ドラゴンボールad astra 作:マジカル☆さくやちゃんスター
戦いは終結した。
単純な戦闘の勝敗を語るならばターレスの勝利、と呼んで間違いはないだろう。
彼は悟空を倒し、ピッコロを倒し、クリリン達をも蹴散らしてみせた。
無論無傷というわけではなく、決して軽くない傷を負いクラッシャー軍団も壊滅したが、それでも最後に立っていたのは彼だ。
しかし勝敗を語るならば彼は負けた。
いかに悟空達を蹴散らそうと、神精樹を枯らされた上に地球の気の大半を取りこんだリゼットを最後に残してしまってはどうしようもない。
それに悟空の元気玉で受けた傷も深刻だ。
残念ながらここは退くしかない。そうターレスは結論付けるしかなかった。
「カカロットよ」
「……何だよ?」
仙豆によってすっかり回復した悟空に、ターレスが視線を送る。
彼を連れて行くという計画は完全に台無しとなった。
神精樹も作れず、更に部下達までも失うという大損害だ。
しかし収穫はあった。
あのバーダックの息子の成長と、その可能性。
ターレスはその可能性を見ただけでも、この星に来た価値はあったと確信していた。
「俺の言った事を忘れるな。
この星にドラゴンボールがあるという情報をフリーザが得ている以上、お前達はいずれ必ず奴と戦う宿命にある。
……ナメック星で待っているぞ!」
きっとカカロットは来る。
そう確信したような声で先に行く事を告げ、ターレスは宇宙船に乗り込んだ。
ドアが閉まり、宇宙船が浮遊する。
それを見上げる悟空の表情は複雑であり、別れを惜しんでいるようにすら見える。
そして、ターレスを乗せた宇宙船は遥か遠くの宇宙へと飛び立って行った。
「……ふう」
宇宙船が地球の外にまで出たのを感知し、リゼットは気が抜けたように息を吐く。
しかし、まだ終わってはいない。
これから地球を元に戻さなくてはならないのだから。
彼女はナッパを連れて天高く飛翔すると神殿に着地し、そこで虚空に手を掲げる。
――解放。
己の内に留めていた膨大な地球の気を、万遍なく地球全域へと降り注がせる。
まるで雪でも降っているかのように白い気が地球全土へ祝福のように降り注ぎ、枯れていた大地や萎えていた植物達が生気を取り戻して行く。
ついでにナッパに貸していた生命力も元気玉モドキで回収し、地球へと還元した。
「これで、地球は元に戻るでしょう。
ご苦労様でした、ナッパ」
「おう。すげえもんだな、惑星のエネルギーってのはよ」
生命力を全て地球に還元した事で今回のリゼットの役目も無事終了だ。
今回の戦いはリゼットの予定外の事であったが、終わってみれば収穫の大きな戦いであった。
何といってもターレスが悟空達に齎した情報が大きい。
これでリゼットからも無理なくナメック星への出発を切り出せるというものだ。
内心、どうやって悟空達をナメック星に行かせようかと悩んでいた彼女にとって今回の件はまさに渡りにターレス。棚から落ちたナメック星だ。
しかし同時に一つハッキリとした事がある。
ここまで来ればもう、疑いようもない。
この世界には劇場版やアニメオリジナルの者達が普通に生きている。
という事は、今後スラッグやクウラといった者達と出会う確率も高いというわけだ。
スラッグはまあ、いい。まだリゼットなら何とかなる相手だ。
しかしクウラは無理だ。
今より強くならないと、とても手に負える気がしない。
(やはり、ナメック星に行き潜在能力を引き出してもらう事は必須事項……。
全体のレベルアップも計らないといけませんね)
原作ならばフリーザ、人造人間、セル、ブウ辺りを警戒すればそれでよかった。
だが劇場版込みならば、ここにスラッグ、クウラ、人造人間13~15号、ブロリー、ボージャック、ジャネンバ、ヒルデガーンを加えなければならない。
全く、頭の痛くなる話だ。
幸いなのは、自主的に地球を狙ってくるのがスラッグくらいだという事か。
(……これ、悟空君達と私だけじゃ厳しくないですか?
いっそパラガス見付けたらコントロール装置奪ってブロリーをこちら側に……いや、悟空君近くにいたらすぐ暴走しますね)
問題は、あまりにも山積みだ。
ともかく、あれこれ考えても仕方ないので今はナメック星行きについて考えるとしよう。
★
次の日。
カプセルコーポレーション前に集った悟空達はリゼットが心配するまでもなくナメック星行きを本気で検討していた。
リゼットの疑問としては、何か当たり前のように参加しているナッパの存在だろう。
凄い普通に紛れ込んで普通に会議に参加しているが、それでいいのだろうか?
誰か突っ込めよと思うも、誰一人としてナッパに突っ込みを入れない。
しかも今日の服装はアロハシャツだ。舐めてるのかこのハゲ。
「オラは、ナメック星に行くべきだと思う。
フリーザって奴の事はよくわかんねえけど、ベジータが不老不死なんかになったらとてもじゃねえけど手に負えねえ」
まず、ナメック星行きを強く推奨したのは悟空だ。
実際にベジータやターレスと戦い、その強さと恐ろしさを実感したからこその重い言葉である。
「俺も行くぜ。
俺は戦いたい……俺の生まれ故郷だという、その星で」
次にピッコロが拳を握り締め、ナメック星行きに賛同した。
この様子だと、悟空達が行かなくても一人で行ってしまうかもしれない。
そう思わされるくらいには、彼の決意は強かった。
「あのターレスという奴の口車に乗るのは癪だが、ベジータを不老不死にするわけにはいかん。俺も行くぞ」
「天さんが行くなら僕も」
続いて天津飯と餃子が名乗りをあげる。
餃子は自分の意思というよりは天津飯に追従しただけに見えなくもないが、これで賛同は4人だ。
「ちょ、ちょっと怖いけどよ。俺も行くぜ。
役に立てるかわからねえけどな」
「勿論、俺の事も忘れるなよ」
最後にクリリンとヤムチャが賛同し、これで戦士達全員の意思は決まった。
彼等は意見を求めるようにリゼットへ視線を走らせるが、これはリゼットとしても望む展開だ。
反対の言葉などあるはずもない。
しかし、誰も言わない以上ここで一つの問題点を提示しておく必要はあるだろう。
「私からの反対意見はありません。
ただ問題はナメック星との距離です」
「距離?」
リゼットの言葉にクリリンが緊張したような顔で聞き返す。
恐らくその表情は『嫌な予感がする』といった類のものだろう。随分顔に出やすいようだ。
そしてその予感は大当たりであった。
「ナメック星人の気を探ってみたのですが、地球とは少し距離が開きすぎています。
SU83方位の9045YX座標……これ、今の科学力で到達出来る距離じゃないですよね?」
「げ……え、えーと、そうなの?
ブルマさん、何とかならないかな?」
リゼットの出した数字にクリリンはよく分からなそうな顔をしてブルマへと話を振る。
すると、ブルマは既に電卓を取り出して青い顔で計算を行っていた。
「じょ、冗談じゃないわ。
父さんが作った世界最高のエンジンを載せた宇宙船でも4339年かかるわよ!」
「げえっ!? な、なんとかならねえのか?」
流石に学の浅い悟空もこの数字には驚くしかない。
4339年……そんな時間を待つくらいならば地球でフリーザかベジータが来るのを待ち構えた方がマシだ。
しかし慌てる彼等に、意外な所から助け舟が出た。
「それなら俺の宇宙船を使えばいい。
それにカカロットが地球に来た時の宇宙船もまだどこかにあるはずだろう」
「ナッパ!」
「……勘違いするな。女神の為に協力してやるだけだ」
失意に沈みかけた皆が一斉にナッパを見る。
彼はつまらなそうに目を逸らしているものの、これで宇宙へ行く光明が見えたわけだ。
勿論それだけでは全員が宇宙へ行く事など出来ない。
サイヤ人の宇宙船は一人乗り用のポッドであり、今のままでは二人しかナメック星へ行けないからだ。
お、お前と一緒にナメック星に行く準備を……。
一人乗り用のポッドでかぁ……?
しかしそこは地球一の天才、ブルマ。
サンプルさえあれば、それがたとえ未知の技術で作られた異星人の宇宙船だろうと分析し、同じ性能……いや、それ以上の物を作り出す事が出来る。
「これならいけるわ。早速宇宙船を回収しましょう」
「後は宇宙に行くメンバーだな。ブルマ、その宇宙船は元々一人乗りのようだが、何人乗りくらいにまで改造出来るんだ?」
「うーん、実物を見ないと何とも言えないけど……まあ、私に任せなさい。
ちゃんと全員乗れるようにしておくわよ」
ヤムチャの問いに、ブルマは頼もしく答える。
普通は現物を見たからといって、それを分析出来るとは限らない。
例えば遠く離れた過去の人間に現在の最新鋭機械を見せた所で理解は出来ないだろう。
リゼットの前世で言うならば、室町時代の人間に平成の世の飛行機を見せて「さあ分析して同じ物を造れ」と言っているようなものだ。
これは別に誇張表現でも何でもなく、むしろそれどころかまだ抑えた表現ですらある。
それほどに地球と惑星ベジータの科学力は隔絶し切っているのだ。
4339年かけてようやく辿り着ける文明に対し、僅か7日の航行で到着するサイヤ人。
倍数にして凡そ22万倍もの開き。これを埋めろなど無茶難題もいい所だ。
出来るわけがない、不可能だ。今の科学で模造出来る領分を完全に上回りすぎている。
だがブルマは出来る。彼女は出来る。
何故なら彼女は常識など完全に踏み越えた天才だからだ。
ブルマはよく悟空達を出鱈目呼ばわりする。
滅茶苦茶で常識外れな連中だとヒステリックに喚く。
だがリゼットに言わせれば彼女こそが本物の常識外れであり、出鱈目を具現化した存在であった。
22万倍の差……それがどれだけ途方もない科学力の差なのかは、科学者ならぬリゼットには想像出来ない。
しかしきっと、ライト兄弟の時代に宇宙船を持ちこむ程度の文明差では済まないだろうとは確信していた。
「では、全員乗れると仮定してよさそうですね。
兎人参化、貴方も同行してあげなさい」
「え? 私ですか?」
リゼットは本来原作にいなかった兎人参化をあえて投入する事にした。
どうせもう原作なんて砕け散っているのだし、むしろイレギュラーが発生しすぎている現状で歴史通りに進むのはかえって危険だ。
土壇場で戦力不足になるのが見えきっている。
ともかく、敵が増えているのだから、こっちも数を増やさないと話にならない。
「俺も行っていいかい。ベジータの野郎は一発ブン殴らねえと気が済まねえ」
続けてナッパが名乗りをあげた。
やはりベジータに見殺し(死ななかったが)にされた事は相当腹に据えかねたらしい。
つい先日まで敵で、しかも侵略者だった男だが悟空達は特に反対しなかった。
まあ、この世界でのナッパのイメージは……こう言っては何だかベジータのオマケ程度でしかないだろう。
誰も殺せていないし、ピッコロに一蹴されていい所なしだ。
つまりそれほどのマイナスイメージは抱かれていない。
「あ、あの……神様は来てくれないんすか?
正直、ベジータやあのターレスって奴がいるとなると神様には来て欲しいっていうか……」
クリリンが助けを求めるような目でリゼットを見上げる。
将来的なものはともかくとして、現状の戦力を言うならばリゼットがダントツだ。
未だ一度として全力を出していないし、本気を出せばフリーザの第3形態までなら何とかなるという確信もある。
そしてリゼット自身としても、勿論ナメック星には行くつもりだ。
最長老の潜在能力開放は余りにも魅力的で捨て難い。
しかしリゼットは必ずしも宇宙船に乗る必要などない。
その気になれば、それこそ今すぐでもヘブンズゲートによる空間移動で単騎ナメック星突入すら可能なのだ。
つまりリゼットにとって宇宙船搭乗には何のメリットも存在していないのだ。
「私はパスです。それに皆が宇宙船に乗っている間、地球に何も起こらないとも限りませんし」
「そ、そんなあ……」
「まあ、そう心配しなくても皆がナメック星に着いたら私も合流しますよ」
「へ?」
「空間転移というやつです。私なら宇宙船に乗らなくても、一人でナメック星まで跳ぶ事が出来ます」
リゼットは不安そうにしているクリリンを安心させるような笑顔を浮かべ、己の持つ能力を説明した。
「私の持つ能力の一つで、ヘブンズゲートといいます。
本来は敵を亜空間に放逐してしまう技なのですが、これを応用すれば対象をナメック星に飛ばす事も不可能ではありません」
「ほえー、すっごいんですね、神様って……」
「……先代はそんな事出来なかったがな」
リゼットが語った宇宙船以外の移動方法にクリリンが感心し、ピッコロが舌打ちしながら補足を入れる。
神が凄いのではない、この女がおかしいのだ。
ともかくこれでナメック星に行く方法は決まった。
戦士達は宇宙船で。リゼットは空間転移で。
それぞれの手段で移動し、ナメック星で落ち合えばいい。
そう決まりかけた所で、先程から無言だった悟飯が遠慮するように言葉を挟んできた。
「あ、あの……それ、神様のヘブンズなんとかって力で皆でナメック星に行けるんじゃ……」
「――あ」
この瞬間、宇宙船の価値は消失した。
ヘブンズゲート「あ、俺いるから君等もう来なくていいよ。勿論ギャラもなしね」
ポッド「なん……だと……」
神様の宇宙船「ありえない……こんな……理不尽……っ!」
【以下、リゼットが気付いていない最速攻略法】
・ヘブンズゲートでの星間移動が可能なので実はここで18話でリゼットが不可能と判断した方法が復活しています。具体的には以下の手順。
1、ヘブンズゲートでリゼットがナメック星へ移動。
2、ナメック星人達を説得して地球へ移動させる。
3、ナメック星でベジータ、フリーザ、ターレスに潰し合いをさせる。
4、↑の間に地球で悟空達を鍛えまくり、最長老の潜在能力解放もして貰って、何度か瀕死&仙豆パワーアップもさせて悟空を超サイヤ人になれるまで鍛え上げる。
5、ついでにドクターゲロの研究所に先回りして人造人間の誕生も阻止しておく。ゲロは殺す。ついでにゴブリンも殺す。
6、フリーザの移動を感知した所でポルンガ召喚。フリーザの宇宙船をどこかのブラックホールか恒星に転移させて抹消する。
7、↑でフリーザは死ぬか、万一生き延びても宇宙の迷子になるはずだが、それでも地球に来たら総がかりで叩き潰す。
多分これにリゼットが気付いて実行してしまった並行世界もあるでしょうが、それだと物語になりません。
なのでこの物語はリゼットがそれに気付かなかった世界と思って下さい。