ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
Q、地球の気でナッパの頭部も復活したりしないかな?
A、
地球「人間は何かを破壊して生きていると言っていい生物だ。
その中でお前の質問はこの世のどんな事よりも優しい。
だが……生命が終わったものはもう戻らない。
どんなスタンドだろうと戻せない……」
短時間とはいえ、10倍界王拳は今の悟空にとって負担の大きすぎる技だ。
そもそも悟空が引き出せる限界は精々3倍程度であり、10倍などとても耐えられるものではない。
無茶な力の引き上げは筋繊維を痛め、身体を鉛のように重くする。
気もほとんど使い果たしてしまうし、まるで割に合わない。
それでも悟空が10倍の使用に踏み切ったのは、そうしないと勝負にすらならないと感じたからだ。
ターレスが言った通り、二人の間の戦力差は天と地の開きがある。
ならば10倍にでもしなければとても勝てない。
そう感じた悟空の判断は正しく、しかしそれでも尚届かぬ現実があった。
「ほう、戦闘力15万! こいつは驚いた!」
ターレスは嬉しそうに言いながら、相変わらず余裕の表情で悟空の攻撃を捌く。
悟空とて遊んでいるわけではない。
時にフェイントすら織り交ぜながら、己が出来る限界以上の攻撃を繰り出している。
しかし届かない、当たらない。
紅蓮の炎の如き闘気を纏った拳が悉く、虚しく空振る。
「あありゃあああああ!」
悟空が吼え、更に拳の速度を速めた。
互いの腕と足が高速で交わされ、秒間数百もの接触をし、肉と骨がぶつかる音が響く。
姿が消える――直後、空気が爆ぜた。
余りに高速で動いている為か互いの姿は見えず、打撃の音だけが遅れて響き渡る。
足場が崩れ、岩が砕け、残影が走り、幾度となく空気が爆ぜる。
常人の目でこの戦いを見たならばきっと、空気が幾度も爆ぜながら、まるで大砲のような音が響き続けている……としか認識出来ないだろう。
「だが温いぜ!」
ターレスの肘打ちが悟空の頬を打ち、吹き飛ばす。
一瞬吹き飛ぶ意識。それでも悟空はかろうじて己を繋ぎとめ、空中で回転する。
そして再び決死の界王拳。全身を紅蓮に包み、ジェット噴射のような加速で飛び立つ。
赤い軌跡を残して飛び、空中で方向転換!
まるで直角に曲がるかのようなありえない軌道を描き、ターレスへと迫る。
しかしターレスは消えたも同然の悟空の高速移動を捉え、カウンターの蹴りを延髄に叩き込んだ。
「がっ……!?」
炎が消え、悟空が地面に崩れ落ちた。
決死の覚悟で行った10倍界王拳すら通じなかった。
その事実と、そして界王拳の反動が悟空から立ち上がる力を奪う。
駄目だ、実力で挑んでも勝てない。
あのターレスという男の強さは、大猿と化したベジータすらも上回っている。
この地球の神であるリゼットですら勝てるかどうか……。
萎えかけそうになる一方で、それでも立とうとするのはサイヤ人の本能ゆえか。
そんな悟空の隣に、クラッシャー軍団を蹴散らしたピッコロが着地した。
「孫、元気玉だ。奴を倒すにはそれしかない。
貴様が界王の所で学んだと言う元気玉を使うんだ」
「ピ、ピッコロ……駄目だ、奴を前に元気を集める時間がねえ」
「なら、それまでは俺が稼いでやる!」
ピッコロが真紅のオーラに包まれ、ターレスと相対する。
無論、実力差は明白だ。戦闘力にしてピッコロが精々3万にも届かないのに対し、ターレスは80万を超える。
だがそんなのは知った事ではない。
敵う気がしないので放置したら地球が滅びました、なんて言い訳にもなりはしない。
やれるかやれないか、ではない。
やるしかないのだ。
「戦闘力18000……悪くはねえが、その程度で俺に敵うと思うのか?」
ピッコロの烈火の攻めをターレスは面倒そうに片手で捌く。
悟空はそれを見ながら、両手を宙へと掲げた。
元気玉が完成するまでの時間は約10秒間。
だが1秒が10秒にも等しい高速体感戦闘の中において、それはあまりに長すぎる時間だ。
1秒の中で攻防を繰り広げるなど、それこそ子供の頃のクリリンだって出来た事なのだ。
それをこのレベルで行い10秒稼ぐとなると、それはもう気の遠くなる程の時間だ。
「孫! ピッコロ! 目を瞑れ!」
上空から天津飯の声が響く。
クラッシャー軍団との戦いに敗れた彼だが、どうやらまだ戦えるようだ。
仲間の健在を嬉しく思うと同時に彼の狙いを悟った悟空が目を閉じ、ピッコロもそれに続く。
目を閉じていないのは狙いを把握出来ていないターレスだけだ。
「太陽拳!」
視界を焼く眩い閃光が辺りを照らす。
太陽拳の事を何も知らないターレスが光を直視し、目を押さえてよろめいた。
眼球というのはいかにサイヤ人でも脆い。
そこに太陽の如き光を浴びせられれば、誰であろうと目を瞬間的に守ろうとしてしまう。
これは生物の本能と呼んでもいい防衛行動であり、即ち防ぐ事は不可能に等しい。
「気円斬!」
そこに、天津飯と同じく立ち直ったクリリンが斬撃を飛ばす。
戦闘力の開きはあれど、うまく当たればこれでターレスといえど切断は可能だろう。
しかしターレスは目が見えない状態でありながら音で何かが飛んで来ている事を把握し、更に空気の音を聞く事でその細かな形すらも一瞬にして把握してみせた。
「ほう、面白い技を使うな」
そして、飛んできた気円斬を指先で摘んで投げ捨てた。
これには攻撃した側のクリリンが度肝を抜かれ、動きが止まる。
ターレスはその隙に目を閉じたまま、音が聞こえた大体の位置に当たりを付けて気弾を放つ。
するとクリリンは成す術もなく吹き飛ばされた。
それと入れ替わる様にヤムチャが飛び込み、狼牙風風拳でターレスへ挑む。
しかし視界を塞がれた状態で尚、ヤムチャの拳打は悉く防がれ、逆にターレスの拳がヤムチャを打った。たったそれだけの事でヤムチャは糸が切れたように崩れ落ちる。
だが彼が稼いだ僅かな時間で気の充填を済ませていたピッコロが指先を向けた。
「魔貫光殺砲!」
ピッコロが魔貫光殺砲を放つ。
瞬間戦闘力上昇にして3倍以上、今の界王拳を使っている状態ならば5万の戦闘力にも匹敵する一点集中の一撃だ。
ターレスはそれに僅かな警戒を抱いたのか、瞳が太陽拳の影響から回復すると同時に掌を翳した。
閃光が爆ぜ、貫通力に特化させた一条の輝きがターレスの手に当たる。
――結果は、無傷。
ターレスは笑みを崩さぬまま、魔貫光殺砲を受け切っていた。
「……少しは効いたぜ」
「な、あ……!」
驚愕するピッコロに、掌を向けた体勢のまま気弾を放つ。
この時、もしも素のピッコロであれば間違いなく死んでいただろう。
しかし界王拳を使っていた事と、魔貫光殺砲によって瞬間的とはいえ戦闘力が跳ね上がっていたのが幸いした。
気弾に全身を焼かれながらも、かろうじてピッコロは命を繋ぎ止めていたのだ。
「ちいーっ!」
最後に天津飯がやぶれかぶれの特攻を行う。
だがそんなものがターレスに通じるはずもない。
まるで虫でも払うかのようなぞんざいな裏拳一発で天津飯の意識はブラックアウトし、壊れた人形のように地面を転がった。
この間、僅か10秒。たったの10秒で地球の戦士達は一人のサイヤ人の前に敗れ去った。
しかしその時間は決して無駄ではない。
彼等が稼いだ時間に、悟空が元気玉を完成させたのだから。
「……! ほう、驚いたぜ……。
まだそんなものを作る力が残っていたとは。
それにその構え……偶然だろうが、ソックリだ」
「……?」
元気玉を右手に持ち、今にも投げつけようと構える悟空の姿に、ターレスは在りし日のバーダックを見た。
そう、奇遇にも今の悟空の構えは彼のそれと似通っていたのだ。
「確か……こんな感じだったな!」
そう言い、ターレスは悟空と鏡合わせのような構えを取る。
構えた右手に気を集約し、一点の威力を高める。
それは己の気と、周囲から集めた気という違いこそあれど、非常に似た構えの技であったのだ。
「……! す、すげえ気だ……!」
「さあ、最強の秘技同士の激突だ。どっちが勝つかな?」
発射前の二人の気の胎動だけで周囲の瓦礫が浮き上がる。
大地が揺れ、地球全体がその激突に怯える。
悟空の右手には地球からかき集め、神精樹からすらも元気を吸い取った元気玉。
ターレスの右手には己の気のみを最大限にかき集めた、サイヤ人の魂の一撃。
「元気玉ーーー!!」
「
二人の中央で最大の技が衝突し、拮抗し合う。
紫電が弾け、空気が爆ぜる。
その余波だけで悟空は倒れ込み、ターレスもまた風圧を必死に堪えていた。
二つの光球が幾度も押し合い、消し合い、互いを喰らい尽くそうと牙を剥く。
数秒にも渡る衝突――やがて勝利したのは元気玉だった。
「っ、ちいい!」
ターレスは己に迫る気の塊を、腕をクロスして防御する。
爆炎が彼を覆い、今までよりも一際大きな振動が地球を揺さぶった。
「や、やったか……?」
悟空は地面に倒れたまま、勝利を願う。
もう立ち上がれないし、動けない。
あの元気玉には残っていたありったけの気すらも込めたのだ。
それどころか、今はもう倒れている仲間達の気すら借り受けている。
つまり正真正銘最大最後の一撃であり、あれが効かなければ後がない。
そしてターレスは、煙の中から五体無事のまま姿を現した。
「……ッ!!」
「……く、くく……やるじゃねえかカカロット……嬉しいぜ。
やっぱお前、俺が思った通りに強くなったなあ」
ターレスは生きていた。
全身が傷付き、戦闘服が砕け、血に濡れながらも未だ健在で地面に立っている。
ここに勝敗は決した。
もう動けない悟空と、満身創痍ながらも動けるターレス。
この構図を見て、勝敗が分らぬ者などいない。
悟空は無念に拳を握り、ターレスはそんな彼を嘲るでもなく、心底嬉しそうに笑う。
「カカロット、やっぱお前、俺と一緒に来いや。
確信したぜ……フリーザの野郎をブチ殺すのはお前だ。お前しかいねえ。
お前がサイヤ人の仇を討つんだ、カカロット」
「フリー、ザ?」
「俺達サイヤ人やベジータの裏にいる奴さ。
そいつこそが数々の惑星を滅ぼすように俺達に命じていた張本人であり、諸悪の根源と言っていい。
……ま、俺達サイヤ人が悪くねえなんて言うつもりはねえがよ。だが流石の俺もあいつの悪党ぶりにゃあ負ける。
あいつに比べりゃ俺や、ベジータのお坊っちゃんなんて小悪党みてえなもんさ」
フリーザ。
初めて聞くその名前に悟空は震えた。
それは恐怖からの震えかもしれないし、あるいは強敵を求めるサイヤ人の本能が起こした武者奮いかもしれない。
「この地球にとっても他人事じゃない。
奴は今、ナメック星に向かっている……ベジータもな。
この意味が分かるか?」
「ナメック……? ま、まさか!?」
「よし、頭の回転は悪くねえな。
そうだカカロット。奴等はナメック星人を皆殺しにしてドラゴンボールを得て、そして永遠の命を手にするつもりだ。
それでどちらかが不老不死になってみろ。
ベジータなら、当然この地球を真っ先に砕きに来るだろう。
今度来る時は不老不死だ。お前等に勝ち目はないぜ」
ターレスの言葉に悟空は険しい顔をする。
確かに、それは勝てない。
何をしても死なない大猿ベジータなど、想像するだけで絶望しそうになる。
「そしてフリーザが不死身になりゃあ……世界の終わりだ。
宇宙はこれから未来永劫、あいつの恐怖に支配される事になる。
そして真っ先に壊されるのはこの地球だ。
ドラゴンボールがあるこの星を放置して、それで折角の不老不死を無効化とかされちゃかなわんからな。
俺がフリーザなら、確実にそうする」
「……!」
「分かるかカカロット。もうこの宇宙には猶予がねえんだ。
誰かが今、フリーザを殺さなければならない。
奴が不死身になる前に!」
ターレスは倒れている悟空に手を差し出す。
さあ掴め、という事だろうか。
俺と共に来い。俺と共にフリーザを倒そう。
その誘いを前に、悟空はしかし動けない。
「俺と一緒に来い、カカロット。そうすりゃあ地球の事は諦めてやる。
お前には戦闘力を超えた何かがある。
俺と共に来れば、必ずフリーザを殺せる男になれる!
そして……」
そこまで話し、ターレスはニヤリとその顔を邪悪に歪めた。
「フリーザを殺したら、俺達で宇宙を手に入れようや。
サイヤ人の天下を俺達の手で築き上げるのだ」
「――最後の一言さえなければ、悪くない申し出でしたね」
「っ、!?」
悟空を誘うターレスの後ろに、光球が降りる。
よく見ればそれは、眩い輝きに包まれたこの惑星の神、リゼットの姿であると分かる。
神精樹からの気を取り込みすぎて、今のリゼットは膨大な気を蓄積した状態となっている。
その余剰分が外に溢れ、このような光の玉と化してしまっているのだ。
そして、彼女の登場と同時にターレスの付けていたスカウターが爆散した。
「この惑星の神か! いい所で邪魔を!」
「貴方の植えた神精樹は既に処理し終えました。
そして今、神精樹に蓄えられていた気の殆どは私が保持しています。
この意味、貴方ならば分りますね?」
「――っ!」
リゼットの言葉にターレスの顔色が変わる。
神精樹の集めていた生命力を殆どこの神が奪ってしまったという。
もしそれが本当ならば、彼女は言わば神精樹の実を全て食してしまったも同然の状態にあるという事だ。
ならばその戦闘力は?
ベジータを倒した戦闘はターレスも見ていた。その時点でこの女は戦闘力24万を叩き出していたはずだ。
そこにこの惑星の気を全部上乗せしたとしたら?
……100万? 1000万? 1億? あるいはそれ以上かもしれない!
とてもターレスの太刀打ち出来る存在ではない。
「貴方の負けです。大人しくこの星を去りなさい」
「……畜生!」
地球の神からの退去宣告。
それに逆らうという選択肢は、ターレスに与えられていなかった。
リゼット(早く立ち去って下さいお願いしますもう限界というかこれ以上気を抑えていられないんです漏れちゃう漏れちゃうからもう抑えてられない気が溢れる高まる早く早く早くあああああ)
※実は戦いどころではない模様