ドラゴンボールad astra   作:マジカル☆さくやちゃんスター

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第十九話 地球まるごと超決戦(1)

「あれが地球か」

 

 宇宙船の中、髪をおさげにした赤い肌の巨漢が地球を眺めて感心したように呟く。

 その隣では青い長髪を首の後ろで束ねた男が腕を組み、素直な感想を口にした。

 

「美しい星だな。辺境の惑星も捨てたもんじゃない」

「……まさか……地球は確かカカロットが送られた星のはず。

とっくに滅びていてもおかしくないはずだが……」

 

 青髪の男の言葉に被せるように、別の男の声が割り込んだ。

 その声は、もし悟空を知る者が聞けば彼と勘違いしてしまうだろう。

 暗がりの中から歩み出たその男の容姿は、例えるならば肌の黒い悟空といったところか。

 黒い戦闘服を着用し、左目にはスカウター。

 戦闘服の上から白いマントを羽織り、宇宙船の窓から地球を眺めた。

 

「それにしても美しすぎるな。

カカロットめ……サイヤ人の本分も忘れたか?」

 

 男――ターレスはフリーザの抱える軍団の一つ、『クラッシャー軍団』の首領である。

 しかしフリーザ一味に属してこそいるものの、その心に忠誠などはない。

 だからといってベジータに忠誠を誓っているかと言えば、これも違う。

 ベジータなどとうに眼中にないし、フリーザにしても今はまだ従っている振りをしているだけだ。

 いずれは自分がフリーザに代わり全宇宙を支配する……そんな悪しき野心を、彼は心に秘めていた。

 そしてその野心の成就の為に、この地球に目を付けたのだ。

 

「ベジータのお坊ちゃんを退けたようだが、俺はあいつとは違う。

俺は絶えず最前線で戦い、何度も死にかけてきたんだ……バーダックのようにな。

願いが叶うというドラゴンボールも、この星の豊かな土壌も、全て俺が頂く。

そしてカカロット……貴様は息子共々俺の配下に加わるのだ」

 

 ターレスは野心に歪んだ笑みに口の端を釣り上げる。

 かつてバーダックの教えを受けた男と、バーダックの息子。

 その邂逅は、すぐそこにまで迫ってきていた。

 

 

 ナッパはあれから、リゼットに言われた通りどこかへと飛んで行った。

 どうせすぐに人殺しなどに手を染めて、結局自分が処断する事になるのだろうと思っていたリゼットだったが、ナッパは今の所何も悪事を働いていないようだ。

 それどころかとっくの昔に消えたと思っていた龍天女教へと入信し、毎日毎日五月蝿いくらいの祈りを捧げている。

 正直意外……というか完璧に予想外過ぎた。何がどうしてああなった。

 

 いくつか理由を挙げるとするならば、まずその一つにサイヤ人の女性の好みが挙げられるだろう。

 サイヤ人というのは今更語るまでもなく戦闘種族であり、必然的にその女性も好戦的かつ気の強い女ばかりになる。

 ならば子孫を残すという意味でもサイヤ人の男はそういった女を好きになるよう本能で仕込まれており、彼等は一部の例外を除き気の強い女性を好む傾向にあった。

 勿論強い女というのも大好きだ。何せ戦闘力は遺伝による要素も大きく強い子供を残すならば伴侶も強い方が望ましい。

 つまり戦闘力、気の強さ共に強い女というのはサイヤ人の男にとって理想の女性像なのである。

 リゼットはその見目はともかく、一見すると穏やかな女性でありサイヤ人の好みには合わない。

 実際ナッパも最初は見目の麗しさ以外に興味を持ちはしなかった。

 だが実際蓋を開けてみればナッパのセクハラ発言に痛烈なカウンターを返すわジンコウマン達を相手に全く怖気付かないわ挙句の果てに大猿になったベジータすらボコるわで散々であった。

 こうなれば流石にナッパも気付く。『あ、こいつ滅茶苦茶気が強いわ』と。

 そしてそこに、聖母の如き微笑みと見逃し宣言である。

 実際は裏で悟空の命乞いがあったり、笑顔は嫌悪感を隠すための仮面だったりしたのだがナッパがそこまで察するはずもない。

 ついでに言うならばナッパは散々叩きのめされた後にベジータに見捨てられて屑とまで呼ばれるトリプルコンボを喰らった後であり、心が酷く弱っていた。例えるならば世界的に有名なボクサーが絶対に負けるわけもない地方の高校のボクシング部にドヤ顔で殴りこんだら一方的にボコられてコーチから『え? お前そんな雑魚かったの? ……ないわー』と絶縁状を叩き付けられたようなものだ。これは心が折れる。

 更に加えるならばナッパは誰かに優しくされた経験が皆無であった。

 名門出のエリートと自称はしており、実際に戦闘力4000は名門として恥じるようなものではないが、しかし飛び抜けているわけでもない。

 あの王子の側近をするならせめて6000はないと厳しい。

 例を挙げるならば、ナッパ同様に名門出のエリートであったパラガスという男は戦闘力9000である。

 更に加えて言うならば、下級戦士のバーダックは9000、トーマが5000、パンブーキンが4200、トテッポが4000であり、ますますナッパの肩身は狭かった。

 その為周囲からは名前だけの名門などと蔑まれ、更に我侭なくせに戦闘力18000の王子のお守りを毎日続けねばならない。

 繰り返すがナッパは決して弱くない。ただ比較対象が強すぎただけだ。

 そんなストレスからとうとう彼の頭髪は完全に失われ、彼は見事なハゲとなった。

 ここで思い出して欲しいのがサイヤ人の頭髪の特徴である。

 サイヤ人は生まれた時から無駄に頭髪が変化しない――つまり地球人のように頻繁に抜けもしないが生えもしない。

 故に一度ハゲとなったナッパに髪が生える希望はなく、彼は生涯ハゲをここで決定付けられ、彼への陰口が一つ増えてしまった。

 サイヤ人が絶滅した後もフリーザやその側近に馬鹿にされる日々……腰巾着と呼ばれ、金魚の糞と呼ばれ、ハゲと言われる。うるせえぞドドリア。お前だって髪なんかねえだろ。

 黙れザーボン。ちょっと顔がいいからって会う度に醜いと連呼するな。

 

 我侭過ぎる三十路王子のお守り……。

 隠す気もなく続く陰口の数々……。

 圧倒的な戦闘力格差……。

 ベジータとの差が大きすぎる為に言われる『あの二人いらなくね?』のその通りすぎる言葉……。

 サイバイマンを買う為に軽くなり続ける財布……侵略の度にベジータの思い付きで無駄に減らされるサイバイマン……。

 唯一の格下であるラディッツの死。それによって自動的に成立するヒエラルキー最下位……。

 存在しない居場所……労わられない日々……増え続ける仕事……増え続ける心労……。

 休日なき日々……たまの休暇でも呼び出される……無駄にプライドだけは高い王子様……ベジータの引き立て役……。

 ナッパはもうとっくに限界だった。そう、限界だったのだ。髪が全て抜け落ちる程に限界ギリギリパワーだったのだ。

 

 そこにかけられる優しい言葉。

 見目麗しい少女の微笑み。

 溢れ出る神々しい後光。

 そしてリゼットもあまり自覚していない、何時の頃からか会得してしまっていたカリスマ性。

 具体的には天女と呼ばれ始めた頃から芽吹き、信仰を集める事で成長し、そして神となる事で花開いてしまった人が自然と頭垂れて信奉してしまう人ならざる文字通り神がかった存在感。

 それが弱りきったナッパにジャストミートした。クリティカルヒットした。オーバーキルして死体蹴りした。

 故にこその結果であり――だがリゼットがそれを知る方法はなかった。

 

 ともかく、これで犠牲なしでサイヤ人との戦いを乗り切る事には成功したわけだ。

 悟空も重症ではあったが仙豆によりすっかり回復し、今では前よりも調子がいいくらいだ。瀕死パワーアップ美味しいです。

 リゼットは天界より下界を見下ろしながら、次の事を考える。

 本来の流れならば、この後はナメック星編だ。

 死んだ仲間達を蘇らせる為にナメックの星へ行く必要があるわけだが、ここではその必要がない。

 では、もし自分達が行かなかったらどうなるのだろう。

 まずベジータは、永遠の命を得られないだろう。

 6つまでは集められるかもしれないが、最後の一つは最長老の所にある。

 そしてベジータではネイルに勝てないのだから、その一つを得る事は決して無い。

 後はギニュー特戦隊の登場でベジータが殺されて、それで終わりだ。

 

 かといって、フリーザも願いを叶える事は出来ないだろう。

 まず最長老の寿命が尽きてしまうだろうし、その前に集めたとしてもナメック語が分からない。

 もしかしたらデンデ辺りを脅してポルンガを呼び出す所までは行くかもしれないが、結局願いを言うのはデンデだ。

 つまりナメック星人側には必ずチャンスが訪れる上に、デンデがここで何を願ってもフリーザには分からない。

 だからここで『フリーザ以外を別の惑星に逃がしてくれ』とでも頼めば、そこで終わる。

 フリーザの事だから、もしかしたらナメック星人達を見付けてしまうかもしれないが、どのみちもう最長老は死んでいるだろう。

 そうなれば次にフリーザが目を付けるのは……。

 

「……このままだと、そう遠く無い未来にフリーザが地球に来てしまいますね」

 

 私情を抜きにして冷酷に考えるならば、一番いいのはフリーザがナメック星を滅ぼした後にそのまま地球をスルーする事だが、そう都合よくいくとは思えない。

 地球にもドラゴンボールがある事は既に伝わっているだろうから、遅かれ早かれ絶対にフリーザはこちらに目を付けてしまう。

 それにナメック星との友好関係が結べないのも後々を思うと辛い。

 何より、戦力面はどうだ? 

 地力だけならば地球でも上げる事は出来る。

 リゼットが修行を付ければ、きっと悟空やその仲間達はナメック星に行くのと遜色ない強さまで伸びてくれるだろう。

 だが超サイヤ人は? あれはフリーザとの戦い抜きでなれるものか?

 …………。

 ……いや、待て。冷静に考えるとあれ案外、条件軽いかもしれない。

 悟空の名シーンに眼を曇らせがちだが、別に覚醒するのに名シーンである必要などない。

 悟飯が妄想で覚醒していたし、恐らく最も厳しいのは感情よりも、覚醒に必要な最低戦闘力だ。

 逆にそれさえクリアしてしまえば、後は妄想の怒りでも覚醒出来てしまうだろう。

 しかし最大の問題はやはり、ナメック星とのパイプが出来ない事。

 これはどうにかしないと、後々に本当に詰む。具体的にはブウ編で詰む。

 

(……ピッコロ達を死なせてしまう方が正解だった?

違う、そんなはずはない。見殺しにするのが正解なわけがない。

考えろ……私の持つ最大の利点はこの知識。

どうすれば、有利に立ち回れる? この星を守る事が出来る?)

 

 ……まず、重要な点は二つ。

 ナメック星のドラゴンボールで万一にもフリーザかベジータが不老不死になってしまう事。

 そして、ナメック星人の全滅により今後の運命が悪い方向へと流れる事。

 要は、まずこの点に注視してそれを防げばいい。

 

(ドラゴンボールを使って、ナメック星人全員を地球へと転移させる……。

……いや、無断転移では信用を得られません……まずは最長老に話を通さないと。

悟空君を通して、界王様経由でまず私からナメック星の危機を伝えて同意を得る。そうすれば……)

 

 外面は涼しげな顔のまま、頭の中で必死に今度の展望を巡らせる。

 まずはナメック星人全員をドラゴンボールで地球へ転移させてしまうというのはどうだ?

 当然向こうも戸惑うだろうが、理知的なナメックの人々ならば事情を説明すれば理解してくれるはずだ。

 そうすればとりあえずフリーザとベジータはしばらく、ナメック星で混乱してくれるだろうし、上手く潰し合ってくれるかもしれない。

 フリーザはその後、当然地球に来るだろうがこちらも準備をするだけの時間は得られる。

 ナメック星のドラゴンボールも使わせてもらえるなら、フリーザ一味の宇宙船を宇宙空間で破壊してしまうという手も可能だ。

 そうすれば宇宙空間で生存可能な宇宙人以外は死滅するだろうから、地球に来るフリーザの軍勢も一気に減るし、上手くすればそのままフリーザが宇宙の迷子になってくれるかもしれない。

 

 ……いや、駄目だ。この手は使えない。

 ドラゴンボールは悟空の蘇生に使ったばかりで、次の使用には1年の期間を待たなければならない。

 1年など待っていたら、ナメック星人が滅びてしまう。

 つまり地球に残ったままどうにかする、という選択は取れない。

 

(やはり、ナメック星に向かうしかないようですね……しかし、どう皆に説明したものか。

理由はないけど、とりあえず行きましょうと言った所で誰も来ないでしょうし……。

私一人で行っても、多分フリーザには勝てませんし……)

 

 いっそナメック星がベジータやフリーザに狙われているとぶっちゃけてしまおうか?

 そうなると、当然『何故知っている』という話になるが、そこは気の探知でナメック星を狙うフリーザが視えたとでも言えばいいだろう。

 実際嘘ではない。リゼットが本気で気の探知と遠視を行えば、遠く離れたフリーザの姿だろうと視る事が出来るし、実際にフリーザはナメック星へ向かう準備もしている。

 

 しばし目を閉じ、思案していたリゼットだが唐突に思考を中断して弾かれたように顔をあげる。

 地上で何か、妙な物が蠢いている事に気が付いたのだ。

 それに、よく探って見れば気の質もおかしい。

 慌てて下界を覗き見れば、不気味に育つ妙な樹の存在が嫌でも目に入った。

 今はまだ育っている最中だが、もしこれが育ちきれば地球の養分が全て吸い取られてしまう。

 ぼーっとしている場合じゃない。

 

「これはまさか、神精樹!?」

 

 神精樹――神のみが口にする事を許された禁断の果実だ。

 そしてそれは、この地球の神殿にも一つだけ種が保存されている。

 しかしリゼットはそれを使った事などないし、地球に向けて使うつもりもない。

 惑星フリーザとかを見付けたら使ってやろうかという気持ちはあるが、少なくとも己が守護すべき地球に使うなどという本末転倒な使用法を実行する気は皆無だった。

 つまり誰かが宇宙から持ち込んだとしか考えられない。

 その時、突如としてリゼットの脳裏に何者かの声が響いた。

 

『地球の神よ、聞こえるか? 儂は北銀河一帯を治める界王だ』

「! か、界王様?」

 

 その存在は知っていたが、声を聞く事はこれが初めてである。

 リゼットは余りに唐突な銀河の神からのコンタクトに、流石に声を上ずらせた。

 

『地球は今、大変な事になっておる。

神精樹の事はお前も知っておろうが、その種が地球に植えられたのだ』

「……やはり、そうでしたか」

『悟空達は既に元凶の元へ向かっておるが、彼等だけでは神精樹をどうにかする事は出来ん。

神精樹に対処出来るのは地球の神よ、お前だけだ。

悟空達に手を貸してやってくれ』

「畏まりました界王様。地球の危機への協力、ありがとうございます。

――兎人参化、来なさい! 地上へ向かいます」

「はい、仰せのままに!」

 

 界王に礼を言うと、リゼットは兎人参化を連れて天界から飛び降りた。

 そして背中から翼を出し、加速。

 降りる最中、爪とぎで爪を研いでいるカリンが見えた。あの猫はいつでもマイペースである。

 悟空達ですら肉眼では追えぬ速度となり、一気に神精樹との距離を詰める。

 問題の場所では既に悟空、クリリン、天津飯、ヤムチャ、餃子が異星人達と相対しているのが見えた。

 ピッコロはまだおらず、悟飯は……まあ、どうせチチに止められたのだろう。

 翼を羽ばたかせて減速し、風を巻き起こして悟空達の後ろに着地する。

 その突然の登場に悟空、異星人達が共にぎょっとし、リゼットへ視線を集中させた。

 

「神様!」

「遅れてすみません。話は既に界王様から聞いております。

神精樹は私が何とかしますので、貴方達は敵を掃討して下さい」

 

 悟空に対し、余計な説明を省いた頼みをする。

 神精樹の対処は流石に手間であり、邪魔をされては面倒極まる。

 敵を全て消してから対処する事も可能だが、その場合は時間がかかるので地球の被害が広がる一方だ。

 神精樹は発芽してしまう前に枯らし、潰してしまうのが一番いい。

 その為にも、余計な戦闘は全て省きたかった。

 

「おい聞いたか悟空。何とか出来るってよ。流石はうちの神様だぜ!」

「ああ、これでオラ達はあいつらの相手に集中出来る」

 

 敵の数は今の所5人。こちらもリゼットを除いて6人。

 人数は勝っているが、気は悟空は例外とし、やや敵側が勝っている。

 数値にして敵は大体8000前後といったところだろう。

 他の五人が抑えているうちに悟空が一人ずつ潰して、そして手の空いた仲間と一緒にまた別の誰かを潰して回るというのが理想的か。

 

「皆、任せましたよ」

「おっと、行かせるとでも……」

 

 飛翔しようとするリゼットの前に赤い巨漢が飛び出る。

 だが彼ではリゼットの妨害など出来るはずもない。

 構わず飛んだリゼットに正面から激突し、まるでトラックに衝突した一般人のように『撥ねられた』のだ。

 かくして神は来て早々に戦場を離脱し、後には地球を守る戦士達と侵略者だけが残された。

 

「……どうやらあの女、俺達全員でかからないと危ない相手らしいな。

仕方ねえ、まずはこいつ等を倒して全員で向かうぞ」

「果たしてそう上手くいきますかねえ?」

 

 イヤリングやネックレスを付けた青い髪の男が一早くリゼットの妨害には全員が必要だと悟り、戦闘へと思考を切り替える。

 それを迎え撃つように兎人参化が立ち塞がり、サングラスを輝かせた。

 

「つまりこの戦い、勝った方がそのまま神精樹に向かい、今後を左右出来るってわけだ」

「どうやらそうらしいな」

 

 身長の低い、全く同じ容姿の宇宙人が二人並び立つ。

 名をレズンとラカセイといい、未知の技術を持っていると言われているビーンズ人だ。

 しかし相手が二人ならばこちらも二人。

 地球からは天津飯と餃子がこれを迎え撃つ。

 

「全員ぶっ潰してやるぜ」

「出来るもんならやってみろ」

 

 先程リゼットに撥ね飛ばされた巨漢が立ち上がり、戦士達を見下ろす。

 それに対抗するように前に出たのはクリリンだ。

 

「ローンの恨み、晴らさせてもらうぜ!」

『……ンダ』

 

 最後にヤムチャがよく分からない事を言いながら構え、それに対し全身機械のサイボーグが立ちはだかる。

 実にどうでもいい事なのだが、ヤムチャは彼等が神精樹の種を植える時に放った気弾の余波に偶然当たり、ローンで購入した新車を壊されてしまったのだ。

 無論そんなのは彼等の知る所ではなく、知ってもどうでもいい事でしかない。

 

「よし、ならオラは……」

 

 そして一人余る事になった悟空は、まず仲間達の援護をする事を決めた。

 この戦いは先に一人崩した方が圧倒的に有利となる。

 何せ一人余れば、その一人は別の誰かの援護に向かい2対1の状況に持ちこめてしまうからだ。

 だから仲間達の援護という選択は決して間違いではない。

 ……相手側に、6人目が控えてさえいなければ。

 

「暇そうだな。俺が相手になってやるぞカカロット」

 

 声が響いた。

 悟空の声とよく似た、しかし冷たい声だ。

 声の聞こえた方向を振り向き、そこで悟空は一瞬そこに鏡があると勘違いをした。

 しかしすぐに気付く。違う、鏡ではない。

 己とよく似た容姿の、そして遥かに巨大な気を持つ何者かだ!

 

「お、おめえは……!」

「俺の名はターレス。

貴様は俺の事を知らないだろうが、俺は貴様をよく知っているぜ。

……なるほど、親父にそっくりだ」

「そ、その顔は……」

「ああ、俺が貴様に似ているってか? 無理はない。

俺達使い捨ての下級戦士はタイプが少ないからな」

 

 口の端に弧を描き、ターレスは余裕を感じさせる声で語る。

 スカウターに表示された悟空の戦闘力を見ても、尚その余裕は微塵も揺るがない。

 

「しかし、顔は同じでも中身は貴様とはまるで違うぞ」

「何!?」

「かかって来いよカカロット。俺と遊ぼうや。

バーダックの倅の力、俺に見せてくれ」

 

 指をクイ、と動かしてターレスは悟空を挑発する。

 その瞳には剣呑な輝きが宿り、同時にどこか過去を懐かしむような憂いも混ざっていた。




【地球まるごと超決戦】
『ドラゴンボール』シリーズの劇場公開作第6弾。
悟空達がサイヤ人の事を知っており、かつ誰も死んでいないので、犠牲者なしでベジータ&ナッパを撃退した世界線であると考えられる。
『この世で一番強いヤツ』と同じ世界線だろうか。
ボスのターレスはともかく、取り巻きのクラッシャー軍団も異常に強く、全員がナッパを軽く捻れる実力者。
どうでもいいが、この劇場版でピッコロさんが突然戦闘力18000に急上昇している。飲料水と間違えて超神水でも飲んだのだろうか。

【ターレス】
クズロット素材として大人気のお方。
ブロリーMADを見る方ならば『死ねえー!』、『サイヤ人はサイヤ人らしい生き方をしろ』、『仲良くしようや』、『こんな楽しい生活はないぜ』、『虫けらのように岩場に叩き付けるのだ!』、『全宇宙を跪かせるのだ!』などの台詞を吐くクズロットを一度は目にした事があるのではないだろうか。
映画パンフレットに示された戦闘力は19000だが、当時戦闘力30000だった悟空の界王拳10倍を返り討ちにしているので、どう低く見積もっても戦闘力30万以上はあると思われる。強い。
後に登場するスラッグと違って結構部下の存在を重要視しているのか、至る所で仲間を勧誘しているらしい。
クラッシャー軍団は全員、ターレスが自ら勧誘した者達。
上司としてはかなり優秀な部類かもしれない。

【ダイーズ】
クラッシャー軍団の副リーダーっぽい人。
映画パンフレットによると戦闘力は8400。
元はカボーチャ星プキンパ王朝の王子だったらしい。
パンブーキンとの関係は不明。子孫だろうか。

【カカオ】
クラッシャー軍団の一員。
イコンダ星で起こった星間大戦の際に作られた戦闘サイボーグ。『ンダ』しか言えない。
映画パンフレットによると戦闘力は13000。こいつだけやたら強い。

【アモンド】
クラッシャー軍団の一員。
宇宙警察機構(銀河パトロール?)によって逮捕されナッツ星の刑務所に収監されていた凶悪な犯罪者。
語尾に『でっせい』と付けてキャラ付けをしている。
映画パンフレットに示された戦闘力は9100。
外見がやたらボラと似ており、声まで同じ。
ボラ「ま、まさか貴方は幼き日に家を飛び出していった兄さん……!?」

【ラカセイ&レズン】
クラッシャー軍団の一員。
双子で戦闘力は7600と8000だが、どちらが8000でどちらが7600なのかは分からない。
どちらも自分の方が強いと思ってそう。
未知の技術を持っているとされるビーンズ人で、ターレスの乗っている巨大宇宙船はこいつらが造った。
つまりは科学者なわけだが、戦闘の際には武器も持たずに素手で自ら前線に突撃する。
自分達が戦死したら誰が宇宙船を整備するのかを全く考えていない、男気に溢れた二人。

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