ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第十八話 リベリオンドライバー

 人と人の出会いは、時に偶然によって成立する。

 例えばベタで使い古された、何の捻りもない例えを一つ出すならば曲がり角でぶつかる、などといったものがそれだ。

 もしかしたらそのぶつかった二人は男女なのかもしれないし、それが切っ掛けで知り合い、交友を結ぶかもしれない。

 そこから発展して交際するかもしれないし、上手くすれば結婚して子供を儲けるのかもしれない。

 万分の一、億分の一の可能性に過ぎないだろうが、その子孫のうちの誰かから偉人が出て歴史そのものに名を連ねるのかもしれない。

 しかし、もしもほんの少し時間がずれたならば……あるいは他の誰かに呼び止められたなら、その出会いは成立しないし、後の歴史も全く違うものとなるだろう。

 これは言うまでもなく極端な例であり、全てがそうであると言うわけではない。

 しかし決して有り得ない事でもないのだ。

 

 歴史の転換は偶然だった。

 本来存在しない異分子が、過去に戦士を送り修行をさせた。

 その結果サイヤ人の一人パンブーキンが、本来制圧すべき都市をなかなか制圧出来ずに無駄に時間を費やした。

 しかしここまで語っておいて、こう言うのは酷だが、これからの話にパンブーキンは全く関係ない。

 

 これからの話に大きく関わるのはパンブーキンの遅れのせいで巻き添えを喰い、本星への帰りが遅れた他のサイヤ人達のうちの一人、最下級戦士のバーダックだ。

 最下級戦士の出でありながら、その戦闘力はエリート戦士を凌ぐ程であり、勇猛さにおいて並ぶ者なし。

 一部のエリートやサイヤ人の王にすらその名を記憶されている、と言えばどれだけ彼が秀でているのか分かるだろう。

 その彼が妻の待つ配給所へと急いでいる最中の事。

 あまりに急いでいたのが悪かったのだろう。バーダックは道すがらで一人の子供を跳ね飛ばしてしまった。

 無論故意ではないし、悪意もない。

 しかしぶつかってしまったのは事実であり、非はこちらにある。

 サイヤ人にしてはそこそこの良識を持つバーダックは、倒れてしまった子供を見ると、面倒くさそうに手を差し出した。

 

「っと、悪かったな。急いでたんだ。立てるか? 小僧」

 

 言いながら相手の顔を見る。

 そしてバーダックはわずかに目を見開いた。

 そこに転んでいる子供……その容姿が自分とそっくりだったのだ。

 特に、妻からも特徴的と呼ばれる髪型などそのままだ。

 もしこの二人を並べれば、きっと親子と勘違いする者も出るだろう。

 あえて違いを言えば、バーダックと比べてやや色黒というくらいか。

 

「なんだ、オッサン。俺の容姿がそんなに気になるか?

別におかしな事じゃねえ……俺達使い捨ての下級戦士はタイプが少ないからな……。

そりゃあ、こういう事もあるさ」

 

 不敵に笑いながらバーダックの手を払い除け、少年が立つ。

 どうやらバーダックと似た外見に違わず、かなりの跳ねっ返りのようだ。

 しかし不快ではない。サイヤ人とはこのくらい威勢がよくてナンボの人種だ。

 バーダックもまたニヤリと笑い、少年に悪態をつく。

 

「確かにその通りだが……こうもソックリだと、流石に気味が悪い。

お前、ターレスだな? 俺にソックリのガキがいるって、噂だけは聞いてたぜ」

「へっ、そういうアンタはバーダックだな?

下級戦士にしちゃ、やけに腕が立つ奴がいるって評判だ。

……一度、手合わせ願いたいね」

 

 サイヤ人は戦闘種族である。

 戦えば戦うほど強くなる特性に、大猿への変身、高い平均戦闘力。

 そしてそれらの特性を支える、旺盛すぎる戦闘意欲を共通して備えていた。

 戦闘意欲の薄いサイヤ人など、バーダックの妻であるギネくらいのものだろう。

 

「威勢のいい小僧だな。

いいぜ……今日はちと用事があるから受けてやれねえが、明日にでも受けてやる。

場所は第5トレーニングルーム……どうだ?」

「面白い。同い年のガキ共はどいつも腑抜けでつまらなかったんだ。

アンタのガキのラディッツってのも含めてな。

親父のアンタが息子とどれだけ違うのか確かめてやるぜ」

 

 

 

 ――結果は、ターレスの惨敗だった。

 

 無理もない事だ。

 いかに強いとはいえ、まだ幼年であるターレスと大人の中でもトップクラスのバーダックとでは始めから結果が見えている。

 しかしターレスは一度の勝負ではへこたれなかった。

 二度、三度、四度……その日より彼は幾度となくバーダックに勝負をふっかけ、とにかく暇さえあればバーダックに喧嘩を売った。

 己よりも遥かな高みにいる男、その出会いに生き甲斐を見出したのかもしれない。

 いつかバーダックを倒し、跪かせて命乞いをさせてやると鼻息荒く彼は語った。

 そしてバーダックもまた、そんなターレスの挑戦を面倒臭そうにしながらも、決して断らなかった。

 時には惑星侵略にすら彼を連れ出し、命令違反を犯して戦闘経験を積ませた。

 いつしか彼等は常に一緒にいるようになり、その様はまるで本当の親子のようであった。

 口は悪く、何かといえば罵声を飛ばし合う間柄ではあったが、そこには気の知れた友人のような気さくさがあった。

 

「おいターレス……お前、親はどうした? 一度も見た事がないが」

 

 ある日の配給所で、ギネの運んでくれた肉を頬張りながらバーダックはターレスに親の事を聞いた。

 普通ならこういう時はもっと遠まわしに、それとなく聞くものだが、生憎とバーダックにそんな器用さなどない。

 そして問われたターレスもまた、気にした様子もなく肉に齧り付いていた。

 

「ああ、死んだ。侵略先の星で原住民に抵抗されてあっさりとな」

「……辛いか?」

「いや全然。あの男が死んだのは、あいつが弱かったからだ。

所詮は下級戦士、無様なもんだ」

 

 ターレスはまた、肉を齧る。

 そして咀嚼もそこそこに、テーブルを強く叩いた。

 

「だが俺は違う! 俺は強くなってみせる!

そしていつか、フリーザに取って代わり、この全宇宙を俺の前に跪かせるのだ!」

 

 思わずバーダックとギネは周囲を見渡す。

 もしここにザーボンやドドリアがいて、今の発言を聞かれていたらその場で処断されている危険発言だ。

 しかし幸いにも彼等はいなかったようで、ほっと一息をついた。

 

「へっ……大した野心だ。俺に一度も勝てねえガキがほざきやがる」

「他人事みたいに言うなよ。

もしかしたら、アンタ譲りかもしれないんだぜ?」

「……?」

 

 バーダックとターレスに血の繋がりはない。

 したがって、譲るも何もない。

 ターレスもそれは十分に承知しているはずなのだが、にもかかわらず出てきた言葉にバーダックは目を丸くした。

 

「知ってるか? アンタのガキ……ラディッツと俺だが、もしかして取り違えたんじゃないか、って噂があるんだぜ。丁度育児ポッドも隣だったしよ。

俺も眉唾物とは思うんだがな……ほら、誰が見ても俺の方がアンタと似てるだろ。

性格も、下級戦士離れした戦闘力も、な……。

無様に死んだあの男も、俺とは似ても似つかない前髪が後退したロンゲ男だった。

もしかしたら――もしかするかもしれないぜ……なんて」

「はっ! ばぁか!」

 

 ターレスのその言葉に、バーダックは彼の頭を押さえつける。

 そして自らとよく似たその髪の毛をわしゃわしゃと乱暴に撫で回した。

 

「誰がお前みてえな可愛げのねえガキ欲しがるかよ。

お前みてえのはな……弟子で十分だ! それもとびっきり可愛げのねえ、出来の悪い弟子だ!

わかったら二度と下らねえ事ほざくな!」

「わったた……痛っ、いてえってば!」

 

 ターレスは不機嫌そうにバーダックの手を払い除ける。

 そしてしばらく彼を見た後、いつも通りの笑みを浮かべた。

 

「そうか、弟子か……俺はアンタの弟子……。

……へへっ……なら、それでいい」

 

 そう言って、ターレスは満足そうに笑った。

 

 

「よおバーダック、次男が生まれたんだってな?」

「ターレスか」

「聞いたぜ、戦闘力2だってな。

隣のガキ……ブロリーってのが1万ってのを考えると、ひでえもんだなオイ」

 

 数年経ち、以前よりも逞しくなったターレスがバーダックへと話しかける。

 今や二人の容姿はほぼ変わらず、僅かに顔立ちや肌の色が異なるのみだ。

 いや、まだ若干バーダックの方が身長が上だろうか。

 

「全くだ。このバーダックのガキともあろうものが……クズがっ!」

「だが、喧嘩して隣のガキを泣かせたらしいじゃねえか。

戦闘力は低くても根性は大したもんだ。間違いなくカカロットはアンタのガキだぜ。

……強くなるぜえ、そいつはよ。何ならこのターレス様が鍛えてやろうか?」

 

 そう言い、ターレスは育児ポッドの中の赤子を見る。

 穏やかに眠るそのあどけない表情はなるほど、母親の面影を思わせる。

 しかし特徴的な頭髪は父親そっくりだ。

 ターレスはポッドを乱暴に叩き、からかうように話す。

 

「よおカカロット、てめえよく生まれたなあ。

誇れよ、お前。お前の親父はこのターレス様も認めている男なんだ。

……早く大きくなれよカカロット……んでよ、大きくなったら俺と一緒に暴れようや。

好きな星をぶっ壊し、美味い物を喰って、美味い酒に酔う……こんな楽しい生活はないぜえ」

「おいターレス、てめえ人のガキに何教えようとしてんだ」

 

 バーダックが容赦のない拳骨をターレスへと叩きこむ。

 戦闘力も大分近付いた事もあり、バーダックの突っ込みには容赦がない。

 無論それは、ターレスならば大事に至らないというある種の信頼が取らせる行動だ。

 そしてターレスもまた、言葉にこそしないがそれを理解していた。

 

 それはターレスにとって幸福な日々だった。

 超えるべき目標、超えたくない目標。

 いつものようにバーダックに突っかかり、負けて、一緒に飯を喰い。

 共に肩を並べて戦い、背を守り、守られる。

 何かあれば口汚い罵声を飛ばし合い、喧嘩に発展してまた負ける。

 負けるのは屈辱であったが、しかしターレスは心のどこかでそんな日々が続く事を望んでいた。

 ずっと続くのだと、思いたかった。

 

 しかし永遠などない。

 終わりはいつか訪れる。

 

 

 

 それは、ターレスが辺境の惑星を攻めている時の事だった。

 バーダックが妙に勧めるから、気乗りはしないが向かってみたものの、やはり拍子抜けする程に雑魚しかいなかった惑星を攻め落とした日の事。

 その日、ターレスの持つスカウターはやけに調子が悪かった。

 いや、というよりは通信システムだけが意図的に弄られていたというべきか。

 その事に気付いたのは星を滅ぼした後であり、ターレスは仕方なくありあわせの機材でスカウターを修理し、バーダックへの通信を飛ばした。

 

「お、ようやく繋がったか。

おいバーダック、こっちはお前に言われた惑星を今、潰した所だ。

しかしわからねえな。こんな星に一体何の価値があるってんだ?」

『…………』

「だが途中で立ち寄った星で面白い物を見付けたんだ。

神精樹っていうらしくてよ。こいつを食えば戦闘力が……って、聞いてるのか? バーダック」

 

 一方的に話していたターレスだが、バーダックの様子がおかしい事に気付き、言葉を止める。

 通信はちゃんと直ったはずだ。

 なのに返事がないとはどういう事だろう。

 周波数はちゃんとバーダックに合わせているし、聞こえていないはずはないと思うが。

 まさかスカウターそのものを付けていないのだろうか?

 そう考えているとスカウターから聞きなれた、しかしバーダックのものではない女性の声が響く。

 

『その声……ターレスかい?』

「ギネ。何であんたが……?」

『バーダックなら、もういないよ。

フリーザを止める為に行ってしまったからね』

「フリーザを……? おい、そりゃどういう事だ?」

 

 ターレスの背筋を悪寒が走りぬけた。

 今までに感じた事のないような、嫌な予感だ。

 まるでこれから、全てを失ってしまうような……そんな取り返しの付かない事が起ころうとしている。

 何故だか、それは確信染みた恐怖を伴ってすらいた。

 

『フリーザが私達を裏切ったんだ……トーマ達も殺されてしまったらしい。

バーダックがそう食堂で叫んでたって、私もさっき聞かされたんだ。

他の皆は信じてないようだったけどね……』

「! トーマ達が……!?」

『バーダックはフリーザを倒す為に一人で飛んで行ってしまったよ。

……けど、どうやら……駄目だったみたいだ』

 

 スカウターの向こうから聞こえるギネの声には、泣き声のような嗚咽が混ざっていた。

 恐らく向こう側で彼女は泣いているのだろう。

 それに――何だ? 何かが迫っているような音が聞こえる。

 何かとてつもなく大きな、炎か何かが迫っている音だ!

 

「おい! ギネ! 何だこの音は!!

一体そっちで何が起こっている! ギネ!!」

『ターレス……私は、あの人と一緒にこの星と運命を共にするよ。

きっと、一人じゃ寂しいだろうからさ……。

ああ、そうだ……バーダックの提案で地球にカカロットを飛ばし子として送ったんだけどね……あんた、あの子の事を……』

 

 ギネの言葉はそれが最期だった。

 まだ言葉の途中だったろうに、直後に聞こえた爆発音に全てが飲み込まれたのだ。

 鼓膜を破るような音はほんの一瞬のみであり、後は通信切れの雑音が響くばかりだ。

 恐らく、向こうのスカウターそのものが破損したのだろう。

 

「…………おい?

おい、ギネ? ……お、おい。冗談が過ぎるぜ?

なあ、これは何かの嘘だろう? ふ、二人で俺を驚かせようとしてるんだよな?」

 

 何度も周波数を合わせ、通話を試みる。

 何度も何度も。何度も何度も。

 だが彼女の声は聞こえない。バーダックの声も聞こえない。

 

 動揺する一方で、ターレスの冷静な戦士の部分は考えていた。

 あの不吉な音はきっと、巨大なエネルギー弾か何かが惑星ベジータに迫っていた音だ。

 ギネとの最期の通信で記録されている座標も惑星ベジータだから、間違いはない。

 そして恐らく、その気弾の直撃によって惑星ベジータとギネは消滅してしまった。

 

 彼女の最期の言葉から察するに、犯人はフリーザだ。

 というより、あいつぐらいしかそんな事を実行に移せない。

 そしてバーダックはそれを察し、カカロットを地球とかいう惑星に飛ばし子として逃がし、単身フリーザに挑んだ。

 そしてその結果は……。

 

「……フリーザ……」

 

 怒りで拳から血が溢れる。

 歯を食い縛り、身体中の血液が沸騰しそうなくらいに頭が熱くなる。

 脳裏に浮かぶのはあの、自称宇宙の帝王フリーザ。

 その顔を思い浮かべるだけで殺意に全身が支配される。

 

「フリィィィィィィザァァァァァーーーーッ!!!!」

 

 叫ぶと同時に地面が爆ぜた。

 それでも晴れぬ感情を少しでも冷ますかのように、ターレスは辺り一面に気弾をバラ撒く。

 もう壊滅した惑星へのオーバーキルであり、当然その行為に意味などない。

 それでも、こうして何かに当たり散らさねば怒りでどうにかなってしまいそうだった。

 

「くそっ!」

 

 分っている。この行為に意味などない。

 フリーザは今頃高笑いをあげているだろうし、あのバーダックが敗れた以上、自分ではその仇など討てやしない。

 

「くそっ! くそっ!」

 

 だが、このまま終わりはしない。

 終わってなどなるものか。

 まだサイヤ人は滅びていない、まだ自分とカカロットが残っている。

 ならば何時の日か……いつの日か、フリーザを玉座から引き摺り降ろしてやる。

 全宇宙を支配し、あいつの頭を踏み躙って虫ケラのように岩場に叩きつけ、跪かせて命乞いをさせてやる! その上で屈辱の中で殺してやる!

 

「くそおおおおおおおおおおーーーッ!!!」

 

 ――この日を境に、ターレスは残忍な悪のサイヤ人へと変貌した。

 元々悪に偏っていた男だが、この一件で完全に悪として振り切れてしまったのだ。

 いつか必ずフリーザを殺す――その執念だけで彼は強くなり、星々を侵略して己の養分へと変え続けた。

 そして十数年後、やがて彼はその惑星に目を付ける事となる。

 

 その惑星の名は地球。

 かつて、カカロットが飛ばし子として送られた銀河の辺境であった。




Q、このSSではターレスとラディッツは本当に取り違えてるの?
A、違います。ラディッツは正真正銘バーダックの息子ですのでご安心を。
ターレスの発言は、『そうだったらいいな』という彼の願望に過ぎません。

時の界王神「……よし、あの部屋壊そう。やばいわアレ」
トキの部屋「最早ここまでか……死兆星が私の頭上に輝いている……」

※時の部屋が何かの法に接触したようです。

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