローグも長くすることも考えたのですがダラダラ書くより「え? これで終わり?」みたいにアッサリ終わらせてしまったほうがドラゴンボールらしいかなと思ってこうしました。
少しZの最終話をパク……リスペクトして、最終話っぽくなくしています。どちらかというと何事もなくまた次の日からあっさり続きそうな感じにしたほうがそれっぽいかなと。
……まあ実際、Zは最終話の後にGTが出てきて続いてしまいましたけど。
この後の展開も一応考えていますが、現状はヒーローズのアニメもモロ編もどうなるのか分からないので様子見です。
クウラとの決着もやりたいですし、いっそ未来の話としてリゼットが神様をタピオンに譲り、別の宇宙に旅立ってそのままDB以外の作品とクロスとかもやってみたかったりもします。
とりあえず新章まではかなり間が空くと思うので、これで一度完結とします。
もし始まったら1話目はセルが未来に帰る話からスタートですかね。
ともかく、今までありがとうございました。
更新再開した時にこのSSの事を忘れていなければ、またお会いしましょう。